宿儺「どけ!!!俺は主人公の相棒だぞ!!!」   作:バケギツネ

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獲物

 

 

 

『誰かのことを呪う暇があったら、大切な人のことを考えていたいの。』

 

 伏黒恵。

 

 彼にとって自身の家族だといえるのは、義姉である伏黒津美紀だけだった。

 

 恵の実の母親は彼を産んですぐに亡くなっており、実の父親はその後に出会った津美紀の母親と共に蒸発し、それっきり。

 

 自分達を捨てた父親のことなど、恵は殆ど覚えてないないし、覚えていたくもなかった。彼が自身の父親について知っていることがあるとすれば、それはただ一つ。

 

『喧嘩はするもんじゃねえ、止めるもんだ。そうすりゃ周りからは褒められるし、最低でも2人は殴れる。スカッとすんぞ。殴った相手がいけすかない奴なら、尚更な。』

 

 それは、五条悟がひくレベルのロクデナシだという事。

 

 

 

 

 

 おっす、俺すっくん!!

 

『っぶね!!』

「悠仁、平気か!?」

 

 二代目火影の卑劣な術(推定)によって無理やり甦らされた、恵くんパパ、通称パパ黒。その強力なパンチを、悠仁は何とか両腕をクロスさせてガードする。

 

 それでも威力を殺しきれずに、俺の相棒は後方へと大きく吹っ飛ばされていた。腕に伝わるこの痺れ...!直接ぶん殴られてたら、危なかったな...

 

「パパ黒さん!!しっかりしてください!!」

 

『....................』

 

 彼はさっきから、一言も喋らない。穢土転生による縛りが、再び強まってしまったのだろうか?自我を完全に抑え込まれてしまっているらしい...

 

 おのれ、この術式の使い手ぇ!ぜってえ許さねえかんな!!

 

「おっと、また来るぞ悠仁!!!」

 

 パパ黒は凄まじいスピードで再び悠仁に襲い掛かってきた。悠仁、そしてその中の俺がターゲットってわけだな。

 

 というかパパ黒、全然術式使わないな〜。その攻撃は、全部物理だ。

 

 自身の術式を未だ持たない悠仁や、常人より呪力の少ない真希パイセンとは異なり、呪力を”全く“感じないし。もしかして、パパ黒って無能力者系なのか!?

 

 すっくん、そういうの好き!ボルテージが上がってきたぜっ!!

 

『黒閃!!!』

 

 パパ黒の攻撃に合わせて、右の拳でカウンターを狙う悠仁!放つのは、黒い火花を纏った会心の一撃!!

 

「って速っ!?」

 

 しかしパパ黒はさらに加速し、悠仁のカウンターに対応する。自らに迫り来る拳を紙一重でいなすとその勢いのまま、悠仁の側頭部に回し蹴りを叩き込んできた。

 

『うっ........!!』

 

 速いだけじゃなく、打撃がちゃんと重い!このフィジカル、宿儺呪力モード級にも匹敵しかねないぞ!?

 

『悠......あと............たの..........』

 

 あーーーーー!!打撃のショックで耳に付けっぱなしだった、メカ丸くんが逝った!?

 

「メカ丸くん、色々ありがとな。後は俺たちに任せてくれ!!」

 

 君からの“預かり物”は、大事に使わせてもらうからな!

 

『蝦蟇!!』

 

 俺達に加勢してくれる恵くん。彼の影から呼び出されたカエル達は、さまざまな方向からその伸縮自在の舌でパパ黒を狙う。だがパパ黒は、いとも容易くその包囲網を抜け出してしまった。

 

 気が付けば、俺と悠仁の目の前で再びパパ黒が拳を構えていいる。マジで、俺たちしか眼中にないって感じだな..!

 

『黒せ.....ああっ...!!』

 

 再びカウンターを放つがパパ黒のスピードを捉えきれず、彼の右フックが悠仁の顔面に直撃する。

 

『ううっ...!!!』

 

 続く左アッパーが悠仁の顎を捉え、その脳を揺らす。

 

『っ、黒閃!!』

 

 悠仁が放った返しの蹴りもスレスレで避けられ、逆に手痛い反撃をもらってしまった。

 

『っ....!!!!』

「待ってろ悠仁!!傷の方は俺が治す!!」

 

 マズイな、パパ黒めちゃめちゃ強いぞ。

 

 身体の頑強さもさることながら、その動かし方がうますぎる!あの悠仁が、格闘戦で完全に押されているし、さっきから攻撃が一発も当たらない。

 

 宿儺呪力モードになっても、押し切れるかどうか。アレの制限時間は残り15秒。下手に発動して仕留めきれなかったら、俺たちの勝機は完全に無くなってしまう!

 

 もっと、別の手を....

 

『脱兎!!』

 

 おや、これは恵くんの呼び出した式神か?ウサギ?可愛い〜。

 

 ウサギちゃんたちは、俺とパパ黒を囲うように辺りを埋め尽くしている。恵くん、何をする気だ?

 

『領域展開...!』

 

 おお!

 

 そのウサギさん達が外殻となって、恵くんの領域が形成されていく!式神をこんな風に扱うとは、やるじゃないか恵くん!やはり天才か!!

 

 流石は主人公のライボルポジ!いい感じに成長してるようで何よりだ。

 

『嵌合暗翳庭・餐怒!』

 

 俺とパパ黒のみを収容した恵くんの領域内は、巨大な脊髄骨が浮かび、液状化した影で一帯が埋め尽くされた不気味な空間だった。

 

 かっけえ!これが恵くんの領域か!?

 

 

 

 

 全てを削ぎ落とした真の虚無・伏黒甚爾。

 

 領域展開時、呪力を持たない彼は建造物等の無機物として結界から扱われるため、必中効果の対象となることも、領域に閉じ込められることもない。

 

 しかし、そんな甚爾を結界内に閉じ込める方法が一つだけ存在している。

 

 それは、“結界術以外のもの”を外殻として利用した、ある種未完成ともいえるような領域によって、物理的に閉じ込める事。

 

 伏黒恵の領域は、式神とはいえ確かな質量を持っている脱兎を、外殻の形成に利用している。偶然ながらも、天与の暴君を閉じ込める条件は整っていた。

 

 

 

 

 

 

『玉犬!!!』

 

 領域の外にいる恵くんの声を合図に、足元の影から白黒ワンコが出現し、俺とパパ黒の間に割って入る。

 

『虎杖!すっくん!お前達に合わせる!!!』

 

『了解!すっくん、畳み掛けるぞ!!』

「おう!!」

 

 悠仁は、領域内の影に沈み込まないように呪力を足に集中させると、白黒ワンコとの連携攻撃でパパ黒を攻め立てる。

 

 恵くん、俺達の動きに合わせるのが、抜群に上手いな〜。そのおかげで、めちゃめちゃスムーズに連携ができるぞ!!

 

『うおおおおお!!!』

 

『................』

 

 おっしゃいいぞ悠仁!優勢だ!なんか、パパ黒の動きが急に悪くなってる気がする。

 

 そうか!

 

 嵌合暗翳庭だったか?ここの足場を埋め尽くす恵くんの影は、領域内の者を暗闇へと引き摺り込む。

 

 悠仁はその対策として、“呪力”で足場を固めるというシンプルなものを選択していた。しかし、呪力を持たないパパ黒にはそれが出来ないとしたら。

 

 彼が自由に動けない、今がチャンス!

 

『黒閃!!』

『......!!』

 

 よし、ようやく悠仁のパンチが当たった!でもこれだけじゃ、パパ黒は倒れないよな〜。もういっちょ!

 

『黒閃!!!』

 

 さらにもう一発!悠仁の拳がパパ黒を捉えた!ごめんなさいパパ黒さん。心苦しいけど、ガンガンぶん殴らせて頂きます!

 

『黒せ......っ!?』

 

 なにぃ、今度の攻撃は躱された!?

 

『っ!!!』

「悠仁!!!」

 

 パパ黒のカウンターキックがヒットして、悠仁は大きく吹っ飛ばされる。相変わらず、一撃がクソ重てえ!

 

『玉犬!!鵺!!』

 

 俺の追撃をかまそうとするパパ黒の前に現れた、恵くんの式神2体。その同時攻撃が放たれた!

 

『.........』

 

 しかしパパ黒は、爪をいなした白黒ワンコに逆に裏拳を叩き込むと、電撃攻撃を耐えてそれを放っていた鵺を蹴り落とす。

 

 領域内で強化された式神を素手で屠るとかヤバすぎんだろ!っていうかパパ黒の動きが、だんだん元に戻ってるような。

 

 あ、足を高速で動かし続けて、体が沈み込むのを防いでる!そんな荒技ありなのか!?

 

 マズイな、パパ黒が本来の動きを取り戻してきてるぞ。

 

『チッ、満象!!』

 

 パパ黒の頭上から、巨大な象が降ってくる。だが、動きがどんどんよくなっているパパ黒に、そんなものは当たらない。あっさりと避けられてしまった。

 

 単純な攻撃ではダメだ。あの宿儺呪力モード並みのスピードを、何とかして封じないと。

 

『うぐっ!!』

 

 またしても高速で接近してきたパパ黒は、悠仁に強烈な打撃を見舞う。その残心を狙ったゾウさんの放水攻撃も、パパ黒を捉えられない...

 

 水.....あ、

 

 俺が思い出したのは、八十八橋での戦い。宿儺呪力モードとなった俺たちのスピードを封じ込め、ギリギリまで追い詰めた、とある強敵のとった行動。

 

 

《奇しくもすっくんの選んだ一手は、原作において甚爾によって祓われていたとある特級呪霊が用いたものだった。》

 

 

「恵くん!領域内を水没させるんだ!!」

 

 その一声で、恵くんは俺の意図を汲み取ったらしい。ゾウさんが凄まじい勢いで放水を始め、同時に領域が徐々に縮小し始める。

 

『............!!』

 

 パパ黒も、自らの危機に気付いたのだろう。ゾウさんを始末しようと接近するが、その瞬間ゾウさんは消えて、また別のところに出現する。

 

「悠仁!!絶対逃すなよ!!」

『分かってる!!!!黒閃!!!!』

 

 さらには悠仁が、できるだけパパ黒を足止めする。やはり格闘戦では向こうに分があるみたいだな。だが、悠仁の耐久力と根性をもってすれば、数十秒間粘る事くらいは余裕だ!

 

『虎杖、すっくん、待たせた!!!』

 

 領域の外から聞こえた恵くんの声と同時に、領域が一気に縮小する。ゾウさんの水は呪力が込められているため、影に沈み込む事はない。よって、結界内部を水没させる事が可能なのだ。

 

『嵌合暗翳庭・水鉢!!!』

 

 こうしてフィールドを水中にしてしまえば、パパ黒自慢のスピードも意味が無い。そのことは、俺が一番知っている。なんせ経験済みだからな!

 

「ゴボボ、ゴボボッ、ゴボボボボボーーーー!(今だ、恵くん、俺たちごとやれーーーーーー!!)」

 

『思いっきりやってくれ!!』

 

『....虎杖、すっくん、死ぬなよ。』

 

 俺と悠仁の声を合図に、恵くんは式神を使った攻撃に移る。水中で動きの鈍ったパパ黒を、再度出現させた満象で押しつぶし、その手足を蝦蟇の舌で拘束すると、領域内に鵺を出現させた。

 

『仕上げだ!』

 

 逃げ場のない水中で強烈な電撃が炸裂し、俺とパパ黒を同時に襲う。

 

『うっ.....!!!』

「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!反転術式ぃぃぃぃ!!!!」

 

『........!!!!』

 

 このままパパ黒が力尽きるか、恵くんの体力が無くなるまで、ひたすら電撃を流し続ける!!

 

 悠仁の身体ならば、宿儺呪力モードを使わずとも、俺が中から反転術式で治癒できる!その分、俺たちの方が有利だ!!

 

 さあ、我慢比べしよっかああああ!!

 

『................!!』

 

 流石のパパ黒も、この状況では何もできないようだ。おっと、俺も気が抜けないな。激痛で意識が飛びそう......反転の出力がちょっとずつ弱まっているが.......まだ、まだいける!

 

 頑張れ頑張れ、俺たち!!

 

「悠仁、まだ全然いけるよなあ!?」

『ったりめーだろおおおお!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 嵌合暗翳庭が水没してから、およそ5分間。電撃を喰らい続けた、虎杖悠仁、すっくん、伏黒甚爾の3人はいずれも戦意を手放さない。彼らが力尽きるより先に、伏黒恵の領域が解除された。

 

「あ、あああああ......」

『クッソ、身体が........』

 

『...............』

 

 現実世界へと帰還した3人と、領域解除直後の伏黒恵、既に全員が満身創痍。まともに動くことすらもできない状態だった。

 

『あんた.......俺の父親なんだよなあ?』

 

 恵は疲労困憊の身体を動かして、自らの父に近づいていく。それに呼応する様に、伏黒甚爾もまた痺れの残った身体で立ち上がった。

 

『正直.....アンタがどこで死んでようと、どうでもいい....顔すら覚えてなかったしな。』

 

 今の伏黒恵は、術式の十種が焼き切れている。式神を呼ぶことも、影から武器を取り出すこともできない。

 

『でも、ずっと会いたかったよ。』

 

 恵は残り少ない呪力を右の拳に一点集中させる。彼が思い描くのは、自身の仲間と恩人の十八番ともいえる技。

 

『この手で一発、ぶん殴ってやりたかったからなあ!!』

『................』

 

 伏黒親子は、同時に右腕を振りかぶった。

 

「親子対決に横槍入れてすんませーん!!!!」

『かませっ、伏黒!!!』

 

『........!!』

 

 振りかぶられた甚爾の右腕に、同じく満身創痍の虎杖が食らいつく。それが彼の動きを一瞬遅らせた。

 

『とっとと地獄へ帰れ、クソ親父!!!』

 

伏黒恵、渾身の一発。それは自身の父を殴り倒す。その一撃は幸運にも、黒い火花に“恵”まれていた。

 

『はぁ、はぁ........確かに、ちょっとはスカッとするかも...な....』

 

 呪力を使い切った恵もまた、父の隣に倒れ込む。度重なるダメージに甚爾の肉体はようやく限界を迎え、降霊が解除されようとしていた。

 

 

 

『.......................おい、お前。』

 

 2度目となる今際の際で、天与の暴君はようやく自らの意思で口を開く。

 

『お前、“伏黒”なのか....よかったな。』

 

 気絶寸前で、倒れたままの父と子。その視線が交錯する。

 

『向こうで待ってるぞ。その時まで、せいぜい強くなっとけ。次は、俺が勝つ。』

 

 父はそう言い遺して目を閉じる。息子が瞬き一つをする間に、その亡骸は別人のものへと変わっていた。

 

『本当に....何だったんだ、アイツは.....』

 

 胸に湧いた疑問を抱えたまま、恵の視界は暗闇に閉ざされるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 伏黒甚爾。

 

 全てを捨て去ったはずの彼の牙は、常に“強者”へと向けられる。彼が最期に狙い定めた獲物は、呪術師として成長を遂げていた自らの息子だった。

 

 

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