宿儺「どけ!!!俺は主人公の相棒だぞ!!!」 作:バケギツネ
◇
僕は、賀茂ヒカリ。異世界の登場人物・脹相に転生した、現代の女の子だ。
10月31日、ハロウィンの夜。任務中だと言う、愛しの婚約者・両面宿儺様に会うために、僕はこの渋谷へとやってきた。
自分の直感を頼りに、宿儺様の居場所へと辿り着いた僕。そこで見てしまったのは...
『お待たせいたしました。宿儺様、いかかでしょうか?』
「ふむ、悪くない。」
以前ディ○ニーでも、宿儺様と一緒に遊んでいた可愛らしいJ K2人。そして、そんな彼女らの足元に転がっている、手足を縛られた宿儺様だった。
「ケヒヒッ!最高だ、お前たち。」
宿儺様は明らかに、倒錯したそのシチュエーションの中で悦んでいる。
「そんな、宿儺様...僕との約束は...
「許せないっ....!」
受け入れられない現実を写す僕の両目からは、熱い液体が溢れ出した。瞳を閉じて、それを無理矢理堰き止める。
「.........宿儺様。」
僕は自分でも驚くくらい小さな声で、ポツリとそう呟いた。宿儺様の返答はおろか、自分の声が届いているかも確認せずに、お楽しみ中と思われる大好きな人に背を向ける。
どうせこんな潤んだ視界じゃ、彼の顔をまともに見られないだろうしね。別れ際くらい格好はつけたいけど、今振り返ったら、きっとまた未練が募る。
そうならない内に、邪魔者はさっさと退散するとしよう...
「さよなら、その2人と幸せにね。」
蚊の鳴くような声で、愛する人に別れを告げる。僕はそのまま、あてもなくその場から走り去った。ただただ、遠くへ行きたかったから。
「ハァ、ハァ、ハァ.....」
次第に息が切れてきたけど、足を止めたくは無かった。少し痛み出した頭には、短いながらも濃厚な彼との思い出ばかりが浮かんでくる。
「もう大丈夫だ。怖がらなくていい。キミのことは、俺が必ず守ってやる。俺は呪いの王・両面宿儺、いやすっくんだ。いいか?今日から俺が、キミの家族だ。」
「たとえ世界がどうなろうとも、俺は絶対にキミを裏切ったりしない!今日から俺は...そうだな。よし!今日から俺は、キミのお兄ちゃんだぞ!!」
「よろしくな、ヒカリ!」
まさか宿儺様が、妹萌えのドMだったなんて!言ってくれればっ!全然付き合ったのにっ!!
...いや、それは言い訳だ。
僕は宿儺様の婚約者だったのに、彼の
きっと僕では、あの人を満たしてあげることができなかったのだろう。いつも優しい宿儺様に甘えて、僕は努力を怠ったんだ。あの人の理想のプリンセスであり続けるための努力を。
僕は、そんな“自分自身を‘許せない!
「わっ!」
涙を堪えて、俯いた姿勢のまま走っていた僕は、転がっていた瓦礫につまづいて頭から転倒する。
「いてて...」
鈍い痛みと共に顔を上げたその先で、向かいのウィンドウに映った”今の僕“と目が合った。そこにいたのは、目を真っ赤に腫らして、みっともなく横たわっている見窄らしい自分。
血の気が引いたせいか、顔色は真っ白だ。ああ、これは元々か。なんかごめん、脹相。
「......ダメなのかもな。僕じゃ。」
SMプレイ中の宿儺様の笑顔を思い出す。
「ケヒヒッ!最高だ、お前たち。(身体と呪力が回復してるー!やったぜー!!)」
流石に分かる。あの時の宿儺様は心の底から悦び、笑っていたと。
「すっごく、幸せそうだったな。宿儺様...」
どんどん自信が無くなってくる。僕と一緒にいる時、宿儺様はあんなにも晴れやかな笑顔を見せていたっけ?
「やっぱり、僕なんかじゃ...」
僕は、あの人に恋をしている。そのきっかけは、この世界に突然転生して1人ぼっちだった時に、彼こそがこの世界の王子様なのだと確信した事だっけ。
最初は、ある種の使命感のようなものがあったんだと思う。プリンセスである以上、王子様と結ばれなくてはいけない!みたいな。
でも、
「ヒカリ〜!元気か〜?会いたかったぞ〜!!1人の時、退屈してるんじゃないかと思ってな!Sw◯tch買ってきた!一緒にスマ◯ラやろーぜ!!」
「これ、今日の任務先のお土産な!オススメはチョコバナナ味の奴!ちょー美味いから!そーいやヒカリって、中華好きだったよな?俺の相棒がいい店見つけたんだ!今度、出前とろう。」
「呪力を効率的に練るコツ?えーっと、前にも教えたように、お腹からこう、ブワアアアアアアってなるのを、何か、キュッとしてグルグルするんだ!あー、ごめん。説明下手で。こんなんじゃ分かるわけ...え、分かった?あ、できてる!さすがヒカリ!!」
「なあ、ヒカリ。...笑わないで聞いてくれよ?俺はな、この世界の呪いを解きたいと、本気でそう思ってるんだ。何だかんだあっても最後にはハッピーエンドで、皆んなで笑って終われるような、そんな世界にしたい。だから、応援しててくれ!俺、精一杯頑張るから!」
でも、会えば会うほど、話せば話すほどに。王子様がどうとか関係ない、1人の人間としての彼に、僕は惹かれていったんだと思う。
今のあの人は、僕がこの世界で生きる意味そのものだ。
彼は、1人ぼっちだった僕に気付いて、手を差し伸べてくれた。自分の命を懸けて、僕の事を助けてくれたりもした。
ほんの一時だけど、素敵な夢を見せてくれた。
大好き、大好き、大好き、大好き。
だから、幸せになって欲しい。彼の幸せの為なら、僕は何だってできる。そして、今の僕にできる精一杯は...
「さ、切り替え切り替え〜!逃げ遅れた人とかさーがそっと!」
宿儺様に愛を教えるのは、僕じゃなくてもいいはずだ...
今はただ“お友達”として、彼の夢を精一杯応援しよう!それで、彼の望みが叶うのなら...悔いは......
「プリンセスでも、ヒロインでもなかったんだな、僕って。」
《呪術廻戦の世界に転生した少女・賀茂ヒカリ。“王子様”の存在だけを道標としていた彼女は、今、生まれて初めて“道”に迷っていた。》
《そんな彼女が迷い込んだのは...》
◇
おっす!すっくんだぜ!!
身体に巻き付いていた美々子ちゃんの縄もようやく解けた!縛られてから解けるのに、なんやかんや5話分近くかかるとは思わなかったが、これで俺たちは自由だ!!
早速渋谷駅の地下に向かうぞ!!
夏油さんのご遺体を、脳みそ野郎の悠仁パパ(推定)から取り返すという、2人との約束も果たさないとだしな!!
『宿儺様、こちらを。』
菜々子ちゃんから、約束の品を受け取る。彼女らと結んだ縛りの報酬。毎度キショい事でお馴染みの、この俺・両面宿儺の指だ。
余談だが、この指に引き寄せられてきた呪霊たちは、その都度菜々子ちゃんと美々子ちゃんが撃退してくれている。やっぱ彼女ら、普通に強いよな〜。
今思えば、彼女らが俺たちを誘い出すためにしていた、呪霊に襲われそうな振り。アレ、とんだ茶番だな。
「おお!ありがとな!」
『サンキュー!』
何はともあれ、これにて俺がゲットしてきた指は6本か。真人が取り込んだと思われる指の数と同数だ!
ってか、残りの8本は誰が持っているんだろう?
俺がレーダーとなる事で、近くにある指の気配はある程度感じ取る事ができる。しかしっ!菜々子ちゃんがやっていた様に、指の呪力を抑える様な封印が施されると、途端に感知が難しくなるのだ。
気付いていなかっただけで、意外と近くに俺の指の持ち主とかがいたのかもしれない。
『なあ、すっくん。この指、早速食っとくか?』
「ああ、うーーーーん。」
割と悩みどころだ。
指を今すぐ食べれば、呪力総量を中心とした俺の基礎能力は上昇し、パワーアップした状態で次の戦いに臨む事ができる。
一方で、完全回復を果たした今は、食べずにとっておくという手もあるのだ。
指を飲み込んだ直後の悠仁は、その身体に紋様が浮き出る程度には、宿儺の力が外部に漏れ出しやすくなる。その性質を利用すれば、宿儺呪力モードの制限時間を15秒ほど復活させるという、裏技じみた事も可能となるのだ。
少し前にタコの呪霊と戦った時も、それが決め手になっていた。
「うーーーーん、決めた!この指は、食べずに取っておこう!」
《後にこの選択は、すっくんとその仲間達の運命を大きく変える事となるのだが、それは少し先の話である。》
『うっし、分かった!!』
悠仁はその手に持っていた指を自身のポケットに入れると、美々子ちゃんと菜々子ちゃんの方に微笑みかける。
『ありがとな、2人とも。』
「貴様らの大切な人は、必ず取り戻してみせる!!」
俺と悠仁は美々子ちゃん達に背を向けると、すぐそこにある渋谷駅の地下入り口にその足を踏み入れる。
「俺たちの戦いは、ここからだ!!!」
『いやすっくん、縁起悪いって。』