宿儺「どけ!!!俺は主人公の相棒だぞ!!!」   作:バケギツネ

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理非 -壱-

 

 

 

 渋谷・文化村ストリート。

 

 三級術師・釘崎野薔薇と合流した一級術師・七海建人は、改造呪詛師となった重面春太を撃破していた。

 

 敵の死亡をしっかりと確認した七海は、釘崎に対して今後の動きを伝える。

 

『私はこのまま周辺の改造呪霊を祓いつつ、渋谷駅の地下に向かおうと思っています。貴女は、』

 

『あの、七海さん...』

 

 真剣な表情で自身を見つめる釘崎の眼差しから、七海は彼女の心情を理解する。

 

 それは、里桜高校での事件の際に七海が感じたものと同じだった。

 

『貴女の気持ちは理解できます。しかし、ここから先は魔境です。最低でも一級レベルが最低ラインといったところでしょうか。』

 

『でも、』

 

 歯噛みする釘崎の言葉を遮って、七海は自身の提案を伝える。

 

『ですから。決して一人で動かず、後方支援に徹するように。約束できますか?』

 

『え?』

 

 この戦況において、釘崎野薔薇は七海の考える最低ラインを条件付きで突破していた。

 

 その結果、彼は原作とは異なる判断を下す。

 

『その約束を守れるのであれば、私に同行してもらいます。構いませんね?』

 

『もちろん!!』

 

 二つ返事で了承した釘崎は、七海と共に渋谷駅へと向かうこととなる。

 

 自らの先を行く、手のかかる同期達の力となる為に。

 

 

 

 

 

 おっす、俺すっくん...!

 

『よお宿儺。また会ったな♪あの時の続きをしよう!』

 

 渋谷駅・地下三階の壁を突き崩して現れた、巨大な改造呪霊。その口から這い出てきたのは、俺たちの宿敵・真人だった。

 

 我が相棒の身体を再現する事で、パクった宿儺の指パワーを制御し、そこからさらに偏殺即霊体とやらに進化を遂げたのが、今の真人だ。

 

 以前は宿儺呪力モードの時でさえ遅れをとった、その驚異的な瞬発力。そして、二重の黒閃すら防ぐほどの異次元の防御力は、尚も健在だろう。

 

 だがあの時とは違い、今の俺には新技も、貰い物の秘密兵器もあるのだ。負けるわけにはいかない。

 

「続きか、そうだな。」

 

 決意に満ちた表情で、俺の相棒は拳を構える。その身体には闘志がみなぎっていた。

 

「『ここからは“あの日”の続きだ!』」

 

 脳裏に一瞬、映画友達の笑顔が浮かぶ。

 

 亡き友との約束を懸け、俺と相棒、そして真人の最後の呪い合いが始まった。

 

『真人おおおおおお!!!!!』

 

『んな、でけえ声出さなくても聞こえてるよお!!』

 

 咆哮をあげる悠仁へと向けて、地面を勢いよく蹴り出した真人が加速する。それに対して、悠仁は右の拳を突き出して迎え撃つ体勢をとった。

 

『黒せ、』

 

『遅いっての!!』

 

 瞬間、悠仁の目の前から真人の姿が消える。奴はそのスピードで、拳を空振りさせた悠仁の背後に回り込んでいた。

 

『拍子抜けだなあ、もっと楽しませろよぉ!!!』

 

 その剛腕に呪力を込め振り上げる真人。悠仁の死角から放たれるのは、黒い火花を伴う必殺の一撃。

 

 やはり奴は悠仁に対して無為転変を使ってこない。前回の経験から、俺の生得領域に引きずりこまれることをかなり警戒しているようだ。

 

 となると、領域展開をしてくる事もないだろう。今のように物理攻撃を中心に仕掛けてくるとみた。

 

「悠仁、4時の方向からだ!いくぞ!!」

『おう!サンキュー!!』

 

 悠仁の死角に生やした俺の一つ目は、黒閃を叩き込もうとしていた宿敵の動きを何とか捉える。

 

 奴の拳が悠仁の首に直撃する寸前、我が相棒の顔には紋様が浮かび、その身体は呪力の光に包まれた。

 

「『宿儺呪力モード・改!!』」

 

 悠仁の身体に現れた紋様と纏う呪力は、従来の宿儺呪力モードよりも鮮やかな光を放つ。

 

 新たな形態へと変身した俺たちは、迫り来る真人の黒閃をスレスレで回避するのだった。

 

『!?こいつら、前より速く』

 

「『黒庭拳!!!!!!』」

 

 突然の変身に不意をつかれた真人の胸に、俺たちの渾身の一撃が叩き込まれる。

 

『スピードだけじゃない!打撃の威力も前より上がってるな...!』

 

 真人の胸の装甲には小さなヒビが入っていた。俺たちを睨みつける奴の顔に、僅かながらも焦りが浮かぶ。

 

『お前ら、一体何した?』

 

 一時的に宿儺呪力モード・改を解除した俺達は、声を揃えて奴からの質問に答えるのだった。

 

『教えるかよ。』

「縛りで宿儺呪力モードを強化した。」

 

「『あ。』」

 

 やべっ、普通に喋っちゃった。

 

 ま、まあいい!

 

 今のも“開示”扱いになって、宿儺呪力モード・改の出力をちょっぴり上げてくれるはずだ!

 

 流石にここからは俺と悠仁だけの秘密なのだが、新たな宿儺呪力モードの為の縛りについて。

 

 通常、宿儺呪力モードの発動制限時間は99秒だ。

 

 悠仁が檻としての機能を制御しながら戦闘を行うという都合もあって、新たに指を取り込まない限りは変身時間を伸ばせない。

 

 なら逆に、それを縮めてみればいいじゃない!

 

 俺たちは変身時間・99秒を半分以下の“44秒”に設定する事で、一時的な出力を強化しているのだ。

 

 これこそが、宿儺呪力モード・改!

 

 この新形態なら今の真人とも互角に渡り合えると分かった!

 

 変身時間は、さっきので5秒使って残り39秒。

 

 今は節約の為にモードを一時的に解除している。以降も戦闘の要所で発動し、真人への決定打を狙うつもりだ。

 

『なるほど。前のようにはいかないってわけか。でもさっきの変身。すぐに解いたのをみるに、何かリスクがあるんだろ?』

 

 真人の表情には余裕が戻ってくる。ひょっとしたら、制限時間の事も見抜かれているかもしれない。

 

『そんな付け焼き刃じゃ、俺は倒せない。もっと頑張ってくれなきゃあ。』

 

 そう言って奴は、自身の指で身体を覆う鉄壁の装甲を叩く。アレが本当に厄介だな。

 

 恐らく偏殺即霊体は、俺の攻撃ガンメタの形態。既に知られている俺の技は、全て対策されてると見ていいだろう。

 

 あの装甲に遮られているうちは、奴の体内に反転術式を流す事も難しい。パワーアップした黒庭拳でも、軽いヒビを入れるのがやっとだった...

 

 ならば、

 

「悠仁、次は攻め手を変える。アレを使うぞ。」

『おおっ!わかった!!』

 

 俺の意図を察した悠仁は、敵の動きに集中しつつ、“秘密兵器”の使用に備える。

 

 貰い物のアレには回数制限があるから、慎重に使わなくては!

 

 

『お前らのその顔、まだ手はあるって感じか...』

(接近戦は控えよう。間合いは崩さず、ジワジワと擦り潰そうか。奴の心を。)

 

 

 真人は吐き気がする程の悪辣な笑みを浮かべながら、次の手を講じてきた。

 

『宿儺、俺からのもてなしだ。たっぷり楽しんでくれ。』

 

 

 

 

 

 

 虎杖悠仁が改造人間を殺せる事を、既に真人は知っている。

 

 その他の呪術師についても、彼と同様の覚悟を決めている者が大多数であり、改造“人間”である事のメリットは殆どなくなっていた。

 

 だからこそ彼は、自身のストックを全て改造“呪霊”に替えている。素体が強力な分人間より強い力を発揮でき、その材料も夏油(羂索)が提供してくれるので実質無料。

 

 真人にとって改造呪霊は、まさに理想ともいえる兵器だった。

 

『多重魂!!』

 

 そんな改造呪霊達の中でも、拒絶反応が微弱な魂を持つ個体が選別されて混ぜ合わされる。

 

 真人の手の中にある魂の混合物は、歪な身体を形成していった。

 

『真・幾魂異性体!!!』

 

 生み出されたのは、複数の寿命を一瞬で燃やし尽くすことで活動する超攻撃型改造呪霊、その強化版である。

 

 それらは異常なまでの耐久力の低さと引き換えに、原作以上の爆発的なパワーを手に入れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『真・幾魂異性体!!!』

 

 真人の手によって不気味な姿の改造呪霊が計3体出現した。複数の魂が混ぜ合わされているのを感じる。

 

「悠仁、あいつらただの改造呪霊じゃないぞ。」

『ああ、油断はしねえ!』

 

 警戒を強める俺たちを嘲笑いながら、真人はその手で異性体とやらに触れる。

 

『面白いのはここからさ。よーーく見ておけよ、宿儺。』

 

 真人の声を合図に、3体の真・幾魂異性体はさらに変形を重ねていった。

 

『お前のために、ちょっとしたデコレーションだ。』

 

 異性体はその強大な力を維持したまま、より人間らしい姿形へと変わっていった。

 

 そして、

 

「おい、ふざけるなよ...」

 

『ハハッ、こっちは大真面目だよ!ずーーーーーーっと考えてたんだ!!お前の嫌がることを!!!』

 

 真・幾魂異性体たちは、あの日の、俺の反転術式によって死亡した、里桜高校の生徒達に変身していた。

 

『さあ、あの時の再現だ。懐かしいだろぉ?』

 

『人殺し..』

『助けてぇ..』

『殺さないでぇ..』

 

 改造呪霊達は、呪いの言葉を吐きながらジリジリとこちらに迫ってくる。

 

 瞬間俺の脳内に溢れ出した、忘れもしないあの日の記憶(トラウマ)

 

 

「...........っ!!!」

『すっくん、落ち着け!大丈夫!大丈夫だ...!』

 

 自身の生得領域の中で、俺は必死に荒くなった呼吸を整える。込み上げてきた吐き気は無理やり喉奥に飲み込んだ。

 

『ハハッ、いけ。』

 

 真人の合図で3体の異性体が一気に襲い掛かってくる。奴の本体ほどではないが中々のスピードだ!

 

『すっくん!!』

「...ああ。」

 

 落ち着け、あれは偽物...!戦いに集中しろ!!

 

『せいぜい楽しんでくれ。“あの日の続き”をな。』

 

「『!?』」

 

 俺たちの目の前で3体の異性体が眩い光に包まれていく。

 

「!?」

『まさか!』

 

『はい、ボーーーーーーーン!!』

 

 異性体3体は呪力による連鎖爆発を引き起こし、俺たちの目の前で弾け飛ぶ。

 

『「っ...!!!」』

 

 俺が内部から施した反転術式によって、傷ついた身体を治す悠仁。その顔には、弾け飛んだ異性体の返り血がベットリと付いていた。

 

『幾魂異性体はそもそも使い捨ての道具なんだ。それならこうやって使うのが、一番効率的だろ?』

 

 真人はその口を押さえながら、愉快そうに肩を震わせる。

 

『どうだった?弾けて死ぬところまで、再現してやったんだ。あの日、お前がそうしたみたいに。』

 

「...黙れ。」

『すっくん、落ち着け!!』

 

『気に入ってくれて何よりだよ!!その分なら、次はもっといい反応が見れそうだ。』

 

 俺たちとは対照的にますますボルテージを上げていく真人は、再び2体の幾魂異性体を作り出す。

 

 その姿は、

 

『お前さえ...お前さえいなければ、母さんはっ!!』

『貴方が順平に関わらなければ、あの子はっ!!』

 

「順平、お母様..」

 

 俺が守れなかった、大切な人たちを模していた。

 

『おめでとう宿儺!お友達と感動の再会だな!!』

 

 順平のお母様を模して作られた、幾魂異性体。それはさらに変形を重ね、クラゲのような形状になる。

 

『順平、今度は守るからね。』

『ありがとう、母さん。』

 

 順平のお母様が変身したクラゲは、抱き締めるようにして息子の身体を包んでいく。

 

『麗しい親子愛だな〜。お前もそう思うだろ?』

 

「茶番はやめろ.....」

 

『ハハッ!その茶番に、マジになんなよ!!』

 

 友の姿を真似た改造呪霊は、ゆっくりと近づいてくる。

 

 俺たちを呪いながら。

 

『お前のせいだ。お前らが僕に関わらなきゃこんなことにはならなかった!僕もっ、母さんもっ、学校のみんなもっ、お前が存在してなきゃ、死ぬことはなかったんだ!!!!』

 

「.................」

 

『今だってそうだ!!真人さんが強くなったのも、お前が余計なことをしたからだ!きっとこの先も真人さんはたくさん人を殺す!!それも全部、全部っ、お前のせいだ!!!!』

 

「...順平、」

 

『お前のせいで、人が死ぬんだよ!!!!!!』

 

 

 自分の生得領域の中、俺は1人で向けられた言葉と向き合っていた。

 

 目の前にいるのは順平達ではない。その言葉も真人にとって都合のいいものでしかない。

 

 でも、俺がしでかした事は何一つ変わらないんだ。だから俺はあの過去からは逃げちゃダメだ。

 

『すっくん、いけるか?』

「ああ。待たせたな...!」

 

 俺と悠仁もまた、順平の方へと近付いていく。

 

「......順平、俺はな。お前を、みんなを、この手で死なせてしまったことを絶対に忘れない。」

 

 悠仁の身体は、宿儺呪力モード・改の鮮やかな呪力に包まれた。

 

「後悔も、恐怖も、罪も、罰も、全部飲み込んで前に進むって、そう決めたんだ。」

 

 迫り来る改造呪霊が、俺たちに纏わりついた。その身体に秘められた爆発的な呪力が昂り始める。

 

「俺達、順平やみんなの分まで、ちゃんと苦しむよ。」

 

 悠仁の右手はそっと順平の身体に触れる。

 

 

 

 

 

『はい、ボーーーーン!!!』

 

 虎杖の手が触れた瞬間、真人は順平擬きの異性体を起爆させようと試みる。

 

 しかし、

 

 

『? なんで、爆発しない?』

 

(俺の予想よりも早く異性体の寿命が尽きた?いや違う!まさか...)

 

 

 虎杖に触れられた順平もどきの魂が爆ぜる事は無かった。それは暖かい光を放ちながら、穏やかに消滅していく。

 

『...お前の仕業か?宿儺。』

 

 その原因に真人はすぐさま思い当たる。

 

 宿儺呪力モードの時のみ、相棒の身体にも刻まれているすっくんの術式。偶然か、必然か、それが効果を発揮していた。

 

『ははっ、そうこなくっちゃ!』

 

 どこまでも自らに食らいついてくる宿敵に対し、真人は心からの祝福を贈る。

 

『でないとへし折り甲斐がない!!来い宿儺!お前の全てを否定して、俺はようやく“完成”するんだ!!』

 

 

『お前の目標なんざどうでもいい。』

「今はただお前を祓う!呪術師として!!」

 

 すっくんが顕現できなくなったあの日と同じように、返り血で真っ赤に染まった虎杖達。

 

 それでも彼らは歩みを止めず、前へと走り出していた。

 

 あの時と違い、倒すべき敵と目指す未来をしっかりと見据えて。

 

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