宿儺「どけ!!!俺は主人公の相棒だぞ!!!」 作:バケギツネ
◆
『あー、この感じ。始まったみたいだね。』
渋谷駅の地下5階。
そこに1人佇む羂索は、自身の頭上で大きな呪力同士がぶつかり合うのを感じ取っていた。
「イレギュラーな宿儺と、進化を遂げた真人。さて、どんなものが見れるかな?』
五条悟を封印した獄門疆。
ようやく動かせるようになったその歩く公害を拾い上げ、羂索は口を三日月型に歪める。
彼は今、原作から逸れた規格外同士の戦いに思いを馳せていた。
◇
俺はすっくん。
呪いの王・両面宿儺にして、主人公・虎杖悠仁の相棒である、2人で1人の呪術師だ。
『ははっ、そうこなくっちゃ!でないとへし折り甲斐がない!!来い、宿儺!お前の全てを否定して、俺はようやく“完成”するんだ!!』
『お前の目標なんざ、どうでもいい。』
「今はただお前を祓う!呪術師として!!」
俺達が宿儺呪力モードを使えるのは、残り28秒。変身した悠仁はその時間を消費しながら突進する。
『うおおおおおおおお!!!』
「真人おおおおお!!!!」
『黒っ閃!!!!』
体勢を整えた真人は、その必殺の拳でカウンターを狙ってくる。しかし悠仁は、奴の直前でさらに動きを加速させる。
「『黒庭脚!!!』」
『チィッ、』
真人のカウンターを回避しつつ、その胸に鋭い蹴りを突き刺す悠仁。
二重の黒い火花が散ると共に、激しい打撃音が駅の構内に響く。不意を突かれた真人の身体は大きく仰け反っていた。
『やってくれるっ...!』
スピードとフィジカルにものを言わせた、カウンターへのカウンター。
少し前にパパ黒との戦いを経験し、その動きを肌で感じた事で、悠仁の格闘センスは飛躍的に向上していた。
そして相棒の打撃に合わせ、あわよくばと俺の術式を放っていたのだが、
「...悪い、今度は失敗した!!」
『気にすんな、切り替えてこー!』
先程のように上手くはいかなかった。今はやはり、“彼”から預かった秘密兵器に頼る方がいいだろう!
『「うおおおお!!!」』
再び加速する悠仁は、瞬時に次の攻撃へと移行していた。呪力を込めた左の拳を握りしめ、一直線に突き出す。
『またそれか!いい加減分かれよ、意味ねーって!!』
悔しいが真人の言う通りだ。
俺達の必殺技である、黒庭拳・黒庭脚。
既に何発か直撃させたが、未だ奴の装甲には小さなヒビが幾つかできた程度で、決定打には到底なり得ない。
だが、そんな事は承知の上だ。
悠仁が突き出した左手はブラフ。狙いは打撃ではない。
相棒は伸ばした左手で真人の右腕を掴むと、それに足を絡ませて腕ひしぎをかける。
『関節技...?今更そんなのが効くわけ.....』
次の瞬間、真人の右腕がバシュッと音を立てて弾け飛ぶ。
『は?』
遍殺即霊体となり、全身を硬い装甲で覆った真人。だが奴には、たった2箇所だけ弱点がある。
それは真人が、無為転変を使うためにそのまま残した、”両手の掌“。
奴が幾魂異性体を作り出している時、俺の自慢の相棒はその事実に気付いていた。
『サンキューな、幸吉!!!!!』
京都校の友から託されていた、カプセル付きの注射器。その2本が真人の右手に深々と突き刺さっていたのだ。
その結果、カプセル内に封じ込められていた三輪ちゃんの技は、奴の体内で炸裂する。
その名も、
「『シン・陰流、簡易領域!』」
大成功!
メカ丸くんの仮説通りだ!
内側から簡易領域を発生させられた真人は、術式関係なくダメージを負っている。
正直、理屈はよく分からんけどな!
それにしてもかなりの効き具合だ。多分、反転術式を流し込むよりも、遥かにダメージ効率がいいだろう。
『幸吉ぃ?誰だよ、そいつ...』
真人は魂の形を弄り、右腕に負った傷を治そうとしている。だが、悠仁の追撃はその数段先をいっていた。
『お前らの利用した、俺の友達だ!』
治りかけで装甲が柔い奴の右腕。そこを狙って、相棒は渾身の打撃を叩き込む。
『「黒庭脚!!!!!!」』
『んぐっっっっ!!!!!』
簡易領域による内部破壊に、傷口へと撃ち込まれた二重の黒閃。
感じるぞ!真人の魂がゴリゴリと削られていくのを!!
『ああ、思い出したよ。あの根暗術師か!!』
しかし真人は倒れない。左肘に備わったブレードを突如伸縮させ、追撃を狙っていた悠仁の胸を刺し貫く。
『んぐっ!!』
「悠仁!!!」
咄嗟に後退して刺し傷を最小限に抑えた悠仁の前に、右腕を取り戻した真人が肉薄していた。
奴の手にドス黒い呪力が迸る。
『黒っ閃っっっ!!!!』
異形の剛腕から放たれる、黒い火花に祝福された一撃。
それをモロに食らった悠仁は、胸骨を砕かれながら吹き飛ばされ、駅の壁に大きなクレーターを作る。
相棒の身体から流れ出た血液で、彼の足元には赤い水溜まりができていた。
たった一撃で、頑丈な悠仁がここまでダメージを負わされるとは...!
「大丈夫か悠仁!?すぐに回復する!」
『ハァ、ハァ、悪い...助かる!』
宿儺呪力モードを一時中断し、悠仁が負った傷の治癒に専念する。
幸い真人もそのダメージは大きかったようで、無理に追撃をしてくる様子はない。
今は俺たち同様、自身の回復に集中しているのだろう。
「悠仁。これでモードの残り時間は、17秒。メカ丸くんから貰ったカプセルは後2つだ。」
『...だな。もう2、3発黒閃喰らったら、身体が持たねえ...次で決めきる!』
立ち上がった俺たちの視線の先で、宿敵はゆらりと動き出す。
『全くしぶといな〜、お前ら。』
「それはこっちのセリフだ。」
簡易領域は警戒されてるだろうな。
奴の魂は残り6割。だいぶ削れたが、悠仁の魂は既に2割をきっている。
時間や弾数に限りがある事も考えると、長期戦は不利。一気に仕掛けるのがベストか...?
『まあまあ。そう焦んなよ。』
俺の考えを見透かすように、奴は怪しい笑みを浮かべる。
『さて、ギャラリーを増やそうか。』
真人がその口から吐き出したのは、奴が体内に保管していた改造呪霊達だった。
その数は、実に100体以上。
渋谷駅構内に満ちる空気が、一気に暗く淀んだものになったのを感じる。
『出血大サービスだ。コイツら全員、お前らと遊びたいってさ。』
真人の中にあった、別の魂の気配が消えている。恐らく今呼び出したのが、奴のストック全部だろう。
なりふり構わず、俺の力を少しでも削りに来たか。
『そっちは2人がかりできてるんだ。これくらいのハンデはいいだろ?』
真人の操る魑魅魍魎は、渋谷駅の狭い通路を塞ぎながら、俺たちの方へと迫ってくる。
だが、
「勘違いするなよ。ここからは、2人がかりどころじゃない。」
真っ直ぐで温かい、そんな馴染み深い魂を俺が感じとるのと同時に、渋谷駅地下3階の天井が盛大に吹き飛んだ。
『瓦落瓦落』
『簪!!!』
有象無象の改造呪霊たちに、呪力の込もった瓦礫と釘が降り注ぎ、一掃する。
上を見上げれば、天井にぽっかりと空いた穴から、頼れる仲間達の姿が見えた。
「『ナイスタイミングーーー!!』」
『いえ、遅くなりました。』
『意外と平気そうじゃない。2人とも。』
ナナミンに野薔薇ちゃん。
決戦に駆けつけてくれた心強い救援は、真人からの殺気をものともせず、渋谷駅地下3回に降り立った。
『いつぞやのシチサン術師に、虎杖の同期かな?丁度いい。お前らを改造されたら、宿儺はどんな顔するかなぁ〜?』
『ざけんな。ナナミンと釘崎には、指一本触れさせねえ。』
くだらない事をほざく真人から2人を庇うように、相棒は前に進み出る。
俺も悠仁と思いは1つだ。
あの日の悪夢を繰り返させるつもりはない。
『そうだ釘崎、これ!』
「今の真人は、俺の指を取り込んでるからな。きっと、それが役に立つ筈だ。」
悠仁が懐に入れていた、もう一つの預かり物。それが野薔薇ちゃんへと投げ渡される。
『ちょっと、すっくん。これ使ったらあんたも...』
「そこは何とかしてくれ。野薔薇ちゃんなら、できるでしょ!多分。」
その言葉で、彼女は自らに与えられた役割を察したらしい。同時にその難易度も理解して、分かりやすく顔を顰めていたが。
『ったく、しょうがないわね。せいぜい期待してなさい。』
それでも、しっかりと無茶振りに応えてくれる辺り、流石は野薔薇ちゃんといったところだ。
そのイケメン過ぎるメンタル、ちょっと俺にも分けて欲しい。
「よし。それじゃあナナミンは、」
『なにコソコソやってんだ?俺も仲間に入れてくれよ!!』
痺れを切らした真人が此方に接近してくる。
『「宿儺呪力モード・改!!」』
ナナミンとのアイコンタクトで意思疎通を終えた悠仁は、再発動させた強化形態でそれを迎え撃つのだった。
『黒閃っ!!!!!!!』
「『黒庭拳!!!!』」
黒い火花を味方につけた2つの拳が激突した。
技の威力、肉体強度、呪力量、体力、信念、様々な要素が絡み合い、俺と真人の激突は互角に終わる。
その凄まじい衝撃は、渋谷の地下を震わせて、俺たちの足元を陥没させた。
「『黒庭脚!!!!!!』」
『黒閃!!!』
地下4階へと落下しながら、悠仁と真人は同時に蹴りをぶつけ合う。再び黒い稲妻同士が激突し、2人は互いに蹴り飛ばされ合う。
『「まだまだぁ!!」』
『ヒヒッ、もっとぉ、もっとだぁ!!!』
今の真人はその両手をも硬い装甲で固めていた。無為転変を使わずに、純粋な打撃だけで俺達を仕留めるつもりなのだろう。
今の奴に、もはや弱点はない。
『...って、思ってんだろ?』
『はぁ?』
奴の今の形態は、俺の打撃や反転術式を警戒し、外部からの攻撃にトコトン強い形状となっている。
だが呪術とは、足し引きの世界。
領域と同様、外部からの攻撃に強くなる分、内部からの攻撃に弱くなっているとしたら。
彼女は真人にとって最大の天敵だ。
『新・共鳴り!!!』
地下3階にいる野薔薇ちゃんの術式が、真人の身体を内部から襲った。
『これは、さっきの茶髪女の術式か!?』
『はっ、大正解!!!!』
頭上から聞こえる野薔薇ちゃんの頼もしい声が聞こえてくる。
美々子ちゃん、菜々子ちゃんから預かっていた俺の指を、彼女に託しておいて良かった!
◆
重面との戦いで黒閃を経験し、呪力の核心を掴んだ釘崎は、さらに繊細な呪力操作を身につけていた。
彼女がやってのけたのは、宿儺の指を媒介にした共鳴りで、攻撃対象を真人のみに限定するという離れ技。
◇
共鳴りのダメージによって、真人の動きは目に見えて鈍っている。
『俺の中にある宿儺の指6本、それを利用されたか...』
『「黒庭拳!!!!」』
魂を内側から揺さぶられフラついた真人の横っ面を、悠仁の拳が殴り飛ばした。
『虎杖の打撃は問題ない...!俺が今、最も警戒すべきは...!』
真人の中で、再び野薔薇ちゃんの術式が弾けた。防ぐ術のない内部攻撃が奴を襲う。
『っ...!!妙な術式使いやがってぇ...!』
『「やらせねえ!!」』
すかさず肘のブレードを伸ばして、頭上の野薔薇ちゃんを狙う真人。
しかし悠仁は、仲間へと伸びる凶刃をその手で鷲掴みにしていた。
『「うおおおおら!!」』
そのままブレードごと、真人の身体を振り回して地面へと叩きつける。
『新・共鳴り!!!』
その間にも野薔薇ちゃんは、再び術式を発動するのだった。
『ああっ...!クッソ!!あの女さえ潰せばぁ...!!』
奴の意識は、新たな天敵である野薔薇ちゃんに集中し始める。
その瞬間を狙っていたナナミンは、俺が合図を送るよりも早く動き出していた。
「頼むぞ、ナナミン!!」
『ええ。ベストを尽くします...!』
ナナミンの術式・十劃呪法。
それは、対象の長さを線分した際7:3の比率となる点に、強制的に弱点を作り出すというもの。
『虎杖くん!すっくん!!』
「『ああ、見えてる!!!』」
◇
『申し訳ない.........!過ぎたものを、背負わせてしまいました.......今回のことは全て、私の責任です...!!!』
里桜高校の事件の際、自らの到着が遅れた事を、ナナミンは心底後悔していた。
彼が俺の修行に付き合ってくれたのは、その罪滅ぼしとしての意味もあったのかもしれない。
術式を使いこなそうと俺が必死に修行していた時、それに付き合ってくれるナナミンもまた、自身の術式と向き合い、限界まで突き詰めていたそうだ。
『今度は、私もついていきます。貴方達だけに行かせはしません...!』
その結果、彼の十劃呪法は進化を遂げている。
今のナナミンは、7:3の線分をとる対象範囲を自由自在に設定できるのだ。さらに副次効果として、作り出した弱点の位置を任意の相手と共有する事もできる。
◇
『虎杖くん!すっくん!!』
「『ああ、見えてる!!!』」
悠仁と俺の眼前には、真人の“身体中”に刻まれた無数の線分が広がっていた。今の奴は、全身が急所と化している。
そして、さらにダメ押しだ。
『二人とも!頼みます!!』
ナナミンは自らの呪具である鉈を、俺たちに投げ渡してくれる。
彼からの思いと共に愛刀を託された俺と悠仁は、その刀身に自分達の呪力を込めていった。
宿儺呪力モード・改が持つのは、残り5秒。
ここからの攻撃に全てを賭ける!!
『っ!?なに、企んでる!?』
俺たちの動きを察知し、それに迎え撃とうとする真人だったが、
『よそ見すんなよ!!』
野薔薇ちゃんの新・共鳴りをまともに喰らい、あえなくその体勢を崩す。
『ッ!ふざけやがってえええ!!!』
その間に真人との距離を十分に詰めた俺たちは、弱点まみれの宿敵に対し、鉈を振り下ろす。
その斬撃と7:3の線分が重なった。
『「黒庭斬!!!!!!!」』
俺たちの新技は、真人の両腕を魂の輪郭ごと分断する。それと同時に、黒い火花は2度散った。