宿儺「どけ!!!俺は主人公の相棒だぞ!!!」 作:バケギツネ
◇
『「黒庭斬!!!!!!!」』
俺たちの新技は、真人の両腕を魂の輪郭ごと分断する。それと同時に、黒い火花は2度散った。
今にも解除されそうな宿儺呪力モード・改を、歯を食いしばって堪える悠仁は、すぐさま次の一撃を狙う。
『ッ、領域展開....!!!』
一か八か、真人は最後の切り札を切ってくる。
両手を失った奴は、口内に生やした腕で掌印を組み、自身の生得領域を具現化しようとしていた。
だがそのやり方は、里桜高校で一度見ている。
『自閉え
「『黒庭斬!!!!』」
無数の手が重なり合った、あの不気味な空間が顔を出すよりも早く、俺たちの武器は真人の顔を掌印ごと刺し貫く。
奴の賭けは不発に終わった。
『お前はっ、ここでっ、祓うっ!!!!』
『っ、まずっ....!!!』
魂の崩れかけていた真人が、目の前で突如弾ける。奴は身体を複数体に分裂させ、この危機を凌ごうとしていた。
だが、術式への理解を深めた今の俺ならば感知できる。真人の本体だけが持つ、黒く澱んだ魂を!!
「悠仁!一番左の奴だ!!」
『サンキュー、すっくん!!』
真人の本体が逃げた先に、呪力を練り上げた悠仁が回り込む。
メカ丸くんが、野薔薇ちゃんが、ナナミンが、悠仁が、そして俺が。
勝てる!!
繋いだ!!
全員で!!
ここまで!!
『「終わりだ、真人おおおお!!」』
俺たちの全身全霊を乗せた斬撃は、7:3のエフェクトと二重の黒い火花と共に、真人の魂の核へと到達し、斬り裂いた。
『っ!!』
俺が感じたのは、確かな手応えと、急激に弱まっていく真人の魂。
『すくなああああああああ!!!!!!』
戦場に断末魔を轟かせて、奴の魂は完全に消滅するのだった。
『はあ、はあ、はあ..』
渋谷駅地下4階に静寂の刻が訪れる。
力の全てを使い果たした悠仁は、肩で息をしながら、その場に倒れ込んだ。宿儺呪力モードの制限時間も終了し、相棒の身体を包んでいた鮮やかな光も消えている。
『お疲れ様です、2人とも。』
『ま、私らの援護も有ったんだし、当然ね。』
俺たちを呼ぶ声と、駆け寄ってくる足音が近づいてきた。
激戦を終えたばかりの相棒に、俺は生やした口から声をかける。
「やったな、悠仁。」
『ああ、終わったんだ。ようやく真人を祓え
『領域展開・自閉円頓裹』
俺は突然感知した。
完全に消滅した筈の真人の魂が、ひとりでに再生していく。
以前よりも悍ましい形で。
『感謝するよ、宿儺。お前のおかげで、俺は完成したんだ。ようやく理解した。魂の“根源”を!!』
すっくんがその目に焼き付けたのは、純白になった長髪と身に纏う薄汚れたローブをたなびかせて、空中に腰掛ける真人の姿だった。
◆
全ては、憎き宿敵の心を嬲り殺すため。
真人は自身が取り込んだ宿儺の力を最大限に引き出し、空間を分断しない領域を展開していた。
相手に逃げ道を与える、以降3か月閉じない領域を展開できなくなる、という縛りによって、その効果範囲は底上げされている。
領域は、彼を中心とした半径180メートルにまで及んでいた。伏黒恵への影響が考慮されることもなく、そのサイズは原作宿儺が展開した半径140mよりも遥かに大きい。
結界を閉じずに生得領域を具現化することは、キャンバスを用いずに空に絵を描くに等しい、
まさに神業。
それによって真人の魔の手は、どこまでも伸びていく。
さらに彼は、すっくんや宿儺を警戒し、閉じない領域内の条件に変更を加えていた。
原作で乙骨が見せたように、領域の必中術式の対象から、虎杖や夏油、裏梅といった一部の人間を除外したのだ。
逆にいえば、領域内にいるそれ以外は、全員真人の掌の上という事。
『ナナミン、釘崎、これを!!』
メカ丸から預かっていたカプセルを、虎杖は仲間達へと投げ渡す。
その意図を即座に察知した七海と釘崎は、その中に封じ込められていた簡易領域で自らの身を守った。
『無駄だよ。』
しかし真人の神業領域の前に、弱者の領域はいとも容易く剥がされていく。
『さあ、宿儺。せいぜい噛み締めろ。』
「『やめろーーーーーっ!!!!!』」
最悪の事態を想起したすっくんは、必死な叫びをあげながら、釘崎と七海へ手を伸ばす。
その声も、手も、届かない。
2人の簡易領域は既に崩壊しきっていた。その状態で真人の術式が発動する。その腕は、数百人単位の贄に絡み付き、闇へと誘った。
『無為転変。』
七海建人が、
釘崎野薔薇が、
渋谷駅へと向かっていた呪術師達が、
家入硝子の医療テントにいた負傷者と救護者が、
付近の建物内に避難していた非術師達が、
改造人間へと次々に変貌していく。
10月31日・ハロウィンの日。
渋谷の街は怪物で溢れた。
『くぎっ、さき...?ッ、ナナミン!!』
「おい、2人とも!しっかり...」
すっくんの大切な仲間達はその魂を歪められ、彼の目の前で徐々に改造されていく。
『虎杖、すっくん。んな顔するんじゃないわよ。』
その顔の半分を醜く変色させた釘崎。自らの行く末を悟った彼女は、フラつきながらも仲間の元へと歩いていく。
『何があっても、アンタらは絶対生きて帰って。それで、もしもの時はみんなに伝えて。』
預かっていた宿儺の指を虎杖へと手渡し、その手を強く握って、釘崎野薔薇は笑う。
いつものように、豪快に。
『悪くなかった!』
次の瞬間、その場から釘崎野薔薇は消えた。
残されたのは、視線が定まらないまま金槌を振り回す、不気味な改造人間だけ。
『虎杖くん、宿儺くん。あえて、言わせてください。』
釘崎と同様に身体が変容しつつある七海。顔が変形し、ゴーグルの外れた彼は、2人の目を真っ直ぐに見つめて、優しく微笑んだ。
そして、呪いの言葉を残していく。
『あとは、頼みます。貴方達2人を、信じていますよ。』
完全な改造人間へと成り果てた七海は、地に堕ちていた自身のゴーグルを踏み潰すのだった。
『...ああ。』
「少しだけ、待っててくれ。」
2人で1人の呪術師は、七海の言葉を正面から受け止め、その拳を強く握り締める。
◆
『はははははははははははははははははははははははは!!!気分はどうだ、宿儺!?』
「.......」
『俺はな。感情は全て、魂の代謝に過ぎないとそう思ってた。でも、違った!恨み、妬み、憎しみ、そういう負の感情こそが、俺たち呪霊の魂の原点!!』
「...............」
『今の俺は、お前を呪う感情そのもの!!名付けるなら、“寂滅呪縛体”ってところかなぁ!!』
今の真人は、肉体を持たぬ魂だけの存在。
魂への理解がない人間は、真人に触れることも、その存在を認識する事すら叶わない。
逆に真人は生前と同様に、現世へと自由に干渉できる。
『ひひっ、ゾクゾクする!自分の才能に!!!生と死なんていう曖昧なものに、今の俺は縛れない!!俺は究極の自由を手にしたんだ!!!』
寂滅呪縛体となった真人。宿儺を呪うその感情が消えない限り、その魂は永久に再生する。
彼にはもはや死という概念すら無いのだ。例え五条悟でも、今の真人を殺す事はできない。
『ああ〜、俺って、俺こそが呪いだ!!はははははははははははははははははははは!!』
静かになった駅の構内に、真人の声だけが響いていた。
『お前の心は、もう限界だろ?』
自らの勝利を確信した彼は、その場に立ち尽くす宿敵に語りかける。
『どうすれば、お前の心をへし折れるか、それだけをずっと考えてきた。お前のことは、俺が一番分かってる。』
『お前は救おうとしたんだろ?俺たち呪いに殺される人を、1人でも多く。その為に、強くなろうとしてきたんだよなあ?ハハッ、ハハハハハッ...』
『その結果どうなった?お前は何を守れた?無駄だったんだよ、努力もっ!繋がりもっ!!お前がこれまで築き上げてきたこと全てがっ!!』
『ふふっ、俺はなぁ、宿儺。お前が憎い。憎くて憎くて、殺したくて仕方がない。それはお前も同じだろう?でもな、お前がいなければ、今の俺は無かったんだ。』
『お前が人を助ける為に成長すればするほど、俺はそれを殺す為に進化していく!俺をここまで育ててくれたのは、お前なんだよ!』
『俺の言いたい事、分かるか?シチサン術師も、あの釘女も、渋谷の有象無象も、みーーんなお前が殺したんだ。』
『認めろ、宿儺。お前は俺だ。』
虎杖の使っていた宿儺呪力モードは、既に限界を迎えている。仮に使えたとしても、覚醒した真人の敵ではない。
虎杖の仲間達も、その全てが真人の手に堕ちている。
里桜高校で屈辱を味わって以来、真人がずっと待ち望んでいた瞬間が訪れ、
すっくんの心は苦痛の中で死に絶える。
...そのはずだった。
『...なあ、何で、何でだよっ...!!!!!』
今の真人は、より鮮明に他人の魂を、心を、感じ取ることができる。だからこそ分かってしまうのだ。
すっくんの魂が、未だ眩い程の輝きを纏っているのを。
『何でお前の魂は、まだ折れないっ!宿儺ぁ!!!』
宿敵からの問いに対し、すっくんはその答えを吐き出す。
「お前を必ず祓うと、順平に誓ったからだ。」
自分自身に言い聞かせるように、重く、一言一言を噛み締めるように。
「野薔薇ちゃんが、ナナミンが、俺を信じて後を託してくれたからだ。」
死に際の釘崎から託された、宿儺の指。彼女の温もりが僅かに残ったソレを、虎杖悠仁は飲み込んだ。
指を初めて飲み込んだ時から、彼の理想は変わらない。ただ目の前の人を、理不尽な死から救うだけ。
「絶対に裏切らないと、最後まで一緒に戦うと、相棒と約束したからだ。」
虎杖の顔には、一時的に相棒の紋様が浮かんでいた。
指を取り込んだ影響で、堅牢な檻は僅かに緩む。失われた宿儺呪力モードが、ほんの少しだけ復活していた。
「この世界の呪いを解くと、自分自身に誓ったからだ!!」
託された思いが、積み上げたこれまでが、百折不撓の精神が、今にも倒れそうな虎杖達の身体を支える。
蝗guy戦や先程までの戦い同様に、相棒の呪力を纏った虎杖には、すっくんの術式が一時的に刻まれた。
「行くぞ、相棒。」
『ああ、ドンと来い!』
すっくんの生得領域の中。2人で1人の呪術師は互いの拳を重ね合わせる。
それと同時に、すっくんの術式が発動した。
『今、何をした...?』
彼らの魂を観測していた真人は、真っ先に感じ取る。
すっくんの術式によって、虎杖悠仁の身体に起こったとある変化を。
「悠仁、長い間すまなかった。ずっと、お前1人に戦わせてしまった。」
宿儺呪力モードの欠点は、その短すぎる制限時間と、すっくんが100%の力を発揮できない点にある。
使える技はかなり限られ、呪力総量も、“虎杖の呪力+すっくんの呪力30%”がその上限。
『いいって、それに1人じゃない。俺たちは、ずっと一緒に戦ってきたろ?』
すっくんと虎杖の脳内に溢れ出したのは、確かに存在する、2人で歩んできた記憶。
『これからもそれは変わらない。』
「そうだな。」
すっくんは、およそ一月ぶりにあの言葉を口にする。
「HEY、悠仁。」
すっくんの術式によって、虎杖悠仁の身体構造は変化していた。今の彼は、檻としての機能を完全に停止している。
『後は頼む、相棒。』
虎杖悠仁は自身の相棒に、体の支配権を完全に明け渡す。
「ああ、任せろ...!!」
呪いの王・両面宿儺ことすっくんは、久方ぶりの完全顕現を果たした。
「野薔薇ちゃん、ナナミン、みんな。必ず、全員助けるからな。」
自由を手にしたすっくんは、時間制限無しで100%の力を発揮できる。
進化した真人すら目で追えないほどのスピードで、呪いの王は釘崎と七海の目前に移動していた。
「術式反転。」
すっくんの拳は、2人の身体に優しく触れる。反転術式を会得している彼は、自身の術式効果を反転させて使用した。
「戻ってきてくれ、2人とも!!」
すっくんの言葉に応えるように、2体の改造人間は変形を始める。
釘崎野薔薇と七海建人は、まるで逆再生のように元の姿を取り戻していった。
「野薔薇ちゃん!!ナナミン!!」
その場に倒れ込む2人をすっくんはそっと抱きかかえる。
彼らは意識こそ失ってはいるものの、しっかりと呼吸をしているのが確認できた。
「よかった...!生きてる!生きてる!!」
すっくんは、両眼からボロボロと涙を流して、胸を撫で下ろす。
彼は取り戻した仲間達を、そっとその場に寝かせるのだった。
『ありえない。魂の治癒なんて、そんなの、俺以外にできるわけがっ...』
一方真人は、目の前で起こったことが信じられないでいた。
自身がその手で捻じ曲げたはずの、釘崎と七海の魂。それが元通りに修復されていたのだ。
「さあ、次だ。」
すっくんは掌印を組み、自身の生得領域を具現化させていく。彼もまた、空に絵を描こうとしていた。
『まさかっ』
「領域展開!!!!!!」
直前に真人が見せた神業は、すっくんにとって良い手本となっていた。
彼の領域もまた、外殻を持たない事、その用途を限定する事で、効果範囲を半径300メートルにまで拡大させている。
「術式反転...!!!!」
必中効果の対象は、渋谷全ての改造人間。すっくんの術式によって、あらゆる歪な魂は再生される。
彼らは全員、後遺症無しで元の人間に戻り、生還を果たすのだった。
「最後はお前だ、真人。」
領域が解除されたすっくんは、真人にゆっくりと近づいていく。4つの目を殺意で赤く光らせながら。
そのプレッシャーに真人は、里桜高校以来、ずっと抑えていた天敵への恐怖が溢れ出す。
彼の歩みは後ろへと向いていた。
『...なんなんだよ!宿儺ぁ!!お前は一体、なんなんだああ!?』
「...真人、認めるよ。」
両面宿儺に転生した、少年ジャンプ愛好家。彼の魂には、術式が紐づいていてた。
それが今、覚醒する。
「俺は、お前だ。」
その術式の名は...
-無為転変-