宿儺「どけ!!!俺は主人公の相棒だぞ!!!」 作:バケギツネ
◆
「無為転変。」
最初にすっくんが、”その力“を欲したのは、改造人間と初めて遭遇した時。
その亡骸を解剖した家入硝子から、話を聞いた時だった。
「つまり、一度変えられた人は..」
『ああ、助けられない。”犯人の術式“がなければ、元に戻すのは不可能だ。』
一度魂を弄られた人間は、反転術式でも助けられない。
その事を知ったすっくんは、渇望していた。その不可能を可能にする力を。
◆
すっくんの術式が初めて効果を発揮したのは、里桜高校での事件の時。
無為転変を使用した真人が、すっくんの生得領域内に侵入してきた際の事だった。
彼は無意識のうちに術式を発動し、自身の生得領域から逃げ出そうとする、真人に干渉。その魂を縛り、脱出を一時的に妨害していた。
◆
里桜高校の事件を終えたすっくんは、知覚した自らの力を使いこなすために、とある人物に師事する。
「五条悟、貴様に頼みがある。」
『ん?キミが僕に頼みなんて、珍しいね。何?』
蒼き目を持つ五条は、直に見た相手の術式を“なんとなく”看破できる。
しかし、両面宿儺に転生した魂だけの存在は、六眼といえども“直視”する事はできない。そのため彼も、すっくんの術式には気付いていなかった。
幸い、自身の術式が”魂“絡みだと勘づいていたすっくんは、別の人物を第二の師匠に指名する。
「やってみたいことがあるんだ。その為に、夜蛾学長に会わせて欲しい。」
それは呪骸操術に秀で、ひいては魂の扱いにも精通している、(すっくんの中では)東京校最強の男・夜蛾正道だった。
◆
『“その力"を手に入れた先で、何を望む?』
「俺が望むもの、それはハッピーエンドだ。」
『...ほお。』
「この『呪術廻戦』がどういう世界か、何となくだが分かってきた。この世界は呪われていると言っていい。ならば俺が、その呪いを解いてやる!!」
『.............』
「これは多分俺にしかできないことなんだ。その役目からは逃げたくない。」
『...この世界の呪いを解く、か。途方もない目標だな。』
「分かっている。だが、諦めるつもりはない。俺も、相棒と同じだ。生き様で後悔はしたくない!」
すっくんは夜蛾の指導の下、着々と魂の扱いを学んでいった。この段階で彼は、自分の術式の正体に気づく。
『宿儺。余計なことは考えるな。ただひたすらに対象を観察し、宿儺ぁ!!!もっと丁寧に観察しろ!そうすれば、形、重さ、色が鮮明になって、宿儺ぁぁ!!乱暴に扱うなと教えたろ!!もう一回だ!!』
「はい!師匠!!!!!!!」
すっくんは複数の魂を持つパンダや、真人との戦闘経験を持つ七海建人に事情を話し、しばしば特訓に付き合ってもらっていた。
◆
さらにすっくんは、高専の回収した改造人間の遺体から、変形した魂への理解を深ようとしていた。
『聞いたぞ。毎日、霊安室に通ってるって。しかも一度入ったら、数時間は出てこないとか。すっくん、本当に大丈夫なのか?』
「前に進むために必要な事をしているだけだ。病んでるとかではない。安心しろ。」
伏黒達から心配されながらも、すっくんの理想は少しずつ現実味を帯びてくる。
◆
魂への理解が深まったすっくんは、転生者の魂に気付くほど、その感知が上達していた。
彼の最終目標は、2つ。
そのうちの1つは、無為転変を駆使して改造人間を治す事。しかし、これには課題があった。
『実戦で、術式は使えそうですか?』
「もう少し、かかりそうだ。過程がどうも掴めない。手本をこの目で見れれば、いや、それは絶対にダメか。まあ、安心してくれ!」
人間の魂が変形する、その”過程“。それだけが掴めなかった。
しかし、真人との3度目の戦いで、彼は何度か魂の変化をその目に焼き付けている。
「俺達、順平やみんなの分まで、ちゃんと苦しむよ。」
真・幾魂異性体と対峙した際、すっくんの術式は、順平の姿を模した改造呪霊に作用する。
混ぜ合わされた歪な魂達は、優しく解きほぐされ、安らかな眠りへとついていたのだ。
そして真人の神業領域によって、釘崎と七海が目の前で改造され、すっくんは遂に、無為転変の極意を掴む。
『あとは、頼みます。貴方達2人を、信じていますよ。』
七海の
すっくんは覚醒する。
最終目標の2つ目は、相棒である虎杖悠仁を改造し、完全顕現を可能にする事だった。
「行くぞ、相棒!!」
『ああ、ドンと来い!』
虎杖は相棒を信頼し、その身を委ねた。
結果、虎杖悠仁は檻としての機能を停止し、心優しき呪いの王は帰還する。
「術式反転。」
無為転変。
魂を捻じ曲げ殺す力は反転し、魂を治し救う力へと変わっていた。
「領域展開!!!!!」
全ての改造人間を救い出したすっくんは、進化した真人に、ゆっくりと近づいていく。
『...なんなんだよ!!宿儺ぁ!!お前は一体、なんなんだあああああああ!?』
「真人、認めるよ。俺は、お前だ。」
壊すための強さと、救うための強さを、それぞれ手に入れた2人に。
天から同じ術式を授かった、2つの呪いに。
決着の刻が訪れようとしていた。
◆
『ふざけるなぁ!!
宿敵の覚醒に激昂しつつも、真人は取るべき最善手を模索する。
今のすっくんは、領域直後で術式が使えない。しかし、真人の術式は既に回復している。
ならば、答えは一つだった。
『領域展開・自閉円頓裹!!!』
真人は掌印を組み、一撃必殺を狙った。
縛りで閉じない領域は使えない為、彼が展開したのは結界を閉じた通常の領域。
『死ねっ!宿儺あああ!!!』
宿敵の全てを否定すべく、真人は心象風景を解き放つ。
しかしその只中でも、すっくんは落ち着きを崩さない。
「簡易領域」
すっくんを中心に、巨大な円形の光が浮かび上がった。
それは自閉円頓裹の必中効果を無効化し、結界の主を魔の手から守りきる。
『チッ、悪あがきをっ...!!』
進化した真人は、さらに自由に自身の魂を操作できる。
『無為転変・
領域内に存在する幾つもの不気味な腕から、真人の分身が生まれ堕ちた。
その数は、計13体。
彼らは全員、真人の一つ前の形態・偏殺即霊体の姿を借りている。
『奴を、殺せええええええ!!』
迫り来る宿敵達を前に、すっくんは簡易領域を展開したまま一歩を踏み出した。
「ブラックサンダー・スクナックル。」
次の瞬間、分身数体に風穴が開く。
高速で接近したすっくんの黒閃連打は、遍殺即霊体達をその装甲ごと打ち砕いていた。
その神速に真人は自らの目を疑う。
「闇より出でて闇より黒く、その汚れを禊ぎ祓え。」
続いてすっくんは、簡易領域と複数個の帳を併用する。
強固な極小の結界が、分身1体1体を閉じ込め、みるみるうちに収縮していく。
「帳サンドイッチ。」
真人達は魂の輪郭ごと漆黒の壁にすり潰され、悲鳴と共に消滅した。
『クッソ、何でっ...!?』
元々すっくんは、術式に頼らない戦いを得意としていた。
力を取り戻した彼にとって、術式の不使用は大したハンデにはならない。
『まだだ!今の俺に限界はない!!』
追い詰められた真人は、憎悪に顔を歪めながら掌印を組む。
先程よりも大量の分身が出現し、100体にも及ぶ偏殺即霊体の群れがすっくんを取り囲んだ。
『これでっ...!』
「領域展開」
膨大な呪力を持つすっくんだが、“本物”ほどの燃費の良さはない。
術式が回復しても、必中必殺の領域を放てない彼は、とある“縛り”でその問題を解決する。
すっくんが展開した領域は、必中必殺効果が無い事と引き換えに、低コスト且つ押し合いに強い。
その性質は、某パチカスの使うソレと少し似ていた。
「領域展開・勇士英傑譚」
すっくんだけの領域が、真人の世界を塗り替えていく。
彼の背後には巨大な本が浮かび上がり、ひとりでに捲られたそのページが開かれる。
『何なんだ、それはっ!!!』
その光景に戸惑いつつも、真人は大量の分身を差し向ける。
それに対しすっくんは、両手の人差し指と中指を交差させる、独特の掌印を結んでいた。
真っ白だった本のページは色づいていき、そこに描かれた“英雄”の力が領域の主に宿る。
「多重影分身の術」
すっくんが戦場を埋め尽くした。
その数は、真人の分身100体の10倍以上。
「すっくん・二千連弾!!!!!」
呪いの王は波となって真人達に押し寄せる。数の暴力による蹂躙で、真人の分身はたった数秒で全滅していた。
『それがっ、お前の領域かっ...!!』
聳え立つ本は再び白へと染まり、すっくんの分身達も煙と共に消えていく。
彼の領域・勇士英傑譚は、“無為転変で再現可能な英雄の力”を、最大限に引き出すというものだった。
本には次の英雄が浮かび、すっくんに更なる力を授ける。
「ゴムゴムの黒閃バズーカ!!」
空気を切り裂きながら伸びるすっくんの両手は、真人の身体に突き刺さって黒い火花を散らす。
魂への理解が無ければ、接触も認識もできない寂滅呪縛体も、すっくんの前では何の意味も成さない。
「月牙天衝・スクナマス斬り」
猛攻は止まらない。
すっくんの放った飛ぶ斬撃は、巨大な黒いオーラを纏って真人の身体を両断する。
『ハァ、ハァ、お前はっ、』
魂の根源を理解し、完成を果たした真人。満たされた筈のその器に亀裂が入る。
『必ずっ、この手で葬るっ!!』
苛立ちが込み上げるまま、真人はその身体を巨大化させた。彼は、渋谷の地下を崩しながら地上へと飛び出していく。
「召喚!」
すっくんは生み出した分身を“モンスター”に変身させると、駅に残されていた仲間達を救出する。
“青い眼を持つ白き龍”は、意識の無い七海と釘崎を医療テントに送り届けた。
『お前も、お前の仲間もっ、全部っ
「弾けて、混ざれ。」
呪力で作られた光弾が、上空で輝きを放つ。
それを合図にすっくんは、立派な尾を持つ大猿へと変貌し、真人の右腕を噛みちぎっていた。
『っ、舐めるなあああああ!!』
その巨躯から生やした無数の腕で、真人は宿儺を殴りつける。
『無為転変・
その千発の打撃は、全て黒閃を発生させていた。
しかし真人は、手応えを感じられない。黒閃の乱打を受けていた大猿は、いつの間にかただの丸太と入れ替わっていた。
『上かっ!?』
気配に気づいた真人の頭上で、掌印を結んだすっくんは更に変身を遂げる。
「変化の術。」
そこには、9本の尾に鋭い爪と牙を持つ、橙のバケギツネの姿があった。
その大口では、反転術式の白いエネルギーが球状に収束し、神々しい程の輝きを放っている。
『クッソ、クッソ、クッソ、クッソォォォォォォ!!!』
光弾に包み込まれた真人には、業火に焼かれながら全身をすり潰されるような、想像を絶する痛みが走った。
『はあ、はあ......無駄だ!言ったろ!今の俺は、何度でも蘇える!!!』
自我を失う程の痛みと共に消滅する真人だったが、寂滅呪縛体の性質を利用し、何とかその魂を甦らせる。
彼は無我夢中で、人間大に戻った宿敵へと、その手を伸ばした。
『無為転変っ!!』
「無為転変。」
真人の掌とすっくんの拳が触れ合い、互いの生得術式は同時に発動する。
そしてその軍配は、より気高い魂を持つ者へとあげられた。
『嘘だっ、こんなっ...!今の俺がっ、魂の“格”で負けるなんてっ!!ありえないっ!!!』
真人の魂は宿敵によって歪められ、闇の中へと堕ちていく。
そして、
『ハァ、ハァ、ここはっ...!』
次の瞬間、真人はスクナワに縛られ、あらゆる抵抗を封じられた状態で目を覚ます。
そこは彼が忘れもしない、すっくんの生得領域の中だった。
「真人」
怒り、憎しみ、そして覚悟。感情のごちゃ混ぜになった声が、真人の背後で響いた。
『宿儺...!』
倒れたままの真人にゆっくりと近づいたすっくんは、その拳を振り下ろす。
『がああああああああああああああああああああっ!!』
打撃との誤差0.000001秒以内に、正の呪力の衝突が起きる。呪力は純白の輝きを放ち、空間を歪ませた。
「白閃。」
呪霊にとっての猛毒が、強力な打撃と共に真人の魂へと叩きこまれ、その全身を爆散させる。
『はあ、はあ......俺はっ、不滅だ!何度だって蘇って、いつか必ずお前を......があああああああっ!!』
甦った真人は再び殴り殺され、やはりその直後に再生を始めた。そんな彼に対し、すっくんは淡々と“未来”を告げる。
「これから、お前を殺し続ける。」
再生を終えた真人を、すっくんは純白の稲妻で踏み潰す。
『がああああああああああああ!!!!』
「何度だって殺し続ける。お前の心が折れるまで、何度だって。」
すっくんの目に浮かぶのは、冷徹なまでの殺意だった。
『やめ』
再生した真人の魂は、白閃で蹴り殺され、痛みを噛み潰す。
『あがああああああああああああああああああああああ!!!』
「ここは俺の心の中。時間なら、いくらでもある。」
生き返った真人は白閃によって葬られる。
『あ、ああああ、ああ............』
永久に終わる事のない、殺されるだけの時間。
寂滅呪縛体の原動力である宿敵への憎悪は、天敵への恐怖に上書きされていく。
次第に真人の魂は摩耗し、その再生速度も落ちていった。
『ああ、あああ、ああああ.....』
それでも、僅かに残った憎しみが、真人を立ち上がらせる。
『ああっ、ああっ、ああ〜!!!!』
再生と同時に殴りかかった真人だが、その拳はアッサリと受け止められる。
『っ...!』
自身を睨みつける、冷たき赤い眼。その視線に怯んだ真人の頭は、白閃によって砕かれていた。
『あ、ああ.............あ、あっ、あああ........』
次の再生後、芋虫のように地面を這いずりながら、その場から逃げようとする真人。そんな彼の背後から、死神が迫りくる。
「せいぜい、噛みしめろ。」
真人の魂は白い稲妻の餌食となって、数えきれない程の死と再生を繰り返す。
「次。」
真人の魂は殺される。
「次。」
真人の魂は殺される。
「次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。次。」
真人は殺され続ける。
『あああああ、あああああ、いや、いやだぁあ!!』
もはや彼の魂は、“天敵”への恐怖に塗り潰されていた。
『たすけてぇえ!漏瑚ぉ!花御ぃ!!陀艮っ!!ねえぇえ、どこにいるんだよぉおお!』
錯乱した呪いは、泣き叫びながら助けを求める。
『誰でもいいぃ!俺を助けろぉっ...!あ、ああっ...夏油ぉおぉおおおぉ!!お前は、俺が必要なはずだろぉおお!!来い!来てくれよぉおおお!!』
だが、ここはすっくんの生得領域。その声は誰にも届かなかった。
『あ、あああああ............................』
呪いとして欲望のままに人を殺す。
誰よりも自由な道を突き進んできた真人に、報いの刻が訪れる。その歩みは、終わりを迎えようとしていた。
『あああ........................』
決戦での敗北。
度重なる苦痛と死。
真人の心はもう、
完全に折られていた。
彼にはもう、
すっくんにとっての虎杖悠仁達のような、心の支えとなってくれる相棒や仲間など、いる筈もない。
その差が2人の命運を大きく分けた。
『ああ.....................................あ..........................................................』
「白閃。」
何度目かも分からない消滅を最後に、真人の魂は虚無へと沈む。その場には、深い静寂だけが残されていた。
「......真人。お前の力なら、人を助ける生き方だって出来たはずなのに。」
宿敵の消滅を見届け、すっくんは現実へと還ってくる。
「今度こそ、終わったよ。」
今は亡き友に向かって、彼は静かに語りかけた。
「ようやく約束を果たせた。待たせてすまない、順平。」
戦いを終えたすっくんは、その場で手を合わせて目を閉じる。
彼のポケットから、とある映画の半券が溢れた。ソレは風に乗って、空の上の友の元へと運ばれていく。