宿儺「どけ!!!俺は主人公の相棒だぞ!!!」 作:バケギツネ
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崩壊した渋谷の街を、改造された学ランに身を包んだ塩顔のイケメンが歩いている。降り注ぐ月明かりは、その男・夏油傑の亡骸に刻まれた、傷跡と縫い目を照らし出していた。
死体に巣食い、意のままに操るその者の名は、千年以上の時を生き、己が好奇心を満たす為だけに暗躍を続ける最悪の術師・羂索。
『参ったな。当初の計画とはだいぶズレてしまった。どうしてこうなったんだか。』
渋谷に到着して以来、彼は予想外の事態に見舞われ続けた。
おまけに、彼の計画に於いて最も重要なマスターピースであり、その術式を極限まで成長させた上で、ゲテモン・ゲット☆を狙っていた真人はすっくんに祓われてしまった。
正直その時点で、羂索の計画はほぼほぼ破綻したと言っていい。
途中で真人とすっくんの戦いに乱入する事も考えたが、覚醒した転生宿儺を正面から相手取るリスクを踏まえ、彼は途中から近くでくすねたキャラメルポップコーンを片手に、観客に徹していたのだ。
因みに、すっくんの魅せる未知の進化を目の当たりにして、ポップコーンがかなり進んだとか何とか。
『それにしても、味方が随分減ってしまったな。正直、そこまで期待してはいなかったけどね。』
(夏油傑の金で)雇った改造呪詛師達も既に全滅し、渋谷のあらゆる場所に散らしていた改造呪霊も、呪術師たちの奮闘で確実にその数は減っている。
『このまま事態が長引けば、別の任務に当たっている別の一級術師や、下手をすると特級術師たちも応援に駆けつけるかもしれないね。そうなってはいよいよ、私1人の手には負えない。』
羂索の頭には、単独での国家転覆が可能な2人の人物が浮かんでいた。
『与幸吉の調査力を以てしても所在の掴めなかった九十九由基に、夏油傑一派の変な黒人とアフリカへ遠征中の乙骨憂太。どちらかと言うと、怖いのは後者の方かな。彼は非常に“魅力的”だが、敵に回すと恐ろしい。』
夏油傑の記憶にも僅かに登場している、最年少の特級術師。最強だった五条悟の10頭身がルービックキューブ状になった今、乙骨憂太の存在は羂索にとって最大の懸念だった。
『だからこそ、出来るだけの保険は掛けておいたんだ。何せ相手は、“次の五条悟”になるかもしれない人間だからね。まあ、それも杞憂に終わった。』
そこまで言ったところで羂索の足は止まる。彼は漸く、目的の人物の元へと辿り着いたのだった。
『君さえいれば、何も恐れる必要はないからね。そうだろう?宿儺。』
【やはり貴様か、羂索。】
『久しぶりだね、会いたかったよ。』
最悪と最恐は、千年の時を経て再び邂逅する。
『身体の調子は?虎杖悠仁やもう1人の宿儺は、どうしたんだい?』
【術式で身体を改造し、深くに沈め閉じ込めた。まだ“中”で騒いでいるが、じきに静かになるだろう。新たに2本、指も取り込んだ事だしな。】
『そうか。“彼”とはまた、少し話をしたかったんだけど、それなら仕方ない。』
羂索はすっくんと再会できそうにない事を心の底から残念がりながらも、懐から特殊な術式の施された容器を取り出す。
開かれたその中には、羂索が独自に集めていた宿儺の指、3本セットが収納されていた。
『とにかく君は、晴れて自由の身というわけだ。完全復活おめでとう。ささやかながら、これはその祝いの品だよ。』
3本の特級呪物は羂索から宿儺へ、アッサリと投げ渡される。
【相変わらず食えない奴だ。
『私はただ、人と呪いの可能性を追求したいだけさ。それは君も知ってるはずだろう?』
のらりくらりと追及を躱す羂索に不愉快そうな顔を見せながらも、宿儺はすぐさまその3本の指を取り込んだ。
【(やはり不味いな。)】
これにより、虎杖が生まれながらに取り込んでいた指と合わせて、その身に宿った呪いの王の力は16本分に達する。
それは奇しくも、原作の渋谷事変と同じ本数だった。
虎杖悠仁とすっくんを侵し押さえ込む力もより一層強くなり、彼らの魂はさらに深い場所へと沈められる。
『さあ宿儺。早速で悪いが、“約束“を果たしてもらおう。』
千年前に宿儺の魂を呪物とし、時を渡らせた代償に結んだ、とある縛り。
その履行を求める羂索の瞳は、満ち満ちた好奇心によって爛々と輝いていた。
『計画に協力して欲しい。私が何をしたいのか、その為に何が必要なのか、君には少し話していただろう?』
【......いいだろう、乗ってやる。】
その誓約と制約に従って、宿儺は動く。
両面宿儺という羂索が用意した1枚のジョーカーによって、盤面は意図もたやすくひっくり返ろうとしていた。
【主菜を楽しむまでの前菜として、それなりに楽しめそうだ。】
その口を大きく歪めた宿儺は、その場で掌印を結ぶ。
【領域展開・勇士英傑譚】
“第二の怪物”がそうであったように、術者が別人の身体を乗っ取る場合、その身体に宿った術式由来の領域を展開できるケースがある。
すっくんの術式を利用し、彼の領域を模倣した宿儺の背後には、真っ白な本が浮かんでいた。
【さて、貴様の頭を覗かせて貰うぞ。もう1人の俺よ。】
癖の強い領域を使いこなす為、宿儺はすっくんの記憶を探る。宿儺の頭には、すっくんがこれまで触れてきたありとあらゆる作品と、彼の過去に関する情報が流れ込んできた。
【......やはり貴様“も”か。何とも数奇な運命だ。】
すっくんの正体について、宿儺は更なる確信を得る。
【それにしてもこの領域は面白い。大いに解釈の広げ甲斐がある。】
あらかたのジャンプ作品を、履修し終えた呪いの王。その背後で巨大な本のページが捲れる。そこには、英雄の前に立ちはだかった“悪役”の姿が描かれていた。
【弾けて混ざれ。】
宿儺はその手で生成した光球を、天高く放り投げる。それと同時に、彼の額には輪廻を描く紫の瞳が浮かんでいた。
【世を照らせ。】
上空で静止した光球へと、宿儺は跳び上がる。彼がさらなる掌印を結ぶと同時に、額に刻まれた輪廻は光球へと映し出され、その色を血のような赫に変えていった。
【無限月読・無為転変】
全てを塗りつぶすような強烈な光は、世界を包み込み一変させる。
術式対象を《羂索にマーキングされた人物》へと絞る縛りによって、領域の効果範囲はその外郭すらも飛び越え、紅き月の眼が照らす日本全土にまで及んでいた。
『ありがとう宿儺。これでようやく、1000年間の苦労が報われる。感無量だね。』
全国に散らばっていた千人の非術師には、遠隔で改造手術が施される。
吉野順平のように術式を持ちながらも脳のデザインが非術師の者は、術式を発揮する仕様を手に入れた。
一方、虎杖悠仁のように呪物を取り込ませていた者は、器としての強度を手に入れる。そして今、羂索の手によって呪物の封印も解かれた。
『さて、何人“当たり”を引けるかな?』
彼が1000年前からコツコツ契約していた術師達の成れの果て。それらが一斉に“受肉”を始める。
“受肉の際、一定の確率で発生する”という転生者のルールを知る羂索は、期待に胸を躍らせていた。
『今この瞬間から始まる。私の手から離れ、黒く輝く、呪術全盛・平安の世なんて目じゃない混沌の世界が。』
史上最悪の遊戯、“死滅回遊”が産声をあげる。
◇
丁度同じ頃、高専東京校の地下最深部「薨星宮」本殿にて、その様子を観測している人物がいた。
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