宿儺「どけ!!!俺は主人公の相棒だぞ!!!」 作:バケギツネ
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『今この瞬間から始まる。私の手から離れ、黒く輝く、呪術全盛・平安の世なんて目じゃない混沌の世界が。』
宿儺の発動したすっくんの術式によって、空には不気味な紅い月が浮かぶ。
その光は、全国各地に散らばる選ばれた数千人の老若男女を照らし出し、その身体に改造を施した。
術式を持った野生の天才術師の卵たちは、その脳を秘めたる力を最大限活かせる形へと歪められる。
とある弁護士には自らの正義を徹底できる法廷が、とある漫画家には求めるリアルを映し出す瞳が、とある売れない芸人にはその願いを実現する力が授けられた。
一方、虎杖悠仁や来栖華、そして伏黒津美紀のような呪物を取り込んでいた者は、器として完成し時をかける呪物を強制的に受肉させられる。
最強を求める雷神・鹿紫雲一。
藤氏直属暗殺部隊「日月星進隊」の隊長・烏鷺亨子。
No.1の呪力出力『大砲』・石流龍。
不遇、ドルゥヴ・ラクダワラ。
格好だけなら変質者レジィ・スター。
よく分からない、刀ジジイと河童。
呪いの王をハニートラップに走らせた天敵・天使。
両面宿儺に愛を教える女(自称)・万。
錚々たる面々が現世に降臨していく。
加えて、この世界にはとあるルールが存在する。それは受肉の際、一定の確率で”転生“が発生するというもの。
羂索の目的もそこにあった。
今の死滅回游は、千人の虎杖悠仁とすっくんが悪意を持って解き放たれた事に他ならない。より混沌に包まれた最悪の遊戯は、堂々とその幕を開けていた。
『これで私はひとまず満足だ。数日もしないうちに泳者たちは目覚め、動き出すだろう。宿儺、キミはこれからどうする?』
その場で踊り出したい程のウキウキを顔に滲ませながら、一連の首謀者は気安い態度で協力者へと問いかける。
領域を解除した呪いの王は、その顔に冷たい笑みを貼り付けたまま、それに答えていた。
【そうだな。その幾日をただ待つというのも退屈だ。ここは1つ、適当な玩具で暇を潰すとしよう。】
『それなら丁度いい2人がいる。“この身体”を奪ったせいか、ずっと付け狙われていてね。強くは無いが、イキの良さは保証するよ。』
その場で振り返った羂索はビルの間の物陰に指を差す。そこには、息を殺して強い殺意を潜ませていた”2人組の少女“がいた。
『君たちも馬鹿だね。転生宿儺と契約できた時点で、渋谷を離れておけばよかったのに。自分達に、私をどうこうできる力があるとでも?』
2人が身を潜めていた高層ビルは、宿儺の生得術式・御廚子によって細切れにされ、灰塵へと帰す。
夏油傑を慕う双子の術師・枷場美々子と菜々子は、呪いの王の眼前にその青褪めた顔を晒していた。
【貴様らか。頭が高いな。】
真なる呪いの王が放つ圧倒的な存在感。肌で伝わる別次元のその強さ。圧倒的邪悪。
それを前にした美々子と菜々子は、目の前の呪いが、自分達の知る
【1秒やる、跪け。】
『っ!!』
『......っ』
呪いの王の冷たい殺気は、美々子と菜々子に自分の幾通りもの死に様を想起させる。彼女達にとっては、その一挙手一投足が全て死因になりうるのだ。
それでも2人は震える身体を律し、頭が地面に擦り付こうとするのを堪えながら、目の前の敵を必死に睨みつけていた。
『私達が用があるのは、貴方じゃない...!』
『傑さんを助けるって、私達と約束してくれたっ、あの人を返せ...!!』
美々子と菜々子は手を握り合い、もう片方の手で、夏油傑から託された呪具を握る。それに残った微かな温もりが、2人の身体を支えていた。
拭いきれない程の恐怖を顔に滲ませ、呪いの王を前にしても、彼女達の心は折れていない。
【全く、礼儀も身の程も知らんとはな。よほど頭が軽いと見える。】
無礼にも、意志の強さのみで自らと並び立つ少女たちの勇姿は、呪いの王を大いに苛立たせていた。
彼女らは意図せず、龍や虎を遥かに凌ぐ化け物の逆鱗に触れてしまったのだ。
『注連縄...!!!』
菜々子の放った呪力を帯びた縄が、宿儺の身体中に巻きつく。並みの術師なら容易く締め殺せる程の圧力が、彼の首へとかけられた。
『菜々子っ!』
『分かってる!!』
それと同時に、菜々子は呪具のスマホを掲げて術式の準
【つまらん、退屈な術式だ。】
2人の視界は宿儺の両手に塞がれる。注連縄を容易く斬り裂いた彼は、音もなく一瞬で距離を詰め、美々子と菜々子の顔を掴んでいたのだ。
【捌。】
無情な刃は少女たちを襲う。彼女らの整った顔は、無数の斬り傷に穢されていった。
【消えろ、塵芥が。】
『『っ...!!!』』
美々子と菜々子は今際の際で、たった1つの淡い希望に縋り付く。彼女らを声を合わせて、とある約束を交わしてくれた、もう1人の宿儺を呼んだ。
『っ、お願い!!!』
『出てきてっ!宿儺様!!!』
その場を静寂が支配する。
標的を肉塊に変えるまで終わらない筈の斬撃は、彼女らの顔をズタズタにする程度で止まっていた。
「......すまなかった。」
美々子と菜々子の顔を掴んでいた、宿儺の手はゆっくりと離れる。
「俺が弱かったせいで、2人を傷つけた。」
現状に理解の追いつかない2人を、呪いの王はその手で抱きしめていた。
「君たちとの約束、思い出したよ。」
反転術式の正のエネルギーは、宿儺の手から美々子と菜々子へと流し込まれ、その顔に付いた傷を塞いでいく。
『すくっ、な、』
『さま...?』
「ありがとう。もう大丈夫だ!ほら、顔を上げてくれ!!」
宿儺の声色は、先程までの冷たさが嘘のように、彼女たちも知る優しく暖かいものへと変わっていた。
「誇れ、君たちはよく頑張った!こうして俺が戻ってこれたのも全部君たちのおかげさ!夏油さんを
美々子と菜々子は恩人に再び礼を告げるため、ゆっくりとその顔を起こす。
「...とでも思ったか?餓鬼ども。】
キンッ
そこに待っていたのは、愉悦で醜く歪んだ呪いの笑顔だった。美々子と菜々子の身体に斬撃が走る。
【解。】
その刃は彼女らの肘と膝の先を容赦なく斬り刻み、無数の肉塊へと変えていた。体の支えを失った2人は、力無くその場に倒れこむ。
『なんっ、でっ...!』
『宿儺様じゃ......』
【クククッ、愉快愉快!!惨めだなぁ、この上なく惨めだぞ餓鬼ども!】
美々子と菜々子の縋った希望は、絶頂から奈落へと叩き落とされ、彼女らの顔を絶望の一色に染める。
“すっくんの演技”を辞めた宿儺は、そんな2人を満足そうに見下ろしていた。
【あははははははははははははははははははははははははははあはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!】
どこまでいっても両面宿儺は呪いだった。
他人に不幸を振り撒くのに、深い意味を求めない。
たまたま気が向いたから。餓鬼どもが刃向かってきたから。不愉快だったから。愉快な遊びを思いついたから。
理由なんて何だっていいし、どうでもいい。
己の快不快のみを指針に。気の向くままに。他者を傷つけ踏み躙り続ける。それこそが、真なる呪いの王の生き方なのだ。
『菜々っ、子...!!!』
身体から流れ続ける血を止める為、美々子は術式を使用する。1人でに動き出した呪具の縄は、彼女と姉の患部を縛っていく。
夏油傑にとって救われ、生かされたその命を、2人は必死に繋ぎとめようとしていた。
【何だ、まだ足掻くつもりか?】
そんな
『あっ、ああああっ!』
『美々子!!』
【五月蝿い。そうだな、これから俺がヨシと言うまで、声を発する事を禁じる。禁を破れば勿論殺すぞ、禁を破らなかった方をな。ヒヒッ、ケヒヒッ!!】
互いに互いを人質に取られ苦しみ悶える少女達を踏み躙りながら、宿儺は次の弄びを始める。
『『(.........っ!!!!)』』
【これで姉妹お揃いだな。よく似合っているぞ。】
愉快そうにゲラゲラと笑う宿儺は、今度は菜々子の両目を斬り裂いた。彼女は必死に、口から漏れそうな呻き声を押し戻す。
【さて次は、その身じろぎも禁じよう。眉の一つすら動かす事は許さん。ほら、頑張れ頑張れ。】
御厨子の刃は、2人の身体を嬲るように捌いていく。その度に彼女らの肉は避け、広がった傷口からは赤い血が流れ出していった。渋谷のアスファルトは、少女たちから止め処なく溢れた紅によって、染められていく。
『『(っ......!!!!)』』
それでも、美々子と菜々子は歯を食い縛り、声を殺して、その場でピタリと動きを止めている。
彼女らの眼は、潰されてもなお死んではいない。
【本当によく堪える。それ程までに姉妹が大事か?理解できんな。】
最初こそ、その滑稽で無様な姿を愉しんでいた宿儺だったが、何故だかその心には、次第に不快なものが混みあげる。
【他者に執着し、寄り合いで価値を計り、自らを矮小に貶める。そんな体たらくだから貴様らは何も為しえんのだ。術師は所詮1つの個。他は全て、我を満たす為の存在に過ぎんというのに。】
互いに守り合う美々子と菜々子の姿に、宿儺は自分でも不思議な程の苛立ちを覚えていた。
【(何故俺は苛立っている......?)】
宿儺はボーッと考え始める。
『宿儺?急にどうしたんだい?』
困惑のキョトン顔を見せる羂索を他所に、呪いの王は自らの心と向き合っていた。
【(弱者どもの共依存など、1000年前から腐る程見てきた退屈な絵図のはずだ。)】
【(そもそも、他者がどう生きようと俺には心底どうでもいい。食らいたい時に食う、目障りならば殺す、面白ければ遊んでやる、それが俺にとっての他者だ。)】
【(気まぐれに暇を潰す為の玩具でしかない。其奴らに満たしてもらおうなどと考えるのは以ての外だ。ならば何故、俺はそんな瑣末な存在にこんなにも苛立っている...?)】
宿儺はまだまだボーッとしていく。
【(此奴らが、双子だからか?)】
呪いの王の脳裏には、彼が生まれて初めて、否、生まれる前に屠った1つの命が浮かぶ。
死の運命を退ける為、愚母の腹の中で喰らった自らの片割れ。たった一人の双子の兄弟。
因みに、現代で生まれ変わったその兄弟は、頭に縫い目のある素敵な奥さん()と出会って、丈夫な子ども()を授かっているのだが、それはまた別の話。
【(......バカな。今さらそれが何だと言うのだ。それこそ1000年前にも同じような奴はいた。其奴らが生かし合おうと殺し合おうと、何の感慨もなかったはずだ。)】
宿儺の頭には、平安の世で過ごした激動の日々が浮かんでは消えていった。
【(過去と今で何が違う?何が変わった?いや、恐らくそうではない。変わったのは俺の方か?)】
【(そうか、お前のせいだ。もう1人の俺よ。)】
その場で目を瞑った宿儺は、自身の生得領域に意識を移す。そこには、鎖に縛られ十字架に繋がれた、もう1人の自分がいた。
何もかもが違う内面はともかく、その容姿だけはまるで鏡写しのようにソックリだった。
【(千年前、俺を取り巻く全ては他者でしか無かった。其奴らの信念とやらも、真偽の分からない後付けの遺言。虚勢もあったろう。自己陶酔していた者もいただろう。)】
【(そんな薄弱な雑音が、俺の心に響くはずなど無かった。当然だ。)】
【(だが今回は違う。肉体の共有どころでは無い。転生という形で魂同士が半ば融合しているのだ。)】
【(決して折れる事の無い、奴の百折不撓たる理想。その輪郭を、俺は常に知覚させられていた。なるほど。苛立ちも変化も原因はそれか。)】
【(俺は奴の理想が、どうしようもなく気に食わんのだ。)】
虎杖悠仁の中から宿儺が見てきた、すっくんの道程。彼の魅せる新たな技術を楽しみつつも、その時から妙な苛立ちがあった。
【(俺に並ぶ力を持ちながら、他者を満たす為に手を差し伸べ、俺が持たぬ物を、いや、俺には必要のない物を、さも大事そうに抱きあげる。そのくだらない甘さを、奴は強さだなどと宣う。)】
【(ふざけるな、お前は呪いだぞ。)】
王としての誇りが故に、宿儺はすっくんを否定する。
【(弱者どもの身の丈に合わせて自らを縛り、ヘラヘラと笑いながらハッピーエンドとやらを目指すその生き様を、俺は心から嫌悪する。)】
【(奴の存在そのものが、この俺を否定しているのだ。)】
逸品の才を持つ手本。最も食旨を動かす主菜。今この瞬間から、宿儺にとってのすっくんには、それとは全く異なる意味づけが為される。
【(いいだろう。呪いの何たるかを、強者の然るべき在り方を、今この場で証明してやる。)】
【(奴が転生とやらをしてこなければ、奴の正体を知らなければ、俺がこのような想いに囚われる事は無かっただろう。)】
【ククッ、初めてだ。この俺が使命を背負わせされるのは。】
領域展開によって焼き切れていた、すっくんの術式・無為転変。それは次第に回復しつつあった。
【もう1人の俺よ、貴様の理想を捻じ曲げてやろう。他ならぬ、貴様自身の力でな。】
六眼持ちに次ぐ程に呪力効率の高い宿儺は、術式さえ健在ならば何度でも領域を展開できる。
【手始めに、この渋谷の人間を皆殺しにしてやろう。たった1人を除いてな。】
掌印を組んだ宿儺は再び“勇士英傑譚”を発動し、羂索、裏梅、そして伏黒恵を除いた、半径300メートルに存在する人間全てを、悍ましい呪いへと作り替えようとしていた。
【領域展か、っ!!!】
掌印を組み、閉じない領域を描き出そうとしていた宿儺の前に、とある術師が現れる。その乱入者は、自身の術式を付与した右の拳で呪いの王へと殴りかかった。
『
【っ!?】
その一撃に付与された仮想の質量に、宿儺は大きく吹っ飛ばされて近くのビルへと叩きつけられる。
【何者だ、貴様は?】
すっくんの記憶にも、虎杖悠仁の記憶にも、その乱入者に該当する人物が見当たらない。
『呪いの王・両面宿儺。キミに聞きたいことがある。』
地上へと降り立ち、思わぬ副菜の品定めを始めた宿儺に、“彼女”は1つ問いかけた。
『君は一体、どんな女がタイプだい?』
『九十九、由基...!』
その素性を把握している羂索は、彼女の名を忌々しげに呟く。
特級術師、九十九由基。
単独で国家転覆を可能とする規格外の使い手が、混沌の渋谷へと足を踏み入れていた。
『美々子ちゃん、菜々子ちゃん。遅くなってすまなかった。』
術式を酷使し、必死に止血を続ける少女達に優しい声でそう告げた九十九は、『星の怒り』によって呪具化した式神・凰輪を従えて、変わり果てた姿となった旧知と対峙する。
『久しぶりだね、夏油くん。』
『まさか、ここで君と会えるとはね。いつこっちに帰ってきたんだい?』
羂索はその眉間に僅かに皺を寄せながら、思わぬ難敵と対面していた。
『偽夏油くんも初めまして。生憎だけど、長話をしてる程の暇は無いんだ。』
「
羂索が咄嗟に退いたその場所から、突如として氷の巨城が現れる。宿儺と羂索の間に出現したソレは、2人を分断していた。
『この術式は...!』
『助かるよ、ヒカリ!』
協力者の助けもあって呪いの王とのタイマンを取り付けた九十九は、目の前の怪物を睨みつける。
星の怒りをモロに喰らったにも関わらず、宿儺の身体には目立ったダメージは見受けられない。そのインチキ染みた硬さに、九十九は内心舌を出していた。
【もっと魅せてみろ。さっきのアレで、終わりではないだろう?】
『トーゼン。せいぜい期待しときなよ。】
宿儺の全身からは濁り澱んだ呪力が溢れ出す。それは九十九をして、底が見えない程、深く、重い。そしての総量は、九十九のソレを明らかに上回っていた。
『流石は呪いの王。でも、私のタイプじゃないかな。』
【戯れ言を。退屈だけはさせてくれるなよ。】
次の瞬間、両面宿儺の身体は変化を始める。
彼の胴体からはもう一対の腕が生え、裂けた腹にはもう1つの口が形作られていた。
『何だ、それは...!?』
常人の倍となる腕と口を備えた呪いの王。その異形に、九十九は息を呑んでいた。
【.........何だ、これは?】
『......ん?』
そして宿儺もまた、自身の身体に起こった身に覚えのない変化に戸惑っている。
【.........???】
『......んんっ??』
何とも言えない微妙な空気が2人の間を流れていた。
『(宿儺が困惑してる?)』
【(一体、何が起きて.....っ!?)】
虎杖悠仁の顔のまま首を傾げていた両面宿儺。その顎は、生えたばかりの下2腕によって同時にかちあげられる。
「ブラックサンダー・スクナックル!!!」
『黒閃っ!!!』
宿儺のもう一つの口から響いたのは、すっくんと虎杖悠仁の声だった。
【(何故だっ!封じ込めた筈の此奴らの魂が、急激に活性化している!)】
「宿儺ああ!よくもっ、美々子ちゃんと菜々子ちゃんを!」
『すっくんの力で、好き勝手しやがって!!』
すっくんが無為転変を使って生やし、相棒と共に操る下ニ腕が宿儺の顔をタコ殴りにしていく。
「うおおおおお!!!」
『黒閃!黒閃!黒閃!黒閃!!』
その拳の一発一発は黒い火花を散らしながら、無視できない程のダメージを今の身体主に蓄積させていった。
【貴様らっ、いい加減
『星の怒り』
急に1人芝居を始めて、自らを殴り始めた呪いの王。その姿にドン引きしていた九十九だったが、チャンスと見るや術式と共に殴りかかっていた。
【っ...!!】
その拳を胸に受け、宿儺は大きく後退した。やはり目立った外傷のない彼だったが、その身体にグラつきを覚えて膝を地につける。
【これはっ...!!】
「ブラックサンダー・スクナックル!!」
『黒閃!!』
【っ!!!】
先程よりも威力を増した自らの拳に追撃をかけられ、呪いの王は勢いよく地面を転がった。
【そうかあの女!奴の打撃がきっかけか...!】
「宿儺あああああ!!!」
『俺の身体、とっとと返せ!!』
暴れ続ける自らの下腕達を押さえつけながら、宿儺はようやく絡繰に気付く。
【威力自体は問題ない。警戒すべきは魂への作用...!】
魂の研究を行なっている九十九由基は、その輪郭を知覚できる。彼女の攻撃は本人も無自覚なままに、魂の境界へと打ち込まれていたのだ。
無為転変による身体の改造によって、奥底へと封じ込められた筈のすっくんとその相棒。彼らの魂は叩き起こされ、逆に宿儺は肉体との同調を阻害される。
宿儺は九十九の攻撃を受ける度に、呪力出力が下がり、肉体のコントロールも鈍っていくのだ。
今この瞬間、九十九由基は呪いの王にとっての天敵となりうる。
【やってくれたな。】
一気に危険な存在となった目の前の特級を排除するべく、宿儺は片腕で指向性を定め、世界を断つ斬撃に備えていた。
「九十九さん!ガード不可の斬撃が来ます!絶対避けてください!3!2!1!はい!!」
【!?】
『!?』
しかし身体の内部から呪力の流れを読んでいたすっくんは、その刃の性質とタイミングを、腹の口からドンピシャで早バレしていく。
その助言に忠実な軌道で放たれた最強の斬撃をいとも容易く回避した九十九は、凰輪を丸めて次の攻撃へ移ろうとしていた。
『逃がさねえ!!』
【チッ、器風情がっ!】
虎杖の動かす下左腕が宿儺の首を締め付け、その回避を遅らせる。
その隙をついて九十九が蹴り出した凰輪は、超質量を乗せて宿儺の身体へと打ち付けられた。その一撃でまたもや勢いづいたすっくんと虎杖は、タコ殴りを再開する。
「オラッ!オラオラッ!ナイスです九十九さん!そのままドンドンぶん殴っちゃってください!オラッ!あ、申し遅れました、すっくんです。オラオラッ!!」
『この悪い宿儺は、俺らが抑えとくんで!あーえっと、虎杖悠仁!一応、身体の本体!よろしく!』
『ハハハッ!よく分かんないけど、最高だよ2人とも!』
今の九十九の目の前にあるのは、完全無欠とは程遠い呪いの王の姿だった。
4本ある腕の内2本は常に宿儺へ黒閃を撃ち続け、腹の口は宿儺の攻撃を先読みして周囲に警告してしまう。
倍ある腕と口は、今の宿儺にとってこれ以上ない程の
おまけに魂の揺らぎによって、彼は身体機能の一切を損ないつつある。
【いい度胸だ、小僧どもがっ...!!!】
術師達の反撃が始まろうとしていた。