宿儺「どけ!!!俺は主人公の相棒だぞ!!!」   作:バケギツネ

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縛りって厄介だよね。

 

 

 

 夏油傑の遺体を取り戻すために、美々子と菜々子は強き協力者を求めていた。

 

 特級の恩人を屠る程の術師を相手取る以上、並の使い手では無駄な犠牲を増やすだけに終わってしまう。

 

 おまけにその口ぶりから、忌まわしき偽物には呪術総監部との深い繋がりがあるらしい。頼る相手は慎重に選ぶ必要があった。

 

 そして彼女らには、半ば強制的に結ばされた縛りもある。恩人の親友が封印されるまで、計画は誰にも漏らせない。

 

 そこで2人が目を付けたのが、呪いの王・両面宿儺。計画が失敗した時に備え、羂索の用意していた保険だった。

 

 彼と協力関係にある上層部の采配で、宿儺を宿した虎杖悠仁は10月31日、確実に渋谷へと派遣される。

 

 五条悟の封印後すぐに宿儺へと接触、手に入れた指を使って協力を取り付け、雲隠れする前の偽物へとぶつける。それが2人の考え出した、綱渡りながらも最善のプランだった。

 

 そして、失敗に備えた保険を用意していたのは、何も羂索だけでは無い。2人はきちんと、ダメ元のサブプランを用意していた。

 

 菜々子が事前に用意していた、羂索の計画や渋谷での状況を纏めたメール。縛りから解放されると同時に、彼女はソレを信頼できる関係者へと一斉送信していた。

 

 そしてその中に含まれていたのが、海外を放浪中のとある特級術師である。

 

 

 

 

『ああ、九十九さんの事かな?あの人は...』

 

 夏油傑が天星教の教祖として激務に追われていた頃。

 

 その仕事を補佐していた美々子と菜々子は、天星教にちょくちょく訪れては夏油にちょっかいをかけていく金髪美女の素性について、本人に問い正した事があった。

 

『そうだな〜。私にとっては、恩人ってところかな?』

 

 夏油は、彼女と初めて言葉を交わしたとある夏の日を思い出しながら、こう答える。

 

『あの人との出会いがなかったら、今の私は無かっただろう。本当に、あの人には感謝してるんだ。』

 

 この世界の夏油の理想は全人類が呪術師になった世界。

 

 そのきっかけは呪力の脱却に関する、九十九由基からの助言だった。

 

『会うたびにタイプの女性を聞いてくるのだけは、勘弁して欲しいけどね。何だかんだで頼りになる人だ。キミ達も、機会があれば会ってみるといい。』

 

 夏油はその時、九十九の連絡先を美々子と菜々子にも教えていたのだ。もっともその当時、彼女らの興味はもっと別の事にあったのだが。

 

『それでそれで?』

『実際傑さんは、どんな人がタイプなの?』

 

『...ノーコメントだ。』

 

 

 

 

 かくして、九十九由基は渋谷の地へと駆けつける。久々に帰国した彼女が初めに遭遇した術師は、

 

衛瑠裟(エルサ)!!!」

 

 氷の力を操って別の受肉体と戦っていた、呪いと人間のハーフだった。

 

『(アレは九相図?確か最近受肉したのを、高専が保護してるんだったっけ?)』

 

 九十九は状況を把握する為、戦闘中だった脹相、正確にはその身体を操っていた賀茂ヒカリに味方する。

 

『貴様には死すら生温い苦痛を与えてや、貴様はっ...

 

 ヒカリに意識を集中させていた裏梅は、いきなり目の前に現れた九十九への対応が一手遅れる。

 

 星の怒りが炸裂し、裏梅はその身でビルを型抜きしながらぶっ飛んでいき、戦線を離脱するのだった。

 

「え、えーーーーーっと、どちら様?」

 

 予想外の助っ人に対し、ヒカリは僅かに警戒しながらそう訊ねる。そして彼女に返ってきたのは、お決まりのあの質問だった。

 

『やあ、九相図。どんな女がタイプかな?』

 

 

 

 

 はいご機嫌麗しゅう〜。賀茂ヒカリだよ〜!

 

 いつか、この世界のヒロインにして最強無敵のプリンセスの座と、呪いの王・両面宿儺様の愛を手に入れるものだよ〜!

 

 金髪のナイスバディなお姉さんが、何か助けてくれたよ〜。

 

「え、えーーーーーっと、どちら様?」

 

『やあ、九相図。どんな女がタイプかな?』

 

 おかっぱババアを吹っ飛ばしてくれたお姉さんは、そう言うとセクシーヘンテコポーズをとる。

 

 うん、この人面白い人だ。

 

「って言うか、禪院のオジ様にも言ったんですけど、僕は賀茂ヒカリっていう、女の子なんで!」

 

 何度目かになる訂正と共に、手をピシッと前に突き出す。やっぱこの身体だと、性別を誤解されやすいから大変だ。

 

『......ん?ああ、それは悪かった。じゃあ、女子同士恋バナといこう。どんな男がタイプかな?』

 

「あの、助けて貰ったのは感謝してますけど、何でこの非常事態に、初対面の相手と恋バナを?」

 

『ああ、確かにそうだね。私は九十九由基、しがない美女さ。これでお友達だね。さ、教えてくれ。』

 

「????????」

 

 どうしよう、ちょっと何言ってるか分かんなかった。

 

『私はね、君が信用に足る人物かどうかを見極めたいんだ。性癖って言うのはその人を写す鏡だからね。ソレさえ知れれば、人となりも自ずと分かってくるんだよ。』

 

「そんなおバカな.....」

 

『さあヒカリ、教えてくれ。君の好みのタイプを!』

 

 九十九由基と名乗るお姉さんは、真剣な顔でこっちを見つめてくる。どうやら、好みのタイプを答えるまでは、話が進みそうにない。

 

「好みの、タイプか.....」

 

 僕の大好きな人は勿論両面宿儺様だけど、それを『好みのタイプ』って言う形で表すのは、意外と難しい。

 

 宿儺様の顔も、髪も、声も、身体も、個性的な紋様も、4つ目も。あの人を構成する1つ1つを僕は愛おしく思ってる。

 

 だけど、ソレらは多分好きのオマケなんだと思う。

 

 きっと順番が逆なんだ。宿儺様を好きになったから、彼の全てが好きになった。だとしたら、あの人を愛するこの気持ちの始まりは何だろう。

 

「僕の、好みのタイプは、」

 

 頭に溢れ出したのは、この世界で廻り合った僕だけの王子様と紡いできた、確かに存在する記憶。

 

 

「大丈夫か、転生者?」

 

「大丈夫、もう大丈夫だ。怖がらなくていい。キミのことは俺が必ず守ってやる。」

 

「ヒカリ好きだ!結婚してくれ!!」

 

「たとえ世界がどうなろうとも、俺は絶対にキミを裏切ったりしない...!」

 

「今日から俺は、キミのお兄ちゃんだぞ!!」

 

「ヒカリ、お前は俺の物だ。他の誰にも渡さない。じゃ、帳下ろすね。」

 

「なあ、ヒカリ。...笑わないで聞いてくれよ?俺はな、この世界の呪いを解きたいと、本気でそう思ってるんだ。何だかんだあっても最後にはハッピーエンドで、皆んなで笑って終われるような、そんな世界にしたい。だから、応援しててくれ!俺、精一杯頑張るから!」

 

 

 そう、確かに存在する記憶。間違いなく、存在するったら存在する記憶。

 

 おかげで答えは出た。

 

「僕の好みのタイプは、誰かを守るのにいつも一生懸命で、自分がどんなに傷ついても、辛くても、絶対に諦めない。そういう、“泥臭い人“ですかね。」

 

『っ!!』

 

 アレ?九十九さんが何か電流走ったみたいなリアクションを。

 

 何故だか彼女からの好感度が、急激に爆上がってる気がする。チョロインか何か?

 

『私達は、姉妹(きょうだい)だったのかもしれないね。』

 

「いや、違うと思いますけど。」

 

『そうだ!姉妹といえば、制服姿の女子高生2人、見なかったかい?黒髪と金髪の双子ちゃんなんだけどさ〜。』

 

 制服姿の女子高生2人。黒髪と金髪の双子。

 

 あれ、それってもしかして!

 

「路地裏でっ、宿儺様とSMプレイに勤しんでた、僕の恋敵ちゃん達のことですかぁ!?」

 

『んっ!?今なんて?』

 

「あ、えっと、そのー」

 

 困った。一体、どう説明したものやら。

 

「そもそも、その子達って何者なんですか?」

 

『実はかくかくしかじかでね。』

 

 九十九さんは分かりやすく話してくれた。

 

 双子ちゃん達の悲しい生い立ち、夏油傑さんとの関係性、そしてその遺体を操る偽物のこと、2人の持つ能力の事、2人がそれを利用して宿儺様と交渉しようとしていること、等々。

 

「う、ううっ、うわああああああああああん!美々子ちゃんと菜々子ちゃん、めっちゃ良い子たちじゃあああん!そんなの2人が可哀想過ぎるよー!!!」

 

 双子ちゃん達の健気かつ一途な思いに、僕は思わず号泣してしまう。

 

「死者の絆を利用するなんて、ディ○ニー史上でも、数えるほどしかいないよ、そんな外道!!その偽物、絶対に許さない!!」

 

 僕の心は夏油傑さんの身体を悪用する不届き者への、義憤に駆られていた。

 

「僕が見たのも、SMプレイじゃ無かったんだね。宿儺様にも双子ちゃんにも、めっちゃ失礼だったな、ごめんなさい...!」

 

 アレェ!?

 

 って事は、宿儺様は浮気なんてしてなくて、となると、彼からのプロポーズはまだ有効で...

 

 ひゃっほおおおおい!!!!!

 

「九十九さん。僕ってやっぱり、両面宿儺様の婚約者だったみたいです。」

 

『んんっ...?とにかく、美々子ちゃんと菜々子ちゃんはもう、宿儺に接触してるんだね。それは危険

 

「大丈夫ですよ〜。宿儺様、すっごく紳士的なので!この前のデートの時も、僕を優しくエスコートしてくれて〜」

 

『???』

 

 九十九さんは不思議そうに首を傾げている。なんで?宿儺様って、周りの人からやたらと評判悪いよね。

 

 でも安心してね宿儺様。僕だけは、貴方の優しさをちゃんと理解してるから。

 

『と、とにかく。早く美々子ちゃん達と合流したい!宿儺達の今の居場所、分かったりするかな?』

 

「えーっと僕の直感では、宿儺様は渋谷109付近に居ますね。間違いないと思います。」

 

『分かった、キミもついてきてくれ!』

 

 宿儺様の居場所を聞くなり、九十九さんはすごいスピードでその場から走り去ってしまう。

 

「ちょ速っ!?」

 

 僕は慌てて、その後を追うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「何これ...」

 

 九十九さんよりも少し遅れて、渋谷109に到着した僕。

 

 その場所では、数時間前のハロウィンの活気などはすっかりと消え失せ、無機質の残骸が立ち並ぶ廃墟と成り果てていた。

 

「!!、美々子ちゃん!菜々子ちゃん!!」

 

 僕が目にしたのは、手足を斬り落とされ両目と顔も刻まれた、美々子ちゃんと菜々子ちゃんの姿だった。

 

 怒りで頭が真っ白になる。

 

「酷い...!!!」

 

 そして彼女らの側では、宿儺様と同じ顔をしたナニカが醜悪な笑みを浮かべていた。

 

 カラダも、呪力も、このつぶらな目に映る情報は、彼を宿儺様だと言っている。でも僕の魂は、それを真っ向から否定

していた。

 

「そうか分かった!!宿儺様はきっと、悪い呪いにカラダを乗っ取られてるんだ!(超速理解)」

 

 そうと決まれば話は早い。九十九さんと協力して、宿儺様を助けるんだ!

 

衛瑠裟(エルサ)!!!」

 

 ニセ宿儺様から少し離れた所で、気色悪くニヤついていた縫い目男に、氷技を不意打ちブッパする。

 

 何となくだけどコイツが全部悪い気がした。

 

『この術式は...!』

 

『助かるよ、ヒカリ!』

 

 縫い目男には避けられちゃったけど、何か丁度良く、奴をニセ宿儺様から引き離すのに成功!

 

『ふふっ、脹相に転生した子だね?丁度いい。君とも話がしたいと思ってたんだ。』

 

 縫い目男の爛々と輝く眼が、僕を隅々まで舐め回す。

 

 え、普通にキショい。

 

『ああ、すまない。自己紹介もしてなかったね。私は

 

「悪いけど、アンタに興味はないし、話すことは何も無い。」

 

『釣れないな。』

 

 僕は縫い目野郎を無視して、惨たらしくも傷だらけの美々子ちゃん達に駆け寄った。

 

「待ってて!今助けるからね!!」

 

 この渋谷での激戦を通して、僕の術式(プリンセスパワー)は更に洗練されている。

 

 宿儺様風にいうなら、解釈の幅が広がった、って感じ。やれる事が地味に増えているのだ。

 

 これもまた、そのうちの1つ。

 

蜾墳治恵琉(ラプンツェル)!!」

 

 僕はその身に、憧れのプリンセスの力を宿す。

 

「花は煌めく魔法の花」

 

 僕の詠じた魔法の歌に呼応して、脹相の黒髪は金色に輝きながら70フィートにまで伸びていき、美々子ちゃんと菜々子ちゃんの身体を包みこんだ。

 

「時を戻せ過去に戻せ傷を癒せ運命の川遡れ蘇らせろ過去の夢」

 

『なるほど。その歌は、呪詞のようなものかな?敢えて省略せずに儀式として昇華する事で、術式の効力を上げているんだね。』

 

 金色の花の力は傷を癒し、千切れていた彼女らの腕を元通りにくっ付ける。

 

「2人とも、今までよく頑張ったね。あとは、この世界のプリンセスたる僕に任せて。」

 

 眠るように意識を失った2人をそっとその場に寝かせた僕は、独り言を続けている縫い目男をキッと睨みつけた。

 

『氷の術式とも反転術式とも違う、別の力。呪詞の内容から察するに、身体の時間を巻き戻す術式かい?流石に呪力や魂までは回復でき無さそうだけど、驚異的な能力だ。さ、他には何ができるんだい?』

 

「随分、愉しそうだね。」

 

『当然だろう?人間の未知の可能性。その原石が、今目の前にあるんだから。』

 

 傷ついた美々子ちゃん達には目もくれず、邪気に満ちた笑みを浮かべる縫い目男に、怒りが沸々と湧いてくる。

 

『いい顔になってきたじゃないか。その怒りと憎しみこそが呪術の源。思う存分、私を呪うといい。』

 

「悪いけど、僕のエネルギー源はそんなちゃっちい感情じゃない。愛だよ、愛。なんせプリンセスだからね。」

 

 縫い目野郎が身に纏った学ランの袖口からは、大量のムカデが湧いてくる。無理キモい。

 

 対する僕も、術式で作った氷の式神を周囲に展開していった。

 

「アンタをパッパとぶっ飛ばして、宿儺様を迎えにいく。なんせ僕には、彼とのキスシーンが待ってるからね!」

 

『......ん?聞き間違いかな?少し意味が分からなかったんだけど。』

 

 何故だか首を傾げる縫い目男に対して、僕はこの世界の摂理を説いていく。

 

「いいこと?この物語は、最強無敵のプリンセスたるこの僕と、王子様である宿儺様のラブストーリーなの!そして今はそのクライマックス!カラダを乗っ取られた宿儺様は、愛する人のキスで目覚める!!当然でしょ!?」

 

『やれやれ。転生者というのは、君たちみたいな狂人ばかりなのかな?』

 

 互いの合図で、僕と奴の眷属同士がぶつかり合った。

 

「少しだけ待っててね!宿儺様とその唇ぅ!!」

 

 

 

【何故だ?急に寒気が。】

 

 一方その頃、ヒカリ達から少し離れた場所で九十九と戦闘中だった宿儺は、背筋を伝う謎の悪寒に悩まされていた。

 

「隙ありぃ!!」

『らあっ!!』

 

 すっくん&悠仁はすかさず黒閃を狙うが、その下二腕は宿儺の上二腕にガッシリと掴まれる。

 

「離せぇ!このロリコンど変態がぁ!」

『え、宿儺ってロリコンなの!?』

 

『それが奴のタイプか。流石は呪いの王...!』

 

【いい加減にしろ貴様ら。】

 

 発動された“捌”によって、反抗期中だった2対の腕はバラバラに斬り刻まれていた。

 

「あ、九十九さん!宿儺が斬撃撃とうとしてます!狙いは、あれぇ!?俺ですッッッッッッ

 

【その口も塞いでやる。】

 

 告げ口を続けていた腹の口もまた、その舌を斬り裂かれて沈黙する。

 

【さあ、どう凌ぐ?】

 

『っ!!!』

 

 一時的にフリーになった宿儺は、ノーモーションでの“解”を発動していた。

 

 音速で迫る不可視の刃に対し、九十九由基が選んだのは、回避を捨てた直進直行。

 

『シン・陰流 簡易領域。』

 

 脚を止めずに居合の構えをとった九十九の周囲には、円形の陣が組み上がる。

 

 その内部にて、九十九の呪力は上昇し、逆に宿儺の斬撃は弱められていた。

 

『私に近づかれたくないんだろ?照れんなよ。』

 

【チッ。】

 

 斬撃を切り抜けてその拳を構える九十九。魂を揺さぶるその打撃は、それを喰らうのを恐れた宿儺に逃げの姿勢をとらせる。

 

 大地を抉る特級の一撃を後ろに飛び退き回避した宿儺は、空中で考えを巡らせていた。

 

【(あの女の簡易領域も相当だったが、それだけではない。先程の斬撃、明らかに威力が落ちていた。まさか...!)】

 

 そして宿儺は、自身の身体を蝕んでいる僅かな違和感へと気付く。

 

「無為転変!!!!!」

 

 九十九の一撃を避けた筈の宿儺を、再びあのグラつきが襲っていた。

 

【もう1人の俺め...!!】

 

 体の内部から無為転変を発動したすっくんは、相棒の身体に少しずつ改造を施し、宿儺用の檻へと作り替えようとしていた。

 

【つまらん真似を...!】

 

「舐めんなよ!お前とは、努力の年季が違うんだ!!」

 

 改造に抵抗すべく宿儺もまた無為転変を使用する。しかしその精度は、術式に1日の長があるすっくんに対して、僅かに劣っていた。

 

 無為転変による押し合いで劣勢に立たされた呪いの王は、身体制御を更に不安定なものとしていく。

 

『こっちも忘れんなっ!!』

 

 そして虎杖は再び生えた下左腕を繰り、意識を改造に裂かれていた宿儺の首を一気に締め上げる。

 

 呪術師達は、各々が必死に自らの役目を果たそうとしていた。

 

『やっぱり最高だよ、君たち!!』

 

 九十九の式神である凰輪は鞭のようにしなり、身体のヤリクリにてんてこ舞いな宿儺の身体へと巻きつく。

 

『さあ、歯ぁ食いしばれぇ!』

 

【っ....!!】

 

 凰輪へと付与された星の怒りごと、宿儺の身体は地面へと叩き伏せられていた。その後も重ねられていく超質量は呪いの王へと乗し掛かり続け、その身体を押し潰さんとする。

 

【(やはりこの術式、質量の付与かっ...!ならば、術式対象であるこの式神を破壊すればっ...!)】

 

 “捌”によって凰輪を破壊し、星の怒りから逃れようと、両面宿儺は手を伸ばす。しかしそれが届ききる前に、すっくんの生やした下右腕が黒い火花を散らしていた。

 

 それは、ある意味禁断の一撃。

 

「ブラックサンダー・スクナックル・ゴールデンクラッシュ!」

 

 黒閃の金的が呪いの王へと叩き込まれる。

 

【ッ〜〜〜〜〜〜〜!!!!】

 

 さしもの両面宿儺もこれには悶絶し、白目を剥いて苦しんでいた。

 

「安心したよ。呪いの王でも、ちゃんとキ○タマは痛いんだな。」

『すっくん、すっくん。それ、身体的に俺のキ○タマ....』

「大丈夫だ。身体を取り戻したら悠仁のキ○タマも小僧も、必ず元通りにしてみせる!」

 

『最高だけどサイテーだよ、君たち!』

 

 身体の痙攣が残る宿儺に馬乗りになった九十九は、マウントを取ったまま、星の怒りを連続で叩き込んでいく。

 

「九十九さん!そのまま殴り続けてください!もうすぐで身体を取り戻せます!」

 

 魂の境界を知覚する打撃によって、肉体の主導権はすっくんと虎杖へと確実に戻りつつあった。

 

「相棒の身体、返して貰う!」

 

 流れを掴んだすっくんは更に意識を集中させ、もう1人の自分への決定打を打つべく、自身の術式をフルパワーで使用する。

 

「無為転変!!!!!!」

 

【無為転変。】

 

 同じタイミングで発動した同じ術式は互いにぶつかり合い、押し合いの末に、雌雄を決しようとしていた。

 

「うおおおおおおおお!!!」

 

 そして勝利の女神は、より術式に精通したすっくんに微笑みかける。

 

 

 

 その筈だった。

 

 

【これは縛りだ。】

 

 無為転変での押し合いに完勝した宿儺は、出力の戻った御厨子を振り翳す。

 

 凰輪は無惨に斬り刻まれ、九十九の右腕も宙を舞っていた。下二腕と腹の口は共に引っ込み、すっくんと虎杖の魂は肉体の奥底へと沈められる。

 

「なんっ、で.....」

 

 技術で確かに勝っていたすっくんの無為転変は、圧倒的な呪力の前に押し切られていた。

 

 度重なる攻撃によって弱っていた筈の宿儺を、それ程までに強化せしめたのは、彼が自らに課したたった1つの縛り。

 

【此れより一刻、俺は人間を殺さん。】

 

 呪術において、術師の差し出された物が重ければ重いほど、その呪いは強くなる。

 

 殺戮を愛する呪いの王は、すっくんと同じ不殺の誓いで自身を縛り、その代償に計り知れない力を得ていた。

 

 指20本分(限界)など、とうに超えている。

 

 

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