宿儺「どけ!!!俺は主人公の相棒だぞ!!!」 作:バケギツネ
◇
僕は賀茂ヒカリ。
呪いに身体を乗っ取られた婚約者・両面宿儺様を救うために、そして大切な人を奪われた双子ちゃん達の無念を晴らす為に、戦い続ける最強無敵のプリンセスだよ!
「美々子ちゃん達の思いを踏み躙るアンタを、僕は絶対許さない!」
その圧倒的な数量で、僕の式神達を突破してきたムカデの大群は、僕の氷結で一網打尽にされていく。そのまま縫い目男も狙ったけど、奴はペリカンのような怪物に飛び乗って、空中へと逃げてしまった。
『...意外だね。キミはもっと利己的な人物だと思っていたよ。どうしてそこまで、枷場美々子と菜々子にこだわるのかな?』
奴は心底不思議そうな顔で、僕へと問いかけてくる。
「そんなの決まってるでしょ!彼女達が、“プリンセス”だからだよ!」
『...ん?』
プリンセス。それは僕の憧れの象徴であり、超えるべき偉大な先駆者達でもある。
美々子ちゃん達は大好きな人を取り戻すために、命を懸けて戦っていたんだ。その強靭な精神と熱い勇気は、紛れもなくプリンセス。very veryプリンセスだ。
あんなニセモノが、その汚い手で傷つけていいようなものじゃない!
「
空中から降らせる氷柱の雨。しかしそれは、縫い目男の呼び出した傘型の化け物によって防がれていた。
『さっきからその氷の術式ばかりで、芸がないね。意外と、攻撃のバリエーションは少ないのかな?』
「うるさいうるさ、ってうわっ!?」
僕の足元から、大口を開けて飛び出してきたサメの化け物を、ギリギリで回避して氷結で処理する。
『とはいえ良い動きだ。転生したての割には戦い慣れている。』
基本的に氷技一本の僕に対し、色んな種類の化物を操って、変幻自在の攻撃を仕掛けてくる縫い目男。手札の数も、実力差も、余りにも開き過ぎていた。
多分アイツは、全然本気を出していない。僕の力を試すように遊んでるんだ。ムカつく。
『その術式、某夢の国絡みだろう?君自身の発言も鑑みると、そのプリンセス限定という縛りで、能力を模倣してるのかな?』
何か全部バレてるし!!!
「察しがいいね。ひょっとして、アンタもディ○ニーファン?」
『そこまでじゃない。少し齧った程度だよ、蒸気船ウィ○ー(1928年)の頃から、全作品をあらかたね。』
「ファンじゃん。」
『あ、そうだ。不思議の国の○リスは、プリンセスに入るのかい?ファンの間でも、諸説あるだろう?その辺りは、術者であるキミの主観に委ねられるのかな?』
「めっちゃファンじゃん!!!!」
予想外にも縫い目男は、豊富なディ○ニー知識を披露し出す。同好の士だったのは意外だけど、禪院のおじ様とは違って絶対仲良くなれそうにはないな。
って言うか何気に具合が悪い。僕の手の内が全て割れてしまったようなものだし。
「もう!何でアンタみたいな悪者が、ディ○ニー作品に精通してるわけ!?」
『君も1000年生きれば分かる。計画の為の待ち時間は暇で暇で仕方なくてね。他にも、漫画やお笑い、とにかく思いつく限りの娯楽は試したさ。』
ペリカンから飛び降りて地面に降り立った縫い目男は、悠々と歩みを進める。
「貴方は今まで、ディ○ニーの何を見てきたの....?」
『ん?質問の意図が分からないな。』
「あれにはねぇ!愛とか、優しさとか、勇気とか!色んなテーマとメッセージが込められてるの!それを見ても、何も心に響かなかったわけ!?どうしてっ、夏油傑さんにしたような酷い事が出来るの!?」
『あーそういう意味ね。生憎私、現実とお伽噺は切り離して考えるタイプなんだ。ああいう幸せなご都合が罷り通るなら、今もこうして呪いは廻っていない。そうだろう?』
奴の側には、また新たな化け物が呼び出される。雰囲気で分かった。ソイツは今までの化物と、明らかに格が違うんだと。
『特級仮想怨霊・化身玉藻前。』
全身を高貴な着物に包み、その顔を不気味な4つ目の面で覆った女の霊は、僕を見てケタケタと嗤っていた。
『コイツは、夏油傑の持ちゴマの中でも、特に強力だった個体でね。私も重宝してるんだ。』
こうなったら、一か八か!僕は呪力を一気に溜め込んで、放出へと備える。
『玉藻前の術式・仙禁一攫は転移系だが、条件がピーキーでね。少し扱いにくい。
「
溜めに溜めた呪力を解き放って、僕史上最大規模の氷結攻撃を発動!形作られた氷の巨城は、縫い目男ともども着物女を飲み込んだ。
「よし、決まっ
『だからこそ、正しい運用法は術式に頼った戦い方じゃない。』
分厚い氷城は、最も容易くスクラップにされてしまう。そしていつの間にか、着物女の不気味な面は僕の目前にまで迫っていた。
「まずっ、」
術式を使う間もなく、着物女は僕の身体を軽々と持ち上げる。そのまま彼女は、僕の脳天を足場のコンクリへと叩きつける、強烈なパワーボムを決めていた。
『玉藻前の真骨頂、それは腕力さ。』
「このビジュアルで脳筋な事あるっ!?」
抗議の声を上げた僕は着物女のジャイアントスイングで投げ飛ばされ、渋谷の巨大スクリーンへと叩きつけられる。
「このっ、
反撃しようと手を翳したところで、顔面にドロップキックを突き刺される。口から溢れた血が奴の仮面に掛かると同時に、僕の身体はスクリーンを突き破って地面を転がった。
『下手な呪術より、こう言う基礎でゴリ押しされた方が怖いだろう?』
何とか立ち上がった僕は、いつの間にか背後に回り込んでいた着物女に、チョークスリーパーを掛けられる。呼吸が遮断され、視界は端からぼやけていった。
「っ、ああっ...!うぅっ......!!!」
意識が段々と遠のいていく。マズイ、やられる。
『意外と呆気なかったね。まあ、中々頑張った方だよ。』
こんな奴に構っている場合じゃ無い。縫い目男もやっつけて、宿儺様も助けて、やらなきゃいけない事がいっぱいある!まだ全然倒れちゃダメな時なのに...!
やばっ、身体が動かな、い.........
『超新星。』
着物女の顔に付いていた僕の血が爆ぜる。
「え?」
『赤燐躍動。』
混乱する僕を他所に、熱くなった身体は勝手に動き出す。締めの緩まった拘束から抜け出すと、両手に生成された血の刃が着物女を斬りつけていた。
『そこをどけ加茂憲倫!』
僕の声と同じながらも、質感の全く異なるソレが響く。
『赤血操術、なるほどね。おはよう脹相。』
縫い目男が呼んだのは、僕が転生を果たしたこの身体の本来の名前。僕の身体から溢れる赤い血は、高密度に圧縮されて彼の周りを漂い始めた。
「貴方は......」
僕の口から自然と漏れた言葉に、彼は力強く答えてくれる。
『俺は悠仁のっ、お兄ちゃんだ!!!!』
◇
僕の視界が切り替わる。
今ここにあるのは、ディズニーグッズが整然と並べられ、宿儺様のお姿を収めた額縁付き巨大写真が飾られた、僕の生得領域。
ここって確か、僕の心の中みたいなもので、時間の流れも違うんだよね?前に宿儺様がそう教えてくれた。
それなら彼と、じっくりと話ができる!
『こうして話すのは初めてだな、賀茂ヒカリ。』
そこには僕の他にもう1人、写鏡のようにソックリな姿をした脹相の姿があった。
「アレ?って言うか何で僕のことを...?」
一応僕の存在は、宿儺様(とついでにその器の人)しか知らない極秘事項。脹相本人も、僕には気付いて無かった筈なのに。
『お前がこの身体と呪力に慣れた事で、俺たちの魂の、ブレンドとでも言うんだろうか。それが変わったらしい。お陰でこうして話もできるし、お前の記憶の一部を読み取れるようになった。』
「な、なるほど。そういう事なら話が早いね!初めまして、僕は賀茂ヒカリ!この世界への転生者にして、両面宿儺様から求婚され中の、プリンセスだよっ!」
『(そんな記憶あったか?いや、ヒカリを信じよう。俺が見落としていただけかもしれない。)』
「ん?どうしたの?」
『いや何でもない。』
何故だか首を傾げていた脹相だったが、1人納得するように頷くと、僕の方へと向き直る。
『俺は脹相、お兄ちゃんだ。10人兄弟のな。』
「よろしく〜!ずっとお話ししたかったんだ!」
もう1人の自分と会うのは何だか不思議な気分だ。でも今の僕、すっごくプリンセスってる気がする!
「えっと、とりあえず宿儺様達を助けないとで、」
『問題ない。外で起きている事は、ヒカリの記憶で把握している。さて、これからどうするかだが、その前に俺の記憶を共有して欲しい。』
脹相が手をかざすと同時に、僕の頭には存在しないはずの脹相の記憶が溢れ出す。縫い目男の暗躍に、彼の家族の顛末、そして受肉を果たすまでの孤独な人生。その全てが僕の頭に焼きついた。
「......大変だったね。」
『お前で2人目だ。家族以外で、俺にそんな言葉を掛けてくれたのは。』
どこか嬉しそうな笑みを浮かべた脹相は、翳していた手を僕へと差し出してくれる。
『俺もお前と思いは同じだ。あの額に縫い目のある男を、加茂憲倫を討ちたい。そして、恐らくは真の宿儺に囚われた、
彼の真剣な眼差しを正面から受け取った僕は、迷いなく脹相の手を取った。
「当然っ!」
同じ身体に宿った存在を想う者どうし、僕たちは結束する。
「あの縫い目男に見せてやろう!2人で1人の呪術師は、宿儺様だけじゃないって!!」
◇
「『脹相呪力モード!!!!』」
僕の意識は現実世界へと戻ってくる。顔には紋様が浮かんで、身体は淡い呪力の光に包まれていた。結ばれていた髪は解け、黒い長髪が風にたなびく。
『すっくん達と同じ呪力の共有...!ふふっ、そうこなくっちゃ。お手並み拝見といこう!』
不敵な笑みを浮かべた縫い目男は、100体に及ぶ骸骨の群れを差し向けてくる。
「いくよ、脹相。」
『ああ、上手く合わせてくれ。』
脹相による血中成分操作で、身体能力は極限まで強化される。さらに僕には、とあるディ○ニープリンセスに匹敵する格闘センスが備わった。
『赫鱗躍動・載』
『
僕はひとっ飛びで、骸骨達の群れに突っ込んでいく。
「『青血龍刃!』」
思うがままに僕の身体は躍動していた。次から次へと襲いくる骸骨達を、脹相の血で作られた青龍刀が、次々とその露へと消していく。
『ヒカリ、後ろだ!』
「分かってる!!」
最後の骸骨を片付け僕の気が緩むその一瞬。呪力の自己補完で体の傷を治した着物女は、そこを狙ってくる。
『流石に特級はしぶといな。ヒカリ!!!』
「オッケー!」
着物女が繰り出した豪快なラリアットを、血液と氷でガチガチに固めた自分の額で受け止めた。
「『氷血鎧装...!』」
グチャっと嫌な音がして、着物女の利き腕は可愛くない方向へとひん曲がる。すかさず僕は、氷血鎧装でメリケンサック状となった右のグーで、敵の顔面を殴り抜いた。
「プリンセス☆パ〜ンチ!」
僕のグーパンは着物女の顔へとめり込んで、その動きを大きく鈍らせる。
「プリンセス☆キ〜ック!」
よろめいた頭を掴んで引き寄せ、右膝で思いっきりお出迎えする。当然膝蹴りを繰り出した箇所は、最硬の鎧をコーティング済みだ。
「えい〜!とりゃ〜!せ〜いっ!」
徐々に抵抗が弱まり、グッタリしていく着物女に何度も膝を叩き込み、倒れかけた所に渾身のアッパーをぶちかます。確かな手応えと共に、奴は主人であるニセモノの方へと吹っ飛ばされていった。
『随分乱暴なスタイルになったね。とてもじゃないが、プリンセスとやらには見えないな。』
「本当に分かってないね。見た目や能力なんかじゃない。美々子ちゃん達や脹相みたいに、人を一途に思い続ける心の強さ!それこそが、プリンセスをプリンセスたらしめる、一番大切な物!!」
禍々しい鎧で覆いつくした身体で、紫の血をいっぱいに浴びた顔で、プリンセスたるこの僕は胸を張る。その髪は金色の輝きを帯びていった。
「
『百斂!』
今の僕と脹相は、身体の主導権を共有している。よって、1つの身体で同時に2つの操作が可能となっている。
「花は煌めく魔法の花時を戻せ過去に戻せ傷を癒せ運命の川遡れ蘇らせろ過去の夢」
脹相が大量の血液を体外に放出し圧縮していくと同時に、身体を包む金色の髪は“体内”の時間を巻き戻して、失った血液を供給し続けていた。
今、脹相の手で圧縮されている血液は、本来の彼の総血液量の、何と約20倍!
『呪霊操術極ノ番、うずまき。』
僕達のフルパワーに対して、敵も大技で迎えうつ。縫い目男は、消えかけていた着物女、そして近くに居たペリカンと傘の化け物を巻き込んで、巨大な渦を描き出す。その中心には高密度の呪力が抽出されていた。
『親殺しぃ、いきまああああす!!』
一方此方も発射準備は整った。此れより僕と脹相が放つのは、理論上出力2000%の穿血。その名も、
「『裂血!!!!!』」
僕達の手から放たれた赤い流星は、縫い目男の放った歪な螺旋と、正面からぶつかり合った。