宿儺「どけ!!!俺は主人公の相棒だぞ!!!」 作:バケギツネ
◇
正直僕は、まだ脹相の事をよく知らない。
身体の内側からちょいちょい観察していたとはいえ、顔を合わせたのも、お喋りをしたのだって、たった数分前。
この世界に転生した、清らかなる僕の魂をその身体に住まわせてくれてる縁を差し引いても、僕らは完全な赤の他人、その筈なんだ。
それなのに不思議と、彼のことを信じられる。
それはきっと、今この瞬間も共鳴している彼の熱い心の内が、ひしひしと伝わってくるからだ。
僕の愛する両面宿儺様と、その相棒である虎杖悠仁くん。兄弟である彼を脹相がいかに愛しているか、もう十分すぎる程に分かってしまった。
そして思った、僕達はどこか似てるって。
兄弟への愛、恋人への愛、愛情の種類は違っても、それに対するスタンスはソックリだ。
ちょっとだけ不器用で、他が目に入らなくなるほど猪突猛進で。どこまでも真っ直ぐに自分の“好き”と向きあってる。
そんな似たもの同士の僕達だからこそ、大切な人への愛情を互いに信じ合えるんだ。
案外僕らは、良いパートナーになれるのかもしれない。だって僕らも、今は宿儺様達と同じ。
一心同体の相棒なんだから。
◇
「『裂血ッ!!!』」
『うずまき...!』
僕らの手から溢れ出した深紅の流星は、縫い目男の放った歪な螺旋と、真っ正面からぶつかり合う。
その衝撃は大気を揺らして、周囲に乱立していたお洒落なお店達のガラスを、散り散りに砕いていた。
「いっっっけええええ!!」
『いけえええええええ!!』
2人がかりで、血を発射する両手へと目一杯の力を込めていく。
心を合わせた僕とその相棒によって、裂血はさらに研ぎ澄まされて、その威力を増していた。腕に伝わる未知の反動もそれを物語る。
『特級込みのうずまきでも押し負けるか。』
僕らの一閃は醜い渦巻きを貫いて、その澱みを跡形もなく掻き消した。そのまま真っ直ぐに突き進む血の大槍は、その刃を忌々しい縫い目男へと向けている。
『(流石に当たるのは不味いかな?)』
黒い学ランの袖口から、それ以上にドス黒いナニかが次々と湧き出してくる。縫い目男は、瞬時に呼び出した化け物達の肉の壁をもって、裂血を防ぎに掛かっていた。
しかし、それらをどれだけ貫こうとも、紅き槍は止まることを知らない。瞬く間に即席の防御をごぼう抜きして、荒く縫いあわされた奴の脳天へとその切っ先を届かせる。
『術式反転・反重力機構。』
突如として縫い目男の周囲がぐにゃりと歪んだ。
奴の周りにだけ発生した不自然な力場は、その脳天を貫く筈だった血液の行く末を惑わして、あらぬ方向へと逸らさせる。
渾身の裂血は縫い目男の後方へと消えていき、通過した奴の額を軽く削ぎ落とすに留まっていた。
「もうっ、惜しい!!」
『使ったな。呪霊操術以外の何かを。』
地団駄を踏む僕の傍らで、脹相は縫い目男の技を分析し始める。そんな彼の思考は僕の頭にも流れ込んできた。
さっきは奴が手を翳すのと同時に、見えない力が裂血を歪めた。アイツの
呪霊を操る術式、重力の術式、僕みたいに複数の術式を使えるっぽいね。
プリンセスの力に限定してそれを“模倣”できる僕みたいに、何かの条件ぐらいはありそうだけど。
『...正直、さっきのはヒヤッとしたよ。君たち相手に、ここまで追いこまれるとは思わなかった。』
縫い目男は、裂けた額から溢れる脳汁を舌で舐め取ると、どこか満足そうな目で僕らを睨め付ける。
いや、キモい。まじでキモいんだけど。本物の夏油さんにはマジで申し訳ないけど、ちょっとキモ過ぎる!
『さて、“次”はどうする?』
髑髏のネックレスを掛けた不気味な一つ目の化け物。その巨体が奴の背後に浮き上がる。
ソイツはすぐさま、新たな渦巻きに凝縮されて、収まった縫い目男の手の中から、幻怪な光を漏らしていた。
「嘘っ、二発目!?」
『連発できるのか...!』
『尽きる事の無い大量のリソース。それこれが呪霊操術の強みさ。せっせと呪霊を集めてくれてた夏油傑には、感謝しないとね。』
「っ...!」
愛する人の為に全てを賭けて戦っていた、そんな立派なプリンセスたる美々子ちゃんと菜々子ちゃん。
彼女らの大切な人をしたり顔で侮辱する縫い目男に、流石の僕もプッツンする。
「脹相。もう一回裂血を、っ!?」
僕達が異変を感じ取ったのは丁度その時だった。
【これは縛りだ。此れより一刻、俺は人間を殺さん。】
少し離れた場所で、ずっとずっと感じていた愛する人の魂。それが暗い海底へと堕ちていくような、嫌な嫌な感覚。
「宿儺様...?脹相、今のわかった!?」
『ああ。どうやら悠仁にも、良くない事が起きている...!』
このままじゃ不味い。縫い目男の相手を後回しにしてでも、偽宿儺様と戦ってる九十九さんへの加勢に行かないと。
『余所見とは傷つくな。キミと私の呪い合いは、まだまだ始まったばかりじゃないか。』
空気を読まない縫い目男は、呪いの渦を解き放つ。やらしい事に、その射線上には気を失ったまま倒れた双子ちゃん達がいる。避けるわけにはいかないみたいだ。
そして、大きなタメのいる裂血は今からじゃ間に合わない。
『「氷血鎧装」』
僕らは咄嗟に血と氷の鎧を全身へと纏わせた。精一杯固めた防御で、来たるべき衝撃に備える。
でも、
『っ!ヒカリ、すまな...
僕の顔から紋様が消える。身体を包んでいた淡い呪力はたち消え、血染めの鎧も崩れ落ちていた。
「脹相!?まずっ...
初めてで不安定だった僕達の接続、 脹相呪力モード。その繋がりは最悪のタイミングで乱れ、一時的に解除されてしまう。
渦巻きは既に、丸裸になった僕を飲み込もうと、目の前まで迫っていた。
『シン・陰流 簡易領域...!!』
僕達の前に、刀を構え草臥れたコートに身を包んだ?スーツのオジサンが現れる。
『なるほど。ちょっとは蘊蓄のある術師が来たじゃないか。』
目に止まらぬ刀オジサンの斬撃は、歪な螺旋を切り刻んでいた。
え、ちょっとカッコいいかも。
「あの、ありがとうございました!」
『感謝する!』
声を揃えて礼を言う僕達に、刀オジサンは振り返る。そこそこダンディーだったそのお顔は、何故だか苦虫を噛み潰したような、フキゲンな表情で固定されていた。
......なんで?
◆
「(帰りてぇ〜。マジで今すぐ帰りてぇ。ったく、らしくねえだろ。何でノコノコ出てきた俺は......)』
一級術師、日下部篤哉。
同級内では最強との呼び声高い彼は、その実力故に己を上回る者の恐ろしさを、鮮明に察知する。
だからこそ、自らとは次元の異なる化け物達との戦いを、徹底的に避けてきた。
敵の化け物には味方の化け物をぶつける、そんな適材適所こそがベストな択。
自分はただ、夢見が悪くならない程度に頑張って、手の届く最低限を守ればいい。
それこそが彼のポリシーだった。
『(ハァ〜〜〜〜。やっぱこれも、アイツらのせいだな。)』
刀を一度鞘へと戻して居合の姿勢をとった日下部は、後方に倒れ伏している美々子と菜々子の方に目をやる。
彼女らが信頼できる相手だけに送った、羂索の企みと渋谷の現状を伝えるSOS。
その送り先には、2人が天星教の仕事を通じて交流のあった、高専の“優しいオジサン”が含まれていたのだ。
『(あんなガキ共が命かけて戦ったんだ。大人の俺が必死こかなくてどうするよ!!)』
少女達のまっすぐな信頼を無碍にできるほど、日下部は非情にはなりきれない。
捨てきれなかった中途半端な甘さは、最強の一級術師・日下部篤哉を、圧倒的な格上と対峙させる。
『おい九相図!とりあえず、お前は味方でいいんだな!?』
「あ、はい!」
『当然だ!!』
意味不明な現況に、口を覆って天を仰ぐ日下部。
夏油の死体を操る呪詛師。それはまだ分かる。大まかな素性と目的は、少女達からのメールで理解した。
しかし、それと戦っていた高専にて保護中だった筈の九相図。
これが分からない。
一応、呪詛師とは敵対し、美々子達を守る素振りを見せているとはいえ、不透明な点が余りにも多過ぎる。
『大丈夫ですよ日下部さん、脹相たちは悪い奴じゃない!俺、“人”を見る目には自信がありますから!!』
『うっせえ灰原、お前はちょっと黙ってろ。』
途中で合流し、自らに帯同させてきた準一級術師・灰原雄。
しきりに九相図達に味方する彼を軽くあしらいながら、日下部は必死に頭を回し、最善の策を叩き出そうとする。
『あ〜〜、クッソ!この際うだうだ考えんのは辞めだ!どの道ここを何とかしなきゃ、この国はオジャンになる!』
半ばヤケクソとなった彼は、最大の脅威への対処をイレギュラーへと託す事に決めていた。
『アッチで宿儺が暴れてる!何とかできんなら、ソッチに行け!多分、それしか勝ち筋がねえ!!偽夏油は引き受けてやるよ、俺たちでな!』
日下部の一声を合図に、羂索の死角から現れた黒い翼が宵闇を駆ける。その小さな身体に、自死の縛りを代償とした膨大な呪力を纏わせて。
『呪力の起こりでバレてる。不意打ちにはならないよ。』
瞬時に呼び出したエイのような呪霊へと飛び乗った羂索は、朧げな月の浮かぶ空に急上昇し難を逃れる。
標的を捉え損ねた烏たちは地面へと激突して、赤いシミと成り果てていた。
『やっぱり特級レベルだと当たってはくれないか。でも直撃を避けてるなら、当たればそれなりなんじゃないかな?』
一級術師・冥冥は、荒廃したビルの物陰から不敵な笑みと共に姿を表す。
すっくんと別れてから今まで別行動をとっていた彼女も、万が一に備えた円の両替を済ませた上で、日下部達に加勢するのだった。
それを契機に、彼女と合流を果たしていた高専生徒達も打って出る。
日下部の同班として、それまで改造呪霊達の対処にあたっていた準二級術師・パンダ。
『俺らも力になるぜ九相図。生きて帰ったら、ゲテモノ同士飯でも行こうや。』
『パンダか。うちの悠仁達が世話になったと聞いている。』
「動物の言葉が分かる!?ふっ、流石僕。なかなかのプリンセス力だね。」
そして単独で、一般市民の誘導にあたっていた準一級術師・猪巻棘。
『しゃけしゃけ、明太子!ツナマヨ!!』
『......ん?はぁ?え、あ、つ、つなまよ!』
「アレェ!?逆に人間の言葉が分かんなくなっちゃった!?」
そして冥冥の弟であり、空間移動系の術式を使いこなす憂憂。
『宿儺の所までは僕が運びます。この貸しは高くつきますよ。』
彼は術式の必需品である呪具の白布を翻して、自身と脹相の身体を包む。
「あ、ちょっと待って!宿儺様のとこへ行く前に、寄りたい所があるの!」
『?』
愛する人を取り戻す為の最後の一ピースを手に入れるべく、ヒカリはとある寄り道を提案する。
その一方で羂索は、降って湧いた呪術師達を出迎えるべく、新たに大量の呪霊を出現させていた。
『ゾロゾロと出てきたね。だけど呪霊操術相手に数的有利は取れないよ。』
千年続く竜戦虎争、合従連衡の世界を生き抜いてきた呪いの先駆者は、日下部を中心とした“最近の術師”達を睨め付ける。
『呪術師として長生きしたいなら、もっと謙虚であるべきだよ。君たち程度に私の相手が務まるとでも?』
『まあ、100パー無理だろうな。だがそれは、お前が万全だった時の話だ。』
ヒカリ達が羂索に付けた額の傷。未だ癒えないそれを見て、日下部は1つの気付きを得ていた。
『お前、反転術式が使えねえんだろ?大方、五条悟の最後っ屁ってとこか?』
日下部の推察通り、無量空処によって羂索の脳は痛手を負っている。そしてその影響は、領域展開を封じるだけに留まってはいなかった。
脳機能の一時的な損傷によって、正の呪力を十分に回しきれない最悪の術師は今、自らの身体を癒すことができない。
『御明察。まあ、それが何だという話なんだけどね。』
それでもなお、羂索と術師達の実力には大きな隔たりが存在していた。呪力で強化された呪霊たちは群れを成し、主人の敵へと牙を剥く。
『前衛には俺が出る!ガキどもは前に出過ぎんなよ!!』
対する日下部も、簡易領域を前方へと押し広げながら、術師達の指揮をとる。
大人として、教師として、自らの役割を果たす為に。
「2人とも、待っててね。」
寄り道の用を済ませたヒカリは、自らの奥底に引っ込んだ脹相と、再び呪力を繋ぐ。
『さっきは済まなかった。もうしくじらない...!』
「絶対に宿儺様達を助けよう、僕たち2人で!」
脹相呪力モードを発現させた2人は、再びその身を淡い呪力で包み込む。
『用は済みましたか?』
「お待たせ憂憂くん!これでいつでも......って、どちら様?」
準備を整え、憂憂と共にすっくんの元へと向かおうとするヒカリ。彼女は見知らぬ4人組の集団に呼び止められる。
◆
【人を殺さぬ縛り。ククッ、悪くない効能だ。俺では思いつきもしなかっただろうな。】
呪いの王・両面宿儺は、一刻(約2時間)の不殺と引き換えに、指20本を超える圧倒的な力を手に入れる。
今もなお続く、もう1人の自分と身体の持ち主の抵抗を、出力を上げた無為転変で常に抑え続ける事で、彼は正真正銘の自由の身となっていた。
『......マジンコ?』
式神である凰輪を失った九十九は、斬られた腕を生やしながら、その圧倒的な存在感に息を呑む。
彼女の優れた直感は、目の前にいる男が如何に理不尽な存在なのかを、これでもかと訴えていた。
【さっきまでの威勢はどうした?女。】
『!?』
紋様の浮かんだ悪辣な顔が、突如として九十九の目前に現れる。特級術師たる彼女が反応しきれない程の神速で、呪いの王は接近を果たしていた。
『コイツっ!!』
星の怒りをその顔面に叩き込まんと九十九は腕を振るう。しかし、彼女に拳の手応えは伝わっては来ない。
【ほら、頑張れ頑張れ。俺に一撃当ててみろ。】
九十九の腕は音もなく斬り裂かれていた。すかさず蹴りを放っても、超質量を乗せた脚ごと標的の目前で斬り裂かれる。
【ククッ、そんなものか?いつまで痴態を晒している?】
『っ、いけすかないなぁ!意地悪な男はモテないぞ!!!』
治したての脚で再び地面を踏み締めた九十九は、余裕の表情を崩さない宿儺へ、力一杯に右腕を振り抜く。
『私好みになるように、叩き直してやるよ!』
その手を再び斬り裂かれながらも、九十九は即座に反転を回し、骨が剥き出した不恰好な腕に星の怒りを付与させる。
彼女の渾身の拳は遂に宿儺の顔面を捉えた。
【まあ、こんなものか。】
魂を揺らしながら超質量を叩き込む九十九の打撃。縛り以前なら効果的だったソレも、今の宿儺には意味を成さない。
【さて、こうだったか?】
次の瞬間、九十九の腹部に激痛が走り、その身体は幾つものビルを突き抜けて吹き飛ばされる。
【”黒庭拳“。】
呪いの王の拳では、黒い火花が二度散っていた。
【うむ。感覚さえ掴めば、それ程難しい技ではないな。】
打撃の瞬間、自らの呪力を二段階に分け0.000001秒以内に流し込む。すっくん達の連携技を、宿儺はたった1人で再現していた。
それは呪いの王としての圧倒的な呪術センスがあればこそ、為せる業。
【倒れるなよ?試したい技はまだ腐るほどある。】
その場で地面に手を着いた宿儺は、そのまま“捌”を発動させる。
【蜘蛛の糸・
必殺の刃は渋谷のアスファルトを斬り裂きながら“伝播”していき、巨大な地割れを生み出していた。乱立していた高層ビル達も、その深淵に飲み込まれていく。
【やはりな。俺の術式の解釈がさらに押し広げられている。さて次は、】
捌を中断し、空中へと駆け出した宿儺の眼は、黒庭拳での傷を負いながらも、地割れから逃れた九十九を捉える。
【竈】
解と捌。2つの調理工程を経ることで、竈の扉は開かれた。
しかしその炎は、火力に対して速度がなく効果範囲が狭いという欠点を持っている。
......その筈だった。
【
宿儺の右眼から一筋、血の涙が流れる。それを契機に、彼の視認していた箇所から“開”が発火した。
『つっ...!!!!』
九十九の胸部に直接芽吹いた獄炎の火種が、彼女の身体を焼き焦がしていく。
すっくんという起爆剤によって、新たな世界を得た呪いの王は、領域に頼らない不可避の“開“を手に入れたのだ。
【おっと、死ぬなよ。】
火達磨となった九十九へと悠然と歩み寄った宿儺は、再び彼女を視認する。先程とは反対に勢いを失った炎は、九十九が焼け死ぬ寸前で掻き消されていた。
一命を取り留めた彼女だったが、既に満身創痍。美しい色白だったその肌は、見るも無惨に赤黒く焼け爛れていた。
【全く、殺さぬように加減するのは何とも煩わしい。】
自身に課した縛りによって、今の宿儺は殺意と共に力を振るえず、未必の故意すらも許されない。その上他者の命を奪えば、呪いの理に従ってそれ相応の罰を受ける。
【常日頃から、こんなつまらん事をしているのか?もう1人の俺は。】
宿儺の脳裏には、身体の内から観察していたすっくんのこれまでが浮かぶ。
言葉を交わす機会など殆ど無かった相手。だが、その魂の奥底に潜んでいた宿儺は、”もう1人の自分“が抱いた命への葛藤を、ある意味で誰よりも知覚している。
その上で、彼はこう結論づけた。
【実にくだらん。ん?】
宿儺が感じたのは、自身の身体にかかった途轍もない重み。
立ち上がる事さえできない身体を、無理やりにでも引きずった九十九は、その手で掴んだ宿儺の足へ星の怒りを付与していく。
『私はそうは思わないね。正直君よりも、もう1人の君の方がよっぽどカッコいいよ。』
【口の減らん女だ。】
超質量を全身に浴びて尚、最強の呪いは止まらない。
呪力を纏わせたその手を、宿儺は容赦なく振り下ろす。それと同時に、今度は白き閃光が瞬いた。
【白閃。】
『っ....!!!!!』
呪いの王の全力の拳は致死量の一撃を叩き込む。その直後、仮死状態となった九十九が完全に死亡する寸前に、反転術式のアウトプットが作用した。
結果的に残るのは、文字通り死ぬほどの痛みと、絶命を免れた満身創痍の身体。
【殺されないと、タカでもくくっているのか?縛りの期限の後、すぐに殺せば済む話だ。それまではジックリと嬲ってやる。】
何度も何度も、呪いの王は白き稲妻を振り翳す。
【白閃。白閃。白閃。白閃。白閃。白閃。白閃。白閃。白閃。白閃。白閃。白閃。白閃。白閃。白閃。白閃。白閃。白閃。白閃。白閃。白閃。白閃。白閃。白閃。】
宿儺の両手が九十九の血で色を染める頃には、彼女の体は数十回にわたって致命傷が叩き込まれ、想像を絶する痛みが蓄積されていた。
それでも九十九は敵を掴んだその手を離さない。
【まだ身の程が分からんとはな。】
『ハァ、ハァ.......諦めっ、は、悪い方なんでねっ...!それっ、にっ、泥臭いのがっ、タイプなんだ......!!』
自らを見上げる格下である筈の女。その眼に宿った強い意志に憎き相手の面影を見て、宿儺は苛立ちを募らせていた。
【どいつもこいつも、身の丈にあった不幸を噛み潰していればいいものを....!】
再び宿儺はその手を振り上げる。しかしその拳は九十九の寸前で停止していた。
【っ...!!】
異変を感じて、彼はすぐさま九十九から距離を取る。その直後、萎んでいた彼女の呪力が瞬く間に膨れ上がった。
【これはっ、縛りか!?】
宿儺に倣った九十九は、自身が重い代償を背負う事でその呪力を極限まで上昇させる。
『もう、これで終わっても良い!だから宿儺っ!お前にはありったけをぶつける!!!』
内臓から溢れ出し、口内を満たす血で詰まりかけている喉を、九十九は必死に動かした。
彼女が自身に課したのは、この戦いの後、呪力の大半を失って自身が非術師となる縛り。
呪術師としての死が約束される事と引き換えに、九十九は一時的に潜在能力の300%を引き出すに至る。
【面白い、魅せてみろ!】
呪いの王の心には、僅かながらの緊張とそれを優に超えた高揚が走り抜けていた。相対した予期せぬ副菜に、彼の食指も動き出す。
『私の術式・
突如、九十九に触れられていない筈の宿儺は、両腕に尋常でない重みを感じる。
『そう、今まではね!!!』
宿儺の手には、彼の嬲った九十九の血がベッタリと付いていた。
【(術式対象の拡大。自身の血液に遠隔で術式を付与しているのか。それにこの出力、恐らく縛りの効能だけではない!)】
九十九の進化に、呪いの王はもう一つの要因を見る。それはすっくんによって開発され、先程まで宿儺の連発していた“白閃”の存在だった。
数十回にわたる臨死体験。死の淵で行ったり来たりを繰り返した彼女は、呪力の核心を完全に掴んでいる。
『”星の怒り“で後付けできる質量に限界はないっ!それを突きつめていったら、何が生まれると思う!?』
質量を超過した九十九の血液。そこから生まれた渦巻きは、宿儺の両腕を飲み込みながら巨大なブラックホールへと成長を遂げる。
【っ...!!】
全てを飲み込む虚無への入り口。その前では、捌や開すらも意味を成さない。
宿儺に残された選択はたった一つ。自身が飲み込まれる前に世界を断つ斬撃を発動し、ブラックホールをその空間ごと分断して消滅させる事。
しかし、両腕を失った今の宿儺は、次元断に要する”術式の指向性を手掌で設定“を満たせない。
無為転変で即座に腕を用意しようにも、すっくん達を押さえ続けるその術式を一瞬たりとも緩めるのは、リスクが大き過ぎるのだ。
そこで宿儺は苦渋の決断を下す。それ以降の世界を断つ斬撃に、
①閻魔天の掌印
②呪詞の詠唱
③術式の指向性を手掌で設定
この3条件が必要になるという縛りの前借りによって、ノーモーションで次元を裂く。
九十九の隠し球だったブラックホールは、宿儺の両腕もろとも存在単位で斬り裂かれて、霧散していた。
『捨てたな、両腕を!!!』
しかし九十九の攻勢は止まらない。ブラックホールが凌がれた直後、宿儺が両手を再生させるよりも先に、自身が持つ真の切り札を披露する。
領域展開・盤星大器
月光菩薩印の掌印を結んだ九十九を中心に、周囲の風景が美しい星空へと変わっていく。
必中効果の付与されたその領域は、必殺のブラックホールの確実な命中を可能にしていた。
その危険性を即座に感じ取った宿儺は、結界術による防御を最優先させる。
【シン陰流・簡易領域。】
彼が頼ったのは、ついさっき見て憶えた弱者の領域。掌印を必要とせず、居合の構えのみで展開が可能な現状最速の結界で、呪いの王は即死を回避する。
【惜しかったな。】
自身の必勝策を挫かれた九十九は、すぐさま次の一手へと移ろうとする。その刹那を、腕の再生を終えた宿儺は御厨子をもって斬り裂いた。
四肢を容易く切断され、体の支えを失った彼女はドサリと地面に引き下ろされる。
主の負った深手を契機に、彼女の心象が映る季節外れの星天は、今にも壊崩を迎えようとしていた。
『なんのっっっ、これしきぃぃ!!』
それでも九十九は足掻きを止めない。ひび割れつつある領域を必死に繋ぎ止め、死にもの狂いで最後の技の発動を急ぐ。
どこまでも泥臭い己が理想から、道を踏み外さぬように。
【これは、まさか......】
領域の内壁に貼り付いた煌びやかな星屑たち。それらは急速に質量を増し、その成長は限界を超えていく。
生を終えんとする擬似恒星は、その間際で蓄えられた星の怒りを全て吐き出し、疑似的な超新星爆発を発生させる。
その名は、
『
大気を歪ませる美しいプリズム状の光が、宿儺の元へと降り注ぐ。
全てを吹き飛ばしかねない規格外の熱線は、その効果範囲を極限まで絞った九十九によって、呪いの王のその身1つに独占されようとしていた。
【認めてやろう九十九由基!】
敵と認めた術師の名を、呪いの王は初めて口にする。
【貴様は強い!!】
両手を広げた彼は、自身に襲いくる眩い光をその全身で受け入れた。
呪力強化と反転術式の治癒すらも追い付かぬ程の速度で宿儺の細胞一つ一つは磨り潰されていく。
【......ここまで楽しめるとは思わなかったぞ。】
特級術師・九十九由基の最後の技は、呪いの王を消し飛ばす寸前で、領域の完全崩壊と共に霧散していた。
その半身を吹き飛ばされていた宿儺は、地に膝をつき肩で息を続けながらも、星空の元からようやく解放される。
『百花繚乱』
『硝煙弾雨』
『
そんな彼を掌の虚像が包み込む。続け様に飛来したガラスの刃は、宿儺の両足を貫いてその場に釘付けた。そしてその周囲には、艶やかな花びらが舞っている。
【何だ?貴様らは。】
呪いの王の御前にその姿を晒したのは、転生者・賀茂ヒカリ。
そして、思い思いの装束に身を包んだ、纏りのない4人組の術師達だった。
そのリーダー格である白づくめの黒人は、不敵な笑みと共に両面宿儺へと猛迫する。
その手に、アフリカ土産である漆黒の縄を携えて。
『呪いの王も、意外とアンテナが低いんだナ。”俺達“を知らないとハ。』
祢木利久。
菅田真奈美。
ラルゥ。
ミゲル・オドゥオール。
渋谷に現着した天星教の幹部達は、呪いの王へと挑みかかる。
『死んだらアッチで祟るぞ、夏油。』
それは、