宿儺「どけ!!!俺は主人公の相棒だぞ!!!」 作:バケギツネ
◆
それは、天内理子が天元との同化を迎える日の前夜。
『よおミゲル。元気か?まだ日本にいんだろ?お前にしかできねえ仕事があってな。』
当時贔屓にしていた裏社会のブローカー・孔時雨。彼からの一本の電話が、若き日のミゲルと夏油を繋ぐ奇妙な縁の始まりだった。
『また面倒なヤマじゃないだろうナ?』
『まさか。お前ほどの実力者なら楽な仕事だよ。今回は腕の立つ同業者もついてるしな。報酬も弾むぞ。』
『言っておくガ、俺は金で転ぶほど安い人間ジャ
『手付金だけで、前回の仕事の10倍。成功報酬で20倍出る。どうだ、燃えてきたろ?』
『......試しに話してミロ。』
『そうこなくっちゃな。まあ、ザックリ言うと....』
星漿体暗殺任務!!!!
・小娘1人始末する簡単なお仕事。
・護衛は高専のガキ2人だけ!
・報酬は即日現金支払い!
・必要経費は盤星教が全額負担!
・プライベートジェット完備!
暗殺初心者も大歓迎!
経験豊富な術師殺しが貴方をサポートします!
*尚、星漿体暗殺は禁忌中の禁忌であり、激おこの高専総監部を敵に回します。
*護衛のガキは、六眼と無下限呪術の抱き合わせと呪霊操術使いです。クソ強いです。また、星漿体は詳細不明の術式持ちです。
*受任者に何があろうと、仲介人・孔時雨は責任を負いません。
『依頼受けんなら、早速東京に飛んでもらう。禪院甚爾...ああ、今は伏黒甚爾だったな。奴と合流して指示を仰げ。それと、あの珍しい呪具、黒縄を持ってけ。』
『おいおい。護衛は高専の子供2人で、ターゲットにも戦闘能力はないんダロ?黒縄の出番ナンテあるわけ.....』
『あー、まあ、あれだ。盤星教の窓口が相当の呪具マニアでな。報酬受け渡しの次いでに、ソイツを一眼見たいんだとよ。とにかく今回は楽な仕事だ。気楽に行ってこい。』
◆
『騙したナ孔時雨!話が違うゾ術師殺し!』
残念ながら、ミゲルが引き受けたのは闇バイトもびっくりのクソ案件。
ウキウキでプライベートジェットに乗り込み、報酬の使い道を思案しながら、現場へと向かったミゲル。彼を待っていたのは伏黒甚爾からの無茶振りだった。
『黒縄がゴリゴリ減ル!!クッソ、割に合わんゾ!こんな依頼!!』
学生の身でありながら、五条家相伝の術式を使いこなす怪物のタマゴを相手に、ミゲルは単身での時間稼ぎを強いられる。
故郷のババアが編み込んでくれた黒縄があろうとも、相手が術式を放とうとする度にソレを命中させ、つかず離れずの間合いを保つなど、並大抵のことではなかった。
山ほど金を積まれようとも、幾つ命があろうとも、とてもじゃないが割に合わない。
それでもミゲルはやり遂げた。
黒縄の大量消費と引き換えに自らの役割を全うし、術師殺しとの共闘に持ち込んで、五条悟を戦闘不能にまで追い込んだのだ。
『(頑張ッタ!よくやった俺!偉い!偉いゾ!!)』
内心でガッツポーズを決めた彼は、奮闘の対価を得るべく、天内理子の遺体と共に依頼主の元へ向か
「五条くんから、離れろっっ!!!」
なんか星漿体が覚醒した。
生得術式に目覚め、反転術式を会得した挙句、黒閃をぶっ放してきた。
『(......よし、帰るカ。)』
これ以上続けても碌なことにならない。そう判断したミゲルは、掌ほどのサイズしか残らなかった黒縄と共に、職場放棄を決行した。
◆
それから暫くは面倒ごとに巻き込まれないよう、ひっそりと国内に潜伏していたのだが、
『よお久しぶり。』
『ゲッ、六眼!?ナンデ!?』
ある日突然ミゲルの元に来客が現れる。それは、数ヶ月前に瀕死の重傷を与えた筈の五条悟だった。
天逆鉾で穴だらけになったはずのその身体は、すっかり元通りになっている。
『あの時逃げて正解ダッタな。アレから何があったんだ、一体....』
『まあ〜色々だよ。話すとちょっと長くなるから割愛ね。』
ミゲルは肌で感じ取る。再会した化け物の卵はすっかりその殻を破り、現代最強の術師へと進化を遂げていた。今のミゲルでは逆立ちしても到底敵うはずもない。
死を覚悟した彼の脳内には、故郷の風景とババアの笑顔が瞬時にして駆け巡った。
『俺を始末しに来たんだナ?とっとと済ませロ。』
『いやいや、そんな事はしないって〜。』
『なるほどナ。......楽に死なせちゃくれナイわけカ。』
『いやそうじゃなくて。』
『俺1人の命ジャ気が収まらないのカ!?まさか俺の故郷にまで手を出すつもりじゃないだろうナ!?』
『僕の事なんだと思ってる?』
五条の態度にミゲルは困惑する。殺意は感じられなかった。どうやら報復に来たわけではないらしい。
『何しにキタ?と言うか、どうやって俺の居場所を見つけタ?』
『たまたまだよ。偶然アンタを見掛けてさ〜。』
『嘘はやめロ。』
『あ、バレた?実は2個下の後輩に、僕をチョーーー慕ってくれてる奴がいて〜
『嘘はやめロ。』
『その決めつけは酷くない?』
どうやら伊地知潔高という高専の学生が、呪詛師の潜伏先になりそうな場所を片っ端から調査したらしい。その内の1つが見事に的中したというわけだ。
『まあ、再会を喜ぶのはこれ位にして、本題に入ろうか。あ、この辺で美味しいお店知らない?食べながら話そうよ。』
『早速、脱線するナヨ.......マックでいいか?』
『え、マジで言ってる?そこはアフリカ料理とかじゃないの?地元愛とかないわけ?』
『日本のエセアフリカ料理が、俺の舌に合うわけないだろ。』
ミゲルに昼飯代を全額出させた五条は、トレーを手に隅の席へと座りこむと、ようやく主題をきりだした。
『知ってると思うけど、高専は年中人手不足でさ。猫の手も借りたいってわけ。要はスカウトだよ。アンタには高専で働いて貰いたい。』
『お前も物好きダナ。俺のような奴に声を掛けるトハ。因みに、断ればどうなる?』
試すような発言をするミゲルに対し、ニヤリと笑う五条は手にしたガラケーを操作する。
『あ、もしもし。総監部のおじいちゃん?ミゲル・オドゥオール見つけたよ〜。そうそう、星漿体暗殺未遂事件の首謀者で、捕まったら秘匿死刑まっしぐらの、ミゲル・オドゥオール〜。』
『オイ、ちょっと待て!首謀者!?何か罪状盛られてナイカ!?』
『え、なになに?ありったけの術師向かわせる?ミゲルの居場所を教えろ?えーーっと、
『分かった!言う通りにする!高専で働いてやるヨ!!』
『あ、ごめんおじいちゃん。人違い!そうそう。ミゲルじゃなくて、通りすがりのボビー・オロゴンだった〜。じゃあ切るよ〜。』
これがミゲルの更なる苦難の始まりだった。
◆
『ミゲル〜。この任務なんだけど、等級詐欺臭くてさ〜。メンバー的にちょっと不安だから、ヘルプに入ってあげてくんない〜?』
『ミゲル〜。僕さぁ、総監部に呼び出されてんだけど、用事があって行けそうになくてさ〜。アイツらに伝言頼んでいい?『そんなんだから禿げるんだよ、ばーか』って。あ、ごめん。ミゲルも禿げてるっけ?』
『ミゲえもん〜。僕、新しい無下限呪術思いついたんだよ〜!もう、えっぐいやつ!!......それでさ。丈夫なサンドバッグが欲しいんだよね。』
ミゲルは五条悟の下で、雑用から特級任務にまで及ぶ様々な無茶振りを充てがわれるようになっていた。
『勘弁してくレ!!五条悟!!!』
多少は自業自得とはいえ、現代最強と共に過ごすミゲルの高専生活は、余りにもハードなものだった。
しかし、そんな彼にも手を差し伸べる人間が現れる。
『ダメじゃないか悟。ミゲルさんをいじめちゃ。』
それが夏油傑だった。
『君が試そうとしてるその新技って、あの時のアレだろう?』
『そうそう!いや〜、あん時はちょっとやばかったよね。危うく富士山が日本一の山じゃなくな
『人に向けるのはダメだ。絶対。』
『大丈夫、大丈夫。今度は出力ミスんないって!まあミスっても、ミゲルなら耐えるって〜。』
現代最強の術師へ対等に接することができ、時にはブレーキ役にもなってくれる夏油は、ミゲルにとって非常にありがたい存在だったのだ。
『すいませんねミゲルさん。悟も彼なりに貴方の事は信頼してるし、気に入ってもいるんですよ。』
『そうは思えないんダガ......』
『彼は少し天邪鬼なんですよ。雑に絡まれるのは好感度が高い証拠です。まあ、慣れれば可愛いく見えてきますよ。』
『アイツが、可愛い...?アイツが...!?』
『そんなに引っ掛からなくても。』
夏油傑は不思議な男だった。いつもの柔和な表情の奥に強い意志を宿し、不思議と人を惹きつける形容し難い魅力を放っていた。
『......夏油傑、だったか?お前がまとも寄り(当社比)で安心したヨ。五条悟の同期っていうカラ、同類のクソガキを想像してタ。』
『ははっ、硝子が聞いたら憤慨しそうな発言ですね。』
『できることなら俺モ、お前みたいな人間の下で働きたいヨ。』
『じゃあ、試しに働いてみます?』
夏油はおもむろに取り出した名刺をミゲルへと手渡す。少々仰々しいデザインのソレには『宗教法人・天星教代表 夏油傑』と記されていた。
『なんだコレは?』
『立ち上げたばかりの団体なので、人手が足りないんですよ。頭数だけなら手持ちの呪霊で何とかなるんですが、結局は一定の術師が必要になってくるので。』
『誘いは嬉しいが、五条悟がなんて言うカ......』
『それなら、私の方から悟に話しておきます。多分オッケーしてくれると思いますよ?』
五条悟から解放されたい。そんなミゲルの願いはアッサリと叶えられる。それから彼は夏油傑の下、天星教関連の様々な任務に就くようになった。
相変わらず激務には違いなかったが、待っていたのは五条悟が上に就くよりは100倍マシな待遇。
着々とそこでの任務をこなしていったミゲルは、夏油からの敬語が取れた頃、正式に天星教の幹部として認められるようになっていた。
◆
『ミゲル〜。私たちの方が先輩だからね〜。』
『分かんないことはなんでも聞いていいよ〜。』
加入した天星教では“家族”たちとの出会いもあった。
『そうカ。頼りにしてるぞ、美々子に菜々子。』
『え、美々子“さん”に菜々子“さん”でしょ?』
『礼儀がなってないよ、新入り〜。』
『ぶっ飛ばすゾ、クソガキ。』
幹部としては1番の古株で、本部では常に夏油について回っている双子の少女たち。
生意気だが真っ直ぐな心と優しさを持っていた、枷場美々子と菜々子。
『ミゲルちゃん。貴方も私と同じで、傑ちゃんにゾッコンなクチでしょ?』
『いや、俺はそんなんジャ、
『ふふっ照れちゃって。まったくこの団体、あの人が大好きな人しかいないじゃない。天星教じゃなくて、傑ちゃんファンクラブに改名した方が良いんじゃないかしら。』
夏油傑という存在に惚れ込み、家族である教団メンバーにも深い愛情を持って接していた、影の実力者・ラルゥ。
『一応訂正させて貰おう!傑さんの望む世界の為、我らは呪いに恵まれた者としての使命を全うし、この命を賭ける所存だ!彼の事を慕いこそすれど、ファンクラブのような浮ついた心持ちではない!断じてだ!』
『で、お前が身につけてるソレはなんだ?』
『天星教が信者向けに販売している、傑さんTシャツだ!』
『いやモウ、完全にファンクラブだろ。』
『何を言うんだ!傑さんの大願の為、天星教には費用が不可欠!このようなグッズ展開も、千里へと至る尊き一歩なんだ!だからミゲル、君も一つ買うといい!
真面目で責任感が強く、一度決めた道は決して曲げない。夏油の掲げる理想に誰よりも惹かれていた、直情型の若き青年・祢木利久。
『さあ皆んな。顔合わせはこれ位にして仕事に戻るわよ。』
術師・非術師に関わらず信者達に分け隔てなく接し、教団の事務仕事などをほぼ引き受けていた、縁の下の力持ち・菅田真奈美。
『そして余裕ができた者から、傑さんの仕事を奪いに行きなさい。今日こそは、あの人の連続徹夜記録をストップさせるわよ!!』
『『『『おーーーー!』』』』
『色々と凄い団体ダナ......』
夏油傑に救われた者、夏油傑を救いたい者、夏油傑を愛する者、夏油傑の理想に殉じたい者、夏油傑の側にいたい者。
目的も素性もバラバラの6人を繋いでいたのは、夏油傑への共通した想いだった。
彼らは“家族”として正しき呪いを説きながら、理想の為に一丸となって動いていた。
◆
『お疲れミゲル。早速それ調伏するよ。』
強力な呪霊の“捕獲”任務。ミゲルの任される主な仕事はそれだった。
『特級仮想怨霊の捕獲、ご苦労だったね。派遣先が小学校の女子トイレですまない。』
その日も夏油はミゲルが連れ帰った“赤いスカートの少女“に手を翳し、澱んだ色の球体へと変えていく。
『いつもいつもご苦労な事ダナ。それ、吐くほど不味いんダロ?』
『まあ気持ちの良い味じゃないのは確かだよ。まあ、呪霊の手数なんて幾らあってもいいからね。』
以前、ゲロ雑巾味と称していたそれを、夏油は躊躇なく飲み込んだ。これこそが呪霊調伏の為の通過儀礼。こうして増やした軍隊で更に呪霊を捕獲し、更にそれを飲み込んで軍隊を増やす。
天星教のトップとなってから、夏油の操る呪霊の数はネズミ算的に増えていた。
『そうだ。付いて行かせた私の呪霊達、ちゃんと働いてくれたかな?』
『ああ。なんなら俺より勤勉ダッタよ。』
夏油は必ず、天星教の任務に就いた術師には過剰戦力と言っていいほどの呪霊を同行させる。最近は高専の術師にも、有料とはいえ同様のサービスをしているという話だ。
それを可能にするのは、呪霊操術を発展させたオート操作のプログラム。しかしそれは、夏油の呪力が本人の預かり知らぬ所で絶えず消費されていることを意味していた。
彼の身体にかかる負担は想像に難くない。
『最近また、仕事のペース上がってきてるダロ。チョットは休んだらどうだ?』
『そうもいかないよ。数ヶ月前の災害で呪霊が活性化してるからね。まあこの1ヶ月頑張って、事態が落ち着いたらしっかり休む。約束するよ。』
夏油はそう答える。手にしているスムージーは、呪霊を取り込んだ後の口直しになるようにと、菜々子が手作りして仕事場に常駐させているものだ。
『よし言ったナ。じゃあ縛りを結ベ。』
『そんな大袈裟な......』
『こうでもしないと、何だかんだでセルフ残業するだろ?お前は。天星教がブラック企業になるのは御免ダ。』
夏油本人は周りから心配されぬよう、取り繕う事が多かったが、彼に対して常に目を光らせている家族達が、それに気付かないはずもない。
ちょくちょくキツめに叱られては、不服そうな顔で毛布の中へと叩き込まれる。それこそが、幹部達だけが知る天星教トップの不器用な素顔だった。
『マッタク。そこまでして何をしようとしてるんダカ。』
『そう言えば、ミゲルにはちゃんと話してなかったね。良い機会だ、少し時間を貰えるかな?大事な話がある。』
夏油の表情が引き締まる。彼はその理想を一言一言噛み締めるように口にしていく。
『私には夢がある。呪霊の居ない世界を作りたいんだ。その為に、ゆくゆくは人類全てを術師にしたいと、そう思ってる。』
『......ソレは、また大きく出たな。』
『術師だけが命を賭ける今の世の中を変えたい。誰もが正しい呪いを学んで、その力で誰かを救えるような、そんな世界を目指したいんだ。』
『......好き勝手に呪詛師やってた俺には、耳が痛い話ダナ。』
『君だって、今は救う側の人間だろう?うちでも評判になってるよ。ミゲルが加わった任務は、人員・周辺被害の小ささが段違いだってね。』
『....それより本気か?全世界術師化?水を差すようで悪いが、茨の道ダゾ。』
『まあ厳しいだろうね、正直。もし私がこの先1000年生きれたとしても、実現できるかどうか。』
『それが分かってるナラ、
『でも諦めたくはない。この世界は美しいって、そう言ってくれた友人がいるんだ。彼女の思いに背くわけにはいかないよ。』
自然と夏油の手は、自身の一張羅である学ランへと伸びていた。
『それに今やっている事は決して無意味なんかじゃない。たとえ私が志半ばで死んだとしてもだ。私の意志を継いだ誰かがいつか必ず理想を叶えてくれるって、今はそう信じれる。』
夏油傑が己が理想を掲げてから数年。天星教の教祖として、彼には沢山の苦難があった。夢と現実とのギャップに押しつぶされそうなる日もあった。
それでも迷って迷って迷い抜いて、漸く自分なりの答えを見つけた。
『私はね、茨の道をガムシャラに歩いて、一つでも多くの足跡を残したいんだ。後を追う者の道標になるようにね。きっとそれが私に与えられた役割なんだ。』
夏油はその手を差し伸べる。
『その為に君の力を貸してほしい。頼まれてくれるかな?ミゲル。』
その瞬間こそがミゲルにとってのターニングポイントだった。それまで、生まれ持った力の意味など考えたことも無かった彼は、この日初めてソレを理解する。
不器用で愚直な目の前の青年を支える事こそが、己の果たすべき役目なのだと。
『任せてオケ。無茶な頼みには慣れテル。』
ミゲルもまた答えを出していた。一歩を踏み出して、忠誠を誓った王の手を握りしめる。
◆
それから1年、また1年とあっという間に季節は流れ、時は2017年。美々子達が15歳となった頃。
『新しい特級術師だっテ...?』
『ああ。この前挨拶しに行ったんだ。天星教への勧誘には失敗したけど、なかなかいい子だったよ。ほら、君も憶えてるだろう?例の特級過呪怨霊の』
夏油の執務室に呼び出されたミゲルは、書類の山の向こう側からの世間話に耳を立てる。それが面倒な仕事への前振りだと、察しながら。
『特級過呪怨霊って、あれカ?お前が取り込めなかったっテいう。』
『取り込まなかったと言って欲しいな。愛し合う2人を引き剥がす趣味はないからね。まあとにかく。その大型新人の教育を君に任せたいって、悟が。ってことで、早速アフリカに飛んでくれるかな?』
『ハァ!?』
ミゲルのリアクションと同時に、書類の山はドサリと崩れる。散らばった一枚一枚を拾い集めながら、2人の会話は続いた。
『なんで?なんで俺なんダ?なんでアフリカなんダ...?』
『彼、菅原道真の子孫らしくてさ〜。最近どんどん力をつけてて、全力を出せる相手も場所も限られる。次いでに、黒縄の捜索もお願いしたいしね。』
『いつもいつも面倒なコト引き受けてきやがっテ...』
相変わらずの無茶振りに愚痴を溢すミゲルを、夏油は笑顔で取り成していく。
『ミゲル、君にしか頼めない事なんだ。ダメかい?』
『......やらないとは言ってナイだろう。』
断りきれず、後で悔やむのを分かっていても、何だかんだで引き受けてしまうのがミゲルという男だった。
結局彼は、特級術師の少年と共に祖国へ旅立つ事となる。
『アフリカ土産、楽しみにしてるよ。気を付けて行ってきてね。』
『オマエの方こそ、オレがいない間に無茶するなヨ。』
そんな何気ない掛け合いが、最期に交わしたやり取りとなる事に、2人はまだ気付いていなかった。
◆
新たな化け物の卵と共に、アフリカへ渡ってから数ヶ月後。彼に師事していた乙骨憂太はメキメキと力をつけていた。
『乙骨、お前は気持ちの優しい奴ダ。どれだけ最強に近づこうとも、心まで五条悟になるナヨ。』
『五条先生のこと、何だと思ってます?』
それこそ第二の五条悟になるのではないかと、ミゲルが本気で心配するくらいには。
『そう言えばミゲルさん。さっきの連絡、五条先生からですよね?あの人何か言ってました?』
『......いや何でもナイ。修行を続けるぞ、乙骨。』
そんなある日、ミゲルの元に届いたのは夏油失踪の知らせだった。
『アイツの事だ。忘れた頃にフラッと戻ってくる。ダイジョウブ、ダイジョウブだ、.......きっと。』
こんなにもアッサリと、自分の手が届かないところで、夏油傑が終わるわけなどない。
そう信じた。信じたかった。
夏油は必ず帰ってくる。ならその時まで、自分はただやるべき事を全うするだけだと。
そして更に時は流れ、2018月10月31日。運命の日がやってくる。
『一体、なにが起きテル...?』
渋谷事変の発生と同時刻。ミゲルらが滞在していたアフリカでは、大規模な呪術テロが発生していた。
現れたのは合わせれば7桁を悠に超えるであろう呪霊の群れ。アフリカの都市13ヶ所が同時多発的に襲撃される。
『コレは、夏油の......』
まるで”自動で操られている“かのように統制された呪霊達。見覚えのあるその動作に、ミゲルの胸は騒いでいた。
そんな彼らの元に、縛りから解放された菜々子のメッセージが届く。
『何てこっタ...』
夏油傑の死。
その死体を操る巨悪。
五条悟の封印。
渋谷で行われる大規模テロ。
悲しみに暮れる暇もなく、余りにも多すぎる情報量がミゲルの頭に流れ込んだ。
『ミゲルさんは家族のところへ行ってください!ここは僕と“里香”ちゃんで何とかします!!』
『すまン!恩にきル!!』
教え子達に祖国を任せたミゲルは、彼の”模倣“した力を借りて、大急ぎで日本へと帰ってくる。
「あの、どちら様...?」
『お前が助けてくれタ、美々子と菜々子の家族ダヨ。』
そして渋谷の地で、ラルゥ達や、美々子と菜々子。そしてその命の恩人である九相図(賀茂ヒカリ)との合流を果たした。
『状況を教えロ。俺たちにできる事があれば、協力してやル。』
「えっと、ですね。今、僕の大切な人が、宿儺に身体を乗っ取られてるんです!」
『両面宿儺、か...』
呪いの王のその悪名も、敵に回すことの恐ろしさも、異国出身のミゲルでさえ当然知っている。
自分たちがここへ来た目的。それはあくまで、夏油傑の遺体を奪還することだ。
最悪の術師との戦いを前に、最凶の呪いを相手取る余裕などあるはずも無い。
だが、
『僕の婚約者である優しいあの人の身体で、これ以上誰かが傷つくのは嫌なんです!僕と永遠の愛を誓ってくれたあの人を、何とかして救い出したい!その為に、どうか力を貸してくれませんか!?」
自身を見つめる九相図の真っ直ぐな目に、ミゲルは憶えがあった。
大切な人の身体を利用される悲しみや怒りも、それを救いたいと願う気持ちも、彼は痛いほど知っている。
美々子と菜々子を助けてくれた恩を差し引いても、見て見ぬフリなどできるはずも無い。仲間たちも思いは同じだった。
ミゲルは新しき術師の手を取る。
『安心シロ。無茶振りに答えるノガ、俺たち天星教の得意技ダ。』
◆
『百花繚乱』
『硝煙弾雨』
『
九十九由基の領域から脱出を果たした手負いの宿儺に、ミゲル達は強襲をかける。
掌の虚像とガラスの刃がその動きを止め、周囲には艶やかな花びらが舞い始めた。
【何だ?貴様らは。】
『呪いの王も、意外とアンテナが低いんだナ。俺達を知らないとハ。』
天星教の幹部4人と賀茂ヒカリは、呪いの王へと挑みかかる。
『死んだらアッチで祟るぞ、夏油。』
強く握り締められたミゲルの手には、乙骨とのアフリカ遠征の際回収した黒縄が携えられる。
『由貴ちゃんのお陰で、反転の出力も落ちてる!一気にキメるわよ!』
宙を舞う花びらは真奈美の術式・百花繚乱によるもの。直接的な殺傷能力を持たない代わりに、宿儺の呪力探知を絶えず妨害していた。
ラルゥと利久の不意打ちに対し、彼の反応が遅れたのも、それが一因である。
【興を削ぐな羽虫どもが。】
利久の術式・硝煙弾雨に両足を貫かれ、ラルゥの掌に身を覆われようと、宿儺が揺らぐ事はない。
【どいつもこいつもつまらん術式だ。期待できそうなのは転生者と、お前くらいか?異国の術師。】
宿儺の眼にミゲルの姿が映る。グラサン越しに2つの視線が交錯した。
『呪いの王直々にご指名トハ、光栄ダナ。』
【ガッカリさせてはくれるなよ。】
宿儺の十八番である不可視の刃がミゲルの身体へと刻まれた。しかし、ソレで倒れるミゲル・オドゥオールではない。
『九十九由貴にこっぴどくやられたカ?斬撃の出力、随分落ちてるナ!』
彼は自身の術式・祈祷の歌によるバフとデバフで、宿儺の刃を正面から受け切っていた。
『故郷からの土産物ダ、ありがたく味わエ!!』
御厨子の発動スピードは無下限呪術のソレを上回る。そのため、逐一黒縄を当て続けるのは現実的ではない。その為ミゲルは、手にした黒縄で呪いの王の首を直接締め上げる。
【妙な呪具だな、術式が乱される。】
ソレを引き千切ろうとする宿儺の腕には、何処かから現れた氷の式神がしがみつき、一気に氷結する事で自由を奪う。
『よし、今ダ!!!!』
後方で待機していたヒカリが動き出し、術式と身動きを封じられた宿儺へと、一気に距離を詰め
【コレも中々役に立つ、味の方はいまひとつだがな。】
不敵な笑みと共に呪いの王は口を開く。その中では、豆粒サイズの結晶が純白の輝きを放っていた。
『おい、何ダアレは!?』
九十九の最後の攻撃で反転の出力が弱まる前に、宿儺は予め自身の反転術式を結晶化しストックしていた。それを噛み潰すと同時に、彼の全身を正の呪力が駆けめぐり、負っていた傷を癒していく。
『マズイわ、宿儺が回復する!!!』
九十九からのダメージが想像以上に大きかった分、完全回復には至らない。それでも宿儺は小蝿を払うには充分な力を取り戻していた。
【気安く触れるな、身の程知らずどもが。】
身体の自由を手にした彼は、二重の黒い火花が連なる蹴りで、目前まで迫っていヒカリを蹴り飛ばした。黒閃の効果で宿儺の回復は加速する。
『クッソ、逃すカ!!!』
自らに迫る危険を肌で感じながらも、ミゲルは手にした黒縄を離さない。何としてでも術式だけは食い止めようと踏ん張るが、
【それでいい、そのまま離すなよ。】
それを嘲笑うかのように、呪いの王は御厨子の構えをとる。
【せっかくだ、お前の土俵で戦ってやる。】
黒縄の唯一にして最大の弱点。
それは使用の度に消耗してしまう事。そしてその消費速度は、相殺する術式の質と量に比例する。
【その玩具はいつまで持つ?】
黒縄に対し、呪いの王が選んだ手段は堂々たる正面突破。
直後に繰り出された数百振りの斬撃は、宿儺に巻き付いていた黒縄が全て焼き切れようとも止めきれない。
【想像以上に手間取ったな。全て使い切らせるのに5秒もかかるとは。】
『お前ら、離レ......
降りしきる斬撃の雨は天星教の術師達やヒカリへと襲いかかり、その身体を両断した。
【よし、貴様らにもう用はない。退がれ。】
宿儺が自身に課した縛りによって、ミゲル達や九十九由貴に対して彼がトドメを刺すことはできない。故に、死なない程度の斬撃でその手足を捥いでおく。
【ああすまん。その為の手と足はもう無かったな。ククッ、いいぞ。少しは礼節を弁えたとみえる。】
遊び相手を失った宿儺は、所在なげに辺りを見回す。倒れ伏した遊び相手だった者を、当然のように踏み付けながら。彼の目に留まったのは、四肢を失ってもがき苦しむ賀茂ヒカリだった。
【そんなものか転生者?期待はずれもいいところだ。死滅回游とやらも、貴様のようなつまらん相手ばかりではないだろうな?......ん?】
そこで宿儺は、未だに宙を舞う花びらの存在と、燃えるような胸のトキメキに気付く。
【何だこれは?あの術師から目が離せない...!】
『一度っ、掴んだ......相手はっ、たとえこの手がなくてもっ、心を鷲掴みにできる!!!!』
両手を失いながらも発動したラルゥの奥の”手“によって、呪いの王の視線は彼女の魅力的な身体へと釘付けにされる。
『はぁ、はぁ、天星教、舐めんじゃないわよ.....!』
菅田真奈美もまた、自身の術式を解除していなかった。宿儺の呪力探知は未だ妨害され続けている。
【下らん妄執だな。ほんの一時思考を乱される程度では、大した脅威にはならん♡】
ラルゥに熱い視線を送っていた宿儺が、横目で第二の異変を察知したのはその直後だった。
自身の足元に倒れていた賀茂ヒカリの身体にヒビが入り、ガラスの彫像へと戻っていく。
【(転生者のガキは偽物!恐らく、俺の前に現れた時から♡)】
『理想の世界のため、全身全霊を賭けることこそ、我らが絶対の教義!!!!』
祢木利久もまた死力を尽くし、ギリギリまで自身の術式を維持していた。真奈美の呪力探知妨害と相まって、彼の奮闘は宿儺を欺ききる。
呪いの王は、彼自身がつまらないと蔑んだ術式達に足元を掬われていた。
【(ならば、本物のラル、....賀茂ヒカリはっ...♡)】
利久が操作していたヒカリを模した硝子像。その胸には、とある術師が座標を特定する為のマーキングが刻まれていた。
『繰り返しになりますが、この貸しは高くつきますよ。姉様にそれを返すまでは、どうかご無事で。』
憂憂の術式によって、脹相呪力モードへと変身を遂げた賀茂ヒカリが宿儺の目前へ転送される。
「お兄ちゃんを、
『俺の弟を、
「『返してもらうぞ!!!!』」
ミゲル達が仕掛けたのは術師の常套手段。勝利を確信した者への急襲。
しかし、宿儺にそんな凡策は通用しない。たとえ、両目にハートマークを浮かべて、ラルゥにゾッコンになっていようとも。
【羽虫どもがっ...♡♡♡】
脹相呪力モードとなったヒカリは、その全身を強固な血の鎧で覆っている。その防御を押し通りヒカリを確実に沈める為、宿儺はラルゥをガン見しながらも世界を断つ斬撃に備える。
【龍鱗・反発・番のラルゥ♡ん?】
宿儺は呪詞を断念し攻撃手段を切り替える。通常の御厨子では火力不足と考えた彼は、再び
【これはっ、黒縄......?】
灼熱の釜は炎を吐き出す寸前で閉じられる。宿儺の術式は突如乱され、発動が中断されていた。
『思い出は、大事に取っとくモンダナ...!』
ミゲルが“乙骨とのアフリカ遠征時に“持ち帰った黒縄は、既に消滅しきっている。
彼が土壇場で使ったのは12年前の忘れ物。夏油と自分を巡り合わせたキッカケである、星漿体の暗殺任務で使用した黒縄の出涸らしだった。
『今になってようやくお前の言いたいことが分かったヨ。俺モ少しはお前のように歩めたカナ?夏油。』
黒縄はその役目を終えて燃え尽きる。それと同時に、ヒカリの手は反撃に出遅れた宿儺へと触れていた。
「お願い、力を貸して。美々子ちゃん、菜々子ちゃん!」
彼女のもう片方の手には、夏油傑の忘れ形見が、菜々子からヒカリへと託された携帯電話が握られている。
その中の写真には、某遊園地で撮影された“宿儺の指を大量に取り込む前”の虎杖悠仁が映っていた。
【この術式はっ...!】
賀茂ヒカリの術式。それは模倣。
その条件は、“彼女の憧れるプリンセスの能力”という、主観に左右される曖昧なもの。
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『...意外だね。キミはもっと利己的な人物だと思っていたよ。どうしてそこまで、枷場美々子と菜々子にこだわるのかな?』
「そんなの決まってるでしょ!彼女達が、“プリンセス”だからだよ!」
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大好きな人を取り戻すために、その意志を継いで、命懸けで戦っていた枷場美々子・菜々子。
ヒカリは彼女らを、”プリンセス“だと認めていた。
その時点で、菜々子の術式・
「戻ってきて、宿儺様!!!」
『戻ってこい、悠仁ぃ!!!』
天星教、高専の術師、特級術師、九相図、転生者。立場も信条もバラバラの彼らは、誰かを救う正しい呪いの下に集い、力を振るう。
夏油傑の思い描く理想を道標として。