宿儺「どけ!!!俺は主人公の相棒だぞ!!!」   作:バケギツネ

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背伸び

 

 

【あのガキと同じ術式か。】

 

 宿儺に対し発動した枷場菜々子の術式。それは対象の状態を、予め写真に収めた時のものへと変化させる。

 

 そして形状記憶(メモリーズ)を模倣したヒカリの手には、菜々子本人から預かった携帯電話が握られていた。

 

「ありがとう菜々子ちゃん!それに天星教の皆さんと憂憂くんも!大成功だよ!」

 

 そこに表示されているのは、渋谷事変以前に撮影された虎杖悠仁の写真。

 

「お兄ちゃん聞こえる?もうすぐで偽者から身体を取り返せる筈だから!大体あと30秒!もうちょっとの辛抱だよ!」

 

『ナイスだヒカリ。今の開示で術式の発動は更に早まる。』

 

「え、脹相。開示って何?」

 

『よし、後で教えてやる。』

 

 虎杖悠仁の身体は巻き戻ろうとしていた。10本を超える指を取りこみ、すっくんが宿儺を制御できなくなる以前へと。

 

【転生のガキめ、余計な真似を。】

 

 不覚を取った呪いの王は、自身から久方ぶりの自由を奪った元凶をその四つ目で睨みつける。

 

【貴様。術式による模倣の対象を、他者の術式にまで押し広げたな。】

 

「え、そうなの?」

 

【新たな縛りによる模倣条件の変更か?いやそんな素振りはなかった。恐らくは模倣の条件をそのままに、自身の主観によって解釈を拡張させた。そんなところか?】

 

「んん?ごめんもう一回言って?」

 

【......全く忌々しい。】

 

 ヒカリの模倣対象は、“彼女がプリンセスだと認めた者”の能力であり、それさえ満たせばあらゆる術式・体質が一定の出力制限の下で再現可能となる。

 

 仮にヒカリが錯乱して両面宿儺をプリンセスだと認識しようものなら、御厨子を再現する事もできるだろう。

 

【さて、これからどうしたものか。】

 

 近づくタイムリミットを前にしても宿儺の余裕は崩れない。彼は冷静に現時点の最善手を模索していた。

 

【恐らく写真機を壊しても意味は無い。仮に貴様や双子のガキが死んでも、術式は発動するとみた。領域展延でどうにかなる類でも無さそうだ。】

 

 宿儺の推察通り、一度発動した形状記憶(メモリーズ)は、術者の死や記憶媒体の損傷では止まらない。

 

 その性質上、領域展延を用いた中和もできなかった。

 

【あの奇妙な呪具があれば話は違っただろうが......】

 

 宿儺は近くに倒れたミゲルに視線を移す。その頑丈さ故に、彼は天星教幹部の中で最も傷が浅かった。

 

『悪いナ。黒縄ならもう一欠片も残ってないヨ。誰かサンが全部使い切ったんデナ。』

 

 あらゆる術式を中断できる黒縄は、他ならぬ宿儺の手によって完全に消滅している。

 

 サングラスが砕けて露わになった素顔で、ミゲルは自身を見下ろす呪いの王を逆に睨み返していた。

 

「(あのボ○ー・オロゴンみたいな人、意外とイケメンだな。)」

 

【まったく、してやられたな。】

 

 今の宿儺に形状記憶(メモリーズ)に抗う術は無い。

 

「さあ偽者、早く引っ込んで!これから僕とお兄ちゃんによる感動の再会からのイチャイチャシーンが待って...ぷぎゃあっ!!」

 

 黒い火花が二度散る。ヒカリの目前に迫った宿儺は、その拳で彼女の顔面を撃ち抜いていた。

 

 血の鎧が砕ける音を置き去りにして、ヒカリは後方へと吹き飛ばされる。そのまま彼女は、向かいのビルに頭から突っ込んだ。

 

『ヒカリ、大丈夫か!?』

 

「はぁはぁ、全然っ、大丈夫...!...だから脹相、5人に分身して回転しなくても大丈夫だよ...!」

 

『何が見えてる?気をしっかり持て!』

 

 連戦と呪力の大量消費による疲労。ヒカリの精神と肉体には同時に限界が訪れる。

 

「ごめん。また僕、眠っちゃうみたい。」

 

 彼女の魂は、脹相の中に引っ込みかけていた。

 

「今回はだいぶ無茶したし、次はいつ出てこれるか分かんないかも。」

 

『それなら悠仁の相棒に、伝えておきたい事が山ほどあるだろ?俺でよければ取り継ぐぞ。』

 

「お、気が利くじゃん。さすが僕の相棒〜。」

 

 一心同体の同志に脹相は声をかける。その声色は兄弟達へ向けるものとはまた違った暖かさを帯びていた。

 

 交わした時間こそ少ない2人だったが濃密な戦いを共有した事で、その気持ちを確かに通じ合わせていたのだ。

 

「えっと、そうだな...じゃあ、お兄ちゃんに伝えて。絶対、絶対、死んじゃダメだって。必ず無事に帰ってきてねって。そしたら、」

 

 ヒカリの頭に浮かんだのは、握り締めたままの携帯に映った写真の場所。愛する人と一緒に過ごした夢の国で、乗りそびれたアトラクションの事だった。

 

「そしたら、今度こそ一緒にス○ラッシュ・マウンテン乗りに行こうねって。」

 

 笑顔でそう告げると同時に、ヒカリの意識はゆっくりとゆっくりと微睡の中へ堕ちていく。

 

『ス○ラッシュ・マウンテン...?山か!分かった、アイツと山登りがしたいんだな。確かにそう伝えておこう。』

 

「え、ちょっとま

 

 ヒカリの意識は休眠状態に入る。

 

『ヒカリの奴、意外に渋い趣味をもってるんだな。まだまだ互いに知らないことも多い。』

 

 呪力の大半を失った脹相は、ダメージの残る身体を引き摺って前へと進む。

 

『次の機会にじっくり話し合いたいものだな。弟達にも紹介したい。その為に、この場を切り抜けなくては。』

 

 脹相の視線の先には不機嫌そうに腕を組む呪いの王の姿があった。彼は祈るような思いで、その一挙手一投足を注視する。

 

『打てる手は全て打った。悠仁は戻ってくる、その筈だ。だから!頼むから、もう何もするな....!』

 

 彼の心を映すように、宿儺の背後には暗雲が広がっていた。

 

 

 

 

 

【人を殺せぬ縛り。ここまで煩わしいとは思わなかった。】

 

 すっくん達を抑え込む為、宿儺が結んだ人を殺さぬ縛り。その効力は未だ健在だった。

 

 九十九由基、天星教、賀茂ヒカリ。自身に辛酸を舐めさせた者たちを、憂さ晴らしに殺す事もできない。

 

【もう少々、殺さぬ程度に痛めつけておくか?いや、これ以上やって死なれては敵わん。そんな些事に費やす暇も無いしな。】

 

 周囲の敵が全員深手を負っている今、殺傷力の高い御厨子の使用は、アフリカ象が足元のアリを潰さずにブレイクダンスをかますのに等しい。力加減に気を遣うどころの話ではないのだ。

 

 宿儺の思考は自ずと、身体を奪い返された後にどう動くかへとシフトしていく。

 

【(さて、小僧の身体が巻き戻った時、俺の指はどうなる?)】

 

 彼が注目したのは、今の自由のきっかけである自身の分身だった。

 

【(小僧の体内から指が消えるのは確かだろうが、たかが一術式で特級呪物が消滅するとは考えづらい。恐らく、写真の後に取り込んだ指10本は、身体の近くに排出される。それを再び取り込めば。)】

 

 呪いの王は光明を見出す。

 

【(使うか?“契闊”を。)】

 

 ヒカリも、すっくんも、他の誰もが知らなかった。宿儺には最後の切り札があることを。

 

 

 

 

 

 

 

『日下部篤哉、冥冥、灰原雄、猪巻棘、それに突然変異呪骸。意外と粘るね。よく頑張ってるよ、最近の術師にしては。』

 

『うっせえ。汗ひとつかかねえでよく言うよ。』

 

 宿儺戦の場所からそう遠くない地点では、日下部率いる高専の術師達が羂索と相対していた。

 

 しかしその戦況は、お世辞にもいいものとは言えない。

 

 呪術師達がどれだけ手駒を削ろうとも、羂索は新たに呼び出した呪霊によって、盤面をリセットしてしまう。

 

『日下部さん!夏油さんが契約していた呪霊は、失踪時点で6桁に達してました!このままだとキリがありません!』

 

『糞ゲーが過ぎんだろうが。あんだけ頼もしかった夏油が、敵に回るとこんなに恐ろしいとはな。』

 

 灰原からの報告に日下部は天を仰ぐ。彼やその仲間の顔には色濃い疲労が浮かんでいた。

 

『しゃーねえ、お前ら腹決めろよ。本体狙いで勝負をかける!!』

 

 戦いが長引くのを不利と判断した日下部は、一か八かで大胆な攻めに出る。

 

『パンダ、乗せろ!!』

『あいよ!』

 

 “姉“の力を借りて、スピード特化の形態へと変化したパンダ(パンダじゃない)は、トリケラトプスに似たその背中に日下部を跨らせる。

 

『乗り心地には文句つけんなよ!お姉ちゃんが拗ねるからな!!』

 

 そのまま大地を駆けるパンダは、呪霊バリケードの間を縫って、一気に羂索へと近づいていく。

 

『動くな!!!!』

 

 2人に襲い掛かろうとする他の呪霊は、猪巻の呪言に縛られてその動きを封じられていた。

 

『なりふり構わず距離を詰めてきたか。悪いけど、わざわざ君の土俵には上がらない。』

 

 マンタのような呪霊に飛び乗った羂索は、急上昇して日下部の射程から逃れる。

 

『よし、狙え冥冥!!!』

『はいはい、分かってるよ。』

 

 それを狙いすましたように烏の突撃が行われる。しかしそれでも羂索の余裕は崩れない。

 

 彼の指から弾丸のように撃ち出された小型呪霊は、特攻兵達を的確に撃墜していった。

 

『畳み掛けろ、灰原!』

 

『了解です!』

 

 それまで呪力を一点に練り込んでいた灰原が、そのエネルギーを解き放つ。

 

『装弾筒翼安定徹甲弾!!』

 

 渾身の特大砲弾が一直線に発射された。

 

『おっと、危ない危ない。』

 

 しかし羂索は、出現させた鏡の呪霊でその弾道をいとも容易く逸らしてしまう。

 

『さて、そろそろネタ切れかな?なら私も

 

『シン陰流簡易領域...!』

 

 上空に佇む羂索は、自身の正面に現れた日下部とその目を合わせる。

 

 神風(バードストライク)の烏に飛びつき、上空へと引き上げられた日下部は、地に足のつかない空中で居合の構えをとっていた。

 

『大人しく斬られろ。七海じゃねえが、俺もこんな残業は終えて、とっとと解散してえんだ。』

 

 展開される弱者の領域は、最悪の術師をその内に捉える。

 

 領域にプログラムされたオートカウンターが発動し、脊髄反射で繰り出された一振りが羂索の頬を掠めた。

 

『良い工夫だ。でも不運だったね、領域(それ)は私の得意分野なんだ。』

 

『っ!?』

 

 突如として日下部の動きが止まる。彼の簡易領域に施されていたオート反撃のプログラムは書き換えられ、無効化されていた。

 

『まあこればっかりは年季の差かな?』

 

 脳にダメージを負った羂索だが、簡易領域であれば展開は可能である。

  

 そして簡易といえども領域は領域。当然押し合いも発生し、勝利すれば相手の領域へと干渉できる。

 

『気に病む必要はない、君の構築もなかなかのものだったよ。私と領域勝負ができるのなんて、宿儺や五条悟、後は昔の友人くらいなものさ。』

 

『そりゃ、どうもっ....!』

 

 動きが鈍りながらも次の一撃を繰り出す日下部だったが、ヘドロのような呪霊によって地面に叩き落とされてしまう。

 

『日下部!おい、無事か!?』

 

『いやダメだな、今ので俺は死んだ。そっとしといてくれ。』

 

『よし、無事だな!』

 

 日下部に駆け寄ったパンダは、雑な死んだふりを決め込む彼を尻目に、遥か高みに佇む羂索を見上げる。

 

 大した消耗が見受けられない彼に対し、高専の術師達は既に全員が限界に近い状態だった。

 

 それでも、宿儺と羂索が合流するという最悪の展開を阻止する為、彼らはここで引くわけにはいかない。

 

『そろそろ君たちの相手も飽きてきた。それにこのままだと、貴重な戦いを見逃してしまいそうだからね。』

 

 九十九と宿儺の戦いをモニタリングすべく、羂索が事前に送り込んでいた呪霊達。彼らは宿儺の術式に巻き込まれて全滅していた。

 

 またとないビッグマッチをその目に収めに行くため、羂索は余興の幕を下ろしにかかる。

 

『悪いけどここまでだ。そこそこ楽しかったよ。』

 

 羂索の傍らに立つ数十メートルの高層ビル。それに比肩するほどの巨大な呪霊が現れる。

 

『特級堕怨呪将・影正』

 

 左右非対称の歪な甲冑に包まれた骸骨は、腰の大太刀をゆっくりと引き抜いていた。

 

 月明かりに照らされるのは、ギョロギョロ動く3つの紅い目玉を団子刺しにした不気味な刀身。

 

『遠距離持ち!近づけさせんな!!』

 

『爆ぜろ!!!』

『徹甲九十一式!!』

神風(バードストライク)。』

 

 日下部の指示で呪言、砲弾、烏が飛ぶ。だがそのどれも巨人を揺るがすには至らない。

 

 その間にも影正は自身の妖刀を振り上げていた。その呪力で刀身の目玉は檸檬色に染まる。

 

『こいつはシャレになんねえぞ!お前ら、早く下がれ!!!』

 

 目玉が浅葱色へと変わる。それと同時に妖刀の一薙が振り下ろされた。消耗しきった術師達にはそれを凌ぐ余力などない。

 

『全員は避けきれねえ、クソっ!!』

 

 仲間達を背に殿を買って出た日下部は、刀を握る手に力を込める。圧倒的なサイズ差を誇る二振の剣が重なり合った。

 

『朧月っ!!!!』

 

 日下部のなけなしの呪力を乗せた愛刀は、巨大な太刀を受け止める。しかし、その力の差は残酷なまでに歴然だった。

 

『ちくしょお、なんちゅう馬力だ!地力が違いすぎんだろうがっ...!』

 

 押され始めた日下部の刀身には亀裂が広がっていく。程なくして、それはあえなく砕け散っててしまった。

 

『(クソっ!やっぱこんならしくねえ事、引き受けんじゃなかった!!)』

 

 迫りくる大太刀を前にして、日下部の脳は高速で回り始める。

 

『(これ死ぬか?ワンチャン生かしてくんねえかな、メッセンジャー的な、いやねえかここまで来て。まあ詰みだな。俺の術師人生も案外あっけねえも......

 

『日下部!』

『日下部さん!!』

『ごましお!!!』

 

 行き止まりかけた日下部の意識は、自らの名とおにぎりの具を呼ぶ、3つの声の方へと向けられる。

 

『(アイツら......おいおいなーんも分かってねえじゃん、頼むぜガキども。)』

 

 日下部の目に映ったのは、迫り来る凶刃から自身を守ろうと、必死の形相で駆け寄ってくる若き術師たちだった。

 

『(気ぃ使ってんじゃねえ、若え奴がオッサン守ってどーするよ。冥冥みてえに大人しく下がって...冥冥の奴、マジでこっちに見向きしねえな。大正解だし助かるが、アレはアレで腹立つなクソ。)』

 

 日下部は前を向く。砕けた愛刀を再び強く握り締めて。

 

『(最悪だ。せめて俺1人ならもうちょい気楽だったのによ。重てえもんしょっちまったせいで、死にづらくてしょうがねえ。)』

 

 日下部の強みは縛りなしで簡易領域を展開できる事。そんな彼は、術師生命と引き換えとする強烈な縛りを自身に課していた。

 

 彼の領域はより自由に、広大に、新たな次元へと昇華する。

 

『領域、展開っ...!!!』

 

 日下部が展開した領域擬きには、必中効果も無ければ必殺の術式も備わってはいない。

 

 外殻の形成すらままならず、穴だらけで不恰好、おまけに自身がギリギリ収まるほどのちっぽけなものだった。

 

『まあこんなもんか!ったく嫌になるぜ、未来もかなぐり捨てたのによ、化け物どもの足元にも及びやしねえ!』

 

 それでも彼は逃げはしない。背負った物を守り切るべく、目の前の壁に立ち向かう。

 

 折れた刀身から伸びるのは純白に輝く呪力の剣。

 

『ぶった斬られろ、デカブツ!!』

 

 出来損ないの領域でめいいっぱい出力を上げた一振りが、特級呪霊をその妖刀ごと両断する。

 

『はぁはぁ...!まだだっ、まだ終われねえ!せめてっ、偽夏油にもう一撃っ...!』

 

 慣れない領域に悲鳴をあげる身体へ鞭打ち、日下部は居合の構えをとる。その狙いを遥か高みの羂索へと定めて。

 

『日下部篤哉、君がここまでするとは思わなかったよ。』

 

『知ったような口きいてんじゃねえ。俺にだってな、カッコつけなきゃいけねえ時くらいあんだよ。』

 

 消耗から考えて、恐らく次の一撃が最後のチャンス。日下部はそれを無駄撃ちせぬよう、全神経を集中させてその時を待っていた。

 

『横から失礼。』

 

 その意図をいち早く察したのは、同じ一級術師の冥冥だった。けしかけた神風(バードストライク)の烏を、羂索の目前で自壊させる。

 

『直接狙ってこない、目眩しか...!』

 

 飛び散った錆色の臓物は、ほんの一瞬だけ羂索の視界を遮りその注意を僅かに逸らしていた。

 

『上出来だ、冥冥!』

 

 日下部は地に足を着けたまま、全身全霊を振り抜いた。それは、凡人を自称する彼なりに呪いの頂点を猿真似した結果。

 

(あかつき)...!!!!』

 

 背伸びした蟻の一閃は空を翔ける。

 

 彼が最後に放ったのは、宿儺と同じ飛ぶ斬撃だった。

 

『っ...!!!』

 

 羂索の前に鏡の呪霊が出現する。呪力を反射するその硝子が、飛来する斬撃を逸らそうとするが、

 

激震掌(ドラミング・ビート)!』

『吹っ飛べ!!』

『剛性核徹甲弾!!!』

 

 逸らされかけた斬撃を押し込むように、若き術師達の追撃が加わる。鏡には少しずつ亀裂が入っていった。

 

『おっとっ....!』

 

 鏡を突き破った斬撃は、羂索の身体へと突き刺さる。その衝撃は彼が背に受ける夜空へと伝わり、雲に隠れた満月を覗かせる。

 

『はぁはぁ......』

 

 自身の領域が崩壊するのと同時に日下部は膝から崩れ落ちる。もう彼には、指一本動かす力も残っていない。

 

 そんな日下部の耳に響いたのは、絶望の一声だった。

 

『すまないね。どうも私は相手を過小評価するきらいがあるみたいだ。』

 

 日下部の視線の先には、無傷で地面へと降り立った羂索の姿があった。

 

『クソォ......!』

 

『我ながら悪い癖だとは思ってるんだけどね。千年も生きていると、性格っていうのはそう簡単に変わらない。こんな所で特級を無駄遣いするとは思わなかったよ。』

 

 日下部の斬撃が命中した箇所には、美しい白き鱗の龍が瀕死の状態で張り付いていた。

 

 夏油の呪霊の中で最高硬度を誇っていた虹龍。羂索の呪力でさらに防御を固めたそれは盾となり、その身を犠牲に偽りの主人を守っていた。

 

『パンダ君、猪巻君、日下部さんを頼む!今度は僕が前に!!』

 

 万策尽きた日下部を守るように、灰原はなけなしの呪力を振り絞る。

 

『灰原雄。命は大事にした方がいい。君まで犬死にしたら、夏油傑がアッチで悲しむ。』

 

『っ、どの口がっ!!』

 

 激昂した灰原は渾身の力を込める。そのまま、敬愛していた先輩の肉体へと握りしめた拳を振りかぶ

 

 

【やめておけ無駄だ。】

 

 

 彼の腕は、音もなく背後に現れた何者かに掴まれる。

 

『っ、君はっ!?』

『おかか!?』

『お、おい。すっくんの方、だよな...?』

 

 灰原達の前に現れたのは虎杖悠仁の身体を操る何者か。その身体からは場の空気を一変させる程の圧倒的な呪力が漂っていた。

 

『残念だったね君たち。これでゲームオーバーだ。』

 

 日下部、灰原、パンダ、猪巻、冥冥。彼ら1人1人の背後には一体ずつ宿儺の分身が現れていた。

 

【【【【【貴様らの番は終わりだ、大人しく控えていろ。】】】】】

 

『おいマジかよ、五等分の宿儺とかどんな悪夢だ...!!』

 

 絶望するパンダ達を覆うように極小の帳が降ろされる。

 

【【【【【闇より出でて闇より黒く、その穢れを禊ぎ祓え。】】】】】】

 

 今の宿儺は依然として不殺の誓いに縛られている。そんな彼は結界術の檻を用いて、高専の術師を一網打尽にするのだった。

 

『人を殺さない縛り。君には似合わないと思ってたよ。意外と使いこなしているじゃないか。』

 

 場を片付けた宿儺は、鬱陶しそうに羂索の方を振り返る。

 

【当然だ。この程度の縛りなんぞ造作もない。】

 

『それより、戻ってくるのが意外と早かったね。九十九由基じゃ、君のお眼鏡には適わなかったのかな?』

 

【そうだな。九十九由基といい、あの双子といい、まるで食指が動かない。やはり味わうなら極上の好物に限る。】

 

『極上の好物?君にそこまで言わせるなんて、一体誰のことなんだい?』

 

 宿儺の発言に、羂索はその澱んだ瞳を輝かせる。その奥にはどこまでも純粋な未知への期待が濁り固まっていた。

 

『今はアフリカに居る乙骨憂太かな?それとも、君が目を付けている高専生...伏黒恵辺りだろう?彼のことかい?』

 

【違う。】

 

『じゃあ死滅回游の転生者達の事かな?悪いけどそれはもう少し待ってくれ。彼らはもっと観察してから...

 

【それも違うな。】

 

『じゃあ一体......』

 

 そこまで言いかけて羂索は1つの心当たりに辿り着く。

 

『まさか、今すぐ五条悟を解放しろなんて言わないよね?勘弁してくれよ。私が彼を封印するのにどれだけ苦労したと...』

 

【ふん、五条悟だと?あんな奴に興味は無い。今、俺が欲する者。それは、

 

 不敵な笑みを浮かべて宿儺は口にする。極上の好物と称して狙い定める次の獲物を。

 

 

【それはロリだ。】

 

『ん?』

 

【クククッ全くいい時代になったものだ!14歳以下の健康な少女が楽園のように溢れている!素晴らしい!鏖殺(ロリロリ・パラダイス)だ!!】

 

『いきなりなんの話だい?』

 

【好きな女のタイプの話だろう?】

 

『は?』

 

【え?いやだって、九十九由基がお眼鏡に叶わなかったとか何とかって......】

 

『..............』

 

【..............】

 

『君、宿儺じゃなくてすっくん

 

【ブラックサンダースクナックル!」

 

 羂索の横っ面が黒い稲妻と共に撃ち抜かれる。殴り飛ばされた彼の身体は、水切り石のように勢いよく地面を跳ねた。

 

「美々子ちゃん達と約束したんでな。その身体も、五条先生も。お前が今まで奪ってきたもん、全部纏めて返してもらう。」

 

 帰還したすっくん達は決戦に臨む。巡る呪いの源流を相手に。

 

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