宿儺「どけ!!!俺は主人公の相棒だぞ!!!」   作:バケギツネ

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兄弟にも色々あるよね

 

 

 

 

 帰還したすっくんが、羂索に黒閃を叩き込んだ場面から、時は少し遡る。

 

 

 

 

 

 

【(使うか?“契闊”を。)】

 

 枷場菜々子の術式が作用し、器である虎杖悠仁の“身体”が巻き戻るまで、もう間も無く。

 

 そうなれば、宿儺は再び暗い魂の奥底へと繋がれる。

 

 それでも、彼には切り札が残されていた。

 

 それは、もう1人の自分と交わした秘密の契り。たとえ相手が覚えていずとも、決して破ることを許さない絶対の不文律。

 

 

1、

宿儺が契闊と唱えれば、すっくんから宿儺へ主導権が一度だけ移動する。

 

*それから5秒間、

 以下の行為が禁止される。

 

・他人を傷つける暴力行為・殺害。

・すっくんが身体を取り戻すこと。

 

2、

宿儺が、虎杖悠仁の身体の外に出ようとするのを禁止する。

 

 

 

【(もう1人の俺は縛りを忘れている。巻き戻った瞬間に身体を奪い、排出された指をすぐに取り込めば.......いや。)】

 

 頭をよぎった考えは宿儺自身が即座に否定する。その手順には、余りにも大きな落とし穴があった。

 

【(巻き戻った瞬間、身体の主導権があるのは虎杖悠仁だ。契闊では身体を奪えん。)】

 

 縛りは宿儺とすっくんの間に結ばれた。第三者の虎杖悠仁相手では意味を成さない。

 

【(ならば好機を待つか?もう1人の俺は、羂索との戦いで身体の主導権を得るだろう。その瞬間を狙えば...いやこれも愚策だな。)】

 

 次に思い当たったのは、この場を静観するプラン。しかし、

 

【(もう1人の俺は、阿呆だが愚かではない。指の危険性を知った以上、迂闊な真似はしないだろう。奴の出方によっては、指を取り込むのが今以上に難儀になる。)】

 

 5秒間しか動けない、暴力行為に及べない。契闊に課された数多の制約も、宿儺の選択肢を否応なく狭めていた。

 

【(伏黒恵を使うという手もあったが、縛りのせいで虎杖悠仁からは抜け出せん。となると残るは、)】

 

 呪いの王が選んだのは先を見据えた最良の一手。

 

【おい九相図(兄)。】

 

『っ...!!』

 

 捨て台詞のメッセンジャーには、満身創痍の脹相が選ばれる。

 

【お前に宿る転生者に伝えておけ。貴様にはいずれ、この報いを受けさせてやる。その時までせいぜい力を磨いておけとな。】

 

 次の瞬間、宿儺はその両手を自身の口に突っ込み、咀嚼する。左手の小指だけを残して、9本の指が噛みちぎられていた。

 

『いま、なにをした...!?』

 

 宿儺の奇行に戸惑いつつも、同じ受肉体である脹相は、異変を肌で感じ取る。

 

【やはりな。縛りを結んだ“本体(オレ)とその魂”は、受肉している虎杖悠仁から抜け出せん。だが、その“呪力だけ”なら話は別らしい。】

 

 嘲るように笑いながら、宿儺は血の滴った顎を拭う。

 

 忌々しい檻の中に留まったまま、“写真の後”に取り込んだ指9本の力だけが、分離されていた。

 

【“小僧の体外”に出た以上、その時間が巻き戻ったところで、この指は影響を受けん。さて、後は来るべき時まで誰に預けておくかだが、】

 

 宿儺の目が細められる。

 

 まず思いついたのは、つい先ほど幾百年ぶりに相まみえた、平安の世からの腐れ縁。

 

 昔と変わらない薄ら笑いを貼り付けた、頭の縫い目がトレードマークの悪趣味な協力者だった。

 

 恐らく、彼なら快く引き受ける。いや、むしろ嬉々として乗ってくるに違いない。『ああ、君の指ね。大事に預かっておくよ。ところで宿儺、甥孫は何人欲しいかな?』と。

 

【......よし、論外だな。恐らく碌なことにならん。小僧の家系図が荒れるのがオチだ。ここはやはり、】

 

 指を託すに足る相手として、宿儺はたった1人の従者を選ぶ。

 

 その人物は今も、九十九に手傷を負わされた身体を押し、主人の元に馳せ参じようとしていた。

 

【近くまで来ているな。ククッ、いいぞ。相変わらず痒いところに手が届く。】

 

 宿儺は、すっくんを抑え込んでいた無為転変のリソースを割く。咥えていた指は、九匹の黒い蝙蝠へと改造され、飛び立った。

 

『っ!!指の力を運ぶ気か!?』

 

 それを黙って見過ごすほど、脹相も甘くはない。残った呪力を振り絞って、浅い呼吸を整えながら、熱を帯びた血を掌にかき集める。

 

 指を喰い千切った瞬間、宿儺の呪力が大きく削がれたのを、脹相は見逃していなかった。

 

 今ここであの指を逃せば、その分、すっくんの使える呪力量も減ってしまう。

 

 憎むべき父との決戦を控えた彼のため、脹相は一本でも多くの指を奪い返そうとしていた。

 

『妙な真似はさせん!!』

 

 そのまま、既に小さくなり始めた蝙蝠たちへと狙いを定めるが、

 

【それはこちらの台詞だ。】

 

 冷たい声が響く。

 

 視界を覆う影は、身体の巻き戻りがあと数秒後に迫った宿儺の拳。

 

【貴様もなかなか頑丈らしいが、もう飽きた。退がれ。】

 

 その一撃は、風を切る音すら置き去って、抉るようにのしかかる。

 

【黒庭拳。】

 

 脹相の身体が吹き飛ぶと同時に、空間を裂く轟音が追いついてくる。

 

 二度弾けた黒い稲妻は、空気を震わせ、打撃の威力を極限まで跳ね上げていた。

 

『っ...!!!!!』

 

 その身体を弾丸のように吹き飛ばされ、脹相の世界が歪む。視界が激しく揺れ、脳が酔う。

 

 顔の砕けた衝撃は、頭蓋を駆け巡り、軋んだ悲鳴を上げさせる。

 

 だが、それでも。

 

『最後まで務めは尽くすっ!』

 

 両手はまだ百斂の構えを解いていない。無数の壁を突き破りながらも、脹相はその狙いを定める。

 

『お兄ちゃんを舐めるなっ!!』

 

 掌を固く閉じたまま、指を開く。重なった左右の五指の間には、紅の煌めきが宿っていた。

 

 それは、彼の閃きが生み出した最後の一撃。弟たちへと託す紅いバトン。

 

血鬼爪(けっきそう)!!!!』

 

 5閃の穿血が空を裂いて走る。疾るその軌跡は、どこまでも真っ直ぐだった。

 

【最後まで鬱陶しい...!】

 

 宿儺の反応も早かった。御厨子による斬撃で、それを断ち切らんとする。

 

 しかし、いかに最高クラスの速度を誇る解でも、複数の穿血全てを同時に捉えきることはできない。

 

『届けぇーーーっ!!』

 

 撃ち漏らした2本の爪が、異形二匹に風穴を開けていた。蝙蝠の体は崩れ、指へと戻って落下を始める。

 

【っ、ここまでか。】

 

 同時に、宿儺の顔に浮かんでいた黒の紋様が薄れていく。

 

 菜々子の術式がようやく作用し、不可逆の波は、虎杖悠仁の肉体を過去へと引き戻していった。

 

【次はもっと、面白いものを見せてやろう。それまでは、ゆめ、準備を怠るなよ。裏梅。】

 

 彼の魂は、再び冷たい牢の中へ。

 

 しかしその四つ目は、やがて訪れる黒き未来を確かに映し出していた。

 

 

 

 

『御意に。』

 

 そこから少し離れた場所で、澄んだ声が響いた。

 

 裏梅は静かに頭を垂れ、最後の一本まで丁寧に処理した指を懐へと収める。

 

 無駄な戦いに興じるつもりはない。

 

 尻とタッパがデカい金髪女の一撃で、反転で治しても余りあるほどの手傷を負った。万全とは言い難い。

 

 下手に加勢でもして、主人の指を奪われる大失態を演じようものなら、死んでも死にきれない。

 

 彼がすべきことは一つ。主の再臨にただ備えること。

 

 凍える程に冷たい瞳の奥で、忠誠の炎が静かに燃えていた。

 

 

 

 

 おっす、俺すっくん。

 

 久しぶりに、具体的に言うと、半年ぶりぐらいに感じる自由だ。

 

 呪力が戻り、身体の奥にあるやな感じの魂が軽くなっているのが分かる。

 

「マジでありがとな、皆んな。」

 

 俺と悠仁がこうして戻ってこれたのは、沢山の人の尽力があったからこそだ。

 

 ヒカリ、脹相、九十九さん、美々子ちゃんに菜々子ちゃん。

 

なんか知らない黒人、

なんか知らないオカマ、

なんか知らないお兄さんに、

なんか知らないお姉さん。

 

 うん、誰だこの人たち...?

 

 M V Pだし、ほんとに感謝しかないんだけど、その、どちら様ですか?

 

 一回見たら絶対忘れないくらい、濃いビジュアルしてるもんな。高専の人じゃ無さそうだし、新キャラの方とかですか...?

 

 って、そんなくだらないことを考えている場合じゃない。 

 

 宿儺が無茶苦茶やったせいで、重症を負っている人が沢山いる!

 

 特に九十九さんが一番ヤバい!四肢切断に加えて、体内の呪力がかなり落ちている!

 

 なんか知らないオカマも、腕を切断されてるし、なんか知らないお兄さんとお姉さんも、相当傷が深い!

 

 なんか知らない黒人は、アレ、この人、パッと見た感じ大丈夫そうだけど......まあ、一応診とくか!

 

 とにかく、早いとこレスキューだ!

 

「悠仁!」

『おう、もう一回だな!』

 

 悠仁の身体が渋谷事変前に戻ってるので、ちょっと面倒くさい。

 

 

すっくんの3秒クッキング!

 

①宿儺呪力モード発動

②悠仁の身体の改造

③「HEY 悠仁!」

 

ね、簡単でしょ?

 

 

 無為転変の術式自体は、元々俺の魂に引っ付いていたもの。コツを掴んだ今なら、問題なく再現できる!

 

 因みに原作宿儺だが、悠仁の身体を改造するついでに、その魂を縛っておいた。それはもうギッチギチのミッチミチに。

 

 今のあいつは、俺の畳部屋に隣接した檻の中だ。

 

 目隠しと猿轡をつけた状態で亀甲縛りして、天井からプラプラ吊るしてある。  

 

 ここまで厳重に拘束しとけば、悠仁の身体に勝手に口を生やすことすら出来ないはずだ。

 

 奴の所業を考えれば、これでも全然っ全然やり足りないくらいだが、今そんな暇はない。

 

 

 

 

 

 

【■■■の分際で。】

 

 

 

 

 

 ......だから、そう。

 

 “ソレ”について考えるのは後だ。

 

 

 

 

 

【貴様の記憶は全て覗いた。”この世界に来る以前“のものまでな。】

 

 

 

 

 

 奴を封じ込める為に、その魂と触れ合った。その時に向けられた言葉が、頭の奥でじくじくと疼いている。

 

 

 

 

 

【俺は知っている。貴様の“正体”も。犯した罪も、何もかもをだ。】

 

 

 

 切り替えろ。そんな場合じゃない。今はただ、目の前にあるできることを精一杯......

 

 

『すっくん?ちゃんと顕現できてる?おーーい!』

 

 意識が現実に引き戻される。

 

 耳に届いたのは、相棒の聞き慣れた声。心なしか不安の色が混じっている。身体の内側から真剣な眼差しを感じた。

 

 小さく息を吐いて、握り締めていた拳を解く。

 

「ああ!バッチリ!問題なく顕現できた!!」

 

 グーサインを作った手の掌には、爪の跡がくっきりと残っていた。

 

『.......なんかあった?大丈夫かよ、相棒。』

 

「あ、いやさ、」

 

 喉の奥で渦を巻く言葉を吐き出せない。

 

「......じ、実はさっき、原作宿儺を封じ込めてきたんだけどさ!そん時アイツが捨て台詞で、えっぐい下ネタぶっ込んできたんだよ!それが余りにもアレすぎて、ちょっとドン引いてたんだ!」

 

『マジかよアイツ最悪だな。』

 

「だろ?品行方正な俺とは大違いだ!」

 

『でもさ、俺らの直近の活躍って、宿儺への金的......

 

「って、それより治療だ!!」

 

 集中を研ぎ澄まして、正の呪力をネリネリする。淡く優しい白光が手に灯った。

 

 一応、無為転変でも傷は癒せるだろうし、そっちの方がコスパもいい。

 

 ただ、耐性も分からない魂を弄るリスクを考えると、あんまし気は進まないな。

 

 修行でも、特に力を入れたのは、改造人間の治療と相棒の肉体改造(文字通り)、そして自分の変身だ。

 

 逆に言えば、それ以外の部分はかなり未熟。

 

 ってわけで、反転術式の方が安心安全で確実!やっぱ反転術式よ!

 

 教えてくれた人に、感謝しなくては!確か......あれ、教えてくれたのって......あ、伊地知師匠だっけ?

 

 やっぱ伊地知師匠よ!!

 

 こんなに便利で優しい呪術を教えてくれるなんて、人格者たるあの人以外に考えられないしな!

 

「それっ反転術式!!!!」

 

 九十九さんの傷ついた身体に向けて、最大限の出力でそれを流し込む。

 

 送り込まれた正の呪力は、彼女の身体へと染み渡って、その細胞を再構築していく。血と傷に染まっていた肌は、元通りの質感を取り戻していた。

 

「もうっ、一息っ!!!」

 

 さらに出力を上げて、注ぎ込む呪力を限界まで引き上げた。骨、筋、血、血管、皮膚、イメージしたその輪郭に沿って、呪力を走らせる。

 

「ハァ、ハァ、よし。成功....!!」

 

 九十九さんの腕と脚。宿儺の斬撃で失われたそれは、見事に再生を果たしていた。

 

 それと同時に、ほんの一瞬、自身の手足がピリピリと痺れるような感覚に襲われる。

 

「つっ!」

『すっくん、今の平気か?』

 

「ああ、モーマンタイ!斬られたばっかだっていうのもあって、治しやすかったしな!」

 

 流石に、このレベルの反転アウトプットは、ちょっとしんどいな。

 

 これが後、4、5人控えてるのか。ま、どうにかなんだろ!少なくとも、指6本分の呪力はあるわけだし!

 

 それに、彼らが傷ついたのは他でもない俺の責任だ。

 

 思い出すだけで吐き気がする。この身体から放たれた呪力が、仲間を斬り刻むあの感覚。それをただ、見ていることしかできなかった。

 

 こんなことで贖えるとは思わない。許されるつもりもない。でもせめて、この傷だけは俺の手で完全に治したい。そうじゃなきゃ、俺は自分を許せない。

 

 

 

 

 

 

 

【貴様はただ、都合のいい逃げ道を探しているだけだ。描く理想とやらも全て、その先にあるものでしか無い。】

 

 

 

 

 

 

「クソっ、」

 

 宿儺の言葉が再びチラついた。それを振り払うように、次の治療へと取り掛かる。

 

 まずは、このオカマの人から!

 

「もしもし、聞こえますか〜。反転術式、失礼しますよ〜

 

『待ってちょうだい!!!』

 

 鋭い声が響く。

 

 治療を止めたのは、他ならぬ知らないオカマだった。その目にはただならぬ意志が宿っている。

 

『俺たちのことはいい!この程度で死ぬほど、ヤワな鍛え方はしていない!』

『いくら貴方でも、全員治すのは消耗が大きすぎるでしょ?その力は、戦いに備えてとっときなさい。」

 

 知らないお兄さんお姉さんも、それに続く。傷だらけで、満身創痍なはずの彼らだが、その気迫はこちらが気圧されるほどのものだった。

 

『お前ラは早ク、偽夏油のとこへ行ってやレ。美々子達と、約束してくれたんだロ?』

 

 豪華な声がする知らない黒人も、その意志は固かった。

 

 そうか。この人達は夏油さん絡みの...

 

「散々助けてもらったのに...重ね重ね、すいません!!」

『その代わり、皆んなの大切な人は、俺たちでぜってー取り返してくる!』

 

 俺の謝罪と共に、相棒も決意を口にする。

 

『よく言った、悠仁...!お兄ちゃんは誇らしいぞ...!』

 

 絞り出すような掠れ声が聞こえてきた。

 

 声の方を振り返ると、そこには傷だらけの脹相がいた。唇には血が滲み、その鼻は痛々しく歪んでいる。

 

 それでもその顔には、弟の帰還への安堵と、心からの誇らしさで、どこか穏やかな表情が浮かんでいた。

 

 すぐにでも治してやりたいが、脹相は半分呪いだ。反転術式じゃおそらく逆効果。

 

『っ、脹相!お前っその傷......』

 

『安心しろ、俺なら問題ない。それより、お前に話しておきたいことがある。』

 

 脹相の顔に影が差す。

 

『悠仁、お前の父親についてだ。』

 

『っ、』

「!!!」

 

『夏油傑の身体を操る頭に縫い目のある術師、奴は俺の、いや俺たちの父親だ。間違いない。』

 

『.........』

「......そうか。」

 

 薄々そうじゃないかと思っていたが、これで確定だな。

 

『偽の夏油さんが、俺の、父ちゃん......ははっ、こんな事なら、ちゃんと爺ちゃんに親の話聞いとくんだったな.....」

 

 いつものように明るく振る舞おうとしているが、流石に悠仁もその表情は硬かった。

 

 当然だ。このままいけば、家族と戦うことになる。そして、場合によっては自らの手で......

 

 余りにも重すぎる十字架だ。少なくとも悠仁には、背負って欲しくは無い。

 

「悠仁、奴との戦いは、全部俺に任せてくれないか?ほら、えっと、美々子ちゃん達と約束したのも俺だし...

『いや、気ぃ遣わないでくれ。』

 

 悠仁は俯いていた顔を上げると、自分の頬をパンッと勢いよく叩く。

 

『大丈夫。たとえソイツが父ちゃんでも関係ないよ。俺は戦う。呪術師として。』

 

 その目には確かな決意が宿っている。

 

『正直、父ちゃんの記憶なんてほとんどないしな。それに前にも言ったろ?重てえもんは2人で一緒に背負おうぜ。」

「......ああ、そうだな。」

 

 そうだった。相棒は俺なんかよりもよっぽど、心が強え漢だった。心配するだけ無駄だったかもしれない。

 

「あの、悠仁。」

『ん、まだなんか心配?』

「あー、そうじゃなくて......いや、何でもない!もしもの時はよろしく頼むぞ!!」

 

 それにしても、やはりこの作品は少年ジャンプだな。主人公の身内が曰く付きなのは、ある種のお約束。両親とか、祖先とか、......兄弟とか。

 

 ......全く、主人公の父親なんて、大抵が愛する息子を導いてくれる、強くてカッコいい存在だというのに。

 

 最低だよ悠仁パパ!

 

 何も知らずに利用されてそうな、悠仁ママが可哀想!きっと天国で泣いてるぞ!

 

 実は悠仁ママ、悠仁パパの本性に気付いてて、いずれ俺たちを助けてくれるような、何かを遺してたりしないだろうか。

 

 いや、そうに違いない。俺はそういう展開には詳しいんだ。この戦い、勝利の鍵はズバリ《母の愛》になると予想しておく!

 

『すまん、もう一ついいか?』

 

 俺たちのやりとりを見守っていた脹相が手を差し出す。そこには、俺の指2本が確かに握られていた。

 

『これって、すっくんの!』

 

『何とかこれだけは回収できた。お前たちに託したい。本当なら、俺も加勢に行きたいんだが...ぐっ!』

 

『脹相!!』

 

 倒れかけた脹相を支えて、ゆっくりと地面に寝かせる。

 

 とっくに身体が限界のようだ。寧ろ、今まで立っていられたのがおかしいくらい。

 

『すまない、悠仁。こんな時に、力になれない...!俺はお兄ちゃん、失っ、格っ......

 

 そのまま脹相は、眠るように意識を失った。

 

『何言ってんだよ、十分すぎるくらいだって。』

 

 ああ、悠仁の言う通りだ。

 

 こんなボロボロの身体で最後まで諦めずに踏ん張って。命懸けで戦って。

 

 見事に弟を救って見せた。

 

 本当に、最高のお兄ちゃんだよ。......お前は。弟に救われてばかりの俺とは大違いだ。

 

『すっくんの指、確かに預かった。』

 

 脹相が握りしめていた指を、そっと受け取って懐に入れる。

 

 今この場で取り込むことも考えたが、呪力の補給だったり、宿儺呪力モードの延長だったり、とっておく事のメリットも大きい。真人戦もそれがなきゃ詰んでたし。

 

 さて、これで準備は整った。

 

『行ってくるよ、兄貴。』

 

 悠仁は家族に言葉をかける。残念ながら、意識のない脹相には聞こえな

 

『待て悠仁!今、“兄貴”とそう言ったか!?』

 

 聞こえてたわ。いつの間にか脹相が目をカッと見開いている。

 

『俺をお兄ちゃんと認めてくれるのか!?ついに、ついになのか!?悠仁ぃ!!』

 

『ちょ、なんで復活してんだよ!大人しく寝てろって!』

 

 悠仁は狂喜乱舞する兄を宥めていた。その“問い”は否定していない。

 

 

 

『ついでに私も一ついいかな。』

 

 声のする方を振り返る。そこには、目を覚ました九十九さんの姿があった。

 

「良かった、意識が戻ったんすね!何か、身体に違和感あるとこないですか?」

 

『ああ問題ない。バッチグーだよ。』

 

 傷が治ったとはいえ、流石にまだ動くのは厳しそうだ。呪力の方も、何故か一向に回復する様子がない。

 

 それでも、彼女の顔に浮かんでいたのは、そんな不安を感じさせない快活な笑顔だった。

 

『それで君たち、ちょっとこっちにおいで。私の美貌を治してくれたお礼だ。良いものをあげるよ。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここは、呪術高専東京高のとある宿舎。

 

 その最奥には虎杖悠仁達が保護した受肉体、壊相と血塗、そして脹相のために、一室が用意されている。

 

『兄者ぁ、大丈夫かな〜?』

『兄さんのことです。何か考えがあるんでしょう。』

 

 血塗と壊相は、突如姿を消した兄のことを心配していた。

 

『ひょっとしたら、任務に出ている悠仁に、何かあったのかもしれませんね。』

 

『確かに!兄者なら、色々感じ取れるもんな!!』

 

『しかし何処へ行ったのやら。兄さんも私たちと同じく、高専関係者の許可無しには、外へ出れない筈なのですが。』

 

 脹相の身体を借りた賀茂ヒカリが、勝手に渋谷へレリゴーした。それが実際のところ。

 

 縛りにおいても、転生した人間は転生先とは別人として扱われるのだ。しかしそんな事、壊相と血塗は知りようもない。

 

 現状、2人は大人しく兄の帰りを待っていることしか

 

 

《ピンポーン》

 

 

 突然、部屋のチャイムが鳴る。

 

『あ、兄者?帰ってきた.....あれぇ?』

 

 嬉しそうに、ドアに向かって走り寄ろうとしていた、血塗の脚が止まる。

 

 

《ピンポーン》《ピンポーン》

 

 

 急かすように二度、三度とチャイムが鳴らされた。

 

『......血塗、下がっていなさい。』

 

 術式を展開し、壊相が前に出る。ドアの向こうから感じる気配は、どういうわけか血を分けた兄弟のそれだった。

 

 しかし、それとは別の異様な気配も同時に感じる。

 

 

《ピンポーン》《ピンポーン》

《ピンポーン》《ピンポーン》

《ピンポーン》《ピンポーン》

《ピンポーン》《ピンポーン》

《ピンポーン》《ピンポーン》

 

 

 警戒する2人を他所に、チャイムはけたたましく鳴り響いていた。

 

『一体、何者です...?』

 

 壊相の呟きとともに、部屋の扉が吹き飛ばされる。

 

 差し込んできた月明かりが侵入者の姿を照らし出ていた。

 

 

 

 

 

 

      やっと見つけた

 

 

 

 

 

 

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