宿儺「どけ!!!俺は主人公の相棒だぞ!!!」 作:バケギツネ
帰還したすっくんが、羂索に黒閃を叩き込んだ場面から、時は少し遡る。
◆
【(使うか?“契闊”を。)】
枷場菜々子の術式が作用し、器である虎杖悠仁の“身体”が巻き戻るまで、もう間も無く。
そうなれば、宿儺は再び暗い魂の奥底へと繋がれる。
それでも、彼には切り札が残されていた。
それは、もう1人の自分と交わした秘密の契り。たとえ相手が覚えていずとも、決して破ることを許さない絶対の不文律。
1、
宿儺が契闊と唱えれば、すっくんから宿儺へ主導権が一度だけ移動する。
*それから5秒間、
以下の行為が禁止される。
・他人を傷つける暴力行為・殺害。
・すっくんが身体を取り戻すこと。
2、
宿儺が、虎杖悠仁の身体の外に出ようとするのを禁止する。
【(もう1人の俺は縛りを忘れている。巻き戻った瞬間に身体を奪い、排出された指をすぐに取り込めば.......いや。)】
頭をよぎった考えは宿儺自身が即座に否定する。その手順には、余りにも大きな落とし穴があった。
【(巻き戻った瞬間、身体の主導権があるのは虎杖悠仁だ。契闊では身体を奪えん。)】
縛りは宿儺とすっくんの間に結ばれた。第三者の虎杖悠仁相手では意味を成さない。
【(ならば好機を待つか?もう1人の俺は、羂索との戦いで身体の主導権を得るだろう。その瞬間を狙えば...いやこれも愚策だな。)】
次に思い当たったのは、この場を静観するプラン。しかし、
【(もう1人の俺は、阿呆だが愚かではない。指の危険性を知った以上、迂闊な真似はしないだろう。奴の出方によっては、指を取り込むのが今以上に難儀になる。)】
5秒間しか動けない、暴力行為に及べない。契闊に課された数多の制約も、宿儺の選択肢を否応なく狭めていた。
【(伏黒恵を使うという手もあったが、縛りのせいで虎杖悠仁からは抜け出せん。となると残るは、)】
呪いの王が選んだのは先を見据えた最良の一手。
【おい九相図(兄)。】
『っ...!!』
捨て台詞のメッセンジャーには、満身創痍の脹相が選ばれる。
【お前に宿る転生者に伝えておけ。貴様にはいずれ、この報いを受けさせてやる。その時までせいぜい力を磨いておけとな。】
次の瞬間、宿儺はその両手を自身の口に突っ込み、咀嚼する。左手の小指だけを残して、9本の指が噛みちぎられていた。
『いま、なにをした...!?』
宿儺の奇行に戸惑いつつも、同じ受肉体である脹相は、異変を肌で感じ取る。
【やはりな。縛りを結んだ“
嘲るように笑いながら、宿儺は血の滴った顎を拭う。
忌々しい檻の中に留まったまま、“写真の後”に取り込んだ指9本の力だけが、分離されていた。
【“小僧の体外”に出た以上、その時間が巻き戻ったところで、この指は影響を受けん。さて、後は来るべき時まで誰に預けておくかだが、】
宿儺の目が細められる。
まず思いついたのは、つい先ほど幾百年ぶりに相まみえた、平安の世からの腐れ縁。
昔と変わらない薄ら笑いを貼り付けた、頭の縫い目がトレードマークの悪趣味な協力者だった。
恐らく、彼なら快く引き受ける。いや、むしろ嬉々として乗ってくるに違いない。『ああ、君の指ね。大事に預かっておくよ。ところで宿儺、甥孫は何人欲しいかな?』と。
【......よし、論外だな。恐らく碌なことにならん。小僧の家系図が荒れるのがオチだ。ここはやはり、】
指を託すに足る相手として、宿儺はたった1人の従者を選ぶ。
その人物は今も、九十九に手傷を負わされた身体を押し、主人の元に馳せ参じようとしていた。
【近くまで来ているな。ククッ、いいぞ。相変わらず痒いところに手が届く。】
宿儺は、すっくんを抑え込んでいた無為転変のリソースを割く。咥えていた指は、九匹の黒い蝙蝠へと改造され、飛び立った。
『っ!!指の力を運ぶ気か!?』
それを黙って見過ごすほど、脹相も甘くはない。残った呪力を振り絞って、浅い呼吸を整えながら、熱を帯びた血を掌にかき集める。
指を喰い千切った瞬間、宿儺の呪力が大きく削がれたのを、脹相は見逃していなかった。
今ここであの指を逃せば、その分、すっくんの使える呪力量も減ってしまう。
憎むべき父との決戦を控えた彼のため、脹相は一本でも多くの指を奪い返そうとしていた。
『妙な真似はさせん!!』
そのまま、既に小さくなり始めた蝙蝠たちへと狙いを定めるが、
【それはこちらの台詞だ。】
冷たい声が響く。
視界を覆う影は、身体の巻き戻りがあと数秒後に迫った宿儺の拳。
【貴様もなかなか頑丈らしいが、もう飽きた。退がれ。】
その一撃は、風を切る音すら置き去って、抉るようにのしかかる。
【黒庭拳。】
脹相の身体が吹き飛ぶと同時に、空間を裂く轟音が追いついてくる。
二度弾けた黒い稲妻は、空気を震わせ、打撃の威力を極限まで跳ね上げていた。
『っ...!!!!!』
その身体を弾丸のように吹き飛ばされ、脹相の世界が歪む。視界が激しく揺れ、脳が酔う。
顔の砕けた衝撃は、頭蓋を駆け巡り、軋んだ悲鳴を上げさせる。
だが、それでも。
『最後まで務めは尽くすっ!』
両手はまだ百斂の構えを解いていない。無数の壁を突き破りながらも、脹相はその狙いを定める。
『お兄ちゃんを舐めるなっ!!』
掌を固く閉じたまま、指を開く。重なった左右の五指の間には、紅の煌めきが宿っていた。
それは、彼の閃きが生み出した最後の一撃。弟たちへと託す紅いバトン。
『
5閃の穿血が空を裂いて走る。疾るその軌跡は、どこまでも真っ直ぐだった。
【最後まで鬱陶しい...!】
宿儺の反応も早かった。御厨子による斬撃で、それを断ち切らんとする。
しかし、いかに最高クラスの速度を誇る解でも、複数の穿血全てを同時に捉えきることはできない。
『届けぇーーーっ!!』
撃ち漏らした2本の爪が、異形二匹に風穴を開けていた。蝙蝠の体は崩れ、指へと戻って落下を始める。
【っ、ここまでか。】
同時に、宿儺の顔に浮かんでいた黒の紋様が薄れていく。
菜々子の術式がようやく作用し、不可逆の波は、虎杖悠仁の肉体を過去へと引き戻していった。
【次はもっと、面白いものを見せてやろう。それまでは、ゆめ、準備を怠るなよ。裏梅。】
彼の魂は、再び冷たい牢の中へ。
しかしその四つ目は、やがて訪れる黒き未来を確かに映し出していた。
『御意に。』
そこから少し離れた場所で、澄んだ声が響いた。
裏梅は静かに頭を垂れ、最後の一本まで丁寧に処理した指を懐へと収める。
無駄な戦いに興じるつもりはない。
尻とタッパがデカい金髪女の一撃で、反転で治しても余りあるほどの手傷を負った。万全とは言い難い。
下手に加勢でもして、主人の指を奪われる大失態を演じようものなら、死んでも死にきれない。
彼がすべきことは一つ。主の再臨にただ備えること。
凍える程に冷たい瞳の奥で、忠誠の炎が静かに燃えていた。
◇
おっす、俺すっくん。
久しぶりに、具体的に言うと、半年ぶりぐらいに感じる自由だ。
呪力が戻り、身体の奥にあるやな感じの魂が軽くなっているのが分かる。
「マジでありがとな、皆んな。」
俺と悠仁がこうして戻ってこれたのは、沢山の人の尽力があったからこそだ。
ヒカリ、脹相、九十九さん、美々子ちゃんに菜々子ちゃん。
なんか知らない黒人、
なんか知らないオカマ、
なんか知らないお兄さんに、
なんか知らないお姉さん。
うん、誰だこの人たち...?
M V Pだし、ほんとに感謝しかないんだけど、その、どちら様ですか?
一回見たら絶対忘れないくらい、濃いビジュアルしてるもんな。高専の人じゃ無さそうだし、新キャラの方とかですか...?
って、そんなくだらないことを考えている場合じゃない。
宿儺が無茶苦茶やったせいで、重症を負っている人が沢山いる!
特に九十九さんが一番ヤバい!四肢切断に加えて、体内の呪力がかなり落ちている!
なんか知らないオカマも、腕を切断されてるし、なんか知らないお兄さんとお姉さんも、相当傷が深い!
なんか知らない黒人は、アレ、この人、パッと見た感じ大丈夫そうだけど......まあ、一応診とくか!
とにかく、早いとこレスキューだ!
「悠仁!」
『おう、もう一回だな!』
悠仁の身体が渋谷事変前に戻ってるので、ちょっと面倒くさい。
すっくんの3秒クッキング!
①宿儺呪力モード発動
↓
②悠仁の身体の改造
↓
③「HEY 悠仁!」
ね、簡単でしょ?
無為転変の術式自体は、元々俺の魂に引っ付いていたもの。コツを掴んだ今なら、問題なく再現できる!
因みに原作宿儺だが、悠仁の身体を改造するついでに、その魂を縛っておいた。それはもうギッチギチのミッチミチに。
今のあいつは、俺の畳部屋に隣接した檻の中だ。
目隠しと猿轡をつけた状態で亀甲縛りして、天井からプラプラ吊るしてある。
ここまで厳重に拘束しとけば、悠仁の身体に勝手に口を生やすことすら出来ないはずだ。
奴の所業を考えれば、これでも全然っ全然やり足りないくらいだが、今そんな暇はない。
【■■■の分際で。】
......だから、そう。
“ソレ”について考えるのは後だ。
【貴様の記憶は全て覗いた。”この世界に来る以前“のものまでな。】
奴を封じ込める為に、その魂と触れ合った。その時に向けられた言葉が、頭の奥でじくじくと疼いている。
【俺は知っている。貴様の“正体”も。犯した罪も、何もかもをだ。】
切り替えろ。そんな場合じゃない。今はただ、目の前にあるできることを精一杯......
『すっくん?ちゃんと顕現できてる?おーーい!』
意識が現実に引き戻される。
耳に届いたのは、相棒の聞き慣れた声。心なしか不安の色が混じっている。身体の内側から真剣な眼差しを感じた。
小さく息を吐いて、握り締めていた拳を解く。
「ああ!バッチリ!問題なく顕現できた!!」
グーサインを作った手の掌には、爪の跡がくっきりと残っていた。
『.......なんかあった?大丈夫かよ、相棒。』
「あ、いやさ、」
喉の奥で渦を巻く言葉を吐き出せない。
「......じ、実はさっき、原作宿儺を封じ込めてきたんだけどさ!そん時アイツが捨て台詞で、えっぐい下ネタぶっ込んできたんだよ!それが余りにもアレすぎて、ちょっとドン引いてたんだ!」
『マジかよアイツ最悪だな。』
「だろ?品行方正な俺とは大違いだ!」
『でもさ、俺らの直近の活躍って、宿儺への金的......
「って、それより治療だ!!」
集中を研ぎ澄まして、正の呪力をネリネリする。淡く優しい白光が手に灯った。
一応、無為転変でも傷は癒せるだろうし、そっちの方がコスパもいい。
ただ、耐性も分からない魂を弄るリスクを考えると、あんまし気は進まないな。
修行でも、特に力を入れたのは、改造人間の治療と相棒の肉体改造(文字通り)、そして自分の変身だ。
逆に言えば、それ以外の部分はかなり未熟。
ってわけで、反転術式の方が安心安全で確実!やっぱ反転術式よ!
教えてくれた人に、感謝しなくては!確か......あれ、教えてくれたのって......あ、伊地知師匠だっけ?
やっぱ伊地知師匠よ!!
こんなに便利で優しい呪術を教えてくれるなんて、人格者たるあの人以外に考えられないしな!
「それっ反転術式!!!!」
九十九さんの傷ついた身体に向けて、最大限の出力でそれを流し込む。
送り込まれた正の呪力は、彼女の身体へと染み渡って、その細胞を再構築していく。血と傷に染まっていた肌は、元通りの質感を取り戻していた。
「もうっ、一息っ!!!」
さらに出力を上げて、注ぎ込む呪力を限界まで引き上げた。骨、筋、血、血管、皮膚、イメージしたその輪郭に沿って、呪力を走らせる。
「ハァ、ハァ、よし。成功....!!」
九十九さんの腕と脚。宿儺の斬撃で失われたそれは、見事に再生を果たしていた。
それと同時に、ほんの一瞬、自身の手足がピリピリと痺れるような感覚に襲われる。
「つっ!」
『すっくん、今の平気か?』
「ああ、モーマンタイ!斬られたばっかだっていうのもあって、治しやすかったしな!」
流石に、このレベルの反転アウトプットは、ちょっとしんどいな。
これが後、4、5人控えてるのか。ま、どうにかなんだろ!少なくとも、指6本分の呪力はあるわけだし!
それに、彼らが傷ついたのは他でもない俺の責任だ。
思い出すだけで吐き気がする。この身体から放たれた呪力が、仲間を斬り刻むあの感覚。それをただ、見ていることしかできなかった。
こんなことで贖えるとは思わない。許されるつもりもない。でもせめて、この傷だけは俺の手で完全に治したい。そうじゃなきゃ、俺は自分を許せない。
【貴様はただ、都合のいい逃げ道を探しているだけだ。描く理想とやらも全て、その先にあるものでしか無い。】
「クソっ、」
宿儺の言葉が再びチラついた。それを振り払うように、次の治療へと取り掛かる。
まずは、このオカマの人から!
「もしもし、聞こえますか〜。反転術式、失礼しますよ〜
『待ってちょうだい!!!』
鋭い声が響く。
治療を止めたのは、他ならぬ知らないオカマだった。その目にはただならぬ意志が宿っている。
『俺たちのことはいい!この程度で死ぬほど、ヤワな鍛え方はしていない!』
『いくら貴方でも、全員治すのは消耗が大きすぎるでしょ?その力は、戦いに備えてとっときなさい。」
知らないお兄さんお姉さんも、それに続く。傷だらけで、満身創痍なはずの彼らだが、その気迫はこちらが気圧されるほどのものだった。
『お前ラは早ク、偽夏油のとこへ行ってやレ。美々子達と、約束してくれたんだロ?』
豪華な声がする知らない黒人も、その意志は固かった。
そうか。この人達は夏油さん絡みの...
「散々助けてもらったのに...重ね重ね、すいません!!」
『その代わり、皆んなの大切な人は、俺たちでぜってー取り返してくる!』
俺の謝罪と共に、相棒も決意を口にする。
『よく言った、悠仁...!お兄ちゃんは誇らしいぞ...!』
絞り出すような掠れ声が聞こえてきた。
声の方を振り返ると、そこには傷だらけの脹相がいた。唇には血が滲み、その鼻は痛々しく歪んでいる。
それでもその顔には、弟の帰還への安堵と、心からの誇らしさで、どこか穏やかな表情が浮かんでいた。
すぐにでも治してやりたいが、脹相は半分呪いだ。反転術式じゃおそらく逆効果。
『っ、脹相!お前っその傷......』
『安心しろ、俺なら問題ない。それより、お前に話しておきたいことがある。』
脹相の顔に影が差す。
『悠仁、お前の父親についてだ。』
『っ、』
「!!!」
『夏油傑の身体を操る頭に縫い目のある術師、奴は俺の、いや俺たちの父親だ。間違いない。』
『.........』
「......そうか。」
薄々そうじゃないかと思っていたが、これで確定だな。
『偽の夏油さんが、俺の、父ちゃん......ははっ、こんな事なら、ちゃんと爺ちゃんに親の話聞いとくんだったな.....」
いつものように明るく振る舞おうとしているが、流石に悠仁もその表情は硬かった。
当然だ。このままいけば、家族と戦うことになる。そして、場合によっては自らの手で......
余りにも重すぎる十字架だ。少なくとも悠仁には、背負って欲しくは無い。
「悠仁、奴との戦いは、全部俺に任せてくれないか?ほら、えっと、美々子ちゃん達と約束したのも俺だし...
『いや、気ぃ遣わないでくれ。』
悠仁は俯いていた顔を上げると、自分の頬をパンッと勢いよく叩く。
『大丈夫。たとえソイツが父ちゃんでも関係ないよ。俺は戦う。呪術師として。』
その目には確かな決意が宿っている。
『正直、父ちゃんの記憶なんてほとんどないしな。それに前にも言ったろ?重てえもんは2人で一緒に背負おうぜ。」
「......ああ、そうだな。」
そうだった。相棒は俺なんかよりもよっぽど、心が強え漢だった。心配するだけ無駄だったかもしれない。
「あの、悠仁。」
『ん、まだなんか心配?』
「あー、そうじゃなくて......いや、何でもない!もしもの時はよろしく頼むぞ!!」
それにしても、やはりこの作品は少年ジャンプだな。主人公の身内が曰く付きなのは、ある種のお約束。両親とか、祖先とか、......兄弟とか。
......全く、主人公の父親なんて、大抵が愛する息子を導いてくれる、強くてカッコいい存在だというのに。
最低だよ悠仁パパ!
何も知らずに利用されてそうな、悠仁ママが可哀想!きっと天国で泣いてるぞ!
実は悠仁ママ、悠仁パパの本性に気付いてて、いずれ俺たちを助けてくれるような、何かを遺してたりしないだろうか。
いや、そうに違いない。俺はそういう展開には詳しいんだ。この戦い、勝利の鍵はズバリ《母の愛》になると予想しておく!
『すまん、もう一ついいか?』
俺たちのやりとりを見守っていた脹相が手を差し出す。そこには、俺の指2本が確かに握られていた。
『これって、すっくんの!』
『何とかこれだけは回収できた。お前たちに託したい。本当なら、俺も加勢に行きたいんだが...ぐっ!』
『脹相!!』
倒れかけた脹相を支えて、ゆっくりと地面に寝かせる。
とっくに身体が限界のようだ。寧ろ、今まで立っていられたのがおかしいくらい。
『すまない、悠仁。こんな時に、力になれない...!俺はお兄ちゃん、失っ、格っ......
そのまま脹相は、眠るように意識を失った。
『何言ってんだよ、十分すぎるくらいだって。』
ああ、悠仁の言う通りだ。
こんなボロボロの身体で最後まで諦めずに踏ん張って。命懸けで戦って。
見事に弟を救って見せた。
本当に、最高のお兄ちゃんだよ。......お前は。弟に救われてばかりの俺とは大違いだ。
『すっくんの指、確かに預かった。』
脹相が握りしめていた指を、そっと受け取って懐に入れる。
今この場で取り込むことも考えたが、呪力の補給だったり、宿儺呪力モードの延長だったり、とっておく事のメリットも大きい。真人戦もそれがなきゃ詰んでたし。
さて、これで準備は整った。
『行ってくるよ、兄貴。』
悠仁は家族に言葉をかける。残念ながら、意識のない脹相には聞こえな
『待て悠仁!今、“兄貴”とそう言ったか!?』
聞こえてたわ。いつの間にか脹相が目をカッと見開いている。
『俺をお兄ちゃんと認めてくれるのか!?ついに、ついになのか!?悠仁ぃ!!』
『ちょ、なんで復活してんだよ!大人しく寝てろって!』
悠仁は狂喜乱舞する兄を宥めていた。その“問い”は否定していない。
『ついでに私も一ついいかな。』
声のする方を振り返る。そこには、目を覚ました九十九さんの姿があった。
「良かった、意識が戻ったんすね!何か、身体に違和感あるとこないですか?」
『ああ問題ない。バッチグーだよ。』
傷が治ったとはいえ、流石にまだ動くのは厳しそうだ。呪力の方も、何故か一向に回復する様子がない。
それでも、彼女の顔に浮かんでいたのは、そんな不安を感じさせない快活な笑顔だった。
『それで君たち、ちょっとこっちにおいで。私の美貌を治してくれたお礼だ。良いものをあげるよ。』
◆
ここは、呪術高専東京高のとある宿舎。
その最奥には虎杖悠仁達が保護した受肉体、壊相と血塗、そして脹相のために、一室が用意されている。
『兄者ぁ、大丈夫かな〜?』
『兄さんのことです。何か考えがあるんでしょう。』
血塗と壊相は、突如姿を消した兄のことを心配していた。
『ひょっとしたら、任務に出ている悠仁に、何かあったのかもしれませんね。』
『確かに!兄者なら、色々感じ取れるもんな!!』
『しかし何処へ行ったのやら。兄さんも私たちと同じく、高専関係者の許可無しには、外へ出れない筈なのですが。』
脹相の身体を借りた賀茂ヒカリが、勝手に渋谷へレリゴーした。それが実際のところ。
縛りにおいても、転生した人間は転生先とは別人として扱われるのだ。しかしそんな事、壊相と血塗は知りようもない。
現状、2人は大人しく兄の帰りを待っていることしか
《ピンポーン》
突然、部屋のチャイムが鳴る。
『あ、兄者?帰ってきた.....あれぇ?』
嬉しそうに、ドアに向かって走り寄ろうとしていた、血塗の脚が止まる。
《ピンポーン》《ピンポーン》
急かすように二度、三度とチャイムが鳴らされた。
『......血塗、下がっていなさい。』
術式を展開し、壊相が前に出る。ドアの向こうから感じる気配は、どういうわけか血を分けた兄弟のそれだった。
しかし、それとは別の異様な気配も同時に感じる。
《ピンポーン》《ピンポーン》
《ピンポーン》《ピンポーン》
《ピンポーン》《ピンポーン》
《ピンポーン》《ピンポーン》
《ピンポーン》《ピンポーン》
警戒する2人を他所に、チャイムはけたたましく鳴り響いていた。
『一体、何者です...?』
壊相の呟きとともに、部屋の扉が吹き飛ばされる。
差し込んできた月明かりが侵入者の姿を照らし出ていた。
やっと見つけた