宿儺「どけ!!!俺は主人公の相棒だぞ!!!」   作:バケギツネ

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因縁なんてあればあるほどいいよね

 

 

「ブラックサンダースクナックル!」

 

 偽夏油さんの顔面に拳をシュート!超エキサイティング!!

 

 不本意ながら、重度のロリコン露出狂たる原作宿儺に化けた甲斐あって、無事に不意打ちが成功!

 

「美々子ちゃん達と約束したんでな。その身体も、五条先生も。お前が今まで奪ってきたもん、全部纏めて返してもらう。」

 

 決めセリフが炸裂すると同時に、背後に控えていた分身たちが、パンダ先輩達を包んだ結界を抱え、エッホエッホと退避する。

 

「さて、無為転変が効いてればいいんだが...」

 

 殴った瞬間、同時に術式を発動させた。

 

 無為転変の発動条件は、右の拳で直接タッチ。上手くいけば、この一撃で決着だ。

 

 そうなると、あれだけ前振りした決戦が、世紀の塩試合となるわけだが......

 

『っ、たた。通常攻撃感覚で、食らっていいダメージじゃないな。正直、ヒヤッとしたよ。』

 

 妙な感触の正体が分かった。

 

 俺が殴った奴の頬には、お札に手足が生えたような小型の呪霊が張り付いている。

 

 アレでダメージ和らげて、無為転変も防いでたのか。

 

『この呪霊も貴重だったんけどね。室町末期の襤褸で......まあ今さらどうでもいいか。お陰で貴重な体験ができた。』

 

 偽夏油さんは、頬に張り付いた呪霊をベリベリ剥がし、渦巻きの中に飲み込んでいく。

 

『喰らうのはごめんだけど、さっきの、もう一度見せてくれないかな?黒閃を確定させる技術、結界術の応用だろう?』

 

「よく喋るな。生憎俺は、お前と仲良くなる気はないぞ。」

 

『まあまあ、そう言わずに。君とは、“また”話がしたいと思ってたんだ。』

 

「また?」

 

 あれ、コイツと前に会ってたっけ?

 

 学ラン姿で変な髪型のアラサー男性なんて、一回見たら忘れないと思うんだが。

 

 おっと、別に夏油さんのファッションセンスをディスってるわけじゃないぞ。

 

 あの格好は多分、偽者の方の趣味だろうし。本物夏油さんは、もっと落ち着いた格好をしていたことだろう。

 

 あ、思い出した。そういえばいたぞ、一度戦って以来、音沙汰の無かった敵が。

 

「まさか、お前は...!」

 

『気付いたようだね。』

 

「少年院の変態マコマコ野郎...?」

 

『人違いのようだね。』

 

「え、違うの?」

 

 少年院で戦って以来まるで出番の無い、暫定ラスボス候補のアイツだとばかり。

 

「あ、もしかして!順平ん家の近所で戦った不審者か!!」

 

『その節はどうも。』

 

 思い出した。何故か俺の指を持っていて、帳サンドイッチもいつの間にか突破していた、仮面の術師。

 

 マジでコイツ黒幕じゃねえか。色々暗躍しすぎだろ。

 

「はっ!まさか......」

 

 そういえばもう一つ、未解決の問題がある。

 

 謎が多すぎて、誰の仕業か皆目見当もつかなかったのだが、もしかしたら......

 

「宿儺と悠仁と京都校の東堂(ジャイアン)は同中の義兄弟だった。」

 

『???????』

 

 それは、京都校との交流戦で明かされた衝撃の事実。

 

「“西中の虎”、“西中の龍”、“西中のなんか腕多い奴”、最強の3人組みで、地元じゃ負け知らず。甲子園も二連覇した。ここまで言えば、分かるな?」

 

『.........いや、さっぱり。』

 

「いい加減にしろ!お前なら、今のでピンときた筈だ!!」

 

 何故か悠仁は、東堂と過ごした3年間の青い春を憶えていなかった。東堂も俺たちと再会するまで、それを忘れていたらしい。

 

 東堂の虚言?それはあり得ない。悠仁との青春を語るあのガン極まった純粋な瞳は、とても嘘を吐いているようには見えなかった。

 

 となると、一つの可能性が浮上する。

 

 何者かが、悠仁と東堂の記憶を消したのだ!!!

 

 恐らく、犯人は目の前の偽夏油さんだ。記憶の操作だって、なんかそういう呪霊がいればお茶の子さいさいだろうし。

 

『........えっと、すまないね。何の話をしているか、さっぱり分からないんだが...』

 

「知らばっくれるな!お前がやったんだろ!!」

 

『え、いや...?』

 

 奴は本気で困惑しているかのような、迫真の演技でシラをきる。

 

 だがアイツは、夏油さんのふりをして、美々子ちゃん達や五条さんを騙そうとするような、サイテー野郎!

 

 どんな言葉も信用できない!俺は騙されないぞ!!

 

 そんな奴より、俺は戦友である東堂の言葉を信じる!!

 

 それに、原作宿儺についても気になることがある。

 

 そもそも東堂の話では、悠仁と同中だった宿儺は、穏やかで頼れる兄貴分的存在だったらしい。

 

 悠仁の身体を乗っ取り、悪逆の限りを尽くした先程までの姿と、どうも一致しないのだ。

 

 少し前までは、凶悪な原作宿儺が猫かぶってたのかな?みたいに思っていたが、もしかしたら...

 

「まさかお前、俺じゃない方の宿儺と縛り結んで、計画に利用したりしてんのか!?」

 

『...まあ、そんなところだね。それがどうかしたのかい?』

 

「なっ、なんてこった!」

 

 悪びれもせずに奴は答える。これでハッキリした。

 

 原作宿儺は、偽夏油さんに操られていた被害者だったんだ!!!

 

 原作宿儺の異名は『“呪い”の王』。

 

 呪い。つまり、呪霊操術の対象であってもおかしくない...!!

 

 じゃあ、悠仁と東堂が記憶を消されていたのって...

 

 

 

 

原作スクナ

『貴様、何者だ?俺のブラザーズを解放しろ!』

 

 その日、いつもの帰り道で、悠仁、東堂、スクナは襲撃を受ける。

 

偽夏油さん

『たははは、それは君次第だよ。縛りを結ぼう。呪霊操術の支配を受け入れるなら、君のブラザーズはこの場で解放しよう。たーーーはっはっはっはっはっ〜。』

 

その犯人は当然、奴だ。

 

 流石のスクナも親友2人を人質にとられては、手の出しようが無かったのだろう。

 

原作スクナ

『くっ...!いいだろう。だが、一つ条件を足させてもらうぞ。』

 

 大切な義兄弟を巻き込んだことに責任を感じていたスクナは、決断を下す。

 

原作スクナ

『ブラザーズからは、俺の記憶を消して貰う。そうでもせんと、奴らは俺を助けようと無茶をする。』

 

 それは余りにも悲しい決断だったはずだ。

 

原作スクナ

『もうブラザーズには、俺の親友でいるせいで、傷ついて欲しくはない。』

 

偽夏油さん

『たははは。いいだろう、交渉成立だ。呪いの王とまで呼ばれた君が、ここまで腑抜けているとは思わなかった。付け入りやすくて助かるよ、たひゃひゃひゃ〜。』

 

 奴が手をかざすと同時に、悠仁と東堂から3年間の青い春が、奪われる。

 

原作スクナ

『2人とも、達者でな。』

 

 スクナもまた、自我の消えつつある脳内に、義兄弟達との青春が駆け巡っていた。

 

原作スクナ

『貴様らとの実にくだらない生き方も、それまでの千年に比べれば、マシな方だった。』

 

 彼の脳裏には、次々と3人での思い出が蘇る。

 

 体育祭のかけっこで無双したこと。

 

 修学旅行の夜、女子部屋に行こうとしたのがバレて、担任に殺されかけ、千年ぶりの緊張が走ったこと。

 

高田ちゃん

『腕が4本?そっか。こうしてたくさん握手できて、お得だね!』

 

 東堂に誘われた握手会。高田ちゃんが嫌な顔一つせず、4つの手を全て握ってくれたこと。

 

 どれもこれも、かけがえのない思い出だった。

 

原作スクナ

『今日は、夕陽がよく滲む。...っ!』

 

 呪霊操術は、ゆっくりとだが確実に、そんな思い出をも塗り潰す。

 

 原作スクナの四つ目からは一筋の光が溢れ、腹の口からは嗚咽が漏れる。下の口は、意地っ張りな本人よりも正直だった。

 

原作スクナ

『天晴れだ。この俺にここまで“傷”を追わせたのは、貴様らが初めてだ。』

 

 強者ゆえの孤独。

 

  生まれながらの孤独を背負い、呪いとして常に1人で生きてきた彼に、愛を教えたのは、

 

原作スクナ

『悠仁、葵。お前たち...のことは、生涯、忘れることは、な、い.....

 

 

 

 青い春は薄れて消え、呪いの王が帰還する。

 

偽夏油さん

『お帰り。』

 

原作スクナ

【ケヒッ、ケヒヒヒヒッ!女の子供だ!イキのよくて愉しめそうな、女の子供を連れて来い!】

 

 身に纏っていた西中の制服(4本腕用オーダーメイド)を破り捨て、上裸となったスクナは本能のまま、露出欲を満たす。

 

原作スクナ

【オウサツオウサツぅ!ケヒヒヒヒヒッ、逆らう奴は、全員ぶっ殺してやるぜぇ!!】

 

偽夏油さん

『そうそう、それでこそ君だ。その調子で、計画に協力してもらおう。』

 

 悠仁たちの義兄弟はもういない。

 

 そこに居るのは、主人の命令と、本能のみに従う、一人ぼっちの裸の王様だった。

 

  実際、上裸で乳首出てるし。

 

-fin-

 

 

 そうか、こういう事だったんだ!これなら東堂の話にも説明がつく!

 

「まさか東堂の記憶が、こんなに重要な伏線だったなんてな。」

 

『あの、すまない。さっきから話についていけないんだけど......』

 

「お前は黙ってろ偽物野郎!人の記憶を、友情を、くっせえ足で踏み躙って、利用しやがって!」

 

 尚もシラをきり続ける諸悪の根源を、4つ目全てで睨みつける。

 

「お前をぶん殴る理由が、また一つ増えた。覚悟しろよ。お前だけは、絶対絶対絶対絶対、タダじゃおかねえ!!」

 

 

 

 

 羂索は、突然吹っ掛けられた意味不明な冤罪に困惑していた。

 

『いや、ちょっと待って...

 

「うるせえ!ぶっ飛ばしてやっかんな!!」

 

 千年以上の記憶を辿る。辛いことも楽しいことも沢山あった。多くの出会いと別れを経験した。数えきれない程の暗躍もしてきた。

 

 だが、

 

『宿儺と虎杖悠仁と東堂葵が、同じ中学の三兄弟...?甲子園二連覇?一体,何を言っているんだい?』

 

 その件に関しては、思い当たる節がまるでない。羂索は頭を抱えるしか無かった。

 

『(そんなバカげた記憶が、存在するわけはない。アレはただの虚言......)』

 

 羂索は冷静に妄言を切り捨てる...

 

『(......と、断じるのは簡単だ。)』

 

 切り捨てる、べきだったのだ。

 

『(嘘を言っているようには見えない。そもそも嘘を吐くメリットがない。少なくとも、彼の中ではそれが真実なんだろう。)』

 

 千年間、未知を追求し続けてきた彼の柔軟な発想が、良くも悪くも遺憾なく発揮されていた。

 

『(すっくんは、“前世”で両面宿儺として、その世界の東堂葵達と球児生活を送っていた...?)』

 

 羂索が辿り着いたのは、すっくんの話が事実だという前提の下、その整合性を取るためだけに捻り出された、無茶苦茶な珍説。

 

『(しかし、すっくんの前世が両面宿儺と考えれば、あの呪術センスにも納得がいく。)』

 

 ただタチの悪い事に、それを補強する根拠も無いではなかった。

 

「往生際が悪いぞ!とっとと認めやがれ!!」

 

『(“加茂”憲倫として作った、脹相に転生したのは、“賀茂”ヒカリだ。偶然とも考え難い。恐らく天内理子にも、星漿体と縁深い“菅原”の血脈が転生していたんだろう。)』

 

 羂索の中で一つの仮説が浮かび上がっていく。

 

『なるほどそういう事か。すっくん、どうやら君はここ(この世界)に来るずっと前から、両面宿儺だったんだね。』

 

「はぁ?いきなり何言ってんだ!ここ(渋谷)に来る前から、俺は両面宿儺だ!当たり前だろそんな事!」

 

 察しの悪いすっくんによって、すれ違いは加速する。

 

『やはりそうか。前世の記憶が混濁でもしているのかな?何にせよ、君の事をもっと知りたくなったよ。』

 

「だったらこれだけ覚えとけ。俺は,お前を倒す者だ。」

 

 そして、幸か不幸か。

 

 そのすれ違いは、逃げの一手を打とうとしていた羂索を、その場に留まらせる。

 

『(保険として、玉藻前の術式ストックもある。多少の無茶なら問題ないかな。)』

 

 それぞれの思惑が完全に一方通行なまま、怪物2人の戦いが幕を開けようとしていた。

 

 

 

 

 

『見せてもらおうか。あの時からの成長を。』

 

 偽夏油さんの合図で、その背後に巨大なヘドロ状の呪霊が現れる。臭っ。

 

『この子は“穢溜”と言ってね。打撃や斬撃は通じない。』

 

 ヘドロの津波が押し寄せてくる。めっちゃ臭っ。

 

「斬撃も打撃も無効か。なら、この新技でも試してみるか。」

 

 俺は迫り来るヘドロに向けて、左手で作った指鉄砲を向ける。

 

「仙豆バレット!!」

 

 指先から、固形化した反転術式が高速で射出され、ヘドロの体内で拡散される。

 

 辺り一面が、飛び散った黒翠色に染まった。

 

「よし!意外とイケるな、これ。」

 

 顕現できない間、技を考える時間は無限にあった。そうして編み出した内の一つが、この仙豆バレットだ。

 

 さっきのように呪霊に遠隔で反転を叩き込む事も、患者にダイナミックな治療をお届けする事もできる、便利技。

 

「次はコイツだ、スクナマス斬り!」

 

『相変わらず、急所を外して手足狙いか。キミも学ばないね...ん?』

 

 奴にアッサリ避けられた斬撃は、空中で軌道を変え、背後から再び襲いかかる。

 

 そう!この技も、休止期間中に編み出した新技!

 

「スクナマス斬りブーメラン!!」

 

『おっと...!』

 

 ギリギリで気付いた奴は、スタイリッシュな動きで回避を試みる。戻ってきた斬撃は、学ランのズボンを掠めるに留まった。

 

『ドンマイ。』

 

「いや、モーマンタイだよ。」

 

 ブーメランにくっ付けていた極細の呪力糸が、斬撃の軌道に合わせ、奴に巻き付いていく。

 

「ミニミニ・スクナワ!」

 

『本命はこっちか。』

 

 グルグル巻きにした奴を、ジャイアントスイングの要領で振り回し、勢いよく地面へと叩きつける。

 

「これでも呪いの王なんでな!容赦なく、ダウン攻めさせてもらう!」

 

 そのまま、反撃の隙を与えず接近し、

 

「帳サンドイッチ!!!」

 

 前回とは比べものにならない程の、強固な檻に閉じ込める。

 

「このまま押し潰す。それが嫌なら10秒以内に縛りを結べ!俺の言いなりになって、何でもするって誓うなら、命だけは助けてやる!はい、10!9!8!7!6!5!4

 

『たはははは。君さ、

 

 瞬間、奴の姿が結界の中から消える。

 

 どうやった!?っていうかどこに、

 

『私メリーさん。今、貴方の後ろにいるの。』

 

 背後からの声に振り返る。

 

メリーさん

 高専登録特級呪霊第五号。口頭での開示を縛りとして、呪った相手の“背後”に瞬時に転移する。

 

呪目相刻万象綴より抜粋

 

 不気味な少女の呪霊を従えた奴の手の中で、極小の渦が巻いていた。

 

『本当に惜しいな。才能はあるのに気質が向いてないよ。呪術師には。』

 

「っそ!!!」

 

 嫌な予感がして、慌てて自分自身にも帳を下ろし、即席の盾にする。

 

「闇より出でて闇より黒くその穢れを禊ぎ祓え!!!(超早口)」

 

 それでも威力を殺しきれずに、後方へと吹っ飛ばされた。

 

「っつう。ってか話が違うぞ!無為転変って、一部除いてダメージ無効じゃねえのかよ!」

 

 抉られた脇腹を治療しながら、思わず抗議の声をあげる。

 

『これでも私は、魂の扱いには精通してるんだ。操る呪霊越しにその輪郭を捉えるのもそう難しい事じゃない。』

 

「・・・なるほどな。」

 

 無為転変。敵だった頃は厄介だったこの術式も、使ってみると意外と不便だと気付く。

 

 今回みたいに、意外と天敵いっぱいなのもそう。

 

 何となくだがこの先の敵も、無為転変への有効打持ちがデフォになりそうな予感がする。

 

 あと、自分以外の魂をいじる時、“通常の人型”でないといけないようだ。

 

 思えば真人も、小型化してタッチ!腕を伸ばしてタッチ!みたいな無法はしてこなかった。

 

 加えて俺は、改造がド下手だ。

 

 課題だった、改造人間の取り扱いについては一級品。あと、悠仁のカラダを弄る事にも自信はある。いや、変な意味じゃなくて。

 

 だが、それ以外の部分はからっきしだったりするのだ。

 

「って言うか、お前自身の術式...人の身体を乗っ取るソレも、魂由来の能力なのか?」

 

『まあ、そうとも言えるかな。ただ、魂への理解については、千年の研鑽の賜物だよ。知っているかい?宿儺に呪物化の手解きをしたのも私なんだ。』

 

「・・・マジで余計なことしかしてねえな、お前。」

 

『随分辛辣じゃないか。君がこうして転生できたのだって、宿儺の受肉があってこそだろう?』

 

「っ!転生のことまでっ...!」

 

『つまり、すっくん。私は君にとって、産みの親みたいなものなのさ。あーそう言う意味では、虎杖悠仁と同じか。君たちの相性がいいのも頷ける。』

 

「どこまでもふざけやがって。」

 

『そういえば、虎杖悠仁(カレ)。随分大人しいね。私に文句の一つでも言ってくると思っていたのに。会わせてはくれないのかい?久しぶりに親子水入らずで話すのも悪くない。』

 

「はっ、お断りだ!お前みてえなヤベエ身内、悠仁にはぜってえ近づけさせねえ!」

 

『気を遣わせて悪いねえ。もっとハッキリ言ってくれてもいいんだよ。お宅の息子じゃ、この戦いには足手纏いだって。』

 

「は?」

 

 いかんいかん。ついつい奴のペースに乗せられてしまう。さて、次はどう攻めるか......

 

「「「「「もしもし!こちら分身すっくん!」」」」」

 

 奴と睨み合っていると、パンダ先輩達の避難を終えた分身B〜Fを通して、情報が舞い込んでくる。

 

 ふむふむ、なるほど〜。日下部さんから有力情報だ。

 

「聞いたぞ。お前、領域と反転が使えないらしいな。」

 

『ふふっ。呪術師っていうのはね、嘘をつくのが当たり前の人間なんだ。その情報が、君の領域を誘うために、私が流したブラフだとは考えないのかな?』

 

「え、あ、た、たしかに...そうかも?いや、で、でも、

 

『君、腹芸に弱すぎでしょ。』

 

「う、うるせえ!」

 

 クッソ、どーもこういう駆け引きは苦手だ。だが、灰原さんの報告からも分かるように、呪霊操術の強みは手数の多さ。長期戦になるほど、不利になるのはこっち。

 

 ここはやっぱり領域で一気に...

 

『私メリーさん。今、貴方の後ろにいるの。』

 

「おおっ!!」

 

 また背後から声が響き、咄嗟に真上へ跳んで回避する。数秒前に俺がいた場所を、極小の渦巻きが通過していた。

 

「オイオイ焦ってんのか?その態度、領域を使われたくないですよって、言ってるようなもんだぞ!」

 

『その辺りは、ご想像にお任せするよ。』

 

 領域と反転を使えないのは間違い無さそうだ。だったら、一刻も早く領域を...

 

『あーそーぼー。』

 

 目の前におかっぱ頭の不気味な女の子が現れる。ソイツは、俺でも知ってるようなビッグネームだった。

 

 彼女を中心に世界が揺らいでいく。

 

「これは簡易領域...?」

 

トイレの花子さん

 高専登録特級呪霊第八号。十人十色の逸話を持つ彼女の原動力は、呪う相手の想像力。自分の存在を知覚した相手を狭い簡易領域に閉じ込め、『本人が考えうる最悪の殺され方』を体験させる。

 

執律呪壽封戒全書より抜粋

 

「ヤバいっ、呑まれ......」

 

 視界が暗転する。

 

 目を開けると、そこにはかつての俺がいた。

 

「うるさいっ...!うるさいんだよぉ!何で1人にしてくれないっ...!」

 

 殺意に満ちた自身の目に射抜かれながら、両手で首を絞められる。

 

「消えろっ!消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ!......死ねよっ!!」

 

 水の中に視界が沈む。そのまま、どんどん意識が遠くなっていく。

 

「はぁはぁ...趣味のっ、悪ぃことしやがって...!」

 

 首に絡みつく手を引き剥がし、かつての自身に蹴りを入れる。

 

 苦しそうな呻き声をあげながら、地面を転がるソイツの目は、なおも憎悪で血走っていた。

 

「っ......!」

 

 自身の過去に背を向けて、俺は逃げ出した。

 

 こんな場所に居たんじゃ集中が乱れる。領域を展開するどころじゃない。

 

「初めからお前さえいなければっ...!」

 

「早く、早く脱出を...この辺か!!」

 

 感知した簡易領域の内郭。外郭と比べ頑丈なソレを力づくで叩き割って突破する。

 

 目に映る世界が渋谷の荒地へと戻ってきた。

 

『ちょっとぉ、もっとあそぼ・・・

 

「白閃!!!!!!」

 

 再び領域を開こうとする花子さんに、反転術式と黒閃を同時に叩き込み、霧散させる。

 

 これで邪魔者はいなくなった。

 

「領域てn...っ!!」

 

 掌印を結ぼうとした俺の意識が、ふっと途切れる。

 

「なっ、これっ...どう.........あ、」

 

 俺の身体中には、百を超える不気味な目玉が浮き出ていた。

 

《一つ目小僧》

 高専登録特級呪霊第一号。凝視した相手に“感覚を有する”108の目を生やす。

 

紅閣篆籍編纂録より抜粋

 

『人間の脳は、視覚情報の処理に四割のリソースを割かれる。目が増え、数十倍に膨れあがった視覚情報が、君の後頭葉を狂わせたんだよ。』

 

 マ、ズイ、思考、が、でき...ない。そうだ、無為転変、で、体を、元に......

 

『簡易的な無量空処さ。威力は、本家の百分の一にも満たないけどね。君だって、あと数秒で動けるようになるだろう。だから、本命はこっちだ。』

 

 110の眼が不気味な黒い影を捉えた。

 

吸血鬼

 高専登録特級呪霊第十号。その正体は呪力に異常を来たした蝙蝠。本体から100メートル以上離れられないと言う縛りで、無限に複製体を生み出せる。

 

赫憑焚嘽より抜粋

 

 蝙蝠の群れが、一斉に俺に襲いかかり、体に浮き出た眼球にその牙を突き立てる。

 

「あがあああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 身体中の目にはしっかりと神経が通っていた。想像を絶する激痛が全身を走り抜ける。

 

 同時に力も抜けていく。血液と呪力をかなり吸われたらしい。

 

『もぉーいーかあああああーーーい!』

 

 追撃は止まらない。

 

 皮膚が赤く焼け爛れ、頭には立派な一本角を湛えた巨人が、燃え盛る金棒を振り上げていた。

 

赤鬼

 高専登録特級呪霊第ニ号。太古の術師の成れの果て。持ち主すら焼き尽くす金棒型の特級呪具・鬼哭を使いこなす。その炎は、鬼の涙をかけるか、鬼が死ぬまで止まらない。ちなみに結構泣く。

 

比叡封界書より抜粋

 

「んぎっ...!!!!」

 

 地面へと勢いよく叩きつけられ、燃え移った灼熱の炎が身を焼いていく。

 

「マズイマズイ、体勢を立て直して...っ!?」

 

 起こそうとする身体がどうしても持ち上がらない。見えない何かに押さえつけられているように。

 

『不非異断䵷懿膿穢堊・・・

 

塗り壁

 高専登録特級呪霊第十五号。本体は手足。壁面から壁面へ自在に移動し、呪詞の詠唱と共に手をかざした対象の一方への指向性を殺す。

 

血詡蠃記より抜粋

 

 体を焼かれながらも、動けない俺の身体中に、気味の悪いナニカが絡みつき、締め上げていった。

 

「うわっ、何だこれっ...呪霊の、首?」

 

ろくろ首

 高専登録特級呪霊第六号。首だけしか呪力強化できない縛りで、その部位へのあらゆる干渉を拒絶する。なお、首は地球一周分まで伸びる。ただし、縮めることはできない。

 

頸無懿秘祿より抜粋

 

 絶賛炎上中(物理)の俺に密着しているにも関わらず、その首に炎が燃え移る様子はなかった。

 

『行かないでぇ。捨てないでぇ。ずっとずっと待ってたのにぃ...!首をっ、ながーくぅ、ながーくしてぇ...!!』

 

 掌印に必要な手足が封じられ、首を首で(?)締め上げられる。

 

「まだだっ、手足が使えないならっ!」

 

 自身の口をぱかっと開ける。口内に生やした腕で掌印を結べば、

 

「領域てんか......っ!?」

 

 生え掛けの腕が切断される。新たに呼びだされた、両腕に鎌を携える小型呪霊の仕業らしい。

 

鎌鼬鼠

 高専登録特級呪霊第十一号。鎌の一振りで真空状態を作り出し、対象を斬る。痛みはない。斬られた箇所は呪力の供給が絶たれ、反転術式による治療も不可能になる。

 

竇劍鵐鸞より抜粋。

 

『生やした手足で、領域の掌印を結ぶ。真人にだってできたんだ。当然、それにも警戒するさ。』

 

 負けじと、身体の内外に次々と手足を生やしていく。しかしその手足は、掌印を結ぶ前に真空の刃に切り裂かれてしまう。

 

「何ちゅう、反応速度だよ。」

 

『鎌鼬鼠に縛りを結ばせ、その攻撃対象を、君から生えた手足に限定した。その成果だよ。』

 

 奴の言葉は本当らしい。試しに身体から手足を生やす事を止めると、鎌鼬からの攻撃はピタリと止んだ。

 

 その代わりに、身を焦がす赤鬼の炎と、ろくろっ首からの締め付けが強まる。

 

「手足が使えないなら、帳でっ!闇より出でて闇より黒くその穢れを禊ぎ祓・・・あれ?」

 

 形成されつつあった極小の帳が霧散する。倒れた俺を囲むように、不気味な円陣が地面に描かれていた。

 

 奴が新たに呼び出した、白く美しい毛並みを靡かせる、狼のような呪霊の仕業だろう。

 

犬神

 高専登録特級呪霊第十三号。半径三尺程の円形簡易領域を展開し、足を踏み入れた相手を呪う。並の術師なら入った時点で、一級相当でも1秒で、犬神の眷属となる。

 

豹獣法典より抜粋

 

「頭がっ、っ...!!!」

 

 俺の身体が変化していく。皮膚を裂いて、犬耳と尻尾が生えていた。

 

「ああっ、まずいっ...ゆ、悠仁の身体がっ、どんどんっ、ケモナー好みにっ...!」

 

『一時的に自我を奪って、君を回収させてもらう。本物の宿儺にも、借りを作っておきたいしね。』

 

 抵抗のため、慌てて手足を生やそうとするも、生やした側から鎌鼬鼠に両断されてしまう。

 

『だから、無駄だと言っただろう?これこそが、呪霊操術の真骨頂だ。強化した特級呪霊の軍隊による、圧倒的な手数で封殺する。』

 

「まるでっ、特級呪霊のバーゲンセールだな...一体っ、何体いるんだよ...」

 

『これでもだいぶ減った方だよ。五条悟と乙骨憂太の足止めに、かなりの持ち駒を使わされた。』

 

 こちらを見下ろす偽夏油さんの周囲に、新たに3つの気配が現れる。

 

『せっかくだからハッキリさせておこう。かつて、高専に登録されていた個体全て。それが今、私の手元に残った特級呪霊の数だよ。』

 

 奴が従える規格外の特級呪霊達。その数は、11体。

 

『賀茂ヒカリに祓われた“玉藻前(九尾の狐)”と、未だ再出現していない“口裂け女”。それに、さっき祓われた“トイレの花子さん”を除いても、君をこうして制圧するには充分な戦力だ。』

 

 ぼやけていく視界の中に、奴の薄ら笑いが映った。

 

『ちょっと拍子抜けだな。こんな勝ち方をしておいてなんだが、もっと面白いものが見れると、期待していたのに。』

 

 

 

 

 

 

 

 

「お望み通り、見せてやるよ。こっから、とびっきりの面白えもんを。」

 

『これはっ...!』

 

 倒れた俺の真下の地面を突き破って,100本近くの腕が生えてくる。

 

『すっくんの分身か...!』

 

「せいっかい!!」

 

 分身5人に指示を出した。

 

 避難所から、「生やしまくった腕を伸ばして地中を掘り進み、本体である俺に触れろ」ってな。

 

 狙い通りだ。本体の俺から生える手足の処理に夢中だった鎌鼬鼠は、突然現れた100本近くの腕に対応しきれない。

 

 分身達の手は、撃墜されずに残った10本程が、本体である俺の身体にくっ付いて、その一部が融合する。

 

「流石の俺も、分身に領域展開して貰うのは無理だ。絶対に、本体が掌印を結ぶ必要がある。でも真人みたいに、生やした手足で掌印を組んでも、問題はない。

 

『まさかっ...!!』

 

 分身5人には、もう一つ指示を出してある。

 

 腕で地中を掘り進めると同時に、口に生やした手足で領域の掌印を結んでおくように、ってな。

 

「遠くで掌印を結んだ分身。本体である俺。この二つをくっ付けて,一つにした。これで、領域の条件は満たした!」

 

 俺の世界が押し広げられる。背後には、英雄達の記憶が詰まった分厚い本が浮かび上がった。

 

「領域展開・勇士英傑譚」

 

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