宿儺「どけ!!!俺は主人公の相棒だぞ!!!」 作:バケギツネ
◇
「領域展開。」
ようやく領域展開が成功!俺の世界の輪郭が、中空へと刻まれていく。
「これで、どうだ!!」
日下部さん達からの情報が正しければ、奴は反転術式と領域展開が使えない。だからこそ、確実に仕留めにいく。
逃げ場がないよう、完全に閉じた結界を展開し、必中必殺も付与しておいた。
これで決まれば万々歳だが、
『『『『領域展開』』』』
4つの不協和音が響く。
一つ目小僧、赤鬼、犬神、塗り壁の4体が、割り込むように、領域を展開していた。
その背後では、新たに沸いた(恐らく準一級以上の)呪霊100体近くが、統率された掌印と呪詞で結界を補強する。
「クッソ、そう上手くはいかねえか!」
領域バトルは、それでも俺が圧倒的に有利。その分奴らは、必中無効だけに注力してるっぽい。
『危ない危ない。』
口ではそう言いつつも、縫い目アリの奴の額には、汗の一つも見当たらない。奴の1番の強みは、技術でも、術式でもなく、この用意周到さなのかもしれないな。
『これも全て、夏油傑の開発した呪霊のオート操作があってこそだ。彼には感謝しないとね。』
「やめろ,お前が夏油さんを語るな。」
『そう言うなよ。これでも私は、彼の理解者であるつもりなんだ。彼の身体も術式も記憶も、共有している事だしね。』
「何が理解だ。理解っつーのは、互いに言葉交わして、じっくりと時間をかけてしていくもんだ!お前の事を偽者だって見破った、美々子ちゃんと菜々子ちゃんが、本物の夏油さんとそうしてたように!」
恩人を救ってほしい。命懸けで頼み込んできた、少女達の姿が頭をよぎる。
『記憶を読む方が理解はより正確だろう?その証拠に私は、夏油傑以上に、この身体を有効活用できていると自負しているよ。』
改めて突きつけられる。目の前にいる術師は、見えている物も、目指している場所も、生きる世界も、何もかもが俺とは違いすぎていた。
『勿論、
夏油傑の顔のまま、奴は心底残念そうな表情になる。それがまた腹立つ。
『高専への呪霊貸し出し。それによる消耗と戦力の分散が無ければ、殺されていたのは私の方だったろうに。彼はもっと、自分自身のために力を振るうべきだった。今の私のようにね。それこそが呪霊操術の最適解なんだから。』
「お前が勝手に、それを決めるな。少なくとも俺は、自分の力で1つでも多くの命を守ろうとした本物の夏油さんの生き様の方が、よっぽど好きだし憧れる!」
『随分と夏油傑の肩を持つじゃないか。彼とは知り合いでも何でもないだろう?』
「美々子ちゃん達から話を聞いた。彼への思いも含めて全部だ。もう、その身体を弄ばせないって、約束した。」
『そういう縛りだろう?不殺の件といい、ただの契約を美化するなよ。』
「もういい、話は終わりだ。」
呪霊達の拘束から抜け出し、自由になった俺は再び掌印を結ぶ。
身体中を熱い呪力が駆け巡る。もう、迷いはない。
『この感じは・・・既に展開した領域の条件を、調整する気かい?』
俺の領域・勇士英傑譚は、あらゆる英雄の力を内包する分、消耗が激しい。感覚としては、ダンベルを持ち上げたまま、フルマラソンをさせられる、みたいな!
さっきまでの攻防で呪力を大分持ってかれたし、必中効果も無力化されたんで、長期戦が予想される。
だからこそ、領域に組み込む英雄の数を、今回は敢えて絞る事にした。
勇士英傑譚のセールスポイントと引き換えに、その弱点をカバーする。
”千“年を生きてるらしい偽者野郎に対抗するため、俺が編み出した新たな領域。
その名も、
「勇士英傑譚・
背後の白本には無数の黒線が浮かび上がり、『千』にまつわる英雄達を描き出した。
『鎌鼬鼠!』
偽者野郎からの雑な指示が飛ぶ。風の軋む音と共に、無数の刃が空を奔った。
さっきよりも速度と威力が無い分、数が多い。これでは避けきれないだろう。
なら、避けない。
俺の身体は切り裂かれ、四肢は乱雑に飛び散った。それこそ、「バラバラ」に。
『んっ...?』
偽者野郎からも思わず困惑の声。
細かく切り刻まれた俺は、それでも動き続けていたのだ。不思議と切断の痛みは無い。
その原動力は”千“両道化の力。
「バラバラフェスティバル!!」
無数の肉片は、慌てふためく鎌鼬鼠に飛びかかる。
あらゆる方向から、殴り、蹴り、齧り、突き刺し、標的を祓いきる。その後、欠片は1つにくっついて元通りだ。
「特級は残り10体か。めんどくせえし、一気に行くか。」
再び掌印で、領域の環境を変化させる。この身には“悪魔の子”の力が宿っていた。
「
アスファルトを突き破り、無数の腕が生えてくる。それらは束ねられて、数十本の巨腕となる。
そして、
「木の葉流体術奥義・”千“年ごろし!」
巨腕は変幻自在の動きで、呪霊達の臀部へと迫り、突き上げた。予想外の攻撃に、フィジカルで劣る一つ目小僧、ろくろ首、犬神は対応が遅れる。
その3体は、臀部から反転術式を直接流し込まれて、悲惨な断末魔と共にあえなく爆発四散した。
死因としては最悪の部類だろうな。
「残り7体!」
『無茶苦茶だね。って言うか君、ジャンプファンだろう。良いのかい?ニコ・ロ○ンの技をそんな風に使って。』
「ニコ・ロ○ンだって、フ○ンキーのキン○マを握りつぶした!!!」
『あったなそんな事も...』
攻撃の手は緩めない。
これまでの失態を“挽回”すべく、巨腕と同時に飛び散ったハナバナへと、呪力を込める。
「”千“本桜景厳」
斬撃が桜の花びらとなって舞い踊る。
幻想的で冷徹な死の群舞は、塗り壁や吸血鬼の群れを一網打尽にしていた。
「残り5体・・・うぉっ!?」
耳を裂く風鳴りと共に、何かが通り抜ける。左足が喰い千切られていた。
『お揃いー。もっともっとー。お揃いになろー。』
上半身だけの女の子が、俺の左足を不味そうに咀嚼していた。
テケテケ
高専登録特級呪霊第十四号。地面を這って移動し、直進のみ、段差を越えられないという縛りで、その速度は投射呪法を上回る。
都市魔障録より抜粋
「面白え、スピード勝負と行くか。」
脚を再生させると、右手にグローブ状の呪力を纏わせ、その性質を変化させる。
バチバチと火花を散らすそれは、”千“の鳥が囀る音を戦場に響かせた。
「千鳥。」
無為転変の改造で、動体視力が強化された目は、紋様と共に紅く輝いた。これならば、テケテケのスピードにも対応できる。
「いっせーの、せっ!!!!」
勝負は一瞬。
同時に駆け出した俺とテケテケは、すれ違いざま互いに腕を振るう。
標的へと届いたのは、俺の左手だけだった。その身体を貫かれたテケテケは、動きを止める。
「残り4体。次はどいつだ?」
突如発生した5重の竜巻。凄まじい風圧が俺の身体を浮き上がらせた。
『なぜじゃ、なぜ女子じゃない。男を風に巻いて、何が楽しい!!』
鞍馬天狗
高専登録特級呪霊第七号。強力な神通力を持つ天狗の老王。手に持った扇で起こす竜巻は、現代の台風の殆どの原因。『禿げ』は禁句。
天魔武経抄より抜粋
「っ、そこ、だっ!!」
暴風の只中でも、強化された俺の眼なら、その向こう側にいる標的を魂で見つけられる。
左手の呪力を細剣として一直線に解き放ち、天狗の脳天を貫いた。それと同時に竜巻も掻き消える。
「あと、3体。ん?」
突如、辺りが暗くなる。
見上げれば、渋谷の高層ビルを凌ぐ巨大なシルエットが、月明かりを覆い隠していた。
『あのー、恐縮ですー。上から失礼しますー。』
高専登録特級呪霊第十二号。デカい、説明不要。
天地創巨伝より抜粋
ダイダラボッチは、手近なビルを玩具のように引っこ抜き、振りかぶる。その窓ガラスは割れ、煌めきながらシャワーのように降り注いだ。
「ちょ,何やってんだ!?そのビルって・・・」
渋谷スクランブルスクエア
渋谷駅に直結した複合施設であり、地上47階建てで高さは約230m。屋上には展望台を備えている。46階のバー『Paradise Lounge』の『SKY チュロス』が結構イケる。
って五条さんが言ってた。
「どいつもこいつも、渋谷のインフラを何だと思ってんだ!」
無為転変を駆使して、自分の肉体を組み替えていく。
「木遁・真数”千“手」
俺が変身したのは、背中に幾千の巨腕を芽吹かせる、観音を模した木造の巨神。そのサイズは、ダイダラボッチを、悠々と超える。
「はい、これ没収!!」
白刃取りしたスクランブルスクエアを取り上げ、元の位置にぶっ建て直す。
これで、伊地知師匠を始めとする高専側の後処理が、少しでも楽になる事を願おう。
さて。今のサイズだと、ダイダラボッチはともかく、他の呪霊達はまるで豆粒サイズだな。これが巨人の気分か。
「駆逐してやる、一匹残らず!!」
足元の呪霊達へと、巨大な拳の大群を一斉に振り下ろす。
その質量の暴力は、ダイダラボッチを、赤鬼を、簡易領域の維持を続ける100体近くの準一級呪霊達を、蹂躙する。
「これでもう、俺の領域に対抗できる呪霊はいない!今なら必中効果も取り戻せる!」
元のサイズに戻った俺は,再び掌印を結ぶ。
夏油さんの身体は無傷で取り戻したい。だからこそ、必中の無為転変で確実に・・・
「ん?」
周囲に無数の呪霊が現れる。でもコイツら全員4級以下の蝿頭だぞ。何の意味が、
『私メリーさん。今、貴方の後ろにいるの。』
「やっぱり来たか!」
奴の最後の特級呪霊・メリーさん。このタイミングで仕掛けて来るのは分かっていた。
でも、3回目ともなればタネは割れてる。アイツが転移できるのは、呪った相手の背後にだけ!
「ブラックサンダー・スクナックル!」
声と同時に振り返り、真後ろに拳を振るう。
しかし、
「あれ?」
背後に偽者野郎の姿はない。
どこだ?転移はフェイント?いやこれは、
『よかったよ、引っかかってくれて。』
俺が元々正面を向いていた方向から、偽者野郎の声が聞こえる。
恐らく奴が転移したのは、俺の背後じゃない。俺を囲んでいた蝿頭の内の一体の背後に、転移したのだ。
クッソ、まんまと裏をかかれた!
『そしてありがとう。君のおかげで、新たな知見を得られた。』
振り向いた俺の視界が捉えたのは、拳を振りかぶる偽者野郎の姿。その右手には、結界術を応用したグローブ状の呪力が纏わりついている。
「原作宿儺といい、お前といい、人の技を気軽にパクリやがって!」
奴の前で、黒閃確定メソッドを使いすぎた。
アイツの目的は、黒閃で反転術式の出力を戻し、自分自身の領域を取り戻す事!ずっとこのチャンスを狙って・・・
『さて、こうだったかな?黒閃。』
奴の拳に顔面を殴られ、身体は地面を転がる。それと同時に黒い火花が、偽者野郎へと微笑みかける、
なんて事は無かった。
『黒閃が起こらない...?失敗した?いや、これは、』
「上手くいった!その名も、『黒閃封じ』!」
打撃の瞬間、攻撃される箇所に呪力を纏わせ、黒閃が起こりにくい空間を発生させた。
原理としては簡単。いつもやってる事の正反対だ。
『なるほど、次からはそれにも気をつけないとね。』
「次はねえよ、これで終わりだ。」
起き上がって掌印を組む。俺の世界は必中必殺を取り戻していた。
蝿頭も、メリーさんも、無為転変の餌食となって、一瞬で祓われる。
『っ、彌虚葛籠...!』
奴が簡易領域のようなものを展開する。
数度見ただけの黒閃をパクれるだけはある。凄まじい結界術の技量だ。一時的とは言え、俺の必中効果を防いでいる。
だが時間の問題だ。俺の領域なら、15秒もかからずに剥ぎとり、勝負を決められる!
「夏油さんの身体,返してもらうぞ!」
声にも思わず力がこもる。
俺の領域は、奴の纏った結界の鎧に少しずつヒビを入れ、完全に破壊する
その直前で自壊した。
「え?」
何が何だか分からないまま、視界は滲み、思考の輪郭が薄れていく。四肢は言う事を聞かず、身体はその場に崩れ落ちる。
これは、呪力切れだ。
幾ら何でも早すぎる。第一、それを防ぐために、領域にも工夫を凝らしたのに!
何だ、分からん、分からねば!
『あれ!? おい、すっくん。どうなってんだこれ。』
悠仁も異変に気づく。
避難所に残した分身B〜Fも、悠仁の為に九十九さんの所に残した分身Aも消えている。
『やれやれ、本当にギリギリだった。』
ムカデ呪霊が身体中を這い回り、俺が懐に忍ばせていた宿儺の指2本を掠め取る。
『預からせてもらうよ。これで呪力を回復でもされたら、面倒だ。』
薄ら笑いを浮かべる奴は、奪った指を丁重に包んで、学ランの胸ポケットに仕舞い込む。
「あ、返せっ!ドロボー!!」
『それは兄貴が、俺たちに託してくれたもんだ! hey、すっくん!』
身体の所有権が悠仁へと移る。幸いにも、悠仁の呪力は満タンだ。
『ああ忘れていたよ。君もいたんだったね。』
相棒はその拳を振りかぶる。その手にグローブ状の呪力を纏わせて。
『黒閃っ...
『術式反転・重力機構』
見えない力が、相棒を地面へと押さえつける。
『ぐっ...!!』
『虎杖悠仁。確かに君は新時代の台風の目だ。だが,勘違いはしないでくれ。』
異常な引力に導かれた数百体の低級呪霊が、悠仁の身体に降り注いで押し潰し、その意識を刈り取った。
「悠仁!!」
『君はあくまで、宿儺やすっくんを納める”器“だ。君自身に、具体的な役割や期待はない。』
奴の悠仁を見つめる目は、据わりきっていた。
「hey悠仁! クッソ、てめえウチの相棒に何を・・・」
『現実をしっかり伝えるのも、親としての役割だと思ってね。』
「親っ!? やっぱり、お前が!」
アッサリと正体を明かした偽物野郎に、身体の主導権を得た俺は、奥歯を噛み砕かんばかりに食いしばる。
相棒の身体は全身の骨が砕かれていた。これでは動けない。
俺の方も呪力が足りない。身体強化も、反転による回復もできない。
こんな感覚は初めてだ。呪力を新たに練ることもままならない。いや、練った側からどこかに消えていくような感覚だ。
「答え、ろっ、何をしたっ...?」
呻くような俺の声に、奴は余裕の口調で答える。
『少し前に言ったろ?私が従える特級呪霊は、高専が登録していたもの全てだって。正確にいうと、その数は”16“体なんだ。』
「16...?それって、」
玉藻前、口裂け女。そして、俺が祓った、
トイレの花子さん
鎌鼬鼠
一つ目小僧
ろくろ首
犬神
塗り壁
吸血鬼
テケテケ
鞍馬天狗
ダイダラボッチ
赤鬼
メリーさん
全て足しても14体だ。2体足りない...!
「まだいたのか、手持ちの特級呪霊が...!」
『せっかくだから教えてあげよう。一体の名は”ぬらりひょん“。もう一体の名は、”朧絶“と言ってね。』
ぬらりひょん
高専登録特級呪霊第四号。かつての呪霊操術の使い手が愛する呪霊に転じた姿。大の人間嫌いだった彼は、術式によって”人間“からの認識を阻害する。
百鬼夜行絵巻より抜粋
朧絶
高専登録特級呪霊第十六号。その術式は『奸骨奪胎』。自らの作り出した器に、一定の条件を満たした術式を再現させる事ができる。
奈木野健介の報告書より
「ろうぜつ?術式の再現って・・・」
『その条件は3つ。
①相手に直接触れる事
②相手の血と呪力を得る事
③相手の術式を体感する事
これらは全て、私や呪霊に肩代わりさせて達成し、無為転変を使いこなす”器“を作り出したんだ。』
屈辱的な種明かしが始まる。
「っ、でも、それと呪力切れに、何の関係が・・・」
『いい質問だ。器の力の源はね、コピー元であるすっくんなんだ。器が力を使えば使う程、すっくんの呪力は勝手に消費されるようになっている。』
そういう事か。コピー能力をそんな風に使われるとは・・・
『そして、器の存在に気付かれないよう、ぬらりひょんの力で認識を阻害している。勿論、今この時もね。』
奴の言う通り、練った呪力は何処かに吸い上げられ続けている。
それはつまり。器が存在する限り、俺はもう永遠に呪力を練れないという事。
勝ち筋が、一つ一つ丁寧に潰されていく。
『さて、此方は先に回復を済ませておこうか。』
奴はその手に、再びグローブ状の呪力を纏う。そして周囲に、数体の蝿頭を呼び出した。
『調伏契約を破棄する。今から君たちは自由だ。』
そう告げた直後、奴の拳が蝿頭を壁に叩きつける。
黒閃とは二種の呪力の衝突。だからこそ、奴はサンドバックとなる呪霊から、自身の呪力を取り除いたのだろう。
その甲斐あってか、今度こそ黒く禍々しい火花は、奴へと微笑みかけていた。
その口元には冷たい笑みが浮かぶ。
『なるほどね。天然モノの黒閃とは相違点も多いが、呪力出力を活性化させる効果は同じらしい。』
奴は実験でもするように、様々、やり方を調整しながら、淡々と黒閃を連発する。
恐らく、反転術式の出力が戻ったのだろう。奴の身体がみるみるうちに回復していく。
奴からは、頭の縫い目以外の傷が全て消えていた。
『すっくん。改めて感謝をさせてくれ。君は私の恩人だよ。』
その声が残酷な現実を告げてくる。
仲間達が必死に繋いでくれたバトンを、俺が、俺のせいで、取り落としてしまった。
「クッソ...!!!」
『さあ、そろそろ行こうか。』
奴の呼び出した低級の毛むくじゃら呪霊が、身体を乱雑に掴んで持ち上げる。身体中が軋んでいた。
「っ、ぐぅっ...!おい、どこ触ってんだ!」
『大袈裟だなぁ。その程度じゃ死にはしないよ。そうならないよう、虎杖悠仁はお腹を痛めて、丈夫に産んであげたんだから。
「お前、いい加減に、ん?お腹を痛めて...?」
あれ、今のは聞き間違いか?今、お腹を痛めてって...?
『さて、君たちには私と一緒に来てもらおう。』
「え、お前って、悠仁の、
『ん、母親だよ。そんな事より話をしよう。これからの世界の話だ。』
「母親ぁ!?え、そっち!?」
『そう言ってるだろ?』
衝撃的なはずの事実を、奴はあくまで淡々と告げてくる。
『おっとすまない。新しい世界の話だったね?死滅回游を始めた理由もそこにある。呪力の最適化こそが・・・
「待て待て!入ってこない入ってこない!え、マジで母親なの!?父親じゃなくて!?」
『それはどうでもいいだろう?私の目的は人間の進化だ。君のような転生者の存在が、その可能性を押し広げてくれた。私はね,自分の手から離れた輝かしい混沌が見たい。分かってくれるかな?』
つ、つまり、こういう事なのか?
「夏油さんは、女の子だった...?」
『どうしてそうなるんだい?』
いや、ほんと、今シリアスな場面なのは分かっている。だが、どうしても、その、母親って部分がノイズ過ぎて・・・
『まあ、ひとまず場所を変えようか。詳しい話は、そこでじっくり、
呪霊操術極ノ番・うずまき
奴の言葉を断ち切るように、毛むくじゃらの呪霊が圧縮される。掴まれていた身体は、ドサっと地面に落下した。
「あたっ!!」
『っ!?』
そして生まれた渦巻き状の呪力弾は、偽者野郎の腹を貫く。
「え?」
『これは...!』
今、うずまきを使ったのは、偽者野郎じゃない。
その場に異質な魂の気配が現れるのを感じる。間違いない。うずまきを使って、偽者野郎を攻撃したのは、あの、
『全く、何がどうなってるんだか。』
その人物を目撃した偽者野郎は、下手をすれば俺以上に戸惑っていた。
それもその筈だ。
なんせ奴が目撃したのは、手ずから葬ったであろう、夏油傑の亡霊だったんだから。
「げ、夏油さんが2人...?」
そう、俺たちの前に現れたのは、額に縫い目のない、もう1人の夏油傑だった。
学ランを纏った偽者野郎とは異なり、2人目の夏油さんは全身を包むような真っ白いローブを纏っている。
『今の君は、一体何者なんだい?』
一瞬の静寂の後、白夏油さん(便宜上こう呼ぶ)が、口を開く。
「友達だ。」
「え?」
『ん...?』
その声は紛れもなく夏油傑のものだった。その口調からは込められた熱い思いを感じる。
「私は、夏油くんの友達だっ!」
白夏油さんはローブを脱ぎ捨てる。その下に隠されていた、セーラー服が顕になった。
セーラー服が顕になった!?
「私は、シン理子ちゃんもとい、シン天元様!友達の仇を討つため、ここに居る!」
勇ましく宣言する白夏油さんもとい女装夏油さん。
この感じ、もしかして・・・
『なるほど、その身体は降霊術か。天元擬きが・・・』
黒い学ランを纏った偽夏油さん、白いセーラー服を纏った女装夏油さんが対峙する。
「あの、理子ちゃんって?天元って?『シン』って?降霊術って?擬きって?」
そんな中で、俺は完全に取り残されていた。
「つ、つまり夏油さんは、結局、女の子で合ってたって事か...!?」