宿儺「どけ!!!俺は主人公の相棒だぞ!!!」   作:バケギツネ

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ミラーマッチって面白いよね。

 

 

「領域展開。」

 

 ようやく領域展開が成功!俺の世界の輪郭が、中空へと刻まれていく。

 

「これで、どうだ!!」

 

 日下部さん達からの情報が正しければ、奴は反転術式と領域展開が使えない。だからこそ、確実に仕留めにいく。

 

 逃げ場がないよう、完全に閉じた結界を展開し、必中必殺も付与しておいた。

 

 これで決まれば万々歳だが、

 

『『『『領域展開』』』』

 

 4つの不協和音が響く。

 

 一つ目小僧、赤鬼、犬神、塗り壁の4体が、割り込むように、領域を展開していた。

 

 その背後では、新たに沸いた(恐らく準一級以上の)呪霊100体近くが、統率された掌印と呪詞で結界を補強する。

 

「クッソ、そう上手くはいかねえか!」

 

 領域バトルは、それでも俺が圧倒的に有利。その分奴らは、必中無効だけに注力してるっぽい。

 

『危ない危ない。』

 

 口ではそう言いつつも、縫い目アリの奴の額には、汗の一つも見当たらない。奴の1番の強みは、技術でも、術式でもなく、この用意周到さなのかもしれないな。

 

『これも全て、夏油傑の開発した呪霊のオート操作があってこそだ。彼には感謝しないとね。』

 

「やめろ,お前が夏油さんを語るな。」

 

『そう言うなよ。これでも私は、彼の理解者であるつもりなんだ。彼の身体も術式も記憶も、共有している事だしね。』

 

「何が理解だ。理解っつーのは、互いに言葉交わして、じっくりと時間をかけてしていくもんだ!お前の事を偽者だって見破った、美々子ちゃんと菜々子ちゃんが、本物の夏油さんとそうしてたように!」

 

 恩人を救ってほしい。命懸けで頼み込んできた、少女達の姿が頭をよぎる。

 

『記憶を読む方が理解はより正確だろう?その証拠に私は、夏油傑以上に、この身体を有効活用できていると自負しているよ。』

 

 改めて突きつけられる。目の前にいる術師は、見えている物も、目指している場所も、生きる世界も、何もかもが俺とは違いすぎていた。

 

『勿論、夏油傑(カレ)の発想力にも目を見張るものがあった。ただ惜しむらくは・・・』

 

 夏油傑の顔のまま、奴は心底残念そうな表情になる。それがまた腹立つ。

 

『高専への呪霊貸し出し。それによる消耗と戦力の分散が無ければ、殺されていたのは私の方だったろうに。彼はもっと、自分自身のために力を振るうべきだった。今の私のようにね。それこそが呪霊操術の最適解なんだから。』

 

「お前が勝手に、それを決めるな。少なくとも俺は、自分の力で1つでも多くの命を守ろうとした本物の夏油さんの生き様の方が、よっぽど好きだし憧れる!」

 

『随分と夏油傑の肩を持つじゃないか。彼とは知り合いでも何でもないだろう?』

 

「美々子ちゃん達から話を聞いた。彼への思いも含めて全部だ。もう、その身体を弄ばせないって、約束した。」

 

『そういう縛りだろう?不殺の件といい、ただの契約を美化するなよ。』

 

「もういい、話は終わりだ。」

 

 呪霊達の拘束から抜け出し、自由になった俺は再び掌印を結ぶ。

 

 身体中を熱い呪力が駆け巡る。もう、迷いはない。

 

『この感じは・・・既に展開した領域の条件を、調整する気かい?』

 

 俺の領域・勇士英傑譚は、あらゆる英雄の力を内包する分、消耗が激しい。感覚としては、ダンベルを持ち上げたまま、フルマラソンをさせられる、みたいな!

 

 さっきまでの攻防で呪力を大分持ってかれたし、必中効果も無力化されたんで、長期戦が予想される。

 

 だからこそ、領域に組み込む英雄の数を、今回は敢えて絞る事にした。

 

 勇士英傑譚のセールスポイントと引き換えに、その弱点をカバーする。

 

 ”千“年を生きてるらしい偽者野郎に対抗するため、俺が編み出した新たな領域。

 

 その名も、

 

「勇士英傑譚・(サウザンド)

 

 背後の白本には無数の黒線が浮かび上がり、『千』にまつわる英雄達を描き出した。

 

『鎌鼬鼠!』

 

 偽者野郎からの雑な指示が飛ぶ。風の軋む音と共に、無数の刃が空を奔った。

 

 さっきよりも速度と威力が無い分、数が多い。これでは避けきれないだろう。

 

 なら、避けない。

 

 俺の身体は切り裂かれ、四肢は乱雑に飛び散った。それこそ、「バラバラ」に。

 

『んっ...?』

 

 偽者野郎からも思わず困惑の声。

 

 細かく切り刻まれた俺は、それでも動き続けていたのだ。不思議と切断の痛みは無い。

 

 その原動力は”千“両道化の力。

 

「バラバラフェスティバル!!」

 

 無数の肉片は、慌てふためく鎌鼬鼠に飛びかかる。

 

 あらゆる方向から、殴り、蹴り、齧り、突き刺し、標的を祓いきる。その後、欠片は1つにくっついて元通りだ。

 

「特級は残り10体か。めんどくせえし、一気に行くか。」

 

 再び掌印で、領域の環境を変化させる。この身には“悪魔の子”の力が宿っていた。

 

”千“紫万紅(ミル・フルール)巨大樹(ヒガンテスコ・マーノ)

 

 アスファルトを突き破り、無数の腕が生えてくる。それらは束ねられて、数十本の巨腕となる。

 

 そして、

 

「木の葉流体術奥義・”千“年ごろし!」

 

 巨腕は変幻自在の動きで、呪霊達の臀部へと迫り、突き上げた。予想外の攻撃に、フィジカルで劣る一つ目小僧、ろくろ首、犬神は対応が遅れる。

 

 その3体は、臀部から反転術式を直接流し込まれて、悲惨な断末魔と共にあえなく爆発四散した。

 

 死因としては最悪の部類だろうな。

 

「残り7体!」

 

『無茶苦茶だね。って言うか君、ジャンプファンだろう。良いのかい?ニコ・ロ○ンの技をそんな風に使って。』

 

「ニコ・ロ○ンだって、フ○ンキーのキン○マを握りつぶした!!!」

 

『あったなそんな事も...』

 

 攻撃の手は緩めない。

 

 これまでの失態を“挽回”すべく、巨腕と同時に飛び散ったハナバナへと、呪力を込める。

 

「”千“本桜景厳」

 

 斬撃が桜の花びらとなって舞い踊る。

 

 幻想的で冷徹な死の群舞は、塗り壁や吸血鬼の群れを一網打尽にしていた。

 

「残り5体・・・うぉっ!?」

 

 耳を裂く風鳴りと共に、何かが通り抜ける。左足が喰い千切られていた。

 

『お揃いー。もっともっとー。お揃いになろー。』

 

 上半身だけの女の子が、俺の左足を不味そうに咀嚼していた。

 

テケテケ

 高専登録特級呪霊第十四号。地面を這って移動し、直進のみ、段差を越えられないという縛りで、その速度は投射呪法を上回る。

 

都市魔障録より抜粋

 

「面白え、スピード勝負と行くか。」

 

 脚を再生させると、右手にグローブ状の呪力を纏わせ、その性質を変化させる。

 

 バチバチと火花を散らすそれは、”千“の鳥が囀る音を戦場に響かせた。

 

「千鳥。」

 

 無為転変の改造で、動体視力が強化された目は、紋様と共に紅く輝いた。これならば、テケテケのスピードにも対応できる。

 

「いっせーの、せっ!!!!」

 

 勝負は一瞬。

 

 同時に駆け出した俺とテケテケは、すれ違いざま互いに腕を振るう。

 

 標的へと届いたのは、俺の左手だけだった。その身体を貫かれたテケテケは、動きを止める。

 

「残り4体。次はどいつだ?」

 

 突如発生した5重の竜巻。凄まじい風圧が俺の身体を浮き上がらせた。

 

『なぜじゃ、なぜ女子じゃない。男を風に巻いて、何が楽しい!!』

 

鞍馬天狗

 高専登録特級呪霊第七号。強力な神通力を持つ天狗の老王。手に持った扇で起こす竜巻は、現代の台風の殆どの原因。『禿げ』は禁句。

 

天魔武経抄より抜粋

 

「っ、そこ、だっ!!」

 

 暴風の只中でも、強化された俺の眼なら、その向こう側にいる標的を魂で見つけられる。

 

 左手の呪力を細剣として一直線に解き放ち、天狗の脳天を貫いた。それと同時に竜巻も掻き消える。

 

「あと、3体。ん?」

 

 突如、辺りが暗くなる。

 

 見上げれば、渋谷の高層ビルを凌ぐ巨大なシルエットが、月明かりを覆い隠していた。

 

『あのー、恐縮ですー。上から失礼しますー。』

 

大太法師(ダイダラボッチ)

 

 高専登録特級呪霊第十二号。デカい、説明不要。

 

天地創巨伝より抜粋

 

 ダイダラボッチは、手近なビルを玩具のように引っこ抜き、振りかぶる。その窓ガラスは割れ、煌めきながらシャワーのように降り注いだ。

 

「ちょ,何やってんだ!?そのビルって・・・」

 

渋谷スクランブルスクエア

 

 渋谷駅に直結した複合施設であり、地上47階建てで高さは約230m。屋上には展望台を備えている。46階のバー『Paradise Lounge』の『SKY チュロス』が結構イケる。

 

って五条さんが言ってた。

 

「どいつもこいつも、渋谷のインフラを何だと思ってんだ!」

 

 無為転変を駆使して、自分の肉体を組み替えていく。

 

「木遁・真数”千“手」

 

 俺が変身したのは、背中に幾千の巨腕を芽吹かせる、観音を模した木造の巨神。そのサイズは、ダイダラボッチを、悠々と超える。

 

「はい、これ没収!!」

 

 白刃取りしたスクランブルスクエアを取り上げ、元の位置にぶっ建て直す。

 

 これで、伊地知師匠を始めとする高専側の後処理が、少しでも楽になる事を願おう。

 

 さて。今のサイズだと、ダイダラボッチはともかく、他の呪霊達はまるで豆粒サイズだな。これが巨人の気分か。

 

「駆逐してやる、一匹残らず!!」

 

 足元の呪霊達へと、巨大な拳の大群を一斉に振り下ろす。

 

 その質量の暴力は、ダイダラボッチを、赤鬼を、簡易領域の維持を続ける100体近くの準一級呪霊達を、蹂躙する。

 

「これでもう、俺の領域に対抗できる呪霊はいない!今なら必中効果も取り戻せる!」

 

 元のサイズに戻った俺は,再び掌印を結ぶ。

 

 夏油さんの身体は無傷で取り戻したい。だからこそ、必中の無為転変で確実に・・・

 

「ん?」

 

 周囲に無数の呪霊が現れる。でもコイツら全員4級以下の蝿頭だぞ。何の意味が、

 

『私メリーさん。今、貴方の後ろにいるの。』

 

「やっぱり来たか!」

 

 奴の最後の特級呪霊・メリーさん。このタイミングで仕掛けて来るのは分かっていた。

 

 でも、3回目ともなればタネは割れてる。アイツが転移できるのは、呪った相手の背後にだけ!

 

「ブラックサンダー・スクナックル!」

 

 声と同時に振り返り、真後ろに拳を振るう。

 

 しかし、

 

「あれ?」

 

 背後に偽者野郎の姿はない。

 

 どこだ?転移はフェイント?いやこれは、

 

『よかったよ、引っかかってくれて。』

 

 俺が元々正面を向いていた方向から、偽者野郎の声が聞こえる。

 

 恐らく奴が転移したのは、俺の背後じゃない。俺を囲んでいた蝿頭の内の一体の背後に、転移したのだ。

 

 クッソ、まんまと裏をかかれた!

 

『そしてありがとう。君のおかげで、新たな知見を得られた。』

 

 振り向いた俺の視界が捉えたのは、拳を振りかぶる偽者野郎の姿。その右手には、結界術を応用したグローブ状の呪力が纏わりついている。

 

「原作宿儺といい、お前といい、人の技を気軽にパクリやがって!」

 

 奴の前で、黒閃確定メソッドを使いすぎた。

 

 アイツの目的は、黒閃で反転術式の出力を戻し、自分自身の領域を取り戻す事!ずっとこのチャンスを狙って・・・

 

『さて、こうだったかな?黒閃。』

 

 奴の拳に顔面を殴られ、身体は地面を転がる。それと同時に黒い火花が、偽者野郎へと微笑みかける、

 

 なんて事は無かった。

 

『黒閃が起こらない...?失敗した?いや、これは、』

 

「上手くいった!その名も、『黒閃封じ』!」

 

 打撃の瞬間、攻撃される箇所に呪力を纏わせ、黒閃が起こりにくい空間を発生させた。

 

 原理としては簡単。いつもやってる事の正反対だ。

 

『なるほど、次からはそれにも気をつけないとね。』

 

「次はねえよ、これで終わりだ。」

 

 起き上がって掌印を組む。俺の世界は必中必殺を取り戻していた。

 

 蝿頭も、メリーさんも、無為転変の餌食となって、一瞬で祓われる。

 

『っ、彌虚葛籠...!』

 

 奴が簡易領域のようなものを展開する。

 

 数度見ただけの黒閃をパクれるだけはある。凄まじい結界術の技量だ。一時的とは言え、俺の必中効果を防いでいる。

 

 だが時間の問題だ。俺の領域なら、15秒もかからずに剥ぎとり、勝負を決められる!

 

「夏油さんの身体,返してもらうぞ!」

 

 声にも思わず力がこもる。

 

 俺の領域は、奴の纏った結界の鎧に少しずつヒビを入れ、完全に破壊する

 

 その直前で自壊した。

 

「え?」

 

 何が何だか分からないまま、視界は滲み、思考の輪郭が薄れていく。四肢は言う事を聞かず、身体はその場に崩れ落ちる。

 

 これは、呪力切れだ。

 

 幾ら何でも早すぎる。第一、それを防ぐために、領域にも工夫を凝らしたのに!

 

 何だ、分からん、分からねば!

 

『あれ!? おい、すっくん。どうなってんだこれ。』

 

 悠仁も異変に気づく。

 

 避難所に残した分身B〜Fも、悠仁の為に九十九さんの所に残した分身Aも消えている。

 

『やれやれ、本当にギリギリだった。』

 

 ムカデ呪霊が身体中を這い回り、俺が懐に忍ばせていた宿儺の指2本を掠め取る。

 

『預からせてもらうよ。これで呪力を回復でもされたら、面倒だ。』

 

 薄ら笑いを浮かべる奴は、奪った指を丁重に包んで、学ランの胸ポケットに仕舞い込む。

 

「あ、返せっ!ドロボー!!」

『それは兄貴が、俺たちに託してくれたもんだ! hey、すっくん!』

 

 身体の所有権が悠仁へと移る。幸いにも、悠仁の呪力は満タンだ。

 

『ああ忘れていたよ。君もいたんだったね。』

 

 相棒はその拳を振りかぶる。その手にグローブ状の呪力を纏わせて。

 

『黒閃っ...

 

『術式反転・重力機構』

 

 見えない力が、相棒を地面へと押さえつける。

 

『ぐっ...!!』

 

『虎杖悠仁。確かに君は新時代の台風の目だ。だが,勘違いはしないでくれ。』

 

 異常な引力に導かれた数百体の低級呪霊が、悠仁の身体に降り注いで押し潰し、その意識を刈り取った。

 

「悠仁!!」

 

『君はあくまで、宿儺やすっくんを納める”器“だ。君自身に、具体的な役割や期待はない。』

 

 奴の悠仁を見つめる目は、据わりきっていた。

 

「hey悠仁! クッソ、てめえウチの相棒に何を・・・」

 

『現実をしっかり伝えるのも、親としての役割だと思ってね。』

 

「親っ!? やっぱり、お前が!」

 

 アッサリと正体を明かした偽物野郎に、身体の主導権を得た俺は、奥歯を噛み砕かんばかりに食いしばる。

 

 相棒の身体は全身の骨が砕かれていた。これでは動けない。

 

 俺の方も呪力が足りない。身体強化も、反転による回復もできない。

 

 こんな感覚は初めてだ。呪力を新たに練ることもままならない。いや、練った側からどこかに消えていくような感覚だ。

 

「答え、ろっ、何をしたっ...?」

 

 呻くような俺の声に、奴は余裕の口調で答える。

 

『少し前に言ったろ?私が従える特級呪霊は、高専が登録していたもの全てだって。正確にいうと、その数は”16“体なんだ。』

 

「16...?それって、」

 

 玉藻前、口裂け女。そして、俺が祓った、

 

トイレの花子さん

鎌鼬鼠

一つ目小僧

ろくろ首

犬神

塗り壁

吸血鬼

テケテケ

鞍馬天狗

ダイダラボッチ

赤鬼

メリーさん

 

 全て足しても14体だ。2体足りない...!

 

「まだいたのか、手持ちの特級呪霊が...!」

 

『せっかくだから教えてあげよう。一体の名は”ぬらりひょん“。もう一体の名は、”朧絶“と言ってね。』

 

ぬらりひょん

 

 高専登録特級呪霊第四号。かつての呪霊操術の使い手が愛する呪霊に転じた姿。大の人間嫌いだった彼は、術式によって”人間“からの認識を阻害する。

 

百鬼夜行絵巻より抜粋

 

 

朧絶

 

 高専登録特級呪霊第十六号。その術式は『奸骨奪胎』。自らの作り出した器に、一定の条件を満たした術式を再現させる事ができる。

 

奈木野健介の報告書より

 

 

「ろうぜつ?術式の再現って・・・」

 

『その条件は3つ。

 

①相手に直接触れる事

②相手の血と呪力を得る事

③相手の術式を体感する事

 

これらは全て、私や呪霊に肩代わりさせて達成し、無為転変を使いこなす”器“を作り出したんだ。』

 

 屈辱的な種明かしが始まる。

 

「っ、でも、それと呪力切れに、何の関係が・・・」

 

『いい質問だ。器の力の源はね、コピー元であるすっくんなんだ。器が力を使えば使う程、すっくんの呪力は勝手に消費されるようになっている。』

 

 そういう事か。コピー能力をそんな風に使われるとは・・・

 

『そして、器の存在に気付かれないよう、ぬらりひょんの力で認識を阻害している。勿論、今この時もね。』

 

 奴の言う通り、練った呪力は何処かに吸い上げられ続けている。

 

 それはつまり。器が存在する限り、俺はもう永遠に呪力を練れないという事。

 

 勝ち筋が、一つ一つ丁寧に潰されていく。

 

『さて、此方は先に回復を済ませておこうか。』

 

 奴はその手に、再びグローブ状の呪力を纏う。そして周囲に、数体の蝿頭を呼び出した。

 

『調伏契約を破棄する。今から君たちは自由だ。』

 

 そう告げた直後、奴の拳が蝿頭を壁に叩きつける。

 

 黒閃とは二種の呪力の衝突。だからこそ、奴はサンドバックとなる呪霊から、自身の呪力を取り除いたのだろう。

 

 その甲斐あってか、今度こそ黒く禍々しい火花は、奴へと微笑みかけていた。

 

 その口元には冷たい笑みが浮かぶ。

 

『なるほどね。天然モノの黒閃とは相違点も多いが、呪力出力を活性化させる効果は同じらしい。』

 

 奴は実験でもするように、様々、やり方を調整しながら、淡々と黒閃を連発する。

 

 恐らく、反転術式の出力が戻ったのだろう。奴の身体がみるみるうちに回復していく。

 

 奴からは、頭の縫い目以外の傷が全て消えていた。

 

『すっくん。改めて感謝をさせてくれ。君は私の恩人だよ。』

 

 その声が残酷な現実を告げてくる。

 

 仲間達が必死に繋いでくれたバトンを、俺が、俺のせいで、取り落としてしまった。

 

「クッソ...!!!」

 

『さあ、そろそろ行こうか。』

 

 奴の呼び出した低級の毛むくじゃら呪霊が、身体を乱雑に掴んで持ち上げる。身体中が軋んでいた。

 

「っ、ぐぅっ...!おい、どこ触ってんだ!」

 

『大袈裟だなぁ。その程度じゃ死にはしないよ。そうならないよう、虎杖悠仁はお腹を痛めて、丈夫に産んであげたんだから。

 

「お前、いい加減に、ん?お腹を痛めて...?」

 

 あれ、今のは聞き間違いか?今、お腹を痛めてって...?

 

『さて、君たちには私と一緒に来てもらおう。』

 

「え、お前って、悠仁の、

 

『ん、母親だよ。そんな事より話をしよう。これからの世界の話だ。』

 

「母親ぁ!?え、そっち!?」

 

『そう言ってるだろ?』

 

 衝撃的なはずの事実を、奴はあくまで淡々と告げてくる。

 

『おっとすまない。新しい世界の話だったね?死滅回游を始めた理由もそこにある。呪力の最適化こそが・・・

 

「待て待て!入ってこない入ってこない!え、マジで母親なの!?父親じゃなくて!?」

 

『それはどうでもいいだろう?私の目的は人間の進化だ。君のような転生者の存在が、その可能性を押し広げてくれた。私はね,自分の手から離れた輝かしい混沌が見たい。分かってくれるかな?』

 

 つ、つまり、こういう事なのか?

 

「夏油さんは、女の子だった...?」

 

『どうしてそうなるんだい?』

 

 いや、ほんと、今シリアスな場面なのは分かっている。だが、どうしても、その、母親って部分がノイズ過ぎて・・・

 

『まあ、ひとまず場所を変えようか。詳しい話は、そこでじっくり、

 

呪霊操術極ノ番・うずまき

 

 奴の言葉を断ち切るように、毛むくじゃらの呪霊が圧縮される。掴まれていた身体は、ドサっと地面に落下した。

 

「あたっ!!」

 

『っ!?』

 

 そして生まれた渦巻き状の呪力弾は、偽者野郎の腹を貫く。

 

「え?」

 

『これは...!』

 

 今、うずまきを使ったのは、偽者野郎じゃない。

 

 その場に異質な魂の気配が現れるのを感じる。間違いない。うずまきを使って、偽者野郎を攻撃したのは、あの、

 

『全く、何がどうなってるんだか。』

 

 その人物を目撃した偽者野郎は、下手をすれば俺以上に戸惑っていた。

 

 それもその筈だ。

 

 なんせ奴が目撃したのは、手ずから葬ったであろう、夏油傑の亡霊だったんだから。

 

「げ、夏油さんが2人...?」

 

 そう、俺たちの前に現れたのは、額に縫い目のない、もう1人の夏油傑だった。

 

 学ランを纏った偽者野郎とは異なり、2人目の夏油さんは全身を包むような真っ白いローブを纏っている。

 

『今の君は、一体何者なんだい?』

 

 一瞬の静寂の後、白夏油さん(便宜上こう呼ぶ)が、口を開く。

 

「友達だ。」

 

「え?」

『ん...?』

 

 その声は紛れもなく夏油傑のものだった。その口調からは込められた熱い思いを感じる。

 

「私は、夏油くんの友達だっ!」

 

 白夏油さんはローブを脱ぎ捨てる。その下に隠されていた、セーラー服が顕になった。

 

 セーラー服が顕になった!?

 

「私は、シン理子ちゃんもとい、シン天元様!友達の仇を討つため、ここに居る!」

 

 勇ましく宣言する白夏油さんもとい女装夏油さん。

 

 この感じ、もしかして・・・

 

『なるほど、その身体は降霊術か。天元擬きが・・・』

 

 黒い学ランを纏った偽夏油さん、白いセーラー服を纏った女装夏油さんが対峙する。

 

「あの、理子ちゃんって?天元って?『シン』って?降霊術って?擬きって?」

 

 そんな中で、俺は完全に取り残されていた。

 

 

「つ、つまり夏油さんは、結局、女の子で合ってたって事か...!?」

 

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