宿儺「どけ!!!俺は主人公の相棒だぞ!!!」   作:バケギツネ

79 / 82
進む道はそれぞれだよね。

 

 

『黒閃っ...!』

 

 瞬いた黒い火花が、虎杖悠仁の覚醒を祝福していた。

 

 兄たちの思いも乗せた、渾身の呪力と打撃が、生みの親へと叩きつけられる。

 

『後は頼むぜ、すっくん。』

「ああ、任せろ。Hey悠仁!」

 

 会得したばかりの御厨子の連発。虎杖にはもう、殆ど呪力が残っていなかった。そんな彼から、相棒へとバトンは繋がる。

 

『っ!? これはっ...!』

 

 その一方。羂索の操る夏油傑の死体には異変が生じていた。

 

『初めてっ、だなっ...! こういうケースはっ...!』

 

 夏油傑の両の手が、羂索の首を締め上げる。支配されていたはずの操り人形は、その繰り主に反旗を翻していた。

 

『妙な事をっ...! 九十九由基の入れ知恵かっ...!!』

 

 数分前まで。すっくんの分身を通じた特級術師からのレクチャーで、虎杖悠仁は“魂”への理解を深めていた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

『魂の、残滓...?』

 

『ああ。タバコの香りが服に染み付くみたいなもんさ。人の遺体には、その魂の残り香が宿ってる。』

 

『それを、俺が?』

 

『ああ。夏油くんの遺体に眠る魂の残滓。今の君の打撃なら、ソレを活性化させられるはずだ。』

 

『それって、本物の夏油さんを復活させられたりは、』

 

『残念ながら、残滓は残滓でしか無い。そこに彼の意思はないよ。』

 

『・・・・・・そっか。』

 

『だが、効果は絶大さ。夏油くんの魂の残滓が、強くなればなるほどに。それを操る偽夏油は、身体の制御が効かなくなる。』

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

『っ、全く、鬱陶しいな...!』

 

 呼び起こされた魂の残滓は、偽りの主人を本能的に拒絶する。夏油傑の肉体は今、羂索の命令に抗っているのだ。

 

 そうして生まれた隙に、すっくんが付け込む。

 

「無為転変っ!」

 

 決着をつけるべく、すっくんの拳が振るわれた。

 

 

 

 

 

 

 たった1人の友がいた。

 

 呪いの才に愛され、その可能性をどこまでも押し広げてしまう、そんな奴だった。

 

 奴が描く未来に興味が湧いた。だからその背中を追った。勇気と共に、確かめるような一歩を、少しずつ踏み出して。

 

 険しい道ではあったが、不思議と退屈はしなかった。寧ろ心は、かつてない充足を感じていた。

 

 出会いから40年を過ぎた頃。ようやく奴と肩が並んだ。その時ほど自らの生を実感した事はない。

 

 ようやく奴と対等になれる。これで奴を退屈させる事もない。これで奴と・・・

 

 そう思っていた。

 

 

『羂索。私は1人で薨星宮(ここ)に残る事に決めたんだ。不死となって、人の世に牧歌的な平和をもたらす。君のおかげでようやく見つけられたんだ。自分の役目を。』

 

 

 いつからだろう。私が、奴を追い抜いてしまったのは。

 

 気付けば奴の存在価値は、勝手に私の足元へと転がり落ちていた。奴の言葉も、行為も、何もかもがつまらなく感じられるようになった。

 

 現実が不変恒常と信じ、瀬戸際の生と未来から目を逸らす。かつての友は成り果てた。私が最も嫌悪する存在に。

 

 

『そうか。なら、これでお別れだ。』

 

 

 決別を告げたあの日に、奴は、私の友は死んだんだ。

 

 未来の可能性を信じ、進み続ける。それが生きるという事だ。それを放棄した奴は、朽ちた屍に過ぎない。ただそこに立ってるだけの“木”のようなもの。

 

 そうだ、こうしよう。

 

 奴が立ち止まるのなら、私が“それ”を代わりに持って行けばいい。意思も身体も飽くまで継ぎ続ければいい。実に簡単な話だ。

 

 私はただ確かめよう。面白いと思ったものが本当に面白いのかを。

 

 舵は北へ。

 

 そこからの道のりは、ひどく単純なものだった。奴の残影を振り切るように。ひたすらに。歩みを進める毎日。それが365000と少し続いた。

 

 当面の目標もできた。その為に、術師に呪霊、ありとあらゆる呪いを掻き集めた。

 

 六眼、星漿体。道のりには幾つも壁が立ちはだかったが、どれだけ回り道しようとも、それを乗り越え、進み続けた。

 

 

「無為転変っ!」

 

 

 その先に見えてきた光が、“転生者”達だ。

 

 世界が求めた異分子にして、新たな呪いの可能性を内包するブラックボックス。待ち望んでいた死滅回游。そしてその先の野望まであと一歩。

 

 迫り来るすっくんの拳を見据え、そんな事を頭の中に浮かばせる。

 

 

『すっくん。大人気なくて悪いね。こんな道半ばで、終わるわけにはいかないんだっ...!』

 

 

 掌印。生得領域の展開。外殻の調整。術式の付与。

 

 繰り返す。千年間、ひたすら磨き続けたこの動作を。今も制御を失いつつある肉体で、ただなぞる。

 

 

『領域っ、展開!』

 

 

 

 

 

『胎蔵っ、遍野...!』

 

 連戦で消耗していようと。息子からの打撃により、身体の制御を狂わされようと。すっくん達がどんなものを背負っていようと。

 

 そんな事はお構いなしとばかりに、羂索は本日2度目の奥義を披露する。

 

 彼を突き動かすのは、千年の時を生き続けた、呪術師としての意地と信念だった。

 

「コイツ、まだそんな力がっ!」

 

 領域展開の極地。神業領域が押し広げられる。

 

 必中を避けるべくすっくんが展開した簡易領域は、ほんの数秒で瓦解していた。無防備となったすっくんに胎蔵遍野が襲いかかる。

 

 その直前だった。

 

「領域、解体。」

 

 羂索の領域が霧散する。

 

『これは......』

 

 妙な気配がした方に、羂索の視線は移る。そこには、外も内も変わり果てた、旧知の姿があった。

 

『天元っ...!!』

 

 夏油傑を殺した業を、シン理子が忘れる事は無かった。

 

 薨星宮から出るために、結界術の修行に力を入れている時も。彼女は常に、あの業をどう攻略するか。そのビジョンを描いていた。

 

 もう誰も死なせないようにと。

 

 そのために編み出した。自らの”空性結界“の上に羂索の領域を展開させた後、互いの結界を対消滅させるという、離れ技を。

 

「ありがとね。伊地知さんに他の皆んなも。助かったよ。」

 

 補助監督の伊地知清高。シン理子が彼に頼んでいたのは、”帳“を降ろせる人間を可能な限り集める事。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

『『『『『『『闇より出でて闇より黒く、その穢れを禊ぎ祓え』』』』』』』

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 この数分前。

 

 高専術師、補助監督、天星教メンバー、そして虎杖悠仁の兄2人。

 

 生まれも所属も異なる面々は、命を守るという共通の目的のために結束し、一斉に帳を降ろしていた。渋谷全域を包んだソレが、空性結界の代替品となる。

 

 そしてシン理子はその結界の性質を偽装し、羂索の目を欺き続けた。胎蔵遍野の再来に備えて。

 

『やってくれたね。』

 

「今日までずっと、必死に生きてきたのは、アンタだけじゃない。私“達”もだ!」

 

 平安からの一千年の歩みの果てで。2人の術師の轍が今、混じり合う。

 

 害するために磨かれた神業領域は、守るために築かれた結界術の初歩によって、瓦解していた。

 

「サンキュー先輩!!!!」

 

 転生者としての先立によって、危機を逃れたすっくん。彼は今度こそ、その拳で羂索へと触れていた。

 

「無為転変!!!!」

『っ、うずまきっ...!』

 

 それを迎え撃つのは、極小のうずまき。極小ながらも、呪霊の残機3分の1を費やした渾身の一撃だった。

 

「ぐうううっ、」

『っ...!!!』

 

 互いの攻撃は命中する。

 

 すっくんの拳が羂索へと触れた刹那に、うずまきが炸裂。すっくんはその半身を消し飛ばされて後方に吹き飛ぶ。だがそれまでの数瞬で、“改造”は大幅に進行していた。

 

「約束、したんだ。」

 

 無為転変の術式対象。それは、羂索が常に呪力でガードしていた彼自身の魂ではない。

 

 すっくんが触れたのは、相棒が呼び起こした夏油傑の魂の残滓。

 

「これ以上、お前に夏油さんの身体を、弄ばせはしない!!」

 

 夏油傑の亡骸は変化していた。死体を操る羂索の術式。それを拒絶する特異体質へと。

 

『っ、これは...!?』

 

 夏油の頭からポーンと何かが飛び出す。それは色の抜けた人の脳。羂索の本体だ。

 

 すっくんの手によって、夏油傑は自由を取り戻し、その体内に巣食う異物は引き摺り出される。

 

「言ったろ? お前が今まで奪ってきたもん、全部纏めて返してもらう、ってな。」

 

 吹き飛んだ半身を修復しながら立ち上がるすっくん。その手には、どさくさに紛れて掠め取った獄門疆が握られていた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。