宿儺「どけ!!!俺は主人公の相棒だぞ!!!」 作:バケギツネ
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「言ったろ? お前が今まで奪ってきたもん、全部纏めて返してもらう、ってな。」
炸裂したすっくんの無為転変。その改造で、羂索は仮初の肉体を追われる。本体である脳だけが、夏油傑の遺体から引き摺り出されていた。
『やれやれ。勉強料にしては、たかくついてしまったな。』
「やっぱ、脳だけになっても動けんのか! って言うかどうやって喋ってんだソレ!」
それでも尚、羂索は止まらない。夏油傑の身体と、獄門疆を放棄して、逃げの一手を打っていた。
『楽しかったよ2人とも。』
夏油傑の身体に宿る残りの手持ち呪霊。その全てが飛び出した。5桁を優に超えるその軍隊は、宙を舞う脳を守るように、展開される。
「っ、コイツ。夏油さんの身体を捨てたのに、呪霊操術を!?」
『ちょっとしたコツがあってね。』
他人の身体を渡り歩く羂索。その脳は、他の術式を“3種”までストックできる。現在、彼の保有する術式は、呪霊操術、反重力機構、そして、
「ここまで来て、逃すかよっ! スクナマス斬り!」
『加勢しますよ、弟の相棒よ!』
『絶対仕留める! ここでっ!』
すっくんに、壊相と血塗。立ち上がった彼らは、残り少ない力を振り絞る。それぞれの攻撃で、呪霊の壁を崩さんとしていた。
これまでの暗躍や渋谷での戦いで、羂索の元に準一級以上の呪霊はもういない。すっくん達の攻撃の前では、そのバリケードも10秒と持たないだろう。
『だが、それだけあれば十分だ。』
羂索のストックする三つ目の術式が起動する。
「また新しい術式かよっ!」
その術式の名は仙禁一攫。ヒカリとの戦いで抽出した、特級呪霊・玉藻前の術式である。
『この術式はなかなかピーキーな性能でね。おまけに発動にも時間がかかる。だが、こういう場面での逃走にはもってこいだ。』
その効果は、”玉藻前が好意を向けた人間を、下野国那須野原(現在は栃木県那須郡)に転移する“というもの。
上手く使えば、”東京で戦いながら、京都にいる仲間を全員逃す“なんて真似もできるだろう。
難点は、呪霊操術の調伏で、自我を奪われた玉藻前には使用できないという点。が、うずまきによる抽出後なら、呪霊操術者の好意に応じて、転移対象を設定できる。
『安心したよ。どうやら私は、自分を嫌わぬ生き方ができていたらしい。』
己の心のままに。歪んだ道を進み続けた羂索は、仙禁一攫の転移対象となっていた。
『暫しのお別れだ。次は、死滅回游で会おうじゃないか。』
羂索の脳は光に包まれ、渋谷からまんまと逃げおおせる。
はずだった。
『ん?』
転移の完了する直前で、羂索を包む光が消える。
『仙禁一攫の中断? これは・・・』
羂索は気付く。夏油傑の身体に宿った術式。それを使用する自分以外の存在を。
『まさか、』
羂索を守っていたはずの低級呪霊達。それらの視線は殺意を伴い、羂索へと向けられていた。
『参ったね。これは』
2桁程にまで減っていた低級呪霊の群れが、不意を突かれた羂索へと襲いかかる。
『なるほど。そういうっ、』
羂索は再び対峙する。手ずから屠った夏油傑の亡霊。その“本物”に。
「良かった。間に合って...!」
シン理子の降霊術。死者の魂も肉体も、降ろせるのは一度だけ。
だからこそ彼女は、1度目の降霊で肉体の情報だけを降ろし、魂の降霊を温存していた。
奪還した夏油傑の遺体に、その本来の持ち主を口寄せするために。
『夏油っ、傑っ...!!!!』
呪術高専の誇る最強の一角。特級術師・夏油傑は、一時的に復活を果たす。
『羂索、だったかな? 仇はとらせて貰うよ。自分自身の仇をね。』
完全に出遅れた羂索では、同じ術式で呪霊の支配を取り戻すことは間に合わない。発動までのラグがある仙禁一攫も同様だ。
反重力機構も、使用したばかりの領域によって、既に焼き切れている。
『っ、』
抵抗する術を失った羂索に、夏油の操る呪霊達が、その牙を突き立てた。
『こんなっ、道半ばでっ...!』
準一級にも満たない低級呪霊達。羂索が野望のために集め続けた有象無象。その内の1体が大口を開け、羂索の脳を噛み砕く。
『・・・・・・無念だよ、全く。』
千年を生き続けた最悪の術師・羂索。彼の轍は、死滅回游という大願の目前で、溜息と共に断ち切られる。
どこまでも“特別”を追い求めた彼の最期。それは、年間で一万件を超えるという、呪霊由来のありふれた死。悔いと苦痛に満ちた、術師にとってもありきたりな死。
『だがっ、私の意志は、引き継がれっ、』
羂索に言わせれば、吐き捨てる程につまらない。そんな平凡な死に様だった。