宿儺「どけ!!!俺は主人公の相棒だぞ!!!」   作:バケギツネ

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玉折 -参-

 

Q、あなたにとっての五条悟とは?

 

宿儺の器 I.Yくん(15)

『最強!』

 

二級術師 H.Mくん(15)

『最強。』

 

自称紅一点 K.Nさん(16)

『最強。』

 

Mさん(16)

『最強、』

 

上野のアイドル(年齢はヒ・ミ・ツ)

『最強だな。』

 

明太子(16)

『明太子。』

 

脱サラ術師(28)

『最強、ですね。』

 

東堂葵くん

『言うまでもなく、最強。』

 

呪いの王(笑)

「え、あの人、最強キャラなの?」

 

なんちゃっ天元

「最強。だと、思う? いや、私、原作は過去編しか見れてないから、あんまりハッキリとは言えないし、でも、私の知ってる限りでなら、夏油くんと2人で最強、え、喋りすぎ? もっと一言で?」

 

 

 

    『『『『『『最強。』』』』』』

 

 

 

 

 

 

◇ side:五条悟

 

『あーーー。暇ーーーーー。』

 

 獄門疆。

 

 外部から完全に閉ざされたこの場所で、誰に言うでもなく独りごつ。声はやけに軽く響いて、すぐにどこかへ消えていく。言葉が返ってくることは、当然ない。

 

 封印からどれだけの時間が経ったのやら。カップ焼きそばができるまでの数分。桃鉄100年やり遂げるまでの数十時間。どっちにも思えてしまう。昼も夜もないこの場所で、時間の感覚はとうに狂っていた。

 

『向こうはどうなってるかな〜? まあ、皆なら大丈ブイだと思うけど。』

 

 軽い調子で呟いて低い天井に視線を移す。

 

 特級呪霊の露払いは済ませたし、傑の仇にも痛手は負わせた。やれる事はやった。後はただ仲間たちを信じよう。

 

 渋谷には、僕の可愛い生徒たちも来てるはずだ。皆はもうただ守られるだけの存在じゃない。その働きには期待していいと思う。

 

 まあ他にも、禪院家当主のオジサンとか、日下部さん達一級術師、ついでにすっくんとかもいるし。皆んなが束になって掛かれば、ギリどうにかなるでしょ。多分。

 

『憂太が帰って来てくれたら、マジで勝ち確なんだけどな〜。そっちは流石に間に合わないかな〜?』

 

 規格外な教え子の1人を思い出して、肩をすくめる。

 

 何にせよ、外の様子は分からない。呪力も練れない。今の僕に、できる事は何も無さそうだ。

 

 流石は獄門疆。一向に抜け出せる気配がない。嫌がらせとして、重くしとくのが精一杯だ。それも一時的なものだろうし。

 

 脱出には、術式を強制解除する天の逆鉾辺りが要りそうだ。でもアレは、昔、天内がぶっ壊してたっけ。ま、ミゲルがアフリカで黒縄を探してるし、解放は時間の問題でしょ。

 

『ここも居心地悪いしね〜。流石の僕も、こんな趣味の悪い別荘はごめんかな〜。』

 

 そう言って、骸骨に囲まれた不気味な空間を見遣る。

 

『というか狭ーい。1LDKどころじゃないな。足伸ばせないの地味にきついし〜。』

 

 物理的な時間は流れてないみたいだし、腰痛の心配はなさそうだけど、この閉塞感を好きにはなれない。

 

『あ、そういや小さい頃、五条家で習ったっけ。』

 

 獄門疆(コレ)の正体は、『生きた結界』と呼ばれる程の天才結界術師・源信。その成れの果てって話。

 

 かの時代の最強として、その名声と栄光を欲しいままにしてた源信は、何を思って、自分を結界そのものへと変えたんだろう。彼なりに抱えた物があったんだろうか。

 

『でも、寂しくなかったのかな。こんな場所に1人ぼっちで。』

 

 なーんて。他にやることがないからだろうか。ぼんやりと無意味な考え事をしてしま

 

『......やあ悟。いつまでいいようにされてるんだい?』

 

『・・・・・・・』

 

 懐かしい声。見慣れた姿。額に縫い目は見当たらない。この眼よりも確かなものが、目の前に突然現れた男が、本物の夏油傑だと告げてくる。

 

『......げ。』

 

 どうしていいか分からなくなった口からは、反射的に悪態が溢れた。

 

『おいおい。感動の再会だろ? そんな反応じゃ、流石に私も傷つく。』

 

『......何でここにいんだよ。お前はもう、死んでるんだろ?』

 

 絞り出した自分の言葉が、ちくりと胸を刺す。

 

『......寂しいかい?』

 

『うっせえ。何がどうなってんだよ。』

 

『種明かしをするとね。理子ちゃんが私の魂を降霊して、すっくんの無為転変で獄門疆と同調させてくれたんだ。』

 

『...ん?』

 

 頭の中に流し込まれる洪水のような情報量。こちらがそれを飲み込む前に、傑はサクサク話を進める。

 

『おかげでこうして、君ともう一度話ができると言うわけさ。あ、悟。ちょっと奥に詰めてくれないか? 狭くて。』

 

『我慢しろ。元々定員1名なんだよ。獄門疆(ここ)は。』

 

 傑に押されて、ただでさえ狭いスペースの隅に追いやられる。結局、互いに仰向けで、骸骨まみれの天井を見上げる姿勢へと落ち着いた。

 

『元気だったか? 天内は。』

 

『ああ。理子ちゃんも私たちとおんなじさ。根っこの部分は昔と何も変わっていない。最後まで彼女らしい生き様だった。』

 

『......そうか。』

 

 その答えに懐かしさと安心を覚える。

 

『で、肝心のお前はどうなんだよ。僕と世間話するためだけに、地獄から戻ってきたんじゃないだろ?』

 

『勝手に人を地獄行きにするんじゃない。私が何をしたっていうんだ。』

 

『置いてっただろ色んな奴を。こんな罰当たりな死に方、そうそうねーよ。』

 

『・・・返す言葉もないな。やり直すチャンスをくれた、理子ちゃん達に感謝しないとね。おかげで自分の仇を討てた。家族や皆んなともこうして話せた。硝子や先生、あと父さん達には、悪いが君の方から伝えてくれ。夏油傑は悔いなく逝けた、って。』

 

『面倒な事押し付けやがって。』

 

『君にしか頼めないんだ。いいだろう?』

 

 相変わらずコイツは狡い。人が断れない頼み方をよく分かってる。

 

『ま、考えといてやるよ。』

 

『それは助かる。その為にも、君には早くここを脱出して貰わないとね。』

 

『ああ。それならその内、』

 

『悪いが黒縄は無い。色々あって使い切ってしまったみたいでね。』

 

『は? ミゲル何やってんの?』

 

 楽観的な観測は、意図も容易く打ち崩されてしまった。

 

『色々あったんだ。あまり責めないでやってくれ。というわけで、脱出は別のやり方で頼むよ。』

 

『無茶言うなって。』

 

『そこは何とか頑張ってくれ。外の皆んなは君を必要としてるんだ。』

 

『......やっぱ、僕の力が必要かなぁ?』

 

 傑の言葉にどうしても引っ掛かりを覚えてしまう。いつものように発したつもりの相槌に、乗ってしまった僅かな迷い。傑はそれを見逃しはしなかった。

 

『どういう意味だい?』

 

 その問いに答えてるため、胸に漂うモヤモヤに一つずつ名前を付けて。少しずつ吐き出していった。

 

『......いやね。僕って、ほら、高専でもトップクラスで勤勉な術師でしょ?』

 

『まあ勤務態度はともかく、勤勉なのは確かだね。君はいつも、1日の20時間以上を、任務に充ててるんだから。オートの無下限に至っては睡眠中も解いてない。人生の全てを呪術に捧げてるといっても過言じゃないよ。』

 

『お前も呪霊の貸し出しやら、オート操作やらで、似たようなもんだったろ。』

 

『まあね。でも、私たちには大きな差がある。呪術の位置付けにおいてね。』

 

『位置付け?』

 

 短く問い返す。その答えを薄々分かっていながら。

 

『ああ。私にとって呪術は手段だ。目的を達成するためのね。それ自体に深いこだわりは無い。もっと確実な手段があれば喜んでソレを選ぶ。当然さ。私にとって呪術は苦く苦しいものだからね。』

 

『まあ、あんだけ不味いの食いまくってたらな。』

 

 学生時代、何かしかの罰ゲームで、傑の呪霊玉を一回だけ試食した事がある。あの時はヤバかった。余りの不味さに悶絶して、半日は腹を下したっけ。

 

『でもね悟。君にとっての呪術は、手段であり、同時に目的でもある。そうだろう? 君は心から、呪いの力を振るう事を楽しんでる。』

 

『......ああ。』

 

 図星だ。何も間違ってはいない。

 

『そしてこうも思ってる。自分の強さを全てぶつけられるだけの、強者と巡り合いたいと。......悔しいけど、私なんかじゃ到底足りえない程の強者とね。』

 

『......正直、ね。』

 

 答える。傑は全てをお見通しのようだ。

 

『勘違いしないでくれ。別に責めてるわけじゃない。私は一向に気にしないさ。たとえ君が、自分の満足のために呪術を行使する変態でもね。』

 

『っせー。ロリコン前髪。』

 

『おい悟。その弄り方は2度とするなと言ったはずだ。ちょっと外で話そうか。』

 

『だから外に出れねーって、話なんだよ!』

 

『それ正論? 私、正論嫌いなんだよねー。オ“ッエー。......だっけ?』

 

『人の学生時代を弄んな。』

 

『いやすまない。こうして君と話せるのも、これで最後だと思うと、ついね。』

 

『んで? 結局、何が言いてーんだよ。』

 

『君の方こそ、私に何か言いたい事があるんじゃないか? いい機会だ。全部吐き出していくといい。向こうへの土産話にでもさせて貰うさ。幸か不幸か、聞かせる相手の心当たりはないけどね。』

 

 傑の目はどこまでも真っ直ぐにこちらを捉えていた。それに押されるようにして、自分の中でも不明瞭だった領域に、手探りで入り込んでいく。

 

『......皆がさ。僕の強さを必要とするのも分かるし、必要とされるのは、正直嬉しいよ。だけどさ。』

 

『それに何か思うところでも?』

 

『.......獄門疆に封印されて。呪力も練れねーし。他にやる事もねーし。だから1人で、色々と考えてさ。』

 

『らしくないね。』

 

『黙って聞いてろ。......傑は知らないだろ? 僕が教師になった理由。』

 

 傑だけじゃない。他の誰に聞かれても、のらりくらりと誤魔化し続けた、僕だけの秘密。

 

『そういえばそうだね。正直最初は、何でそんな不向きな役目を? と思ったよ。九十九さんみたいな自由気ままなスタイルの方が、君には似合ってると思っていたし。まあ、予想に反して長続きしたようだけど。』

 

『俺はさ、羨ましかったんだよ。傑の強さが。だから目指したくなったんだ。お前みたいに誰かを導ける存在を。』

 

『それは初耳だね。』

 

 傑の細い目が僅かに見開かれた、そんな気がした。

 

『教師生活は楽しかったよ。大好きな生徒も沢山できた。あそこの教壇が僕の新しい居場所になったんだ。』

 

『良かったじゃないか。』

 

『でも同時に、1つ変わった事がある。世界の見え方だ。』

 

『ほう。その心は?』

 

 その問いに答えるため、ゆっくりと息をついてから、続きを話す。

 

『学生の、1人の術師だった頃は、シンプルで良かった。』

 

 それは、もう手の届かない遠くの時間。

 

 そう。あの頃の世界は余りにも単純だった。ただ目の前を見てれば良い。力を付ければ付ける程に、見える世界が勝手に広がった。

 

 俺はただ、最強として、テッペンから見える景色の美しさを味わっていればよかったんだ。

 

 そこには疑いも、躊躇もなかった。だけど、

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

『もう五条さん1人でよくないですか。』

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 いつだったか。そう、任務の打ち上げで、七海と焼肉行った時だ。その時に、アイツはそんな言葉を溢してた。特に気にはしなかったけど。ちょっぴりスネた褒め言葉にしか聞こえなかったし、多分アイツもそこまで深く考えての発言じゃない。

 

『だけど教師になって。この瞳は、目の前の、さらにその先を映すようになった。そしたら、どうしたって考えちゃうんだよね。僕のいない世界のことを。』

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

もう五条さん1人でよくないですか。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 その言葉はいつしか呪いに変わっていた。それが意味する現実と未来に不安が押し寄せた。僕にだっていつか必ず終わりは来る。そうなったら、生徒たちがどんな世界を生きる事になるのかは、想像もつかない。

 

 五条悟の存在はきっと自分が思っている以上に大きく膨れ上がってる。僕という最強の個が、世界の均衡を崩し、若人の成長を妨げ、最悪の未来を呼び寄せている。そんな風にも思えてしまった。

 

 だったらいっそ、

 

『五条悟とかどうでもよくない? って、最近はつくづく思えてきてね。』

 

『・・・・・・・・・』

 

 皆にはいずれ“俺”という最強を忘れて。ソレとは違う、彼ら自身の強さを見つけて、生きて欲しい。

 

 それがきっと、教師としての“僕”の夢だ。

 

『意外と、ベストなタイミングだったんじゃない? 生徒達の巣立ちとしてはね。』

 

 そう。何にだって終わりは来る。今回は、思っていたより少し早かっただけのこと。

 

 今回の件で、僕の生徒達は更なる成長を遂げただろう。暗躍してた呪詛師も倒したそうだし、傑の亡骸も解放できた。僕の不在で呪術界も揺らぐだろうけど、今なら心から信じられる。

 

『皆なら何とかなるでしょ。最強なんていなくてもね。』

 

『......なるほど。それが君の結論か。』

 

 傑はただ、僕の言葉に耳を傾けてくれた。そして、しばらく押し黙っていた後に、その口を開く。

 

『悟。随分と老け込んだね? 獄門疆の中で何世紀過ごしたんだい?』

 

『あん?』

 

 棘を感じる言い回しに、思わず返答も鋭くなった。

 

『言わんとしてる事は分かるさ。確かに今の呪術界は五条悟という最強に囚われすぎている。いつかはそこから抜け出さないといけない。そこは否定できないね。でも、少し極端に考えすぎだ。』

 

『あのなぁ、』

 

『らしくない真似はするもんじゃないよ。私に言わせれば、”最強“の名に囚われてるのは君の方だ。』

 

『僕は真剣に、』

 

『じゃあ君はこれで本当に満足なのかい? 永遠にここで1人ぼっちで、呪術も2度と使えない。そんな幕切れに納得できるとでも?』

 

『・・・・・・・・・』

 

 やっぱり傑は何もかもをお見通しだったみたいだ。

 

『ははっ、分かりやすいね。次いでに1つ訂正しておこう。君は何やら勘違いしてるようだからね。』

 

『勘違い?』

 

『君は五条悟だから最強なのか? 最強だから五条悟なのか?』

 

 要領を得ない問いかけに、思わず首を傾げてしまう。

 

『なぞなぞ...? なにが言いてえんだよ!」

 

『君はね。最強の術師である前に、1人の人間・五条悟なんだ。』

 

『・・・・・・』

 

『君はただ理解するのとされるのを怖がってるだけだ。だから勝手に線を引く。強さだけを理由にしてね。全く呆れるよ。1人ぼっちが寂しい癖に、進んで孤独になろうとするんだから。』

 

 踏み込まれていく。触れられたくなくて。見せたくなくて。これまで必死に隠して守ってきた領域へ。それがまるで、何でもないかのような、気安さで。

 

 なのに不思議と心地がいい。

 

『っ、俺は、』

 

『確かに君を必要とする人は沢山いる。でもその理由は、“強さ”だけじゃないはずだ。』

 

 そう、静かに告げられる。

 

 

 

Q、あなたにとっての五条悟とは?

 

『俺にとっては、やっぱ“先生”かな。あの人がいなかったら俺死刑だったみたいよ。だからマジで感謝してる。すっくんと一緒に居られんのも、五条先生のおかげだし。』

 

『恩人です、一応。津美紀の事もなんだかんだで気にかけてくれてて。少なくとも、俺にとっては善人です。』

 

『正直私、そこまで知らないのよね〜。ま、とりあえず、嫌いなタイプの人種じゃないわね。あれでも生徒には色々と甘いし。』

 

『バカ。だけどマシなバカだ。私のやろうとしてる事を、一応、応援してくれてる。腹立つくれーにノリノリでな。』

 

『バカ。後はまあ、アレだ。人類に優しめのモンスターって感じか? ある意味、俺と同類だな。』

 

『シャケシャケ。ふりかけ。青のり、明太子。バターコーン、きゅうり。ちくわ。ウインナー、天かす。生ハム......』

 

『軽薄。個人主義。しかしこれ程、信用と信頼のおける先輩はいないでしょうね。癪ですが。尊敬? はないですね。断じて。』

 

『どんなタイプの女がタイプか、未だに掴めん。よってよく分からんし、正直気持ちが悪い! だからこそ、いつかは聞き出してみせるがな。』

 

「めっちゃ良い人! 俺の事で上層部と交渉したり、たまに修行を見てくれたり。あと何より、呪いの俺を真っ直ぐに信じてくれたのが嬉しかった。」

 

「寂しがりやな人、なんだと思う。でも本人は、そういう弱さをみせるのは、あんまり得意じゃなくて。だから、背中を押せる誰かが側にいてあげるのが一番だと思う。いやまあ、これ、全部私の想像だから、全然的外れかもしれないし...

 

 

 

 傑の一言で蘇る。高専での幾つもの時間が。ほんの一瞬でも、呪術を忘れてしまう程の、退屈だけど穏やかな時間が。

 

『・・・・・・俺はさ、どうすればいい?』

 

『君が決めろ。』

 

 たまらず答えを問いかけても、逃げ道を与えてはくれなかった。

 

『世界とか、最強とか、他人の言う事とか、君にとってはそっちの方が、余程どうでもいいはずだ。この先で一体何をしたい? 君自身で選んだ道を進むんだ。』

 

 優しくも厳しいそんなエールに背中を押され、僕はまた一つ、答えを捻り出そうとしていた。

 

 考えて、考えて、考えて、考えて、考えて、考えて、考えて、考えて、考えて、考えて、考えて、考えて、考えて。

 

 無限にも思える思考の果てに。頭に思い浮かんだのは、同僚の一級術師の言葉だった。

 

『なあ傑。憶えてるか? 何時ぞやの忘年会でさ。冥さんが七海に教えてたろ。オススメの移住先。』

 

『ああ。新しい自分になりたいなら北へ。昔の自分に戻りたいなら南へ。だったかな。』

 

『俺はさ。やっぱ、お前がいないと寂しいよ。傑。』

 

『・・・・・・・・・』

 

 飾り気も誤魔化しもない、心の底からあふれた言葉。ソレは、やけにアッサリと口からこぼれる。

 

 閉じたままの傑の口は、僅かに揺るんでいた。

 

『多分、この先どんなハッピーな事があっても。どんな強者に巡り会えてもさ。今際の際に、もう一度繰り返したいと思えるのは、お前らと一緒に過ごしたあの季節だ。』

 

 脳内には3年間の青い春が、淡く、眩しく、一気に広がっていく。まるで昨日の事のように。記憶へと克明に刻まれた、長いようで短い日々が。

 

『......ははっ。私がけしかけたとはいえ、ここまで君が素直になると、気味が悪いね。明日は渋谷に隕石でも降るのかな?』

 

『茶化すな。......だから俺はさ。どっちを選ぶか聞かれたら、迷わず南を選ぶと思う。』

 

『......そうか。』

 

『だけどさ。生徒の皆と会えなくなるのも、それはそれで寂しいんだ。だからさ。傑のいない世界でも、ちょっとだけ頑張ってみようと思う。僕はさ。北へ歩いてくよ。時たまそっちを振り返りながらさ。』

 

『......なるほど。向こう、での、楽しみがっ、増え、そうだ。』

 

 傑は声が途切れ途切れになり始める。その体の輪郭はボヤけて、すぐ近くにいるはずの友の姿が摩耗していく。

 

 早くなる呼吸を誤魔化すように。咳払いで取り繕って、続けざまに言葉を紡いだ。

 

『生徒達は、これまで以上にしごかないとね。皆にはもっと強くなって貰いたい。いつかは僕を満たせるくらいに!」

 

 不自然な程に声は張り上がっていた。そうしないと胸の奥で込み上げてくるものに、耐えきれそうになかったから。

 

『不純な、動機だな。実に自己中心的で、君、らしいよ。そうとっ、決まれば。こんな所で...燻ってる隙はないだろう?』

 

『だな。やっぱお前、教祖の才能あるよ。人を唆すのが上手い。』

 

『褒め言葉として、受け取っておくよ。』

 

 分かっている。分かっているはずなのに。頭では納得しているのに。やっぱりどうしても受け入れられない。胸が軋む。掴めないと分かっているのに、手を伸ばしてしまう。

 

 別れの時はすぐそこまで近付いていた。

 

『さて。そろそろ、お暇しようかな。これだけ長話をしたんだ。君の顔なんて、当分は見たくない。すぐにコッチに来るのだけはやめてくれ。.........そうだ。最期にこれだけは言っておこう。』

 

 もう姿は殆ど見えない。ただ言葉だけがそこにあった。声の在処も曖昧で、遠いようで近いような。

 

 この一時の終わりを嫌でも意識してしまう。

 

『...なに? まだお説教?』

 

 だからこそ耳を澄ました。最後の言葉を決して聞き逃さないように。

 

『............悟。君は、この先、何があっても、

 

 か細く、だけど揺るがない、ただ一言。呪いとも祝福ともつかない言葉を残して、親友はあるべき場所へとかえっていった。

 

 去り際に1つ。僕の呪いを解いていって。一体の怪物を等身大の人間に戻して。

 

『ありがとう。またな傑。』

 

 返事はなかった。

 

 僕の居場所には静寂が戻ってくる。さっきまで確かにあった気配も、温もりも、すべてが嘘みたいに消えていた。だけど不思議と寂しくはない。

 

 1人じゃない、そう信じられるから。

 

 

 

 

 

 

 

 

Q、あなたにとっての五条悟とは?

 

『私にとっての親友さ。たった1人のね。』

 

 

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