宿儺「どけ!!!俺は主人公の相棒だぞ!!!」 作:バケギツネ
◇ side:シン理子
「今度こそお疲れ様、夏油くん。」
感じる。獄門疆の中にあった2つの魂。その1つが薄らいでいくのを。
「あれ?」
そして変化はすぐに起こった。すっくんが手にしていた獄門疆がわなわなと震え出す。
「あ、あの、天元パイセン? これどうしましょう!? 何もしてないのに獄門疆が壊れました! これ弁償っすか!? 俺、あんまり金ないっすよ、悠仁からのお小遣い制なんで! あ、でも......獄門疆って5万で買い取れたりします...?」
「これって、」
似たようなのを見たことがある。五条くんが封印された直後もそうだった。彼の存在を処理しきれず、獄門疆はバグり散らかしていたっけ。
「ちょ、助けて天元パイセン! 獄門疆これ、段々重くなってるんすけど!? あ、叩けば直ったりします? オラッ黒閃!」
獄門疆が再びバグっている。それが示す答えは1つだ。
「そっちで、よっぽど夏油くんに尻を叩かれたみたいだね。」
すっくんが持ち上げきれない程に重くなった獄門疆。それは彼の足元へ落下して、その左足の親指に激突する。
「うぎゃあああああああああああああ!」
あ、いたそう。
◇ side:すっくん
「え、五条さんってそんなに強いの?」
腫れた指をフーフーしながら、天元パイセンの話に耳を傾ける。
のんびりしてる場合でもないんだが、今は消耗がデカすぎる。悠仁も力を出し切ったのか、俺の中でスヤスヤだ。今は少しでも休んで力を回復させたい。
その中で自然と話題になったのは、共通の知り合いであるグレートティーチャー五条だった。
「五条さんの強さって、今の俺よりも上?」
「うん。もし仮に、君と羂索が奇跡的にブラザーになって、そのままタッグで挑んでも蹴散らせされるくらいには。」
「マジ...?」
頭に浮かぶのは、存在するわけない記憶。俺は羂索は肩を組み、性癖について熱く語り合っていた。だが、そこに現れた五条さんが、ヒューヒョイっと全てを消し炭にしてしまう。
「・・・パワーバランスぶっ壊れてんな。何であの人、一般教師やってんだよ。」
「ふふっ、何でだろうね〜。あ、それとね。さっき獄門疆が重くなったでしょ? その理由分かる?」
「重くなった理由? あ、まさか五条さん...! 獄門疆の中でやけ食いしてデブった!? 天上天下唯我どすこい...!」
「違うの、あのね。獄門疆が“五条悟“という情報を処理しきれなくなった。それが理由。」
「えっと、つまり...?」
「今この時も五条くんは進化を続けてるんだよ。さらに強大な存在にね。」
床にめり込みっぱなしの獄門疆へと視線が移る。更に重さが増したのか、それが作るクレーターはジワジワと大きくなっていた。
「ほんと、彼さえ解放できたら、もう怖いものなしなんじゃないかな!」
「た、確かに...」
結論。五条さんおかしい。
最初期に出てきていいキャラじゃないだろ。俺、作品2話目にして、とんでもない奴に喧嘩売ってたんだな。ぶっちゃけ、あの場でミンチにされて、呪術廻戦・完! でもおかしくなかったわけだ。こわっ。
そんだけ強いのに、どうして呪術界のトップに立てないんだ...?
はっ! まさか、五条さんには、悲しい過去があるんじゃなかろうか。
呪術教会の会長選挙的なのに立候補したものの、シンプルに人望なくて大敗したみたいな、悲しい過去が。
『なあ傑。選挙って、俺だけ強くてもダメらしいよ。』
『まあ、そりゃそうだろ悟。』
.........みたいな。可哀想な五条さん。獄門疆から出所したら、優しくしてあげよう。無為転変完成の為に、お世話になったお礼もしないとだし。
あれ、そう言えば修行の時、
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『ねえすっくん。その術式完成したらさ、僕の稽古に付き合ってよ。』
「ん? 構わんぞ。ちゃんと手を抜いてやるから、貴様は安心してかかって来い。“全力”でな! ケヒヒッ!」
『へぇそっか〜。それじゃあお言葉に甘えて。いやぁ〜、楽しみだな〜。』
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あれ? 俺、死んだか...?
「ね、ねえ、天元パイセン。五条さんも教育者だし、流石に、生徒をゲロ吐くまでボコしたりとかは、しないよね...?」
「え? するでしょ。五条くんだよ?」
「.........なあ。やっぱ五条さんの解放やめね?」
◆
栃木県那須郡。その山奥にひっそりと構えられた廃屋。その実態は、羂索は秘密裏に用意していたアジトの1つだった。
『ハァ、ハァ......。ようやく、傷が癒えてきたな。』
様々な実験機器や、用途不明の呪具で溢れたその寂屋に辿り着いたのは、本来の主である羂索ではない。宿儺から7本の指を託された裏梅だった。
『羂索の奴め、ぬかったな。あれだけ大風呂敷を広げておきながら、現実はこれか。使えない...!』
何もかもが当初の計画とはかけ離れていた。首謀者の羂索は恐らく死に、奴の企てた死滅回游にも異変が生じている。裏梅が苛立つのも無理からぬことだ。
『っ、宿儺様...!』
裏梅の願いは変わらない。主人のお側でその役に立つこと。それこそが唯一にして絶対の存在意義だった。それが果たせぬのならば、こうしてこの世に再び生を受けた意味がない。
『必ずや、貴方様を...!』
裏梅の主人は今、虎杖悠仁との不愉快な仲間たちによって、その自由を奪われている。思うままの生き様を望む宿儺にとって、それがどれほどの苦痛か。裏梅には想像するに余りある。
幸いにも、宿儺様にはお考えがあるらしい。自分の役目はその時を待つこと。だが、何とももどかしい。主を疑うつもりはないが、果たしてそれが最善なのか。今一度考えを巡らせようとした、その時だ。
『っ!?』
ギィ、と木の軋む音で裏梅はそれに気がつく。アジトの隅に無造作に置かれた、古ぼけた棺桶に。
『これは......』
その棺を形作るのは、今にも朽ちそうな黒ずんだ枯木。周りには人骨の鎖が絡みつき、開き口には幾重もの釘が打ち付けられている。
そう言えば。
いつだったか、羂索が話していた。
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『そうだ裏梅。間違ってもこの棺には触れないでくれよ。まあ、無いとは思うが、この段階で動き出されては面倒だ。』
『そのガラクタに、一体何を入れている?貴様のことだ。大方、碌でも無いものだろうが。』
『たははっ、これは手厳しいね。だが、私がそれに出会ってしまったのは、君の見た“夢”のせいなんだよ?』
『夢、だと?』
『まあ、碌でも無いってのは言えてるかな。何せこの中身はね、“私にとってはこの世で最もつまらない”、そう断言できるものさ。』
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裏梅が受肉した際、その脳内に溢れ出した存在しないはずの記憶。馬鹿げているのに、妙に腑に落ちてしまう、あの不可思議な光景。
羂索に包み隠さず話したソレが、もし真実だったとするならば。
『羂索。まさか貴様は......!』
棺桶に蒼い炎が灯る。燃え上がったその熱は、棺を封じこめんとする釘と鎖を溶かしていった。
そして禁じられていた扉は開く。
『『私の意思は、引き継がれる。』』
◇ side:すっくん
「えっと、天元パイセン...? これは?」
彼女との話を弾ませ、そろそろ動きそうとしていた時だった。立ち上がった俺と反対に、パイセンはその頭を地べたに着けていた。
「君がここに転生したのは、私のせいなの」
それは、もはや小慣れた感じさえする、美しいフォームの土下座だ。それにしても、天元パイセンが転生の原因だったか。
「強い味方が欲しくて。殆ど事故みたいなものだったの。呪術廻戦《このセカイ》と別の世界との境界に穴が空いて。いや、それは言い訳で、本当にごめんなさ
「顔、上げてくださいよ。」
しゃがみ込んで、パイセンと目を合わせる。あ、やべっ、目が4つあるから視線が定まらねえ。えっと、上2つの方にしとけば間違いないか?
パイセンと目を合わせる(テイク2)。それできっと、俺の思いは伝わったはずだ。
「...分かった。顔をあげるよ。確かに土下座したままじゃ、顔面を殴りにくいもんね。はいっ!」
「俺をなんだと思ってます!?」
訂正。全然伝わってなかった。
「だって君は、私のせいでこんな戦いに巻き込まれて、正直、3桁回くらいぶん殴られても、文句言えないやらかしを私は、」
「いや寧ろ、感謝したいくらいですよ。」
「でも君は、その......」
「確かにここでは、死にたくなるくらい辛い事もありました。」
嫌でも頭にとある光景が思い浮かぶ。この手で触れた命が飛び散る、あの地獄が。
「でも、俺はここで自分の役割を見つけられた。ここには、相棒がいて、仲間がいて、先生がいて、弟分もいて。だから俺は、この世界が大好きなんです。」
「......そっか。」
「で、そういうのを全部守りたい。それが俺の目標なんです!」
「じゃあ君も、私とおんなじなんだね。」
俺にとっての恩人は、そう言って微笑んでくれる。パイセンはずっと俺を見ててくれたんだろう。だからその苦悩にも、精一杯寄り添おうとしてくれる。
俺の先輩がこの人で本当に良かった。
「いやー偉い! 君はほんとに偉いよすっくん!」
「えー、そうっすか?」
「そうだよ!ずっと真っ直ぐに人を助けようと頑張ってて!とてもじゃないけど別次元の両面宿儺だなんて思えない!」
「はははっそんなに言われると照れ、え、今なんて言いました?」
「あっ......」
パイセンは慌てて口を押さえる。そのゴツゴツした頭には滝のような汗が流れていた。
「俺が、別次元の両面宿儺...?」
「えっと、転生者と転生先は、別次元の同一人物っていうルールがあって、アレ、そういや君は知らなかった、っけ...?」
「初耳っす!!!!」
そんなバナナと言いたいところだが、思い当たる節がないでもない。
俺の弟分である“賀茂”ヒカリが転生したのは、“加茂”憲倫が生み出した脹相だった。もちろん、それだけじゃただの偶然かもしれない。
だけど、
「俺が両面宿儺、か。」
妙に腑に落ちてしまう。恐らくアイツはずっと前からその事に気付いていたんだ。だから俺をずっとああ呼んでいた。
「天元パイセン。ちょっと話してきます。」
「よお、本物宿儺。」
テレビの電源が切れるように、プツリと視界が暗転する。その後目に映ったのは、もはやお馴染みになりつつある本物宿儺の部屋の中だ。
【何の用だ? “もう1人の俺”よ。】