宿儺「どけ!!!俺は主人公の相棒だぞ!!!」 作:バケギツネ
◇ すっくん
「よお、本物宿儺。」
【何の用だ? もう1人の俺よ。】
部屋の主人に出迎えられる。少し前のゴタゴタがあってから、亀甲縛りで吊るしてあるのはそのままだ。
にしても相変わらず声がいい。いやまあ、声帯的には今の俺と同じなんだが、どうしてこうも違うんだろう。
いやそんな事より。ここに来たのは、色々と聞きたい事があるからだ。
「思い出したか? 悠仁と東堂とお前で過ごした、青春の日々を。」
【いきなりどうした。気でも触れたか?】
「クッソ!記憶は奪われたまんまかよ!」
【貴様は何を言っている...?】
皆んなも知っての通り。本物宿儺は、東堂と悠仁とは同中だ。ソースは東堂。
だが奴と悠仁は、なぜかその記憶を失っている。黒幕っぽかった羂索を倒しても、奪われた記憶は戻ってないようだ。
【貴様の戯言には理解が及ばん。今に始まった事ではないが。】
「ジーーーーーーー。」
【なんだ?】
「いや、性格悪いまんまかー、って。ハァーーーーーーーーーーーーーー。」
【意味はわからんが、不快だな。】
クソデカため息を吐く俺に、本物宿儺はギラついた視線を向けてくる。
本物の宿儺は兄貴分のナイスガイだ。って東堂が言ってた。今の嫌味ったらしい奴とは似ても似つかない。恐らく、羂索の洗脳的なのがそのままなんだろう。
「おのれ羂索!!!!」
死してなお呪いを遺すか。俺の相棒をこの世に生み落としたという最大の功績を除いて、マジで碌な事してないな。
【言いたい事はそれだけか? ならば疾く失せろ。今の俺とて、貴様の無駄話に付き合う程、暇ではない。】
「はいはい。分かった分かった。あ、でもちょっと待て。」
更にキツくなる視線に若干怯みながらも、俺は本題を切り出した。
「改めて伝えに来た。俺はお前を必ず助けてやる。」
【・・・助ける、だと?】
「ああ。」
【・・・・・・貴様の愚かさは知っていたが、ここまでとはな。救いようもない。】
「そんな、言わなくてもいいじゃん。」
【俺を助けたいというのなら、今すぐに俺を自由にしろ。貴様にできる事など、せいぜいその程度だ。】
「バカ言え! 今そんな事したら、絶対暴れんだろーが! お前を自由にしてやるのは、お前がちゃんと良い奴に戻ってからだ!」
【よし。俺はたった今、良い奴とやらに戻ったぞ。ここから出せ。】
「もしかしてだけど、俺をバカだと思ってる?」
【ああ。】
「ちくしょう、舐めやがって!」
やはり本物宿儺には、記憶を取り戻して貰う必要がありそうだ。今の性悪宿儺相手じゃ、何を言っても無駄そうだし。
でも、どうすれば記憶を戻せるんだか。羂索はもう退場しちゃったしな。なかなか骨が折れそうだ。
「とにかく、俺は諦めないからな!」
【フン。】
「お前が、誰にも不幸を振りまかず、普通に生きれるようにしてやる!」
【・・・なんだと?】
「俺とお前、別次元の同一人物らしいぜ。だからさ、本質的には俺たち似てると思うんだ。」
【ふざけるな。】
「大真面目だよ!俺には分かる!今は、色々あって気付けてないだけだ!本当のお前はきっと、俺と同じで寂しがり屋で、人との繋がりを求めてて、」
【貴様に何が分かる?】
「分かるよ!だって、俺はお前で、」
【知ったような口を聞くな。◼️◼️の分際で。】
「は?」
宿儺の口から、この世界では聞き慣れた“その言葉”が飛び出した。
「おまっ、悪口にしてもそれはライン越え、」
【言ったはずだ。貴様の記憶は全て覗いた。“この世界に来る以前“のものまでな。俺は知っているぞ。貴様が何なのかを。】
「何、言って...」
【
「え」
次に飛び出したのは、この世界で聞くことになるとは思いもしなかった、とある男の名前。
【忘れるはずはないだろう?この名前を。】
「お前、」
脳内に溢れ出す。確かに存在していたはずの俺の前世の記憶が。
「やめろ、“俺の名前”を出すな。」
【ん?】
「あん?」
【・・・・・・なるほど。クククッ。貴様は随分と都合のよい頭をしているのだな。】
「???」
なんだこれ。
さっきから妙に話が噛み合ってないような、
【これは滑稽だ。大層な理想を掲げておきながら、貴様は自分すら受け入れられんか。】
分からない。
「お前。さっきから適当な事ばっか言ってんじゃ、」
【いや、因果が逆か。そもそも貴様の理想とやらは、罪から目を背け、罰から遠ざかるための逃げ道に過ぎん。違うか?】
分からない。分からない。
「何言ってっか、分かんねえよ!」
分からない。 は?
本当に分からない。 うそだ。
何で? いやだ。 そのはずだ。
なのに何で頭が痛い? おぇ...
俺は、 ふざけるな。 思い出さなきゃ。
怖い。 知らない。
「俺は、」
【まあいい。ただこれだけは憶えておけ。】
「っ、はい、面会終了!閉店ガラガラ!!」
亀甲縛りの宿儺を吊り上げていたスクナワ。気付けば俺はそれを掴んで振り回し、宿儺を大回転させている隙に、現実世界へと逃げ帰っていた。
奴の捨て台詞を耳にこびりつかせて。
【貴様も。俺も。生まれついての呪いだ。生き方なんぞ変えられはしない。死ぬまで。いや、何度その死を積み重ねようとな。】
「すっくん? ねえすっくん? 大丈夫?」
「うぉ!? あ、あー、はい。」
現実世界に戻った俺を、天元パイセンが出迎える。失礼な話だが、いきなりこの顔出てくるとビックリするな。
「ごめんね。私が余計な事言っちゃったせいで、」
「いや、天元パイセンは悪く無いっすよ。俺が、色々あっただけで。」
「っ、ほんとに?顔色悪いよ。練りたてのコンクリートみたい。」
「あはは、大丈ブイです! まあ確かに? 俺が別世界の宿儺ってのは驚きましたけど? だって俺、前世は生き方も死に方も普通でしたし?」
「あの、何かあれば相談乗るよ? ほら私、貴重な転生者仲間だし。」
「今は平気です! またいつかお願いするかもしれないっすけど。」
「いや、それは、」
「それより! 今はパイセンに聞きたいことがあるんです! 羂索が言ってた“死滅回游”について。」
「うん、そうだね。時間もないし。」
天元様は空中に投影したパワポなんかを駆使し、死滅回游について詳しく解説してくれた。
簡単にいうと呪術師のサバイバルデスゲーム。目的はパイセンと人類の同化。同化?
よく分からんが、つまりは世界中の人間が、天元様みたいな眼4つで親指みたいな頭になるのか。五条さんは目隠し2倍になんのか?
そんな事より。死滅回游にはもう一つの目的があった。それは転生者の大量召喚だという。過去の術師を甦らせる受肉。その過程で“転生”は起こるから。
「んん!? ちょい待ち! 死滅回游の受肉って、」
「200件、かな。少なく見積もっても。」
「200!?」
それはつまり、この世界に200のすっくんが解き放たれるに等しい!...あんま緊張感出ないなこの例えだと。
「安心して。今回で転生した魂は、合計10個。それは間違いないから。」
「あれ? たったの10? 何か意外と少ないというか。」
「受肉による転生は100%じゃないからね。同時多発的に起こった分、数がかなり絞られたみたい。」
「なるほど。あんま人数多すぎると、扱いきれないですしね。」
「何の話?」
とにかく10人の転生者がいる。それは間違いないらしい。
「うん。それぞれが今、どんな状態にあるのかは、私も把握しきれてない。転生者の自我が乗っ取られて、術式だけが過去の術師に奪われてる、なんて最悪のケースもあるかもね。」
なるほど。だがそういう事なら、
「助けないとですね。転生者も、受肉された奴も、受肉した奴も。皆んなまとめて!」
「・・・君ならそういうと思ったよ。」
天元パイセンは俺の願いを笑いはしなかった。その暖かな視線が心地いい。性悪宿儺もこの優しさを見習えマジで。
「頑張れ、後輩!」
押されるように背中がパシンと叩かれる。思わずよろめいた俺は振り返り、そこには誰もいない事に気が付いた。
「・・・あれ? 天元パイセン? どこっすか?」
天元パイセンの気配は確かに感じる。
いや寧ろ、そこら中にパイセンの気配が散らばって...?
「ごめんね。思ったより早く時間切れみたい。」
頭の中に直接!?
天元パイセンの声が響いている。
「私ね、縛りを結んでたの。私が薨星宮を出ても日本中の浄界を維持する事と、その他諸々。それを達成するために、私は自分の全てを捧げた。」
「え?」
恐らくそれは、かつて俺が少年院の変態マコマコ野郎相手に使った、自死の縛りに近いのだろう。
つまり天元パイセンは、
「安心して。新しい浄界を用意できたから、引き続き、日本中の結界は機能し続ける。」
「そうじゃなくて!」
違う。そうじゃない。
俺が、俺が言いたいのは、
「死なないでください! 先輩!」
「やっぱり君は優しいね。」
「何とか、何とかします!俺の無為転変で、なんか上手い事あーだこーだすれば、助かる道だって、」
「気持ちは嬉しいけどね。いいんだ。」
「よくないです!俺、俺っ、決めてるんですよ!全部守るって!だから、」
「これはね。私が望んだ事なの。先輩にカッコつけさせてよ。後輩。」
頭の中には声が響き続けている。それを聞いて確信してしまった。先輩は決して揺らがない。俺に何を言われようと、掲げた彼女なりの理想を、生き方を、曲げる事は無いのだと。
「それにね。これは別に悲しい事じゃ無いと思うんだ。だって私は世界を救えるんだよ? つまりは、これから生まれる沢山の笑顔とか幸せとかがぜーんぶ、私の生きた証になるの! それって凄く素敵なことじゃない?」
「先輩、」
「私は死なないよ。君や、五条くんや、黒井さん。この世界の皆んなと、そして未来と一緒に、ずっとずっと生きていく。本当の意味で“不死”になるんだ。」
もう先輩の顔は見えない。だけど分かる。彼女は今、心の底から笑えている。お目にかかれないのが残念なくらい、素敵な表情をしているんだろうな。
「えーーっと他に言い残したい事は、あ、そうそう。君にこの言葉を送るよ。『With great power comes great responsibility.』意味、分かる?」
???????????????????????
「 あ、はい。分かり、ます。 」
「『大いなる力には大いなる責任が伴う。』っていう意味。」
「あ、あーーはいはい!そうっすよね!」
大いなる力に大いなる責任か。
この世界に力を持って生まれた俺に、果たすべき責任があるとしたら。それはやっぱり1つしかない。
「先輩。俺は必ずハッピーエンドを成し遂げます。貴方が守った世界の全部を、守り通します。絶対...!」
「うん。応援してるよ。ずっとずっと。」
背負った思いをまた1つだけ重くして。俺はまた歩き出す。最悪の遊戯、死滅回游を止めるために。
-死滅回游編 開幕-
「ん、ちょっと待って!もうちょっと話させて!」
「あ、はい。」
遠ざかっていた声がまた近づく。今度は何だろう。
「大いなる力には大いなる責任が、ってやつ。私はね。大いなる力っていうのは、強さだけに当てはまる話じゃないと思うの。」
「えっと、それはどういう、」
「すっくん。この世界には君を大切に想う人が沢山いる。それもね、1つの大いなる力なんだよ。だから君には、ちゃんと幸せになる責任がある。分かった?」
「・・・・・・」
「返事は?」
「っ、はい!」
「それでよし! ハッピーエンドにならなきゃなのは、君自身もなんだから。それを忘れちゃダメだよ?」
全くこの先輩は。
どこまでも他人の幸せを願い続けて。
「あ、いっけない。これも言わなくちゃ。別に大した事じゃないんだけどね。」
「はい。」
「死滅回遊ね、もうすぐ終わるの。」
「......はい!?」
-死滅回游編 終幕-
「今、1つの章が始まって終わったんですけど!?」
「ほら、私、縛りを結んだって言ったでしょ? 具体的に言うとね。
代償
一. シン理子の自我の消失
ニ. 浄界の崩壊
*浄界とは呪霊の抑制などを担う結界。
死滅回游の基盤にもなっている。
効果
一.新たな浄界の確立
って言う感じなの。」
「つまり、呪術師の殺し合いを強制するようなクソゲーは、」
「うん。サ終。」
「マジっすか!? やったーーー!」
なんてこった。
じゃあ後は、受肉したてで暴れてるであろう過去の術師なんかをとっ捕まえて、
「因みに、危険そうな過去の術師は全員、新しい浄界で拘束してるよ。」
「ちょっと仕事デキすぎません!?」
「ってわけで、後は頼んだよーーーーー!」
「・・・ははっ、敵わねえな〜。」
最後の最後まで、この世界をいい意味でメチャクチャにして。先輩は今度こそ消えていく。
いや違うな。先輩は消えてなくなるわけじゃない。これからはずっと一緒にいられるんだ。
「先輩。貴方の思いは俺が受け継ぎます。」
◆
『ご苦労だったな。特級術師乙骨憂太。』
アフリカの都市13ヶ所で同時多発的に発生した大規模呪術テロ。その全てを単独で平定した乙骨は、呼び出しに応じて総監部へと顔を出す。
その目的はとある任を請け負う事。
『さっさと本題に入りましょう。例の件、引き受けさせてください。言っておきますけど、五条先生の関係者とか関係ないですよ。彼はその力で多くの人を危険に晒している。生かしておくには危うすぎます。』
乙骨は宣言する。
自身が刃を突き立てるべき咎人の名を。
『呪術高専補助監督・伊地知潔高は僕が殺します。』
◆
死滅回游の翌日。
禪院家から呪術総監部に送達。
禪院家27代目当主は
“禪院扇の息子”に決定される。