宿儺「どけ!!!俺は主人公の相棒だぞ!!!」   作:バケギツネ

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禪院家って滅びるよね。

 

 

『なんて言うたっけ? 悟くんと傑くんのついでに、渋谷事変の主犯格になっとんの。』

 

 格式ある広大な日本家屋。その廊下を歩く金髪の男・禪院直哉は、3歩離れて後ろを歩く着物姿の女性へ問いかける。

 

『呪術高専東京校の学長、夜蛾正道。補助監督の伊地知潔高。だったかと。』

 

『あーせやせや。パッとせんくて忘れとったわ。正直、ざまあと思わん? 悟君らに引っ付いてるだけの玉無し共やったし。』

 

『・・・しかし、正式な通達はまだです。』

 

『どうせ上のジジイどもがとろついとるだけやろ。時間の問題や。あのカスども、どんな死に方すんのやろなぁ。』

 

 楽しい世間話をしながら、直哉は屋敷の奥へと進んでいく。とある一室へと足を踏み入れた彼を、酒臭い吐息が出迎えた。

 

『ア“ッ、遅いぞ直哉。どこで道草を食っていた。』

 

『ごめんちゃいパパ。でも、“遅い”っちゅーのは聞き捨てならんな〜。少なくとも俺、今のパパよりは速いで?』

 

 直哉は右足で畳をトントンと叩く。その視線は、先端を失った直毘人の右足へと向けられていた。

 

『ま、早いとこ本題に入ろうや。』

 

『ほう。何の話か察しはついていそうだな。ヒックッ...!』

 

『ここにおるメンツで分かるやろ。甚一君はともかく、扇のおじさんも来とるみたいやし。』

 

 部屋に集められていたのは5人。

禪院家の現当主である直毘人に、その息子の直哉。特別一級術師の肩書を持つ、扇と甚壱。立会人である“フルダテ”だ。

 

『次の当主をどうするか。そういう話し合いやろ? ま、そんなんするまでもないわな。もう結論だけ言うたら?』

 

『はっはっは、それもそうだな。』

 

 直哉の問いを肯定した直毘人は、愉快そうに笑いながら本題に入る。

 

『“前”当主としてここに宣言しよう!俺の跡を継ぎ、禪院家27代目当主となる者を!』

 

「あ、ども。禪院ヒカリです。」

 

 直毘人の紹介でダイナミックにエントリーしたのは、仕立てのいい着物に袖を通した色白の男だった。

 

『いや誰やねんお前は!!!』

 

「あ、だから、禪院ヒカリです。」

 

『名前聞き返したんと違うわカスが!!」

 

 見知らぬ男の舐め腐った態度に、苛立つ直哉は金髪を掻きむしる。

 

『どうした直哉。ヒック、酒でも飲むか?ほれ。』

 

『要らんわボケ!』

 

 差し出された瓢箪を払いのけ、父親との間接キスを回避した直哉は、抗議を続ける。

 

『こんな訳も分からん奴に、跡目を譲る? パパは右足だけやのーて、脳みそも渋谷に落っことしてきたん?』

 

「落ち着いてください直哉さん。ダメですよ、お父上にそんな言葉遣いをしたら、」

 

『勝手に喋んなクズ!口が臭いねんゴミが。』

 

「あははははははははは。ふー我慢我慢。私はプリンセス。暴力は最終手段...... 」

 

 直毘人との間に割り込んできたヒカリに対し、直哉はその胸ぐらを掴む。

 

『そもそもお前はどこの誰やねん。』

 

「だから僕は禪院ヒカリで、両面宿儺様の伴侶だって言ってるじゃないですか。」

 

『おいパパ!こいつマジでキチガイやぞ!』

 

『これヒカリ。その手の冗談は、控えるように伝えたはずだぞ。』

 

「ごめんなさいおじさま。でも本当の事なんで。

 

『まあ聞け直哉。今から諸々の事情を話す。そうすればお前も納得するだろう。』

 

 かくして直毘人の口から真相が語られる。

 

 酒の席で禪院甚爾と賭けをした事。

 負けた事。

 伏黒恵が次期当主になった事。

 伏黒恵本人に断られた事。

 仕方なくヒカリを連れてきた事。

 

『とまあ、そんなところだ。どうだ直哉。飲み込めたか。ヒック。』

 

『一個も納得できへんわ。ボケ。』

 

『さて、次期当主が決まったんだ。祝いにパァーーーーっと、』

 

『そもそも! なんでそんなポッと出がしゃしゃってんねん。恵君が断っとんなら、普通に俺が次期当主やろ!』

 

 苛立ちの治まらない直哉は、続けて一気に捲し立てる。

 

『それにや、禪院家の当主なら相応の血統が必要やろ。』

 

「呪いの王って、四捨五入したら王子様だと思いません? で、その伴侶である僕はプリンセスなんですね。つまりはノープロブレムでは?」

 

『ん??? はぁ...??? っ、とにかくや、こんな頭おかしい奴の身内を名乗る、本家筋の人間なんておる訳ない! 扇のおじさんもそう思うやろ。』

 

『ヒカリは私の息子だ。』

 

『はっ、聞いたかパパ!? 扇のおじさんはこう言うとる! そこに居るヒカリには、自分の娘やってなぁ!.........はぁ!?』

 

 ようやく喋ったかと思えば、真顔でボケを繰り出す扇に、流石の直哉も面食らう。

 

『なあ、冗談やろ...? おじさんまで気ぃ狂ったんか?』

 

『何度でも言うぞ。ここに居るヒカリは私の息子だ!!!』

 

「父上ー。会いたかったー。(棒読み)」

 

『私も会いたかったぞ!ヒカリ!!』

 

あ、ちょっと近いです。プリンセスノータッチで。

 

 感動の再会を果たした親子は熱い抱擁を交わす。息子側が親父をビンタしたようにも見えるが、きっと気のせいだろう。

 

『いや待ておかしいやろ。アンタのガキは、真希ちゃんと真依ちゃんだけで、』

 

『そう。アレは40年ほど前。私がまだ独身だった頃だ。吐いた息さえ凍るほどの冷たい夜のことだった。』

 

『おい、何か語り出してんけど。」

 

 扇の口からは真相()が語られる。

 

 とある任務で赴いた僻地で、とある女性と出会ったこと。その女性がたまたま偶然、とある名家の血筋だったこと。その女性と恋に落ち、扇の扇が焦眉之赳して、ヒカリを授かったこと。

 

『俺は何を聞かされとんねん...』

 

 そうはならんやろな説明に、空いた口の塞がらない直哉。そんな息子を無視し、直毘人は話を続ける。

 

『ヒカリの母はな、彼を産んだ直後に亡くなったのだ。』

 

「うわーーーん。母上ーーー。(棒読み)」

 

『扇は当初、ヒカリをすぐに禪院家に迎えようとしたそうだ。』

 

『当然だ兄上。子の将来を思わない親がどこにいる。』

 

 どの口が言うとんねん。と言いたげな視線を無視し、扇は続ける。

 

『だが。ヒカリの母親であるゆかりの、』

 

「あ、父上。僕の母親、名前はあかりです。ほら、打ち合わせしたじゃないですか。」

 

『・・・だが。ヒカリの母親であるあかりの遺言でな。』

 

『間違えんな!設定は詰めとけや!』

 

『あの日のあかりの言葉を、私はこれまで忘れたことはないっ...!』

 

『名前、忘れとったけどな。』

 

 扇は目薬を差した後、涙ながらに語り始めた。

 

 そう。あかりは願ったのだ。一人息子であるヒカリが、呪いから離れた人生を歩むことを。

 

『だとしても、何でノコノコ呪術界に戻ってきとんねん。』

 

「僕、実はずっと修行をしててー。呪術界の危機にー、父上の助けになりたくてー、」

 

『思てへんやろ。絶対。』

 

 黙って聞いていれば、余りにも無茶苦茶な出鱈目に嘘八百。直哉には到底受け入れられなかった。

 

『こんな茶番、真に受ける奴なんておらんやろ! なあ甚一くん!?』

 

『ヒカリ君は立派じゃないか。俺は彼を、次期当主として支持しよう。』

 

『甚一くん!?』

 

『私も同意見です。彼ならば、この禪院家に新しい風を吹かせるやもしれません。』

 

『お前、まだおったんかフルダテ!?』

 

 ここでようやく直哉は気付く。

 

『お前ら、全員グルか!?』

 

 既に自分以外への根回しが済んでいるのだと。新当主の父となる扇はもとより、甚一やフルダテにも相応のポストが約束されているんだろう。

 

 直哉がこの場に来る前から、新当主を決める勝負は既に決していたのだ。何故だか彼のパパは、禪院ヒカリをテッペンに据えたいらしい。

 

 この自分よりも。

 

『ざけんなや...!アホどもが...!!』

 

 奥歯をグッと噛み締めながら、直哉は頭を巡らせる。既に神輿が掲げられたなら、それを踏みつけ、自分がより上に立てばいい。

 

 そう結論づけるのにさほど時間はかからなかった。

 

『ごめんな〜ヒカリくん。急なことやったから、俺もちょーっとビックリして、大きな声出してもうたわ。堪忍やで。』

 

え、急に怖っ。いえ、いいですよー。全然気にしてませんし。あと僕、設定上は貴方より年上なんで、敬語使ってもら」

 

『せや。家の皆んなにも、ヒカリ君のこと紹介せなあかんわな。俺にいい考えがあんねん。聞いてくれるか?』

 

「ははっ、やです!」

 

『聞けや!!!!』

 

 

 

 

 

 

 それから数時間後。

 

 直哉は禪院家の一同に召集をかける。ほぼ人は集まらなかった。皆んな、何かしかの理由をつけて召集を拒否したのだ。

 

 代わりに甚一が召集をかけ、ようやく人が集まり始める。

 

『お手柔らかに頼むでー。ヒカリくん。』

 

「ハハッ、こちらこそです直哉さん。」

 

 演習場で向かい合うのは直哉とヒカリ。禪院家の面々が見守る中で、2人の模擬戦が行われる事になったのだ。

 

 発案者は直哉本人である。

 

『覚悟せえよドブカスが...!』

 

 衆目の前で勝利する。あわよくば殺す。それで皆、目が醒めるはずだ。そして気付く。真に当主に相応しいのは誰なのか。

 

『そこで見とけ。パパ...!』

 

 客席の中央で酒を煽る父親を睨みつけ、直哉は大地を踏み締めた。

 

『仮にも相手は、パパが目をかけてる術師。ヘマはできひん...!』

 

 投射呪法の重ねがけ。直哉の加速は最高到達点へ導かれる。そんな彼の手は、すれ違いざまにヒカリの腕へと触れていた。

 

『これでお前は動けへん!』

 

 投射呪法による1秒24コマの強制。大抵の者ならその動きに失敗し、1秒間は身体がフリーズしてしまう。

 

 そう、大抵の者なら。

 

 ちなみにだが。渋谷事変において、直毘人の戦いに乱入した九相図の情報は、上層部にも伏せられている。故に直哉は、自ら墓穴を掘った事実に気づかない。

 

『死ねや!!このパチモ

 

「脹相呪力モード。氷血鎧装。」

 

 ヒカリは既に1秒24コマの動きをマスターしている。淡い呪力に包まれた彼女は、その拳を氷で固めて振りかぶった。

 

『っ、嘘やろっ...!』

 

 その呪力の起こりから、直哉は確信してしまう。目の前の相手が立っているのは、自分とは違う側だと。

 

『こんな奴にっ...!』

 

 既に動きを作った直哉は、ヒカリの後出しに対応できない。どちらの攻撃が先に相手に到達するか、それは明白だった。

 

『なんで、“ソッチ”に届かへんねん...!』

 

 五条悟。夏油傑。禪院甚爾。 

ヒカリの背後にそんな強者の影を見ながら。

 

『がああぁっ...!!!』

 

 ヒカリの拳を正面から喰らい、吹っ飛ばされた直哉の身体は、屋敷の塀に頭から突っ込む。余り嬉しくはない壁尻の完成だ。

 

『そこまで。勝者、禪院ヒカリ。』

 

 立会人を務めていた甚一は、淡々とその決着を告げる。

 

『ウンコクズ...いや直哉様が一撃で...!』

『今の動きは投射呪法!?』

『相伝の術式。やはり本家の血か。』

『あのプライドだけはバカ高い直哉様が、手を抜くとは思えん。新当主様の実力は本物のようだな.....』

 

 生まれ持つ才能が全て。そんな価値観に支配された禪院家は、ヒカリの存在を好意的に受け取っていた。

 

『見事だったぞ、我が息子よ。』

 

 戦いを見届けた扇は、演習場の中心で勝ち名乗りをあげるヒカリへと近づく。

 

『皆の者よく聞け!五条悟の亡き今、呪術界は大いに乱れ、我々は幾多の苦難に見舞われるだろう。しかし案ずる事はない!』

 

 嫌そうなヒカリの肩に腕を回し、扇は声を張り上げる。

 

『“私の”子供である禪院ヒカリが、新しき当主として皆を導くからだ!“私の”子供であるヒカリがな!!』

 

 扇の心は有頂天に達していた。

 

 彼がヒカリの父親役を引き受けたのは、兄である直毘人に頼まれての事。

 

『兄上も、新参者を当主に据えるため、地固めをしておきたかったのだろうな。だからこそ、新当主の実父という地位を私に与えた。』

 

 あの兄がそこまでして、弟である自分を頼った。扇にとって、それは直毘人への勝利に他ならない。何とも痛快な気分だった。

 

『兄上よ。貴方の思惑は知らんが、せいぜい利用させてもらおう。私のために。』

 

 新当主の後見人は実質扇となるだろう。そうなれば、彼はこの家の実権を握ることができる。もはや扇こそが27代目当主といっても過言ではないのだ。

 

「あのーー、父上。」

 

『どうした? 息子よ。』

 

 暗い笑みを浮かべる扇に、ヒカリが耳打ちをする。

 

『模擬戦だと? 私とお前が、か。』

 

「はい。ただ僕も、直哉さんとの戦いで消耗してます。ひょっとしたら禪院家の皆さんの前で、父上に遅れをとってしまうかも。なーんて。」

 

『なるほど。』

 

 ヒカリのウインクを見て、扇は彼女の意図を察する。

 

『私の顔を立てるため、皆の前でわざと負けようというのだな。』

 

「あははは。はい!勿論!」

 

『うむ、いい心がけだ。幾ら腕が立とうとも、私の助けがなければ、お前はこの家では生きられん。その事を理解し、弁えた振る舞いができているな。褒めてやろう。』

 

「あはははは。ありがたきお言葉〜。」

 

 かくして。2度目の模擬戦が始まろうとしていた。

 

『術式解放・焦眉之赳...!』

 

 呪力の迸る刀身を構え、扇は叫ぶ。

 

『さあ息子よ!全力でかかって来るがい、がああぁっ...!』

 

「じゃ、遠慮なく。」

 

 かくして扇は壁尻2号となった。

 

『お、そろそろか? ホレ。』

 

 その様子を眺めていた直毘人は、ヒカリにマイクを投げ渡す。

 

「おじさま、これ酒瓶です。」

 

『ん? ああ、すまんすまん。』

 

 直毘人は今度こそ、ヒカリにマイクを投げ渡す。

 

「ほんとにいいんですね?」

 

『ああ構わん。好きにやってこい。』

 

 直毘人の笑みを受け取ったヒカリは、その場に集まった禪院家の人間に向け、自らの信念を語り始める。

 

「初めまして、27代目の当主になりました禪院ヒカリです。早速ですが、僕はこの家のプリンセスにあるまじき価値観が大嫌いです。これからの皆さんには、新当主である僕のルールに従って貰います。」

 

 反対、多数。

 

「じゃあ、こうしましょう。この家では、生まれ持った才能と力が全てだと聞いています。なら、それに則って白黒つけましょう。」

 

 色めき立つ禪院家の術師達を一瞥し、ヒカリはまたその拳を握り締める。

 

「文句がある人は、全員まとめてかかってきてください。」

 

 

 

 

 

 

 死滅回游の翌日。

禪院家から呪術総監部に送達。

 

禪院家27代目当主は

禪院扇の息子・禪院ヒカリに決定される。

 

 

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