宿儺「どけ!!!俺は主人公の相棒だぞ!!!」 作:バケギツネ
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『伊地知様! ご命令通り、虎杖悠仁の死刑を撤廃しました!』
『潔高様の仰る通り、渋谷事変の主犯を“キショい脳みその呪詛師”と断定し、その事実を呪術界全体に通達します!』
『五条悟、夏油傑、夜蛾正道、天星教幹部への処罰も即座に取りやめ、捕らえていたパンダもしかと野生に返しました! キングイヂチの仰せのままに!』
『総監部が独占していた反転術式の結晶についても、現場への流通を進めております! ゴッドキヨタカ様万歳ーーー!』
『どうして、こんな事に......』
伊地知潔高の胃は悲鳴をあげていた。
彼は補助監督、いや元補助監督にして、現呪術界においては事実上の最高権力者である。
彼の前にひざまづくのは、少し前まで呪術界を牛耳っていた老練なる術師たちだ。
『本当に、毎回、やり過ぎなんですよ、貴方は...!』
きっかけは、彼の弟子(自称)である両面宿儺からの電話だった。渋谷での戦いを終えた彼は、律儀に報告を入れてきたのだ。
その時、受肉体への対処に向かおうとする彼に、今後の呪術界の動きについて溢したのだが、それが大間違いだった。
「つまりこれから、夜蛾師匠や伊地知師匠の立場は、危うくなるということか?」
『ええ。上層部はこれ幸いにと、五条さんの関係者を粛清していくでしょう。』
「・・・よし任せろ。俺に良い考えがある!」
『え、ちょっと待っ』
それから数時間後、宿儺の電話で呼び出されると、伊地知に忠誠を誓う呪術界のお歴々がズラッと揃っていたわけだ。
『一体、何をしたんですか貴方は......』
幹部たちは伊地知の一挙手一投足にすらビビり散らかしている。そのお陰で、伊地知による新政権はスムーズに樹立された。されてしまったのだ。正直自分には荷が重すぎるというのに。
『しかし、投げ出すわけにはいきませんね。』
1人の呪術師が、自分を信じて託してくれたのだ。その気持ちを裏切るわけにはいかない。
『現場の高専関係者と連携を密に。報告は全てこちらに上げて貰いましょう。アイヌ呪術連にも協力を要請し、事態の把握と民間人の避難を優先して動きます。』
『『『『『『ははぁっ...!!!!』』』』』』
全体を俯瞰し、人と情報を繋ぎ合わせ、現場にとって最善の判断を下していく。
呪術界のトップに求められる役割は、皮肉にも補助監督のそれと酷似していた。違いといえば、仕事量は100倍に、のしかかる責任は100万倍になる事くらいだ。
『必ず、応えてみせますよ。すっくん。』
伊地知潔高。
術師としての強さを求めていた彼は今、彼だけの強さを手に、彼にしかできない戦いに身を投じていた。
『それと大至急、京都高に通達して頂きたい事があるのですが。』
◆
『そう。分かったわ。』
報告を受けた禪院真依は通話を切る。
その内容は、無期限の拘禁を言い渡されていたとある術師が、一時的な自由を取り戻したというもの。
『今の電話、京都高の奴らからだろ?いい知らせでもあったか?』
『別に。アンタには関係ないでしょ。』
真依がそっけなく応答したのは彼女の双子の姉、禪院真希だ。少し前、実家の武器庫を押さえにやって来たところでバッタリと出くわした。何だか妙な繋がりを感じて腹が立つ。
『にしても、呪具の回収がこんなに上手くいくとはな。』
とっとと先を行く真希の背中を、真依の言葉が追いかける。
『これも新当主様とやらのお陰ね。せいぜい感謝しなくっちゃ。』
『おう。なんでアイツが禪院家当主なんてやってんのかは意味不明だけどな。』
『知り合いなの? 禪院ヒカリって男と。』
『おとこ...まあ、色々あってな。』
真希の頭には、渋谷で共闘した九相図の顔が浮かぶ。どういう訳か、彼女が禪院家のトップに立っていた。あのジジイも何を考えているんだか。何かの洒落で、新当主をあみだとかで決めたんだろうか。まあそんな事はどうでもいい。
ヒカリの存在は、禪院家に確かな変化を及ぼしていた。
『真希ちゃん。真依ちゃん。久しぶりだね。僕のこと憶えてる?従兄弟の直哉さ。昔は色々とすまんかったね。』
まず、禪院家に戻った真希と真依を、最高速度で出迎えたのはあの直哉だった。様子は大分おかしかったが。
『真依ちゃんは渋谷で怪我をしたんだろ?でも見たところ、平気そうで何よりだ。真希ちゃんは、なんでボロボロなんだい?修行のしすぎには気をつけないといけないよ。』
『『・・・・・・・・・』』
『ははっ。いたっ、ちょ、待ってくれ2人とも。呪具でどつくんじゃない。あだっ、僕は本当に禪院直哉さ。偽物とかじゃないから安心、おい、対戦車銃はアカンやろボケが!』
『よかった、本物みてーだな。』
気味が悪かったのは直哉だけではない。続いて真希達を出迎えたのは、彼女らの両親だった。
『武器庫に呪具はないぞ。お前たちの動向を見越して、ここに全て運びこんでおいたからな。好きなものを持って行くといい!』
『よく帰って来たわね。ゆっくり休んでいきなさい。今、お茶を入れるわね。』
今までの態度が嘘のように、張り付いた笑顔を浮かべて。父も母も、まるで普通の家族のように接してくる。あと何か、扇の顔は拳の形に凹んでいた。
そんな異常から逃げるように、2人はさっさと要件を済ませ、実家を再び後にしたのだ。
『・・・気は晴れたか?』
『そんなわけないでしょ。あんな気色の悪いもの見せられて。そこらの呪霊よりよっぽどグロかったわよ。』
『ま、それについては同感だな。』
直哉や両親、いや、禪院家中に蔓延していた妙な雰囲気に、姉妹の感想は一致する。
『こんな呆気なく、ぶっ壊れちまうもんなんだな。』
『壊れはしたけど、変わりはしないわ。アイツらはただ、自分のために上辺を無理やり取り繕ってるだけ。腹の内はそのままよ。』
『それこそ死ぬまで、変わらねーんだろうな。アイツらは。でも、前よか随分マシだ。』
妹の前を歩いてた真希が立ち止まる。
『真依。こっからは私1人で行く。お前はあの家に戻ってろ。』
『...はぁ?』
振り返った姉からの提案に、真依は自分の耳を疑う。
『ふざけんじゃないわよ。何の罰ゲーム?』
『あんな気色悪い家でも、今の東京よりは安全だ。だから、』
『何よ、私が足手纏いって言いたいわけ?』
『そういう事を言ってんじゃねえだろ!』
『言ってるじゃない!アンタは昔からそう!私の前を歩こうとする!それがずっと気に食わなかったのよ!』
足らない言葉はぶつかり合って、2人の間に一触即発の空気が漂う。先に武器を構えたのは真依の方だった。
『丁度いいわ。足手纏いになるのはどっちか、ここで証明してあげる。交流戦の借りもある事だしね。』
『ふざけんな。今はそんな事してる場合じゃ、』
『安心しなさい。アンタがその調子じゃ、すぐに済むでしょうから。』
『チッ、なげー反抗期だなお前もっ!』
互いの呪具が、思いが、火花を散らしてぶつかり合った。
◆
『あのー真希さん。ちょっとすっくんが話したい事あるみたいで。』
「おっす、両面宿儺っす!」
『げ、呪いの王.......』
渋谷事変の数週間前、真希が任務で虎杖と組んだ時の事。彼女は、虎杖の手に生えた不気味な口と、言葉を交わした事がある。
「あの、実は俺、真衣さんの事が凄く気になってて、」
『あん!?』
「いや変な意味じゃなくて!? 俺は別に真依さんをエッチな目で見てたりはしませんから! あ、別に真依さんが女性として魅力がないとか、そういう意味じゃなくて、その、スタイルとかも真希さんに似てボンキュッボンだし、」
虎杖が止めてなければ、すっくんの口には真希の呪具が突き立てられていた事だろう。
『で、真依の何を聞きてえんだよ。』
「真希パイセンと真依さんは双子って聞いて。その、どんな感じなのかなって。」
『なんだそのフワフワした質問。』
「...いや俺、術式の修行で魂を勉強してて。双子って、その辺どうなるのかが気になったから、本人の感覚を聞いておこうと思って。」
『あー、そういう。』
両面宿儺に協力すべきか一瞬迷った真希だったが、同級パンダの言伝を思い出し、その手を渋々差し伸べる。
『つっても魂ねえ。んなもん気にした事なんてねーし。双子だからって、普通の姉妹と何かが変わるわけじゃねえと思うぞ。』
「双子ならではのテレパシーとかは、」
『ねえよ。遺伝子が同じでも、生物としては別個体だ。呪術的なアレコレはともかく。』
「アレコレ? あ、双子限定のコンビ術式が使えたりとか!?」
『ちげーよその逆だ。呪術界で双子ってのは凶兆なんだよ。』
真希は話した。一卵性双生児は呪術では同一人物だとみなされる。縛りの利害も上手く成り立たず、片割れの存在が足枷となってしまう事。
『真依はな。私と違って、そこそこ格式のある術式を持ってる。でも双子だったせいで、私に呪力を持っていかれちまった。そのせいで術式をうまく扱えない。』
「・・・・・・そんな事が。」
『真依にはな。居場所があった筈なんだ。私が一緒に生まれたせいで、台無しになっちまったけどな。』
すっくんは薄らと理解する。
真希が戦うその理由を。
『真依の奴も思ってんだろうぜ。自分1人で生まれて来た方が、よっぽど、
「それはっ、ないと思います。」
すっくんは否定する。
「俺、双子の凶兆とか、邪悪なご実家の事とか、よく分かんないですけど。でもこれだけはハッキリ言えます。」
否定せずにはいられなかった。
「真依さんは絶対っ、真希さんの妹に生まれてきて、幸せだったと思います!」
『何が分かんだよ、お前に。』
「じゃあ真希さんに聞きますけど、真依さんと引き換えにでも、強くなりたいって思
『思うわけねーだろ!!!』
「はやっ!? でも、そういう事ですよ!真依さんも同じ気持ちだと思います!姉妹の存在は、お互いにとって何よりも大切な存在なんですよ!」
『だからんな事、分かんねーだろうが!』
「じゃあ真依さんと話し合えばいいじゃないですか!分かんないってそりゃそうですよ!テレパシーなんてないんですから!」
どの口が言ってんだ。そんな思いを頭の端に追いやりながら、すっくんは言葉を続ける。
「そうすれば分かり合えるはずです。きっと。」
失った過去を未来に縋るように。
すっくんは真希たちを信じたかった。
『随分とお節介なんだな。呪いの王ってのは。』
「いえ、俺はただ、認めたくないだけです。最初から生まれて来ない方が良かった命があるなんて。」
例えそれが身勝手な願いだと分かっていても。
『お前、兄弟でもいたのか?』
「......えっとぉ、今は弟分がいますよ。俺をお兄ちゃんって慕ってくれてて。コイツが本当に可愛いやつで、」
それからは2人は、任務の目的地へと向かう間、互いの妹、弟トークに花を咲かせるのだった。
◆
『はぁはぁ、相変わらずの化け物っぷりね。』
『お前こそ腕上げやがって。ここまで手こずるとは思わなかった。』
『その、勝って当然みたいな態度がむかつくのよ。』
真希と真依の戦いは終わった。
荒い呼吸で地面に倒れ伏す妹を、静かに見下ろしていた姉は、やがてゆっくりと口を開く。
『悪かったな。』
『何がよ。』
『またお前を置いていこうとした。』
『ほんとよ。』
『でも。お前にはこれ以上、痛さも恐さも味わって欲しくねーんだよ。』
『馬鹿ね。アンタなんかに全部背負わせて、自分だけ適当に生きてくなんて、そんなみっともない真似はごめんだわ。』
『......どうしても、ついて来るんだな。』
『じゃないと私は、私をもっと嫌いになる。』
真依は手を伸ばす。
待つのを止めて。自ずから。
『・・・お願い。』
『......しょうがねーな。シスコンの妹に免じて、少しくらいは甘やかしてやるよ。』
『ハッ、何言ってるんだか。』
真希は真依の手を取って、その身体を起こしてやる。
『やっぱり大っ嫌いよ。アンタなんて。』
2人は再び歩き出す。嘘つきで意地っ張りな彼女らには、交わすべき言葉がまだ足りない。
それでも姉妹の並ぶ距離は、以前よりも3歩と少し近付いていた。