京都府大会の表彰式、大吉山北中学校はその様子を固唾を飲んで見守っていた。
中でも、手を祈るように握りしめる瓜二つの双子の姿があった。高坂鈴奈と麗奈である。鈴奈はトロンボーン、麗奈はトランペットを担当している。二人とも吹奏楽の才能に恵まれた熱烈な吹奏楽脳である。
「どうしよう、緊張してきた!」
「結果を発表します」
舞台の上から、コンクールの結果が書かれた大きな紙が下りてきた。鈴奈と麗奈はもちろん、その場にいた全員がその紙に視線が釘付けになった。各々、急いで、自分の学校の名前を探し始めた。大吉山北中学校、大吉山北中学校……。
「金だ!」
誰かが叫び、その瞬間、部員の中に歓喜の叫びが広がっていった。鈴奈は目を凝らして紙をよく見た。
――金 大吉山北中学校――
「続いて、代表校を読み上げます」
しかし、その後、大吉山北中学校の名前が呼ばれることはなかった。金賞は金賞でも、次の大会へ進めない、通称「ダメ金」。吹奏楽コンクールにおいて、金賞は“特別”だ。しかし、代表校に選ばれなければそこで夏は終わってしまう。ましてや、中学三年の夏など、代表漏れした暁には、引退しか待つものはないのだ。「ダメ金」では、全く意味がなかった。
視界がぐわりと歪み、ぶわっと何かが込み上げてくる。鈴奈の隣で、麗奈が顔を埋めた。鈴奈は麗奈をそっと抱きしめた。麗奈は泣いていた。鈴奈は胸が締め付けられる思いだった。
一番に音出しを始めた朝練も、麗奈と最後まで残って練習した午後部も、苦痛に耐え抜いた三年間のオーディションも、笑って吹いた合奏も、「彼女」に負けたあの日のことも。全てが、これで終わってしまう。
「良かった、金賞だ!」
「私、他の子にも教えてくる!」
「高坂さんたち、泣くほど嬉しかったのかな?」
――どうして、みんな泣かないんだろう?私も、麗奈も、もちろんみんなも、こんなに練習してきたはずなのに。
「悔しい……」
「私たち、全国目指してたんじゃなかったの……?」
鈴奈と麗奈の言葉に、二人の隣に座っていた黄前久美子が振り返った。久美子が目を丸くして、口を開いた。
「本気で全国行けると思ってたの……?」
その言葉で、麗奈の涙が止まった。二人は顔を上げて久美子を見た。麗奈の目には涙が浮かんだままで、鈴奈は涙を堪えたせいで頰に朱色がさしていた。
「私は悔しい!めちゃくちゃ悔しい!」
麗奈が勢いよく立ち上がって叫んだ。それに続いて、鈴奈も素早く立ち上がった。
「黄前さんは本気じゃなかったの?コンクールも、吹奏楽も、楽器も」
鈴奈がそこまで言うと、久美子は自分の失言に気づいたようだった。はっとした表情になった久美子を置いて、鈴奈は麗奈の背を小さく叩いた。
「行こう、麗奈。早くバスに戻らなきゃ」
中三の夏。
それは、高坂鈴奈にとって、一生忘れられない苦い思い出となった。