高坂鈴奈は双子の姉の高坂麗奈に負けず劣らずの、容姿端麗な少女であった。
生まれつき持ち合わせた絶対音感と相対音感の精度は凄まじく、一音聴いただけで調律が狂っているか否かが分かったりもする。幼い頃から、麗奈と共に音感テストと称してピアノを弾き合い、よく遊んでいた成果だった。
鈴奈と麗奈の父は天才と名高いプロのトランペット奏者だった。幼い頃から二人は父のトランペットの音色を聴いていた。二人の耳がよく肥えているのもこのおかげだろう。父が二人に初めてトランペットを吹かせた時、今まで“音感”の良さで麗奈を凌いでいた鈴奈が、初めて負けた。いや、正確には、初めて超えられない壁ができたのだ。初めて吹いたにも関わらず、麗奈の音は美しかった。
対して、鈴奈にはトランペットが合わなかった。苦労して、やっと無様なチューニングB♭が出る程度であった。鈴奈は少しだけ寂しかった。父のような奏者になることが夢だったにも関わらず、自分にはその才能がなかったからだ。親戚から「そっくり」と言われていた鈴奈と麗奈の双子の違いは、そこで決定的になった。
そんな時、父が連れてきたのが、父の友人の息子の滝昇だった。
滝が取り出したのはトランペットではなかった。トランペットよりももっと大きく、長く、そしてピストンはなかった。その代わりに、長い管がついていた。その楽器の名前はトロンボーンだった。
それが鈴奈とトロンボーンの出会いだった。小さな体には不釣り合いに見えても、鈴奈にはトロンボーンが合っていた。暖かく包み込むような音色、それでいて芯の通った力強いメロディー。鈴奈はトロンボーンに惹かれていった。
滝は大学時代にトロンボーンを吹いていたのだと言う。鈴奈は滝から中古のトロンボーンを一本貸してもらい、練習を始めた。鈴奈の取り組みに感心したのか、はたまた娘二人を音楽系に育てたかったからなのか、父はますます家に滝を呼ぶようになった。会うたびに腕が上達していく鈴奈に、滝は相当期待していた。
滝に師事し、鈴奈の腕はめきめき上達していった。そのうち、鈴奈はトロンボーンのことが大好きになった。
麗奈はというと、順調にトランペットが上手くなり、同年代の中ではトップなのではないかというレベルまで上達していた。父は麗奈のトランペットの上達の仕方にひどく興味を持ったらしく、休日に暇さえあれば麗奈に教えるようになった。
鈴奈と麗奈は、二人それぞれ楽器が上達し、もっと上手くなりたいと思うようになっていった。