北宇治高校には普通クラスと進学クラスが存在する。
中学時代から成績優秀だった麗奈は、当たり前のように進学クラスに属している。しかし、双子といえど、何もかも同じであるわけがない。鈴奈は普通クラスに属すことになっていた。なので、必然的に二人が同じ組になることはないのである。鈴奈は普通クラスでのびのび生活していくつもりだった。この女、実はかなりの自由人気質である。
麗奈は無事、新入生代表挨拶を務めきり、鈴奈もまた晴れやかな高校デビューを果たした。初日にも関わらず、鈴奈の周りには既に数人の男女がいるのは、彼女の社交性の賜物ということだろう。
「ねぇねぇ、新入生代表の“高坂”って、高坂ちゃんの知り合いだったりする?」
「当たり。正確には双子だよ」
「びっくりー。じゃあ、部活見学もその双子と一緒に行く感じ?」
「うん、吹奏楽部に入りたくて」
「似合うー!」
部活見学とは、入学式の日の午後――つまり、今日の午後に行われるイベントである。新入生が希望する部活を見学しに行き、正式に入部するかどうかを検討する催しだ。だが、すでに入部を決めている鈴奈と麗奈にとっては、見学するも何も……、という感覚であるが。
「鈴奈」
「あ、噂をすれば」
声のした方を見ると、教室の外に麗奈が立っていた。麗奈が小さく手招きをした。もう午後なので、部活見学に行くぞ、という意味であろう。鈴奈は荷物をそそくさとまとめ始めた。
「それじゃ、また明日ね」
「あ、うん!」
「バイバイ!」
鈴奈が麗奈に駆け寄ると、麗奈は「もう待ちくたびれた!」と言わんばかりにすぐさま歩き出した。
「待たせてごめん」
「……さっきの、友達?」
「そうだね。クラスメイト」
「早いね、仲良くなるの」
「あはは、いつものことでしょ。もうこういう会話、新学期の恒例行事になってるよ?麗奈こそ、私以外に心を開く人、そろそろ見つけたら?」
「そう簡単に見つけられるものじゃない。いい?私が心を開くっていうのは、私の目標を理解してもらえるって確信した時のことなの。……自分で言うのもなんだけれど」
その言葉に、鈴奈は表情を変えずに麗奈を横目で見た。麗奈もまた、いつものポーカーフェイスであった。
「……そう。高校で、見つかると良いね」
麗奈は答えなかった。しかし、鈴奈には麗奈の言いたいことがわかっていた。
二人の間の短い沈黙を破ったのは、今朝と同じ不協和音だった。
友達云々の話をしているうちに、音楽室の手前まで来ていたのである。漏れ聞こえてくるのは楽器の音だった。紛れもない、北宇治高校吹奏楽部の音である。チューニングをしているようだが、音が大きくうねっている――つまり、音程が外れているのだ。これでは合奏も何もままならないだろう。無理やり合わせた結果が今朝の曲だった……というところだろう。
「……入るよ」
鈴奈が小さく声をかけて、扉に手をかけ、丁寧に開けた。ちょうど音が止まったところだった。意を決して、二人は音楽室の中へ入っていった。他の何にも視線を移さず、ただまっすぐ前を見つめていた。
「すみません」
麗奈のよく通る声が空気を貫いた。
「見学ですか?」
一番前に立っていた二つ結びの女子生徒が聞くと、音楽室中の注目が、鈴奈と麗奈に集まった。それを見兼ねると、鈴奈は得意の微笑みを作って口を開いた。
「いえ。入部したくて」
彼女たちを後ろから見ていたとある少女は、その言葉に思わず頭を抱えた。