推しの子二次 罪と罰   作:taisa01

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04話表裏

 04話表

 

 

 

 ワークショップも回を重ねヒカルとアイも交流を重ねていた。

 

「クリスティーヌ。ああクリスティーヌ。お前は私を愛するのだ。いや、愛さなければならない」

 

 ヒカル。いやエリックは最初は愛おしそうに、胸に手を当て最後は狂ったように愛を叫ぶ。もちろんその言葉は力強く、その自己中心的な言葉を裏付けるように、その瞳は狂気を孕んだオーラを漂わせる。

 

「どうしてそんなことを言うの? 私は舞台の上であなたの事だけを思って歌っているのに」

 

 アイ。クリスティーヌは何故わかってくれないのかと、手を広げエリックに対し必死に問いかける。

 

 しかし、その姿は残念なことに歌に憧れ、歌えるだけで感謝し、舞台に立つためにすべてを投げ捨てても良いというクリスティーヌではなく、アイドルとしてアイがセリフを口にしているのだった。しかし同じ歌姫であり主演ということもあり、その輝きは余すところなく発揮され、違和感というものを感じさせないデキになっていた。

 

「……どうやら、今夜の君は、ひどく疲れているようだね」

「……ええ。だって、あなたに魂を捧げるように歌ったもの」

 

 アイの言葉にエリックは同意するように優しく頷く。

 

 エリックはアイの言葉に自分の身勝手さ、そして愛の押し付けを恥るのだった。なにより先ほどの舞台は万来の拍手に彩られ、そのアイの歌は多くの人々を魅了したのだ。その一節を自分のために歌ってくれたというのだから、どれほどの喜びか。

 

「君の魂は実に美しい。クリスティーヌ、礼を言おう。これほどの贈り物を受けた人は、他にはいないだろう」

 

 

 

 …………

 

 

 アイとヒカルはその場に立ち、簡単な身振り手振りを加えた読み合わせがひと段落すると、手元のペットボトルを取り喉を潤す。ワークショップでは劇を通して指導が入る。そして今はワークショップ後の自習といった感じで二人で練習をしているのだった。

 

「やっとクリスティーヌって人がわかってきたかな?」

「それは良いことだね。でも、立ち演技をする時もうすこし手振りを大きくしたほうがいいかな?」

「どうして?」

「舞台と観客席は結構はなれてる。テレビや映画といった映像はカメラが撮影し必要に応じて拡大してくれるけど、演劇はそうじゃない。以前みせてもらったけど、君のライブ。あれをもっと大きな舞台。たとえばドームとかでやるとしたらって考えてごらん」

「そっか。大きく演技しないとみんなに見えないよね」

 

 よーし。覚えたぞとつぶやくアイ。

 こんな感じで、演技のすり合わせをしている。もちろんヒカルは劇団としてすでに舞台上での立稽古にはいっているのだが。ワークショップの進捗にあわせている。

 

 だからこそ空いた時間での稽古なのだが、アイはふと気になったことをヒカルに質問するのだった。

 

「クリスティーヌってラウルの事を愛してるのよね。でもエリックの事も大事に思っている。エリックの事は愛していなかったのかな?」

 

 そんなアイの質問に、ヒカルは少し考えながらこたえる。

 

「いい視点だね。演じるキャラを掘り下げることは演技の深みになる。さて、俺なりの考えだが、彼女はエリックの事も愛していたのじゃないかな?」

 

 ヒカルの答えにアイは小首をかしげてしまう。

 

「たとえば、ラウルはクリスティーヌと一緒にいることを求めた。でもエリックはクリスティーヌを愛していたけどラウルの元に送り出した。おなじ愛でも、ラウルは相手がいてこそ成り立つ愛であったけど、エリックにとってはいわばささげる愛だった。でも3人の間ではそれぞれ愛が成立していたんだ」

「同じ愛なのに?」

「君が舞台の上からファンたちに伝える愛。ファンたちはそれが欲しくて君のライブにいくしグッズなんかを購入する。対して一般的な言い方になるが家族や友人が向けてくれる愛は見返りを求めない」

「私ね施設で育って親からの愛情ってのわからないんだ。だから…………わからないのかな」

 

 ヒカルの言葉にアイは少しだけ悲しそうな顔をする。

 

 反射的にごめんと謝罪しようとしたが、きっと彼女はそんな言葉など求めてはいない。そこで舞台で使う小道具の仮面を取ってくる。

 

 アイは何がおこるのかわからず見ていると、仮面をかぶったヒカルがゆっくりと足音をたてて近づいてくる。ただ静に、仮面から見える闇の星を湛えた瞳と雰囲気にのまれそうになり体がこわばる。

 

 そんなアイの形のよい顎に右手を添え、仮面の顔が近づく。

 

 アイだってバカではない。キスされそうになっているなんてわかっている。

 

 しかし突き飛ばすことも、逃げることもできずただあるがままにヒカルの瞳を見ていると、ヒカルの瞳から涙がとめどなくあふれてくるのだった。

 

「泣……て……」

「初めてだ。こうして女性に口づけしたのは。私の……。私の母ですら、私に口づけされるのを嫌がり逃げ出したというのに…………」

 

 そういうとヒカルはゆっくりち跪いて、アイの靴に手を添えると顔を近づける。まるでキスしているようにも見えるが、何よりもヒカルの背中には泣きながらも喜びのが伝わってくる。

 

 ああこの人は初めて愛されたのだ。

 

 そう思える満ち足りた背中がそこにはあった。

 

 もちろんアイはなぜそう感じたのかわからず、それ以上の言語化もできない。ただ感覚で、ヒカルは今、まさしく満たされたと感じることができたのだ。

 

「エリックもそして私もだけど親の愛ってものをは知らない。母親も知らない。子供を道具とする父親は残念ながらまだ生きているようだけど」

 

 と、先ほどまでの演技が嘘のように普段の語り口で話始めるヒカルに、アイはあっけにとられる。

 

「え?」

「でも、そんな愛を知らない私でも、愛し愛された姿を演じることはできます」

「そう……なんだ」

 

 思い返せば先ほどのヒカルの演技は終盤のエリックだ。じゃああれはヒカルの演技? でもヒカルは親の愛を知らないといってた。

 

 もしかしたら自分と似ているのではとアイは想い、ヒカルに興味を持つのだった。

 

「ねえ。嘘でも愛してるって言ってれば愛ってわかるかな」

「嘘。演技。設定。フィクション。まあいろんな言い方はあるけど芸能における嘘の仮面は悪じゃない。そして紡がれた物語をみて、観客は愛を知ることができる。そして観客にとって嘘の愛も本物と同じ価値があるんじゃないかな? そして演者も同じように愛を知ることができると思うよ」

「む…………なんか言いくるめらえた気がしたぞー」

 

 ヒカルの言い回しにアイは反発するも否定されていないことだけはわかった。そんなアイの顔を見ながらヒカルを微笑む。

 

「じゃあ一緒に愛を探してみようか。エリックは君と出会うことで愛を見つけることができた。ならアイさんもきっと多くの演技や人生経験の向こう側で愛を見つけることができるだろう」

 

 そういうとヒカルは仮面を外し右手をさしだす。

 

 ──うん。よろしくお願いね

 

 そういってアイはその手を取るのだった。

 

 

 

 04話裏

 

 

 ワークショップは進む。

 

 金田一さんの指摘は演出家として最高の作品を生み出すという考えに沿って行われる。そしてその指導は多岐にわたる。

 

 アイ、そして俺の演技は磨かれていく。

 

 舞台という箱の中、その場面その場面でどのように観客に見せたいか。普段の稽古とワークショップの違いは、指摘の意図をわかりやすく補足されることだろうか。実際に俺も金田一の演出指導を受ける側だが、こんなにかみ砕いて教えてはくれない。考えを読み取ることも役者として必要なスキルであり訓練のためだ。とはいえ演じるということの初心者であるアイは、様々なことを吸収し急激に成長していく。

 

 そして共同作業を通して、アイとは何とか仲良くなれた気がする。

 

 唯一回数を重ねてよかったとおもうのは、息子としての認識が薄れてきたことだろうか。

 

 いままではアイを口説く行為に忌避感がうまれ、友人として仲良くなる以上に踏み込むことができなかった。

 

 ただ、今回アイを間近でみるようになって気が付くことがあった。

 

 ファンとしての視点。医者としての視点。息子としての視点。友人としての視点。

 

 近づけば近づくほど別のアイが見えてくる。

 

 たとえばライブや演技の中では愛してるといういうが、プライべートでは疑問形で聞くことはあっても愛してると決して口にしない。

 

 あと予想外だったのがアイは演技が下手ということだ。その監督、アイの事をアイという演技しかできない役者と言っていたが、まさしくその通りだった。今回はクリスティーヌの演技をしているが、あくまでアイという土台の上でクリスティーヌのセリフや感情表現をしているといえばわかるだろうか。表情やしぐさ、アイというオーラをまとって演じられる。クリスティーヌは主演であるからこそ問題にはならないが、これが脇役では作品全体が成り立たない。

 

 一回だけ無理にその輝きを抑える演技をしてもらったが、比例するように完成度もガタ落ちしてしまった。結局アイはアイたらしめるその輝きを制御できるタイプではなく、その輝きに直結する演技しかできないということがわかった。磨けば磨くほど人目を惹かざるえないのだから、主演や思いっきり目立ってすぐ消えるスポットキャラといった役しかできないだろう。

 

 ゆえにアイドルという仕事は相性がいいのだろう。歌、踊り、他者視線の把握、場の雰囲気の把握、視野の広さ。今回のワークショップにおいても、それらをどんどん吸収していく。

 

 ああ、こうやってアイは成長していくのか。

 

 だが、外からみれば成長しつづけるアイドルだが、内面的欲求は一つだけ。

 

 自分の居場所を探し

 

 愛してるよ。

 

 君はここにいていいんだよ。

 

 もし無理矢理カテゴライズするならば愛情障害だろうか? 

 

 もちろん症例にすべてが当てはまるわけではない。ただ話せば話すほど、彼女の求める愛してる(……)ことは家族にむけるソレであり、自我を形成し確固たるものとする小学生ころに母親に捨てられたトラウマから、自分の居場所をうまく定義できなかったことに起因するのだろう。

 

 そして斉藤社長の導きもあり、ゆえにアイはファンに親愛の情を向ける形で成立した結果

 

 ──ファンからすれば、家族や親せきの子が全力で私を見て。私を愛してと歌い、踊り、演技するのだ

 

 そりゃあアイの才覚もあるが、あの独特の可愛さにつながり人気が出るのは必然だろう。

 

 それはさておき、アイさん? 

 

 やっと人並みにスキンケアや服装を気を付けるようになったのは素晴らしいね。

 

 でもあからさまな黒いサングラスとマスクと、似合わない野球帽はなんですか? あっ 変装ですか。最近いわれた服装だとアイと認識されないまでも変に目立つから? 

 

 今度の週末はその辺のTPOも勉強しましょうか。

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