推しの子二次 罪と罰   作:taisa01

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06話表裏

 06話表

 

 

 アイが宮崎の病院に行った翌週。ヒカルは世間の目をかいくぐり後を追った。

 

 空港から3時間。バスやらタクシーを乗り継いで何とか到着した病院は、地方には珍しくそれなりの規模の病院だった。周りは自然に囲まれ採算があうのか? と普段から東京の在り方を見ている側からすれば疑問に思うところだ。しかし一回りすればこの病院を中心に役場やら商店など町機能が集約されており、観光と農業で成り立つ地方なりの効率化計画の結果なのだろうと感心させられる。

 

 さて、病院に行き面会を申し込むと、ちょうど社長を顔を合わせることができた。

 

「ああ、カミキくん」

「お疲れ様です。社長。アイの様子はどうですか?」

「今のところ順調だ。この病院も思いのほか気に入ったようで」

「それは良かった」

 

 たとえば、アイをB小町のアイとして認識したのは担当医だけだったらしいことなど、カミキヒカルと社長は近況を確認しあう。

 

「では、アイにあってきます」

「わかった。俺はこの後そのまま東京に戻るが」

「私は明日予定です。次は一か月後を予定です」

「わかった。来週あっちで一度連絡する」

 

 そういうと社長とヒカルはわかれると、教えられた病室の扉をあける。そこはシャワー室やトイレなどが完備された長期入院用の個室で、少しおなかが大きくなったアイがテレビを見ながらベットに座って寛いでいた。

 

 扉の開く音に気が付いたのだろう、アイが顔を向けると笑顔でカミキヒカルを迎えていれた。

 

「あっ。来てくれたんだ」

「約束だからね」

 

 ヒカルは手荷物を脇に置きベット脇までくるとアイを静かに抱きしめる。アイも嫌がることはなく、なされるままに受け入れる。

 

「本当はもっと早くきたかったのだけど。ごめん」

「しょうがないよ。一緒に行動すれば怪しまれちゃうし。このことだけは隠さないといけないから」

「そうだね」

 

 そういうとアイは愛しそうにおなかをさする。そしてヒカルも優しい瞳をその姿をみる。

 

「アイ。おなか触ってもいいかな」

「うん」

 

 そういうとヒカルも静かにアイのおなかをなでる。まだ胎動するような時期ではないが、触れればなんとなくだがそこに命が宿っていることを、感じることができた。

 

「愛してるよ。君たちは望まれて生まれるということだけは覚えておいてほしいかな」 

「もっということないの?」

「そうだね。あとは五体満足で元気であればいいな」

「うん。そうだね」

 

 いろいろなことが頭をよぎったヒカルだが、結局最初に思いついたことはこれだった。アイにもヒカルの言葉が本心からのものとわかっているので、嬉しそうにいっしょになってお腹をなでるのだった。

 

 幼い二人には、子供が生まれるという事実をどれほど理解できているか当の本人さえわかっていない。どこまでも理解したつもり。それぞれの感情の赴いた結果であったからこそ、今は素直に子供のことを思っていたのかもしれない。

 

 そのあと、二人は子供が将来どんな風に育つかとか、子供がいるのだから近所にご迷惑にならないように防音や足音が響かないようなマンションを探そうとか。アイの復帰の後どうやって子供の面倒をみようか。夢を語るのだった。

 

 しかし時間は有限である。気が付けば夕方となり面会時間は過ぎようとしていた。

 

「もうこんな時間だね。明日は午前中に顔を出して午後移動だから」

「うん」

「お土産の焼き菓子は日持ちするやつにしてるから、先生と相談してみんなで分け合って食べるんだよ。こっそり一人で食べちゃだめだからね」

「大丈夫だよ」

「あと、元気だからってお腹を冷やさないようにね。下の売店用に現金を多めにおいていくけどアイスの食べ過ぎには気をつけてね」

「心配性だなー。先生といっしょだね。大丈夫だよ」

 

 話し終えるとカミキヒカルは病室を出ていくのだった。そんなヒカルを見送ったアイはふと思い出したように独り言をもらす。

 

「そういえば、ヒカルくんは男の子と女の子の双子みたいに話してたけどなんでだろう? まあいっか」

 

 その言葉は夕焼けに染まった病室に吸い込まれていった。その光景を見るものは夕焼けに飛ぶカラスだけであった。 

 

 

 06話裏

 

 

 

 アイの長期休養の発表に合わせて人目を避けるように宮崎の病院に入院し、数か月が経過した。

 

 ファンの間ではアイの休止について様々な憶測が飛び交ったが、さすがに妊娠というキーワードを見かけることはなかった。そして業界側はそれ以上にドライで、休止を惜しむ声こそあったがすぐに話題の波間に消えていった。

 

 だが、その流れさえもアイの出産という一点においては好都合だった。

 

 アイのために月一程度で休みを調整して宮崎に飛んでいるのだが、それさえも何ら問題なく調整できている。まるで狙ったようにスケジュールが開くのだ。そして、少し前に助演男優賞をとって以降、仕事も順調ということもあってパパラッチを警戒しているのだが、なぜか今のところすっぱ抜かれる兆候がない。

 

 本当に都合がよい。

 

 とはいえ、今日もアイと会ったあと、神様に安産をお願いしてくると話して外出している。

 

 そうやって向かった先は天岩戸神社。

 

 正確には天岩戸五社めぐりである。

 

 東京では見ることのできない雄大な自然に囲まれた、日本神話に縁の深い神社をまわる観光ルート。一つ一つは史跡であり人々の信仰による長い歴史を感じることができる。

 

 カミコヒカルとしてこの地に足を踏み入れたのはこれで前回ふくめても二回目だが、自然の中に息づく神社や移動中に通った上岩戸大橋の絶景は感じ入るものがあった。少なくとも過去に当たり前とおもうほどに見た故郷の姿であるはずなのに、まるで別のもののように感じるのは、主観での時間経過によるものだろうか。それとも、今回は目的をもって回っているからだろうか。

 

「さて……」

 

 鉾神社、二嶽神社とまわり、落立神社に向かう。

 

 ここはイザナミノミコトを祭る場所。子授け安産を祈願するには絶好の場所であるのだが、ここに足を踏み入れた瞬間、カミキヒガルは確信することができた。

 

「ああ。ここが当りか」

「ええ。ご足労。とても助かるわ」

 

 神社の境内にあるベンチの一つに老婆が一人座っていた。黒を基調とした着物に身を包んだ老婆は、前回見た時のような険しい表情ではなく、どこにでもいる品の良い老婆という雰囲気たたずんでいた。

 

「久しぶりと言えばいいのかな? それともはじめまして?」

「今生でははじめましてというべきだろうね」

 

 余人が聞けば気でもふれたのかといわれかねないことを、さも当然という口調で老婆はこたえる。

 

「で、世間では天才役者と呼ばれ、最近はめっきり忙しくなったアナタが、わざわざこんなところまでどうしたんだい?」

「しいて言えば答え合わせかな」

「なら、私が答えるギリはないね」

 

 老婆はどこか楽しそうに答える。

 

 気が付けば周りにはほかの参拝客はおらず、烏が数匹離れた場所に止まっているのにまるで沈黙こそ金とばかりに鳴かず静寂を守っている。

 

「今からでもまだ失敗することはできる」

 

 そういうと鞄から日本酒を一本とりだし、神社の賽銭箱の脇に置く。そして賽銭箱にお金を投げ入れ二礼二拍一礼を行う。

 

「面白いものを持ってきたね」

「高千穂神楽の献上酒である舞。高いものではありませんが」

「どうせ次持ってくるならアンタの好みでいいからもっと高いのをもってきな」

「じゃあその時は黒龍でも」

 

 そういうと、老婆の前までもどってきたカミキヒカルはレポートを取り出す。そこにはこれまで調べ上げた様々な情報がまとめられていた。

 日本神話とくに神世七代の調査結果。アイとヒカルが異母姉弟である可能性が高いことをしめすDNA鑑定結果。

 

「神世七代の再現による国産みの儀式。なかなか大変なことですね」

「あんたが役目を果たせば、もうずいぶんと前に終わっていた話なんだがね」

「直接の原因は俺かもしれないけど、俺一人の責任でああなったわけじゃないとおもうんだが?」

「だから今生がある。そう思いな」

 

 老婆…………疫病神は疫病神らしい屁理屈を押し付けてくる。それこそ上位者の当然の権利といわんばかりにだ。

 

「ここで答えを聞いても素直に教えてくれないんだろ」

「すくなくとも十分なヒントは与えた。まあ畏れ敬う気持ちとあの酒に免じて推論が正しいかどうかの採点ぐらいはしようか」

 

 すくなくともこの返答こそが、ある程度のカミキヒカルの推論が正しいことを暗喩している。だからこそ言葉にして確認せざるえない。

 

「簡単に言えば、この日本における神世七代を模倣した儀式。俺とアイは第六代。ルビーにアクア、もしかしたら姫川大輝も含めて第七代。俺の役目はアイが子供達を無事生むまで。俺の罪はルビーとの間に子供をつくらなかったこと。または俺の死によってルビーが死に儀式を破綻させたこと」

 

 それなりに長い時間と費用をかけて調査をおこなった。そしてアイとヒカルの間に血縁関係があったこと。そして、過去に疫病神が言った言葉と状況を加味してでた推論がこれである。

 

「そしてアイの役目はやはり子供を産むこと。最初、アイは20才までに子供を産まないのならその役目を果たせないと断ぜられたからと予想していた。しかし、俺の主観になるが一回目はなぜ子供を産んだのに二十才で死んだのか? それはアイはアイツに二十才の誕生日に殺されるという縁が先にあり、アイがすでに役目を終えていたから殺されたとしても儀式としては問題なしと裁定された」

 

 実際に今回のアイの出産についてもそうだ。普通ならいろいろな問題が発生するが、それこそ加護ともいえる不思議な綱渡りですべてを回避してしまった。

 

 思い返せばアクアとして生きた時もそうだ。少なくともアイの死ということはあったが、親代わりのミヤコさんがいた。おかげで生活することができたのだ。

 

 それらを加味した上で、カミキヒカルの推論は現在という科学全盛の時代に生きる存在からすれば荒唐無稽な事象である。しかし老婆はなにをおとぎ話のようなことをと笑うことなく耳を傾けてくれている。

 

「ここからが本題だ。俺の役目は先ほど言った通りアイが子供を産むまで。ゆえに変なことをしなければお役御免となる。それはアイも同じことだ。そしてこの後、俺がアイから聞いた住所アイツに教えなくても、最終的にアイツはアイを殺す。だから…………」

 

 一回目あいつはアイが出産する日に雨宮吾郎を殺したが、二回目以降はそんなことをしていない。そして二回目以降はカミキヒカルがアイの住所を教えてもいないのに、なぜかアイの死に関係している。

 

 カミキヒカルは老婆をまっすぐ見据えながら言い放つ。老婆は否定も肯定もせず淡々を答える。

 

「満点とはいえないが妥協点だ。だからあんたが知りたい答えを教えてやろう。アンタの想像通りだよ」

「わかった。ありがとう」

 

 老婆は答えると踵を返し歩き出す。そしてカミキヒカルは深々とお辞儀をする。

 

 しばらくたってお辞儀から頭をあげると、そこには老婆の姿はなく、観光客がぽつりぽつりと歩く姿があり、今まで見て回った神社と同じ雰囲気となっていた。

 

「さて大詰めといくか」

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