そして本日は2話更新です。
一話目は20時5分
二話目は20時15分となります
カミキヒカルが死亡したというニュースは芸能のトップニュースとなった。
十代でいくつもの賞を獲得した役者であり将来を大いに期待されていた。そんな若者を襲った悲劇。いろいろな憶測が飛び交ったが、警察による調査結果は、身勝手な怨恨とされ幕引きとなった。
アイはそのニュースを病室で見ることとなり、あまりの衝撃だったのか予定日よりも前に破水という事態となった。そのあと陣痛が来ないが吐き気がエンドレスに押し寄せるという状況が16時間。そしてアイドルという仕事がら帝王切開はできる限り避けたいという意向もあり、そのあと出産まで5時間という難産となった。
ちなみに担当した雨宮吾郎はアイの出産について、後にこう振り返っている。
「途中、あまりの出血に母子ともに危険な状態となりましたが、なんとか無事
もっとも三つ子の最後の子については未熟児というほどではないが、兄と姉にくらべれば小さく多くの苦労をすることとなるが、これは別の話である。
その後、アイは出産後の朦朧とする記憶の中、東京の新居に人目を避けて移動する。もちろんその諸所の手続きの大半は社長である斉藤壱護と、その夫人である斉藤ミヤコによるものであった。
もしここで終わらないのが世間というもの。
アイのもとに、斉藤壱護が弁護士の男性を連れてやってきたのだった。
「ガキどもが丁度寝てるタイミングで助かった」
「そうだね。でもここって誰にも教えないんじゃなかったの?」
「そうなんだがな。そうも言ってられない事情だったんでな」
社長は本当に困ったという表情で頭をかく。同席している弁護士の男性は申し訳なさそうに頭を下げている。
「あまり時間を取らせては星野さんも大変でしょうから、率直におつたえしますね」
「はい」
弁護士は鞄から取り出した封書をアイに渡す。そしてそれとは別にコピーされたと思わしき書類を社長とアイに見えるように机の上に置く。
「アイさんには先日亡くなられた神木晃さんの遺産の分与がございます。こちらが証明となります」
そこには証券、預貯金などの財産目録。そして晃の父親当ての遺書のコピー。その内容は大まかに言うと、カミキヒカルの遺産を星野アイ5分の2。子供達に5分の2、そして残り5分の1を劇団ララライへの寄付となっていた。そしてもし父親が遺留分が要求した場合は、残った分について先ほどの割合で相続をと記載されている。
そして遺留分は放棄する旨が父親と思しき名前で署名されているのだった。
「なあ。この遺書、いったいいつ準備されたものだんだ?」
「亡くなられる4か月ほど前となります。晃さんは数年前から1年おきに遺書を作成されておりました」
「いまの子供…………怖いな」
社長は弁護士に率直な疑問をたずねるが、帰ってきた回答に内容云々もあるが、それ以上に10代半ばの少年が自分が死ぬことを想定して遺書を書くという心境に唖然とするのだった。
「あと先月ですが、ヒカルさんの名義で星野さんのサポートをするためにベビーシッターを週3で1年の契約がなされております。こちはら前金で処理されております。こちらが契約書となります」
「ベビーシッターか助かるっちゃーたすかるが守秘義務とかどうなってるんだ?」
「もちろんアイさんの事情についても秘密とする契約が結ばれております。付け加えるなら、ヒカルさんが先々月まで契約されていた家政婦の方ですのである意味で信用されてのことかと」
社長と弁護士はそのあと、いろいろと話し込んでいるが、ふとアイの様子がおかしいことに気が付いた社長が声をかける。
「ん? どうしたアイ」
アイは何も答えず、ただただ手紙を読みながら泣いているのだった。
この手紙を読んでいるということは、僕がなんらかの理由で死んでいるということだろう。もし生きているなら、すぐに燃やしてほしい。
さて生きているうちに死んだあとの手紙を書くというのはなかなか難しいが最後の言葉としてできれば聞いてほしい。
まずこの手紙はアイが出産のために入院して、そちらに会いにいった後に書いています。
人間いつ死ぬかわからない。
だから人は精一杯生きて輝く。とくに才能ある人の魂の輝きは美しいとおもっていた。
だからこそ死んだ後の事というものに、まったくというほど興味がなかった。
そんな風に考えていた。
だけどアイとお腹の子供のことを考えたとき、僕として最低限残せるものがないかと考えてこの手紙と遺書を準備しています。
遺書には少ないけどアイと子供たちのために財産を残すと書きます。相続税とかでそれなりに減ってしまうかもしれないけど、養育費の足しにはなるかなと考えています。
アイは出産したあとアイドルに復帰することになるとおもうけど、正直いえば子供との時間を少しでも多くとってあげてほしいと思います。でもアイの人生だ。だからアイの選択として尊重したい。
あとこれだけは覚えておいてほしい。
僕はアイの事を愛している。
嘘でもなく、友人にむける友愛でもなく、家族としての親愛をささげています。これは他と比べることができない。君にだけささげる愛だ。
君は愛されたことは無い。愛したことは無いと昔言っていたけど、すくなくとも僕は君のことを愛しているし、愛されていたと思っている。
君がクリスティーヌとしてファントムである僕に愛をささやいてくれた時よりも前、君のことを一目見た時から君に焦がれていたんだとおもう。
だから君はもう愛を知っているはずだ。
そしてその気持ちを子供にも向けてあげてほしい。
いつか君の本心から愛してるといえる日が来ることを願っている。
神木晃
「ごめんなさい」
「だいじょうぶか?」
アイはポツリとつぶやく。
「愛してるって。怖いからって言わなかった…………。ごめんなさい」
アイは泣きながら手紙に謝るのだった。社長もその言葉に何もいえなくなり深く息をつく。そして弁護士に目くばせすると席を立つのだった。
無人になった一室で、まるで抜け殻になったアイの泣き声だけが響くのだった。