見せてもらいましょう、借り物の体でどこまで飛べるか   作:てぬてぬ@TSF

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0.プロローグ

機材が所狭しと並ぶ部屋。整然としながらもどこか混沌とした研究室の中で、白衣の男は呟いた。

 

「何故だ・・・・・・?手術の経過は良好、失敗はありえない。だというのに、意識を取り戻さないとは」

 

彼の見つめるモニターには、ベッドに寝かされた少女が映っている。全身の至る所に管が繋がっている彼女はピクリとも動かない。第10世代の強化手術は成功率も高く、後遺症も殆ど無かったはずだ。それだというのに、これはどういうことか。

 

「素体が悪かったのか?しかし、今回は未成熟の肉体でも手術が適応するかの実験も兼ねている。ええい、本社が資金を潤沢に回せば良かったものを」

 

一人きりで愚痴を吐く白衣の男は、モニター映された各種数字を食い入るように見つめた。やはりおかしい。数値は安定しており、本来ならば覚醒するはず。だというのに、少女は何故か目を覚まさない。アーキバスから提供された第10世代の強化手術が失敗したのだろうか?いや、数値からしてそれはありえないはず。

 

今回の実験には相当の資金をつぎ込んでいる。感覚が鋭く、従順で躾けやすい子供をACのパイロットにする計画。悍ましく唾棄するべき計画に、白衣の男は人生を賭けていた。これに成功すれば、本社への栄転も夢ではない。

 

しかし、実際は上手くいかなかった。パイロット適性の高い少女を非合法な手段で手に入れ実験にこぎつけたものの、結果は御覧の通り。少女は目を覚まさず、成果は得られなかった。このままでは責任を問われてしまう。モニターを叩きたい衝動を抑えつつ、本社へアピール出来る方法を考える。

 

「意識さえ覚醒すれば・・・・・・いや、待て。上手く偽造すればいいか?適当な星に送り、戦果を取り繕えばあるいは・・・・・・」

 

男は、とある企業の研究員である。エリート気質で他者を見下しがちだった彼は、人間関係の構築に失敗した挙句閑職に飛ばされてしまった。そこで一発逆転を狙い、最近参入した兵器部門で功績を上げようと強化人間の育成に手を出したのである。

 

しかし、結果は御覧の通り。万全の状態で強化手術を行ったはずの少女は目を覚まさず、軽率に動いた男は追い詰められていた。

 

「確か、ルビコン星系辺りで企業と土着勢力がやり合っていたはず。封鎖機構が相変わらず渡航を制限しているが・・・・・・いや、むしろ証拠隠滅を兼ねて途中で落とされてしまった方が都合がいいか?」

 

彼の頭の中で非道な考えが組み立てられていく。強化手術を施したというのに目覚めない少女は用済みだ。しかし、そのことがバレれば男の立場に傷が付いてしまう。ならば、性能検査という体で戦地に送り込んでしまえばいい。途中で封鎖機構の衛星砲に落とされるにしろ、現地で死ぬにしろ、最低限の体裁は保てる。当然男への評価は落ちるだろうが、強化手術が無駄に終わったとバレるよりはマシだ。

 

「そうと決まれば、欺瞞用に最低限のACを発注しなくては。裏に流れてるパーツを格安で入手すれば費用を抑えられるだろう。全く、面倒なことだ」

 

多少の余裕を取り戻しながら、男は手に持ったタブレットを操作する。ルビコンへ向かう為の諸々の手続きに、本社を騙す為のACの手配。何故自分がこんなことをしなければならないのかと思いつつ、男は手際よく欺瞞工作を進めていった。

 

 

 

 

 

 

 

「ちっく、しょう・・・・・・!」

 

立て続けに衝撃が伝わってくるコックピット内。簡素なパイロットスーツに身を包んだ男は、顔を歪め悪態を吐き出した。

 

「ついてねえ、ついてねえな!どうしてこうなるんだよ、アーキバスのクソ野郎が!」

 

必死にクイックブーストを吹かし、遠距離からの狙撃砲を避ける。その度にコックピットが大きく揺れ、先ほどの被弾で痛めたらしい左肩が強く疼いた。

 

ここは惑星ルビコン3、その内のベイラム系列企業の一拠点。そこへの威力偵察任務を受けた独立傭兵である彼は、雨あられと降り注ぐミサイル、そして的確にこちらを撃ち抜いてくる狙撃砲に屈しようとしていた。

 

彼の機体はベイラムのパーツで固められている。フレームは量産に向き、安定した性能を持つMELANDER。腕部のみがカスタムパーツであるC3となっていた。武装は右手にバーストマシンガン、左手に速射型のリニアライフル。右肩には8連装の垂直ミサイルを背負っている。

 

「くっそ、鬱陶しい!」

 

彼は両手の銃火器をやたらめったらに撃ちながら、近場のミサイル発射台の群れをロックし垂直ミサイルを放った。空中に舞い上がったミサイルはそれぞれの発射台の上方へと向かい、落下するように発射台へと突き刺さる。爆発。

 

「よっしゃ!ってぐぉっ・・・・・・!?」

 

喜びも束の間、狙撃砲の狙い澄ました一撃が彼のACに直撃した。左腕が吹き飛ばされ、コックピットに火花が散る。強化人間である彼の脊椎に接続された管が煙を上げていた。

 

「ま、ず」

 

意識が歪む。先ほどの一撃で、ACS負荷限界を迎えたようだ。操作も利かぬ中、薄暗くなり始めた視界にさらなる狙撃砲の砲口がこちらに向いている映像が映る。

 

「こんな、呆気無く」

 

直撃。そして、爆発。遺言も残せぬままに、彼・・・・・・ありふれた独立傭兵の生涯は幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

「同志ダナム、アラートの原因が分かりました!衛星軌道より落下物、恐らくは大気圏突入用ポッドと思われます!」

 

「むぅ・・・・・・!着地地点は分かるか?」

 

「計算中ですが・・・・・・ダムの前方、氷湖に落ちるものかと」

 

画面を睨みながらタイピングをし続ける部下の言葉に、筋骨たくましい男は腕を組み考え込んだ。ここはルビコン解放戦線の重要拠点が一つ、ガリア多重ダム。そこの司令部とも言える場所は今、蜂の巣をつついたような騒ぎになっていた。

 

原因は分かり切っている。ルビコンの空より遥か上、封鎖機構が管理しているはずの衛星軌道よりダムに飛来する何かが観測されたからだ。企業の手先が攻めてくるのならばまだしも、このようなことは今までに無い。当然、対応も水際立ったものになってしまう。

 

「・・・・・・東のMT部隊の半数を回せ。敵であるのなら、殲滅あるのみだ。俺もバーンピカクスで出よう」

 

「はっ。どうかご武運を!『コーラルよ、ルビコンと共にあれ』!」

 

「あぁ。『コーラルよ、ルビコンと共にあれ』!」

 

たくましい男・・・・・・ルビコン解放戦線のゲリラ指導者の一人であるインデックス・ダナムは頷き、愛機の元へと駆け出した。ガリア多重ダムの部隊を指揮している彼は、事態を全て把握しているわけではない。しかし、仮に落下してきているポッドが企業の差し向けた敵だった場合、必ず撃滅しなければならないという戦意に満ち溢れていた。

 

「企業の走狗か、コーラルを求めてやってきた身の程知らずか。いずれにせよ、ただでは返さんぞ・・・・・・!」

 

早急に愛機であるバーンピカクスに乗り込み、己を鼓舞するように呟く。落下物は既に地表に到達し、氷湖に突き刺さる形で静止しているようだ。ダナムがMT部隊を率いて現場に到着した後も、その様子は変わっていない。

 

「同志ダナム、これは一体どうすれば・・・・・・」

 

「迷っていても仕方ないだろう。俺が接近しポッドの中を確認する。罠や敵だった場合は支援を頼む」

 

「りょ、了解です!」

 

ダナムは部下に命じ、臆する事無くブースターを吹かしポッドへと近付いた。大気圏突入による赤熱も収まり鈍色なそれは、一切反応を示さない。幸い、ACを用いてアクセスすれば外部から開けることも可能なようだ。ポッドにバズーカとマシンガンを向けながら、ダナムは慎重にアクセスを開始した。

 

「・・・・・・む」

 

程なくしてポッドが動き出す。隔壁が開き、中身が露わになった。

 

「これは・・・・・・?」

 

険しい目つきのダナムの表情に困惑が滲む。そこにあったのは敵でも、何らかの補給物資でも無い。ある意味、解放戦線の戦士達が見慣れたもの。MTかACと思わしきスクラップが入っていた。と、バーンピカクス及びMT部隊に遠隔通信が入る。

 

『こちらミドル・フラットウェル。状況を報告してくれ』

 

ミドル・フラットウェル。ルビコン解放戦線の実質的指導者にして、卓越した軍事指揮力と政治力を有する傑物だ。現在はベリウス西部へと向かっているはずだが、ガリア多重ダムからの緊急連絡に対応してくれるようだ。

 

「帥淑、手間を取らせ申し訳ありません。現在、落下物のポッドを包囲しつつ中身を確認したところです。しかし、これは・・・・・・ひとまず映像を送ります」

 

ACのカメラアイを通して映像を送信すると、フラットウェルは無言でそれを確認した。ややあって、口を開く。

 

『・・・・・・残骸か。落下の衝撃でこうなったとは思えないが』

 

「同感です。残骸をそのままポッドに詰め込んだようにしか・・・・・・いや、待った、この反応は!?」

 

スキャンを行いデータを精査しようとしたダナムは、想定外の反応に目を見開いた。ACのコアパーツともつかぬ残骸の中から、生体反応がある。成人した人間にしては酷く小さいそれは、まるで子供かのようだ。

 

「残骸内部に生体反応あり!ええい、どういうことだ!」

 

不可解な事態に動揺しつつも、ダナムはコアパーツの残骸をポッドから引きずり出す。殆ど稼働していないパーツ内に、パイロットが取り残されているとしたらあまりにも危険だ。切迫した声で多重ダムの本部へ救援を求めようとする。

 

「こちらインデックス・ダナム!牽引用のトレーラー・・・・・・いや、輸送ヘリを回してくれ!急げ、まだ助かるかもしれん!」

 

『待てダナム、落ち着け。罠の可能性がある。それよりはここで内部を確認した方がいい。これがAC用のコアパーツならば、乗り込み用のハッチがあるはずだ』

 

「っ、了解!」

 

フラットウェルの言葉に、焦りを自覚し両頬を叩くダナム。フラットウェルにもスキャンデータは送信されている。異常な事態だというのにこの落ち着き振りは、生まれ持った才覚の差か。

 

ハッチを見つけたダナムは、ACの腕で強引にこじ開ける。彼もAC乗りが故に、コアパーツの基本構造を理解していた。コックピットがあるだろう場所に負荷をかけないよう、装甲を慎重に引き剥がしていく。やはり稼働している様子は無く、無数のコードが千切れても火花一つ散ることすら無かった。

 

そして。ダナムは酷い頭痛を感じながら、ようやくあと一歩でコックピットを開けられる所まで来た。元々適性の無い彼にとって、精密性を擁する作業は過酷なものだったようだ。重たく感じる体を無理やりに動かし、ダナムはバーンピカクスを操作する。最後の装甲が剥ぎ取られ、コックピットが露わになった。そこにいたのは───

 

「なん、だと」

透き通るような白い肌に、ビスクドールのような愛らしい容貌。沢山の管に繋がれた少女が、微かな息を繰り返していた。




AC6のプレイ時間が200時間を超え、溢れ出す妄想が形を為してしまいました。この話には教訓があります。「一度生まれた性癖は、そう簡単に死なない」。
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