見せてもらいましょう、借り物の体でどこまで飛べるか 作:てぬてぬ@TSF
『なんだぁ、増援か?はっ、旧世代のガラクタACじゃねえか』
オープン回線から聞こえるガラの悪い声は、どうやら目の前のACパイロットからのものだ。煽るような響きに返事はせず、バーンピカクスを懸命に操縦する。マシンガンを放ちながらバズーカの照準を合わせるも、レッドガン所属のACは容易くクイックブーストでこちらの狙いを外してきた。
『土着の無能風情が、逆らうんじゃねえよ!』
撃ち込まれる銃弾。次々とバーンピカクスに着弾しACS負荷が高まっていく。苦し紛れにミサイルを放つが、軽くかわされ大した被害は出ていないようだ。
「こいつ、強いっ・・・・・・!」
通信に乗せずにシオンが呟いた。目の前のACの動きは的確かつ堅実だ。教本に乗っているような立ち回りに、シオンは歯噛みする。付け入る隙が見当たらない。と、
『こちら、レイヴンのオペレーターだ。もう一機のタンク型は抑える。時間を稼いでくれ』
壮年の落ち着いた男性の声。どうやら、寝返った独立傭兵のオペレーターのようだ。もう一機のレッドガンのACを足止めしているらしい。
「こっちもやるだけやるが、長くは持たない!情けないがあんたらが頼りだ!」
叫び、強引にアサルトブーストを起動した。自分用に調整されていないバーンピカクスから相当の負荷がシオンに流し込まれる。痛みに違和感に寒気がぐちゃぐちゃになりながら精神を振り回していった。それでもなんとか敵ACに肉薄出来たのは、彼の経験か肉体の適性か。いずれにせよ、この距離ならば外さない。
『ぐぉっ!?てめぇ、やりやがったな!』
バーンピカクスのバズーカが敵ACに直撃する。シオンは再びアサルトブーストで踏み込み思いっきり蹴り込んだ。が、その追撃はパルスシールドに阻まれてしまう。するすると後退しながらリニアライフルを構えた敵ACは、チャージしたそれをバーンピカクス目掛けて放った。
「がっ・・・・・・!?」
衝撃と共に脳がスパークする感覚。蓄積したACS負荷が限界を迎え、バーンピカクスはスタッガー状態に陥ってしまう。距離を離していたはずの敵ACが一気に突っ込み、先ほどのお返しとばかりにバーンピカクスを蹴り飛ばした。
『鬱陶しいガラクタ野郎が!』
連続する衝撃。蹴りと銃撃でごっそりとAPを削られたバーンピカクスがなんとか体勢を立て直した時には、敵ACは既に一定の距離まで退がっている。イチかバチかの削り合いには持ち込めそうもない。オープン回線から聞こえる粗い口調とは裏腹に、相手の技術と戦術は洗練されているようだ。
『シオン!相手はG5イグアス、ACはヘッドブリンガー!解析が遅れてすまない!』
ようやく相手の解析が終わったようで、アーシルからデータが送られてくる。レッドガンの五番手にしてバランス型の中量二脚『ヘッドブリンガー』を駆る男らしい。そのイグアスは敵意を振り撒きつつ、パルスシールドを展開したままリニアライフルとミサイルでシオンを攻め立てた。反撃しようにもこちらのマシンガンはパルスシールドに阻まれ、挙動の大きいバズーカはクイックブーストで避けられてしまう。
『MT部隊を再編して展開している、一旦後退してくれ!』
「そう上手くはいかねえって!俺が退けば相手は独立傭兵の方に向かうだけだ!各個撃破されちまう!」
どれだけ絶望的な状況でも、目の前のヘッドブリンガーに食いつき続けるしかない。悲壮な決意で既にボロボロのバーンピカクスを前進させようとしたその時、予想外の通信が入った。
『構わない、後退しろシオン。どうやら、今回は我々の運がよかったらしい』
「帥淑フラットウェル!?いや、だけど退いたら・・・・・・!」
叫ぶシオンを遮るように、フラットウェルは静かに言い放つ。
『独立傭兵がレッドガンのAC一機を撃破。後方からこちらに向かっている。退いても問題は無い』
「・・・・・・は?」
呆けそうになり、慌ててレーダーを確認する。敵影が消えている。もう一機のタンク型ACは、すでに反応を消失していた。
『馬鹿な、ヴォルタをこの短時間で!?』
イグアスの台詞ももっともだ。ACの中でもタンク型の脚部を備えたものは、重厚な防御力と耐久力を誇る。このような短い時間では早々に落とせるものではない。それなのに。シオンは半信半疑になりながらも、命令に従い後退を始めた。イグアスも追ってくる様子は無く、むしろ背を見せて後方を警戒しているようだ。既にFCSの範囲外の為攻撃することは出来そうもない。
やがて。そのACがやってきた。本来探査用であるACのフレームにアサルトライフル、パルスブレード、四連装ミサイルを積んでいる。左肩には見慣れない武装が展開し、自律浮遊しながらACに追従していた。先の戦闘の影響か、コアの背部が開き赤熱しているのが伺える。
『野良犬・・・・・・ヴォルタと同じようにいくと思うなよ・・・・・・!ミシガンの顔面に一発ぶち込むまで、引っ込んでられるか!』
吼えるイグアスが迎撃するも、独立傭兵のACは一切速度を緩めない。瞬く間に距離を縮め、左腕のパルスブレードが煌めいた。
「なんだ、あの動きは・・・・・・!?」
一閃。特殊な高周波振動で形作られた刀身がヘッドブリンガーを斬りつける。さらに、左肩の武装・・・・・・実弾オービットから放たれる弾丸が装甲を削り取っていった。反撃のリニアライフルとマシンガンを易々といなし、距離を取ってライフルとミサイルでACS負荷を維持。再び斬り込む隙を伺っているようだ。
イグアスの戦術と似ているようで、決定的に違う動き。まるで鳥が羽ばたくかのような自由な機動に、シオンは後退することも忘れ見入ってしまっていた。自身が手も足も出なかった相手が、成すがままに翻弄されている。
『クソッタレが、調子に乗りやがって・・・・・・!こっちはな、毎日クソみてえなシゴキを受けてんだよ!』
足掻くイグアスを物ともせず、独立傭兵が再び斬り込んだ。実弾オービットを展開しながらミサイルを射出し、蹴りを見舞うことで計算したかのようにスタッガーを取る。パルスブレードが二度煌めいた時、ヘッドブリンガーは既に耐久限界を迎えていた。リペアキットで機体を修復することすらままならず、イグアスは辛うじて脱出するしかない。
『クソッ 避けそこなったか・・・・・・!? 野良犬ごときが・・・・・・!』
その言葉を最後にオープン回線の通信は途切れた。時間にしてほんの数十秒の出来事。シオンは、目の前で起きた嘘のような光景に圧倒されていた。
『・・・・・・オン!シオン!応答してくれ!』
「っ、す、すまない」
どれ程呆けていたのだろう。必死さが滲むアーシルの声でようやく正気を取り戻したシオンは、のろのろと後退しようとする。その時、ヘッドブリンガーの残骸近くに佇んだままの独立傭兵、そのACの頭部がこちらを向いた気がした。目が合うような感覚が直接脳に伝わってくる。
───冷たさすら感じる視線が、シオンを貫いた。酷く無機質な、あるいは冷徹な瞳。こちらを見定めているような感覚。AC越しだというのに、恐怖すら覚えてしまう。永遠にも思える時間が過ぎ、やがて独立傭兵レイヴンは踵を返し飛び去っていった。凄まじい戦果だけを残して。
「あ、ぐ」
急激に緊張が解け、シオンは背もたれにぐったりともたれ掛かる。相変わらず回線から声が聞こえるがそれを気にする余裕も無い。極度の疲労で頭がぼやけ、意識が薄れていく。そして、彼は落ちるように意識を手放した。
これにてシオンの『初陣』、その幕が下りたのである。
『・・・・・・どうした、621。バイタルが乱れているぞ』
ガリア多重ダムから離脱する最中、コクピット内に男の声が響く。心配そうな様子を隠せていない声色に、レイヴンの名義を借りている少女は返答した。と言っても、彼女の声帯は機能していない。ガリガリに痩せた体躯は、パイロットスーツを着ていても明らかだ。色素の薄い肌に、同じく栄養の欠けたボサボサの髪。それをヘルメットに無理やり押し込んだ様はどこか滑稽にすら見える。
【問題無い。合流地点にこのまま向かう。それでいい、ウォルター?】
簡素なメッセージが男・・・・・・ハンドラー・ウォルターの見つめる画面に表示された。いつも通りの様子に、しかし先ほどのバイタルの異常はなんだったのだろうかと考える。
今飼っている猟犬である621の腕は非常に良い。初陣では単騎で大型武装ヘリを落とし、その後もスムーズに依頼をこなして実績を積んでいった。そこに、今回の依頼だ。621自身の選択により精鋭AC部隊レッドガンと敵対することになった時は、ウォルターは最悪撤退も視野に入れていた。
しかし、結果は圧勝。解放戦線側のACが片方を一時的に引き付けてくれていたとはいえ、レッドガンのAC二機を鮮やかな手際で撃破してのけたのである。第4世代、旧型の強化人間。そんな肩書きからは想像も出来ない実力だ。
『あぁ、それで構わない。とにかく、よくやった621。レッドガン二名を撃破したとなれば、企業もお前を放っておくまい。良くも悪くもな』
労いの言葉に、621のバイタルが僅かに反応する。しかし、さっき程の乱れではない。彼女の心中で何かがあったのか、ウォルターには見抜くことは出来なかった。
もし、直接621の表情を見ていれば彼には分かったのかもしれない。感情を喪っているはずの少女の顔に浮かんだ、混乱と当惑、そして僅かに滲む希望の感情を。
「・・・・・・」
合流地点に向かいながら、621は先ほどの戦闘を思い返す。タンク型AC・・・・・・キャノンヘッドは、ある程度削った後にアサルトアーマーでスタッガー、追撃で仕留めた。ヘッドブリンガーも似たような戦い方で落とした。完璧と言ってもいい立ち回りだが、彼女の思う所はそこではないようだ。
「・・・・・・ゥ」
吐息と共に漏れる呻き声。それを621はゆっくりと呑み込んだ。バイタルが乱れれば、またウォルターが心配してしまう。それでも、胸の内から湧き上がるものは中々抑え難かった。
あのAC。ヘッドブリンガーを足止めしていたACに、621は心当たりが無い。バーンピカクスのことは知っていた。しかし、明確に動きが違う。あちらからの通信も無かった。乗っているのは、インデックス・ダナムではないのか?だとしたら誰が?
本来ならば悩むことも無いような些事に、どうやら621はこだわっているようだ。その理由は、彼女以外には分からない。彼女の飼い主である、ウォルターでさえも。
結局。合流地点で輸送ヘリに拾われるまで考え続けても、答えは出ない。それでも休眠状態に入るまで、彼女は考えることを止めなかった。
621は最強です。誰もが目を奪われてく、君は完璧で究極の傭兵です。