見せてもらいましょう、借り物の体でどこまで飛べるか   作:てぬてぬ@TSF

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99.熱を秘める戦士達

「こうして対話の機会を用意していただき感謝する。V.Ⅲ、オキーフよ」

 

『・・・・・・見事なやり口だ。お陰でここに引きずり出される羽目になってしまった。思惑通りだろう、ミドル・フラットウェル』

 

ミドル・フラットウェルの有する秘匿回線の一つ。アーキバス残党への「物資援助」の際に密かに忍び込ませていた通信機材を用いて、彼は残党の臨時指揮官であるV.Ⅲオキーフとの対話に赴いていた。

 

「こちらの思惑を理解しているのならば話は早い。何を提案されるか、把握出来ているようだ」

 

『こうも露骨では嫌味にしか聞こえんがな。とにかく、相応に当たりは付けている。こちらの降伏、その条件についての話し合いといった所か』

 

それぞれの組織内でも切れ者とされる二人は、互いの考えを読み合い言葉を交わし合う。似通った思考を持つからこそ推測は容易かった。つまり、双方が話し合いの結末を見据えているということである。

 

「ならば単刀直入に告げよう。我ら解放戦線へ降伏してもらいたい」

 

『・・・・・・条件を聞こう』

 

「武装解除の必要は無いが、開発中の星外脱出用ロケットについては管理権をこちらに譲渡。代わりに物資援助は手厚く行おう。願わくば、レッドガンに引き続き我らの協力者となってほしいものだが」

 

想定されているよりも緩い条件だ。そう思いつつも、オキーフは苦み走った表情を浮かべる。やはり、この状況はフラットウェルの手のひらの上だ。アーキバスへの忠誠以外に提案を呑まない理由が無い。

 

先日の「物資援助」は、窮地に陥っていたアーキバスを十全に救った。餓えや渇きに悩まされなくなったのは何よりもありがたい。しかし、問題なのは解放戦線からの援助だということだ。その上物資の中には「我々は報復を望まない」という簡潔なメッセージすら添えられていた。

 

隠し切れない。そう判断したオキーフは、情報を統制せずありのままを隊員達に伝えた。それが戦意を減退させる結果を招くと理解していながら。疑惑と不信が蔓延するよりはマシという苦肉の選択である。

 

『・・・・・・受けざるを得まい。我々が救われたという事実は変わらないのだ。うんざりするが、ウォッチポイント・アルファで敗北した時点でこの結末は避けられなかったか。だが』

 

通信越しにいる相手を睨みつけるかのように視線を鋭くするオキーフ。情報部門の統括者である彼にとって、どうしても納得出来ないことがあった。

 

『走狗として飼われる気は無い。むしろ、何を考えている?我らアーキバス残存部隊に、お前達ルビコニアン。そしてレッドガンが、本当に手を取り合えるとでも思っているのか?』

 

「ルビコンの未来の為、そうあってほしいと願っている。先ほどの言葉に偽りは無い」

 

毅然とした態度で告げるフラットウェルに、自嘲気味な笑みを浮かべ息を吐く。分かった上での発言だろうが、それでも言葉は止められなかった。ガンガンと頭蓋を叩かれるような頭痛を堪え、オキーフは言い放つ。

 

『不可能だ、それは。一時的な協調は可能だろう。だが、時が経てば経つほどズレが生じる。人と人の争いが無くならないのは、根本的にはそれが原因だ。星外の人間とルビコニアンには、思想やライフスタイルに致命的な差異がある。そんなことはお前が最も理解しているはずだろう。ミドル・フラットウェル』

 

「・・・・・・あぁ、分かっているとも。その上、我々の間には長く戦い続け積もり続けた遺恨もある。尋常な手段では成し得まい」

 

実感がこもっている指摘に、しかしフラットウェルは動揺せずに言葉を紡いだ。そんなことは百も承知なのである。わざわざ言われるまでも無い。その上で、彼は胸に宿る熱を捨てなかった。知っているからだ。不可能を可能にする、その手段を。

 

「知っているか、オキーフ。ルビコニアンも一枚岩ではない。むしろ、我々も争い合ってきたのだ。ルビコンの乏しい資源を巡り、殺し合ってきた。コーラルは無限に湧かず、故に井戸を奪い合う。他の惑星と変わりもしない残酷な人の営みだ」

 

『何が言いたい?』

 

「今の我らが結束し、脅威に対して立ち向かえてきたのは外敵がいたからだ。そして、現状もそれと変わらない。星外には二大企業以外にも、コーラルを奪おうと目論む勢力が無数にいるだろう。己を脅かしかねない敵に対する時、人間は協力し合えると私は知っている」

 

噛み締めるように言い、フラットウェルは僅かな時間瞑目した。彼が知っているのは途中からだけだ。それ以前の話は、過去にドルマヤンに伝えられたに過ぎない。しかし、実感はある。本来そうなるのが当然なのだ。ルビコン星系は、辺境故に過酷な環境が渦巻く惑星なのだから。

 

『だから、我々も共闘出来ると?闘争が終わらない限り、共に歩むことが出来ると?馬鹿げた空想だ、うんざりする。例えそうなったとしてもだ、星外の勢力が本気を出せば我々が抗し得る可能性は無い。所詮は宇宙の片隅に巣食っているだけの存在だ。我々も、お前達も』

 

「だとしても膝を折る気は無い。今の話をしよう、オキーフ。降伏の条件に異論はあるか?」

 

『・・・・・・。異論は無い。理想論にはうんざりするが、条件付きの降伏は現実的な判断だ。話を進めてくれ』

 

素っ気無く告げるオキーフに、フラットウェルは何かを言いかけ口をつぐんだ。今はアーキバス残党を取り込むのが先決だ。後は結果で示してみせる。一度流れを作り出せば、オキーフと言えど乗らざるを得ない。そのはずなのだ。熱を内に秘めながら、平静を保ち返答する。

 

「では、そのように。双方の血が流れぬ結果を約束しよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、と」

 

戦闘シミュレーターを起動しつつ、シオンはゆっくりと首を回した。珍しいことにフレディから模擬戦に誘われたのである。先日の交流会には参加しなかった彼だが、どうやらキャンドルリングのアセンを変更したようだ。大体の動かし方は把握したので、対人の経験を積みたいということらしい。

 

「どんな感じだろうな・・・・・・ま、俺のやることは変わらないか」

 

パーツを一つ変更するだけで戦い方がガラリと変化する可能性もある。果たして今のフレディはどのような戦術を立てているのか。程良い緊張感の中、シオンは戦友の変化を楽しみにしていた。

 

「よっしゃ、いくぜ!」

 

開始の合図と同時、トラルテクトリのクイックブーストを吹かして突っ込んでいく。ランダムに選ばれたエリアはウォッチポイント・デルタ。かつてレイヴンが襲撃し、コーラルの局所爆発を引き起こした場所だ。一部の段差に中央を横切る橋、そして浅瀬の海が全体に広がっている。

 

さて、相手はどう出るか。シオンは中央の橋付近でキャンドルリングの動静を見定める。開始地点に姿は見えず、スキャンにもかからない。ということは、建造物の豊富な段差側から回り込んでいる可能性が高そうだ。そちら側に警戒を向けつつ、浅瀬の海を滑るように進んでいく。

 

「どこだ・・・・・・?」

 

アセンを変更したということは、グレネードとミサイル以外の攻撃の選択肢が増えたのだろう。姿を見せないのは情報のアドバンテージを少しでも守りたいからだろうか。相手の思考を読みつつ、シオンはゆっくりとトラルテクトリを操縦する。段差のエリアには不用意に近付かず、まずは索敵を重視した。

 

接敵しないまま十数秒の時が流れる。集中するシオンの頬を汗が伝い、ぽとりと落ちた。瞬間、段差の建造物の影からキャンドルリングが飛び出してくる。軽量タンクならではの機動力を以て一気に接近、肉薄した。

 

反撃の弾幕を張るシオンだが、キャンドルリングの武装を見て目を丸くする。フレームパーツに変化は無いが、肩の二連装グレネードの内一つをベイラムの拡散バズーカに換装、さらに左腕部にはハンドミサイルの代わりに特徴的な武装が積まれていた。

 

44-143HMMR。六文銭も使用しているプラズマ機雷投射器という特殊な近接兵装だ。弾幕を掻い潜りながら肉薄するフレディは拡散バズーカとグレネードを放ち、トラルテクトルのスタッガーを試みる。迎撃の為にチェーンソーに持ち替えたシオンの判断は僅かに遅かった。

 

「ぐっ!?」

 

爆風を突き抜けるようにすれ違う瞬間、キャンドルリングの左腕部が煌めいた。プラズマを纏った回転体がトラルテクトリの装甲を直撃しスタッガー状態へと追い込む。更なる追撃によりAPは大幅に減少、アラートがコックピット内に鳴り響いた。

 

反撃をしようにも、既にキャンドルリングは離脱してしまっている。機動力を活かした一撃離脱。どうやらフレディはその為に特化したアセンへ組み替えたようだ。そこまで時間は経っていないはずなのに、一連の動きは洗練されている。シオンが対応し切れない程に。

 

「くっそ・・・・・・!」

 

アサルトブーストを起動し追い縋るが、建造物を利用されいなされる。シオンの戦術はフレディに筒抜けだ。だが、食らいつきチェーンソーを当てる以外に道は無い。至近まで距離が縮んだ時が勝負の分かれ目になる。

 

既にAPが削られた状況。不利を承知でシオンは前に出た。このままではジリ貧、トラルテクトリの耐久力を信じて自分から展開を動かしていくしかない。アサルトブーストでフレディに追い縋り、放たれたミサイルや砲弾を辛うじて避ける。アセンを変更したことによる豊富なEN容量を活かし、強引に突き進んだ。

 

「おらぁっ!」

 

マシンガンとバーストハンドガンの銃弾が後退するキャンドルリングを捉え始める。フレディも撃ち返すが、変更した武装も基本的には単発だ。撃ち合い続けるのは不利、そう判断したフレディは一転して前進に映る。一気に距離が詰まり、双方の機体が交差する直前で互いの近接武装が躍動した。

 

『おおおぉっ!』

 

気合いと共にフレディがプラズマ機雷が投射し、シオンが掲げたチェーンソーに直撃する。高熱のプラズマが連鎖刃を溶かさんとするが、チェーンソーはその回転体を絡め取った。衝撃と異音が響き、互いの武装がスパークすると同時にアラートが鳴り響く。

 

「うおぉっ!?」

 

ブチブチとワイヤーが千切れ、プラズマ機雷がチェーンソーの内部で炸裂した。爆発の危険性を感じたシオンはチェーンソーをパージ、フレディの方も投射機そのものが使い物にならなくなったようだ。

 

『まだだっ!』

 

近接武装が失われた両者だが戦闘は止まらない。即座に拡散バズーカを放つフレディに、クイックブーストで全段直撃を避けるシオン。即座に撃ち返すもののトラルテクトリはチェーンソーを軸としたアセンだ。このままでは削り負けてしまう。

 

「っだらぁ!」

 

流れを変える為、シオンはアサルトブーストで突っ込んだ。二連グレネードが火を吹く前に思い切りキャンドルリングを蹴りつけ、強引にスタッガーに追い込む。追撃を試みるもフレディはパルスアーマーを起動、スタッガーを回復させ逆に反撃を開始した。

 

『退かせるか・・・・・・!』

 

耐久力では不利だが武装の火力では勝っている。敵機がチェーンソーを失った今こそ好機なのだ。絶対に逃がさないという意志を以て、フレディはトラルテクトリに喰らい付く。その顔には、煌々と燃えるような戦意が浮かんでいた。




フラットウェルはリアリストでありロマンチストだと思ってます。ルビコンの灼けた空を往け、ラマーガイアーで。
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