見せてもらいましょう、借り物の体でどこまで飛べるか 作:てぬてぬ@TSF
「ベイラム第三艦隊、か・・・・・・企業の連中め、くだらぬことを考えるものだ」
武装採掘艦ストライダー。凄まじい巨躯を有する解放戦線の移動拠点は、現在アーレア海の軍港付近まで移動していた。目的は一つ。技研都市より汲み上げられ、運ばれてきたコーラルを貯蔵することだ。
ストライダーの艦長は全体の指揮を執りつつ、送られてきた情報に目を通している。ベイラムとアーキバスが結託し、精鋭の第三艦隊を用いて大規模な侵攻を計画している、と。信憑性は高い情報だ。つまり、依然闘争は終わっていない。
先の大反攻、ストライダーはベリウス地方における解放戦線の旗艦として獅子奮迅の活躍を見せた。超長射程のアイボールにより敵拠点を薙ぎ払い、展開している部隊の収容及び補給、修理に至るまで稼働し続けたのだ。ストライダーが存在しなければ、ベリウス地方の攻勢はもっと小規模なものになっていただろう。
艦長には自負がある。星外ならばともかく、もしルビコンに攻め寄せてくるのならばその全てを撃退してみせると。経験を積み、ストライダーの隊員達も精鋭といって差し支えない練度となった。コーラルの戦士たる我々には、ルビコンを守る義務がある。彼は一点の曇りも無くそう信じていた。
その為、コーラルの貯蔵と並行してストライダーの更なる武装化を提案している。侵攻が遠からず来る以上、この案は通るだろう。いや、仮に通らなくても断行しなくてはならない。全てはルビコンの為。元々強硬派だった艦長だが、圧倒的な勝利を為した今その思考は一層過激になっていた。
が、その強固な自我が他のルビコニアン達を鼓舞してきたのも事実である。ストライダーに所属する隊員達の士気はおしなべて高く、自信も付き始めている。艦長率いる武装採掘艦ストライダーは、間違い無く解放戦線の一翼を担っているのだ。
「艦長、20分後、次の輸送部隊が到着するようです。ですが・・・・・・」
「どうした、何か想定外の事態か?」
「いえ。ですが、事前の予定通りレッドガンの輸送ヘリが混ざっています」
複雑な表情で告げてくる部下に、艦長も顔をしかめる。現在、解放戦線はレッドガンや独立傭兵達に対し協調路線を取っていることは理解していた。だが、どうしても嫌悪感が拭えない。企業の走狗を迎え入れた所で、なんの役に立つというのか。
「・・・・・・構わん。ヘリポートは空いているな?通常通り進めてくれ」
不快感を呑み込み指示を出す。精々利用してやればいいのだ。解放戦線の輸送機が少ないのは事実であり、レッドガンが輸送機を保有しているのも事実。コーラルの輸送及び分配が終わりさえすれば、いつでも処断してやる。焼けるような敵意を押し留め、艦長は輸送ヘリが飛来する方向に目を向けた。
編隊を組み飛んでくる輸送ヘリ群。その中には、確かに解放戦線のものとは異なるヘリが確認出来る。今の所は友軍だ。受け入れ、コーラルを貯蔵するのが第一である。
「灰かぶりて我らあり。たかがレッドガン、受け入れる度量を見せんとな」
傲慢に呟き指揮に戻る艦長。その表情は、苦虫を噛み潰したかのように歪んでいた。
「ひっ・・・・・・!?」
一際大きな揺れに襲われ、移送中のスウィンバーンはか細い悲鳴を上げる。現状彼は解放戦線の捕虜であり、先の戦いで囚われてからずっと個室に監禁されていた。が、急遽別の場所に移動することとなり、目隠しをされて連れてこられたのは更に狭い部屋。訳も分からず、一人で怯えることしか出来ない。
揺れから推測するに、恐らくなんらかの乗り物に乗せられているのだろう。果たしてどこに移動しているのか。まさか、処刑場・・・・・・!?なんの根拠も無い妄想が膨れ上がり、スウィンバーンは恐怖から震え始める。顔は真っ青で、空気を取り込もうと口をぱくぱくさせていた。
「どうして・・・・・・どうして私がこんな目に・・・・・・」
涙を滲ませながら呟く。何故こんな目に。理由は明白だ。リトル・ツィイーという解放戦線のAC乗りに撃墜され、身柄を確保されたから。彼女はアリーナランクで言えば自分より一つ下だが、実力差はもっとあると思っていた。栄えあるヴェスパーに所属する自分の方が遥か上であると。
だが、戦場では何が起きるか分からない。自負はあっても慢心は無かったはず。それなのに、あっさりと撃墜されてしまったのだ。ストライダーや他のMT部隊からの掩護があったとはいえ、相手が余力を残すような形で破れてしまった。その事実は、スウィンバーンの心に暗い影を落としている。
「壁」の警備時にはレイヴンに瞬殺され、名誉挽回の為の出撃ではブランチに翻弄され。そこまでは仕方が無い。相手が規格外だっただけだ。ツィイーは違う。スウィンバーンの認識では格下の小娘に惨敗してしまった。自身の存在価値を揺るがす事態である。
捕虜としての扱い自体は悪くない。1日三回ちゃんとした食事は出るし、清潔な衣服も用意されていた。しかし、スウィンバーンにとっては何も信じられない状況である。何もかもが疑わしく、また恐ろしい。彼の精神は崩壊しかかっているのだ。
頬はやつれ、体も痩せ細っている。ある程度義体化していなければ命が危うかったかもしれない。ただでさえ狭い部屋の隅で膝を抱え、震えることしか出来ないスウィンバーン。やがて限界を迎えたのか、気絶するように眠りについた。
ウォッチポイント・アルファ周辺。増築され続けている拠点群の一角で、解放戦線の捕虜であるホーキンスは粗末な椅子に腰を下ろし腕組みしていた。先の戦いの終盤、乱入してきたレッドガン部隊を食い止めていた彼はG2ナイルに撃墜され身柄を拘束。今日に至るまで捕虜として扱われている。
外の状況は何も分からない。しかし、ホーキンスは積み上げてきた経験によってある程度の推察を組み立てていた。配給される食事の質は日に日に上昇し、微かな振動が時折部屋まで届く。解放戦線は完全にウォッチポイント・アルファを掌握したのだろう。
戦闘音や緊迫した雰囲気が感じられないということは、レッドガンと解放戦線はなんらかの合意を得ているようだ。ヴェスパー部隊の面々は無事撤退出来ただろうか。自身がした時間稼ぎが、せめて効果的に働いていればいいのだが・・・・・・。
幸か不幸か思考の時間は山ほどあった。何せ、尋問すら片手で数える程しか行われていないのだ。他の情報源を得ているのか、それとも情報を得る必要すら無いのか。いずれにしろ、アーキバスにとって著しく不利な状況のはずである。と、
「・・・・・・おや。珍しいものだね」
足音が部屋に近付いてくる。食事や尋問以外、この部屋に近付いてくる者は今までいなかった。故にこの場所は隔離されている区画だと推測していたが、真相には至っていない。果たして足音は部屋の前で止まり、今時珍しい物理的な造りの錠が開く。
「いらっしゃい。手狭だけれどゆっくりしていってくれ。さて、なんの用かな?」
リラックスした口調で「来客」を出迎えるホーキンス。廊下の照明と共に入ってきたのは彼の知らない人物だった。顔付きにやや幼さを残す青年は、ホーキンスを見つめながら静かに告げる。
「V.Ⅴホーキンス、新たな収容場所に移動してもらいたい。構わないか?」
「断れるような立場ではないからね、無論従うとも。しかしどういう風の吹き回しだい?今までは殆ど放置していたというのに、状況に変化でもあったのかな」
「さて、どうだろう。こちらから貴方に伝えられることは、今の所は何も」
風貌に似合わず落ち着いた口振りの青年は、手錠をホーキンスにかけ立ち上がらせた。ここで足掻いてもいいが、脱出の目途はまるで経っていない。その上ルビコニアンは生身での格闘戦に優れている。無理筋と判断し、大人しく青年に同行した。
殺風景な通路を進んでいく。照明は最低限だが、やはり電力は通っているようだ。監禁されていた時と同じく、空調も機能しているらしい。人が生活するのに過不足無い環境である。食事の件といい、解放戦線の地盤は盤石だと推測出来た。それは即ち、企業等の障害も少ないということでもある。
どうするべきか。捕虜となったとはいえ、V.Ⅴの責務を捨てたつもりは無い。今まで殆ど行動を起こさずにいたのは、動けば動く程状況が悪化しかねないと判断していたからである。尋問はのらりくらりとかわしつつ、捕虜という立場から得られる情報を可能な限り収集してきた。
だが、このままでいいのだろうか?外部・・・・・・アーキバスの戦力は期待出来ない。ここまで時間が経ってなお戦闘の気配が0ということは、解放戦線に対して攻勢に出るだけの余力が残っていないのだろう。あるいは局地的な攻勢に留まっている可能性もあるが・・・・・・。と、
「ここだ。入ってくれ」
思考を回す中、気付けばとある扉の前に到着していた。監禁されていた部屋のものと同じ、頑丈ながら簡素な扉。青年が開けたそれを潜り、中へと入る。同じく室内も簡素で、二つの椅子とテーブル以外には何も置いていなかった。片方は空席、もう片方に座っているのは、
「よく来てくれた。そこに座ってくれ」
「ほう。解放戦線の二番手からのお誘いとは、身が引き締まる思いだよ」
ミドル・フラットウェル。先の戦いの傷が癒え、万全の状態を取り戻した男が座っていた。
「知っているか。流石はV.Ⅴ、目敏いな」
「おだてないでくれ。何、人より少し経験を積んでいるだけさ。君が構築した情報網とは比べようも無い。さて、それで要件は何かな?」
「これは話が早い。ならば、早速本題に入らせてもらおう」
両者は社交的な笑みを浮かべつつ、親しげな雰囲気で言葉を交わす。が、立ち会っている青年・・・・・・アーシルには別のものが見えていた。互いに腹を探り合い、まるでナイフを向け合っているような姿を幻視する。ともすれば戦場のような緊張感に、彼の額から汗が滲んだ。
「我々はアーキバス残党の降伏を受け入れた。故にV.Ⅴ、貴公を捕虜としておく意味も失った。順次手続きを済ませた後、解放することとなるだろう」
「ふむ。と、言われて素直に信じるわけにもいかなくてね。証拠を提示してもらえるとありがたい。現状は捕虜の身だから、贅沢な望みなのは分かっているけれど」
「当然の要求だな。アーキバス残党の指揮官代行を務めているV.Ⅲオキーフからのメッセージがある。必要ならば、リアルタイムでの通信も許可出来るが・・・・・・」
フラットウェルの言葉に、ホーキンスは笑みを浮かべたまま黙り込む。わざわざ帥淑フラットウェルが呼び出した上にこの発言。余裕たっぷりな態度なのはこちらにプレッシャーを与える為か、あるいは全てが真実なのか。
「・・・・・・成程。どうやら随分と用意がいい。ただ、その前にお願いしたい事がある。どのように我らヴェスパーを降したのか、詳細を教えてもらえないだろうか?」
「いいだろう。貴公には知る権利がある」
頷くフラットウェルは、待機しているアーシルに軽く目配せした。ホーキンスに渡されたのはルビコンで広く普及しているタイプの旧式タブレット。その画面には、先の戦いから今までの詳細がびっしりと記されている。
膨大な情報に目を走らせ状況を把握しようとするホーキンス。表面上は落ち着いているものの、心穏やかではいられなかった。ここまで譲歩した対応を取るということは、先の話は全て真実なのか。それとも全てがこちらを騙す罠?混乱はしかし、タブレットを読み込む内に落ち着いていく。
この情報は真実だ。己が把握していた戦況、敗走の経過。それが事細かに記されている。仮に騙す気ならば、ここまで細部を徹底した情報にはしないだろう。解像度を上げれば上げる程虚偽を見抜かれやすくなるのだから。
「流石にこれは信じざるを得ないなぁ。見事なものだね、帥淑フラットウェル。オキーフ君達には可哀想なことをした」
朗らかに告げ、ホーキンスはアーシルにタブレットを返す。穏やかな視線をフラットウェルに向けると、大袈裟に首を横に振った。
「完敗だ。まぁ、捕えられた私が言えたことでもないけれど。それで、解放された後の私はどうすればいい?何もさせないつもりなら、わざわざ事前にこんな場を設けないだろう」
「本当に、話が早くて助かるな。貴公に頼みがある」
「ほう?それはつまり、君お得意の策術に関わってほしいのかな」
面白げな様子で訊ねるホーキンスに、フラットウェルは表情を変えずに頷く。解放戦線きっての策謀家は、ルビコンに再び迫る危機を前に新たな網を編もうとしていた。
「その通りだ。来る戦いにおいて、ヴェスパー部隊の力を借りたい。協力してくれるか?V.Ⅴ、ホーキンス」
スウィンバーンは可愛いですね。