見せてもらいましょう、借り物の体でどこまで飛べるか   作:てぬてぬ@TSF

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106.蛇と視線を重ねて

シオンは焦れていた。キャノンヘッドの圧倒的な火力を前に、どうしても武装の有効射程まで詰められない。強引にいけば先にスタッガーを取られ、致命的なダメージを負うだろう。チェーンソーの直撃でもひっくり返せない程に。

 

ならばどうする。決まっている。先にスタッガーを取りチェーンソーで追撃。その後、恥も外聞も無くアサルトブーストで逃走すればいい。リハビリ途中だからか、ヴォルタはまともに機動出来ていない。背を向け逃げても有効な追撃はされないはずだ。

 

が、考える程楽でもなかった。キャノンヘッドの火力は凄まじく、迎撃に注力したヴォルタ相手では著しく不利である。つまり、不利と自覚している距離に自ら踏み込まなければならないのだ。明確な死線を超えられるか否か。超えられなければ負けるだけだ。

 

「はははっ、強えぇなぁヴォルタさん!リハビリ中とは思えないぜ!」

 

虚勢を張りながらアサルトブーストを起動し、真っすぐに突っ込むシオン。一番危険なのは中途半端な近距離に留まり続けることだ。ならば、一気に距離を詰め超接近戦に持ち込むしかない。

 

『来やがれ、叩き潰してやろうじゃねえか!』

 

咆哮と共に放たれたミサイルを掻い潜り、次いで二連グレネードもクイックブーストでかわす。しかし、回避地点を読んで放たれた大型グレネードがトラルテクトリに直撃した。更にショットガンを撃ち込まれスタッガーに陥ってしまう。

 

『おらぁっ!』

 

ヴォルタは苦痛に顔を歪めながらもアサルトブーストを起動、そのままの勢いでトラルテクトリにぶつかり吹き飛ばした。APが激減し、最早風前の灯である。だが、シオンは決して諦めない。行動可能になった瞬間、銃火器を乱射しながら再び突っ込んだ。

 

「まだまだぁ!」

 

キャノンヘッドの武装は高火力だ。が、その代償として隙が大きい。特にグレネードは装填時間が長く、連射は利かなかった。だからこそシオンは前に出る。相手の武装が使えない内に出来る限り銃弾を撃ち込み、スタッガーからのワンチャンスに賭けていた。

 

マシンガンとバーストハンドガンで猛攻を仕掛けるシオン。無数の銃弾はばらけること無くキャノンヘッドの装甲を削り、衝撃を蓄積させていく。苦し紛れのショットガンが火を吹くが、直撃を受けても怯まず攻撃を続行した。

 

『終わらねえぞ!』

 

距離が近過ぎる。それを自覚した上でヴォルタは装填が終わったグレネードをぶっ放す。削り合いならこちらの土俵だ、爆風が自身を巻き込んでも構わない。敵ACではなく地面に撃ち込まれたグレネードは、周囲を凄まじい爆発で包み込んだ。

 

しかし、それでもシオンは止まらない。スタッガーするギリギリで耐え凌ぎ、左腕部武装をチェーンソーに持ち替える。目の前で回転する連鎖刃から目を逸らさず、二連グレネードを発射しようとしたヴォルタだが僅かに遅れてしまった。

 

「こっちの番だ!」

 

最速のタイミングでシオンがチェーンソーを叩きつける。連鎖刃に削られるキャノンヘッドは即座にスタッガー、そのまま膨大なAPが失われるが撃墜までは至らない。逃げるべきか否か。即座に判断したシオンは追撃を続行した。ここで決める。そうしなければ墜とされるのは自分だ。

 

ブーストで上昇し高度を取る。頭を抑えた形でパルスプロテクションを展開した。機動に難のあるヴォルタでは、空中戦は不可能に近いはず。パルスの中に籠ったまま銃弾を撃ち下ろしていく。ヴォルタも反撃するが、強度の高い防壁を破り切れない。

 

そして。残り僅かだったAPが削られ、キャノンヘッドは撃墜された。シオンのトラルテクトリも残りAPが1割を切っており、紙一重の勝負だったことが伺える。

 

「ったく、リハビリ中の相手にここまで追い込まれるのかよ・・・・・・。強えなぁ、ヴォルタさん」

 

『クソ、慰めはいらねえよ・・・・・・!負けたのは、こっちだ』

 

息も絶え絶えなヴォルタの声。機動をギリギリまで排したあの戦い方でも、凄まじく消耗しているようだ。だが、戦意は些かも衰えていない。そのタフさに苦笑を浮かべつつ、シオンはシミュレーターの外に出る。一戦毎に相手を変えるのが今回のリハビリのようだ。

 

「お疲れ様でした。こちらをどうぞ。勿論、毒などは入っていませんよ」

 

「・・・・・・どうも」

 

水入りのボトルを差し出してきたのは五花海。とりあえず受け取るが、まさか本当に毒が入ってることは無いだろう。おそるおそる口を付けてみると、微かに塩味を含んだ水だった。僅かに薬っぽさも感じる。まさか本当に毒かと目を見開くシオンに、五花海はニコニコしながら告げた。

 

「レッドガン特製のスポーツドリンクです。まぁ、風味が独特なのでかなり薄めてありますが。お口に合ったなら何より」

 

「あぁもう、そういうのはやめてくれ。心臓に悪いんだよ全く・・・・・・」

 

軽快な口調で言われ、シオンはジト目で五花海を睨む。そんなやり取りを不機嫌そうな顔で流しつつ、次はイグアスがシミュレーターに乗り込んだ。酷く消耗しているヴォルタだが休憩は挟まないらしい。

 

「スパルタだなぁ・・・・・・」

 

そう呟いたシオンが部屋の隅に目をやると、ナイルとレッド、そして後に合流した数名のレッドガン隊員が、先の戦闘映像を確認しつつコンソールを叩いていた。表情は真剣そのものであり、何らかの分析を行っているようだ。

 

「気になりますか?わざわざレッドガンの副長まで動員していることが」

 

「いや・・・・・・そんだけヴォルタさんの復帰が望まれてんだろ。戦って分かった、ありゃバケモンだ。単騎だから攻略出来たけど、チームを組まれて連携されたら手が付けられねぇ。バカみたいな火力の叩きつけ所が分かってるよ、ヴォルタさんは」

 

五花海相手に読み合いをする気は無い。素直に感想を告げたシオンに、五花海は何度目になるかも分からない笑みを浮かべる。シオンの感想は正しい。正面切っての殴り合いにおいて、G4ヴォルタはレッドガンの中でも屈指の実力者だ。ともすれば、G1ミシガンすら凌ぐ程の。

 

装甲と火力に任せた丁寧なごり押し。被弾を前提としたその戦術は、有効と分かっていても中々取れるものではない。シオンも被弾前提の戦術を選択することは多いが、出来ることなら安全に戦いたいと考えている。被弾しないならそれに越したことは無いのだから。

 

だが、ヴォルタのキャノンヘッドには選択肢が存在しない。その上、義体を用いなければならない程の大怪我も負っているのだ。だというのに復帰を望むとは、凄まじい精神力だとシオンは思っている。

 

「お褒めに与り恐悦至極。かのルビコンの天使からそこまで言われるとは、ありがたいことです」

 

「いや、別にあんたは褒めてないんすけど・・・・・・。あとその呼び方やめてくれって」

 

「こちらのヴォルタを称賛したというのに、自身への称賛は受け取れないと?無欲な人だ」

 

「そういうわけじゃない。ただ、俺が天使なんざ柄でもないだけだ」

 

吐き捨てるような言い方に、五花海は目を細めシオンを見つめた。彼女は噂や風評を制御し切れておらず、異名に嫌悪感を覚えている。それが分かっただけでも収穫だ。更に探りを入れる為、軽い口調で問いかける。

 

「私はピッタリだと思いますが。貴方の見た目と活躍には相応しい。さて、何故そこまで忌避するのでしょう」

 

「言ってるだろ、柄じゃないって。俺はただのAC乗りだ、天使なんて崇高なもんに例えられるのは・・・・・・なんというか、嫌なんですよ」

 

「殊勝ですねぇ。では、一つアドバイスを。例え自身にそぐわぬ異名だとしても、使いようによっては力になります。事実、解放戦線の気は多少なりとも浄化されている。貴女も戦士であるのならば、不似合いな武器を振り回すのも時には有用です」

 

「は、はぁ・・・・・・」

 

真意の見えない言葉に戸惑うも、ひとまず考えてみた。つまり、ルビコンの天使という風聞を利用しろということか。確かに力にはなるだろう。実際にルビコニアン達の士気は高まっているのだから。

 

しかし、それ以上に危険が多過ぎるように思えた。五花海は何を考えこのようなアドバイスをしたのだろう。まさか本当に罠?いやいや、それにしては遠大過ぎないか?駄目だ。シオンは思考を中断し五花海に目をやる。胡散臭い笑みの裏、相手の目論見が見えてこない。

 

「・・・・・・そんなに見つめられると照れますね」

 

「茶化さないでくれよ。五花海さん、あんた何考えてるんです?」

 

「考えるも何も。今や戦友となった若者を、多少なりとも導けたらと思っているだけです。迷惑でしたら口を噤みますが・・・・・・」

 

どこまでが真実か見極められないまま、シオンは五花海から目を逸らす。やり辛い。怪しげな態度に疑わしい振る舞いは、嘘と真実が交じり合って曖昧になってしまう。

 

「正直に言ってくれ、あんたの目的はなんだ?俺をおちょくって情報を引き出そうとでもしてるのかよ」

 

「では、正直に答えましょう。貴女のことを知りたいのです、私は。戦場におけるイレギュラーは可能な限り減らさなければいけません。貴女は心強い味方ですが、同時にレッドガンを害する凶穴となり得る」

 

笑みを消し、五花海はシオンに告げる。するりと顔を近付けて、大きく愛らしい瞳を覗き込んだ。

 

「出生も知れず、まるで降って湧いたようにルビコンに現れたシオンというAC乗り。有り体に言えば警戒しているんですよ、私は。今でこそ解放戦線に属しているが、星外の勢力と手を結び裏切るかもしれない。決定的な局面で何かをやらかすかもしれない。私は卑劣な臆病者故、貴女のことを知りたいのです」

 

まるで蛇のように絡み付く視線。悪意とも敵意ともつかない感情を向けられ、シオンは微かに身を震わせた。これが五花海の真意なのか。いや、それにしては・・・・・・。

 

「ビビらせないでくれよ、震えちまう。あんた達がその気なら、俺を殺すなんて造作も無いんだからさ。必要以上に怖がらせなくてもいいんだぜ」

 

「ほう」

 

ニヤリと笑うシオンを見て、五花海はやや驚いたように吐息を漏らす。こちらの思惑を見抜いたというのか。五花海自身を警戒させることで、彼以外のレッドガンへの警戒を下げるという策謀に。

 

「俺だってあんた達とは仲良くしたい。どうせもう一蓮托生だしな」

 

「成程、思っているよりは機微を読み取れるようだ。下手な芝居は通じませんか。であれば、ヴォルタのリハビリが終わった後食事でもどうです?友好の証に奢りますよ」

 

「いいぜ、乗った。別に俺には隠す程のもんも無い。ご相伴に与ろうじゃねえか」

 

と、ここで戦闘シミュレーターの決着が着いたようだ。結果はイグアスの圧勝。距離を取って削り続け、ヴォルタの火力をほぼ全ていなしていた。相性差もあるが見事な技量である。

 

「おっと、いいタイミングですね。次は私だ。お食事、楽しみにしていますよシオン」

 

「その前に、あんたの実力も確認させてもらうよ。客観的に見りゃあ何か分かるかもしれないしな」

 

「これは気を引き締めないといけませんねぇ。では、後ほど」

 

微笑みながらシミュレーターに歩いていく五花海の背を見つめる。得体の知れない相手だ。だが、敵ではない。五花海がこちらのことを知りたいように、彼自身のことも知る必要がある。そうすれば、来たる決戦の助けにもなるはずだ。少なくとも、シオンはそう信じていた。




五花海は鯉とか龍よりも蛇だと思っています。
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