見せてもらいましょう、借り物の体でどこまで飛べるか   作:てぬてぬ@TSF

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107.ハンバーガー

レッドガン拠点の一角、五花海の私室。丁度品の整った清潔な部屋の中、シオンとイグアスはテーブルに向かい合って座っていた。

 

「で、なんで俺もいなきゃいけねえんだ。てめえらで勝手にやってろよ」

 

「まぁ、そこは五花海さんの案なんで・・・・・・。俺としちゃあ、イグアスさんと飯を食べるのも悪くないけどさ」

 

「はっ、気色悪ぃこと言うんじゃねえ。こっちはまっぴらごめんだ」

 

ぶつくさ言いつつも、イグアスは席を立とうとしない。案外付き合いがいいのだろうか。当の五花海は食事を持ってくると言い残し、この部屋を出て行ってしまっている。苛立たしげなイグアスに対し、シオンは言葉を選びながら訊ねた。

 

「なぁ、イグアスさん。ひょっとしてだけど、ヴォルタさんとは長い付き合いなのか?」

 

「ただの腐れ縁だ。てめえこそ、あの詐欺野郎と随分仲良くなったみたいじゃねえか。手のひらで転がされるのが好きなんざ、奇特な奴だ」

 

「あー、まぁ・・・・・・忠告してくれてるんだよな、多分」

 

「けっ」

 

そっぽを向くイグアスに苦笑を浮かべるシオン。それなりに付き合いが長くなるにつれ、彼のことが少しずつ分かってきた。粗暴で荒々しい態度とは裏腹に、身内には情が厚い性格の様だ。つまり、多少は信頼してくれているということか。

 

「そういえば、さっきの戦闘映像見返したんだけどさ。最後の攻防、突っ込んでいってグレネードをパルスシールドで受けたよな。あのまま引き撃ちしてた方が安全じゃなかったか?」

 

「あ?文句付けてるつもりか?」

 

「いや、純粋な疑問。俺なら怖くて飛び込めないから。もし俺がヘッドブリンガーに乗ってたら、あぁいう戦い方は出来ない。だから理由を知りたいんだ」

 

威圧にも臆さず言葉を続ける。イグアスはシオンを睨みつけるが、双方視線は逸れない。しばらく見つめ合った後、鼻を鳴らしたイグアスが口を開いた。

 

「はっ、単純な話だ。義体にも馴染めてねえ相手に無駄な時間はかけてられねえ。ヴォルタのリハビリだろうがなんだろうが、俺自身が強くならなきゃシミュレーターの意味がねえだろ」

 

思ったよりも真面目な物言いに、シオンは目を丸くする。確かに彼自身も、模擬戦の前に手加減無用と言われていたが・・・・・・存外、イグアスという男は律儀らしい。

 

「成程・・・・・・確かに戦場で無駄な時間をかけちゃられないよな。あぁクソ、俺はパルスプロテクションまで切ったってのに欠片の余裕も無かった。今度シミュレーター付き合ってくれよ、イグアスさん。個人的にさ」

 

「ガキの頼みなんざ誰が聞くか。精々お仲間と乳繰り合ってろよ」

 

「そう言わずに。リベンジしたいんだよ、俺だって。ガリアのダムの時は、手も足も出ずボッコボコだったから」

 

定期的に開催されている交流会だが、意外なことにシオンとイグアスが1vs1で戦った記録は無い。交流会自体が複数戦の連携を主眼に置いている為だ。シオンの脳裏によぎるのは苦い過去。インデックス・ダナムのバーンピカクスを借りて戦場に赴き、イグアスに一方的にやられた記憶である。

 

「・・・・・・野良犬にボコられたことを思い出させるんじゃねえ。それに、作戦目標を守ったのはてめえらだ。クソが、あれは俺達の負けなんだよ」

 

目つきが一層鋭くなってシオンを射抜く。人すら睨み殺せそうな視線は、彼が見た目通りの少女ならば泣いてしまってもおかしくない程だ。しかし、シオンは臆す素振りも無く言葉を続ける。

 

「だったらなおさら、決着付けてもいいじゃんか。正直、イグアスさんに届くかは分からないけど。挑んでみたいんだ」

 

「自分勝手に話を進めんなよ。俺が受けるメリットがどこにあるってんだ」

 

「ヴォルタさんにやったみたいに出来るだろ?そうやって成長出来るって、さっきイグアスさんが示したじゃないか」

 

「チッ。面倒臭ぇ・・・・・・」

 

イグアスが溜め息を吐いた所で部屋の扉が開いた。複数のボトルと紙袋を抱えた状態で五花海が入ってくる。どうやって扉を開けたのだろうか。

 

「お待たせしました。さぁ、早速ですがいただきましょう」

 

紙袋を受け取り中を覗くと、複数の包みが見えた。香ばしい匂いも漂ってくる。同じく確認したイグアスが眉を顰め、疑わしさを隠そうともせず五花海に訊ねた。

 

「おい。これ、どこで手に入れた」

 

「蛇の道は蛇、ということで。味は保証しますよ」

 

妙な言葉を交わす二人。シオンが包みを剥いでみると、中身はハンバーガーだった。分厚いパテにレタス、チーズも挟まっている。星外では一般的だが、ルビコンでは一度も見たことが無い代物だ。

 

「マジか。え、これ、ミールワームの肉とか・・・・・・?」

 

「いえ、ビーフ100%です。苦労しましたが、喜んでもらえたようで良かった。ささ、食べてください」

 

とんでもない高級品に驚くシオン。無論、五花海には思惑があった。反応を見るに、シオンは星外の知識を持っている。ルビコン入りする前に知ったのか、別の手段か。いずれにしろ、ルビコンにおけるハンバーガーの価値を理解しているのだろう。

 

「い、いただきます」

 

呟いてかぶりつくと、ジャンクで懐かしい味わいが口の中に広がった。シオンとなる以前、密航もしていなかった頃に食べた経験がある味。ルビコンでの食事に慣れたシオンにとって、全身を震わせる程美味しい。

 

目を輝かせながら食べる様子を、イグアスはつまらなそうに、五花海は笑みを顔に張り付けながら見守っていた。年相応に見える振る舞いだが、どこか成熟さも感じさせる。シオンに対する印象はずっとそうだ。見た目と中身が合っていない。

 

幼い義体に成人した誰かが入っているのか。いや、シオンの肉体は強化手術こそ受けているものの間違い無く生身だ。ならば、この印象は一体・・・・・・?それを確かめる為、五花海は私費を投じて星外の食べ物を用意した。何かの手がかりになると打算して。

 

「さて、我々もいただきますか。イグアスも好きだったでしょう?」

 

「おこぼれに与るつもりはねえが・・・・・・いいぜ、付き合ってやる。貸しにはしねえぞ」

 

「勿論。では、いただきます」

 

二人にとっても久しぶりのジャンクフードだ。シオンの観察もそこそこにハンバーガーを食べ始める。五花海は横目でシオンを見つめ続けていたが、イグアスは無視して懐かしい味を楽しんだ。路地裏にたむろしていた頃、飽きる程食べた味。ただの野良犬だった頃の味覚が蘇ってくる。

 

「いやぁ、美味い。ありがとな五花海さん。餌付けされるつもりは無いけど、これにはマジで感謝だ」

 

「いえいえ、喜んでもらえたなら何よりです。貴女、ひいてはルビコニアン達とは長く友誼を結びたいですからね。どうか今後とも、仲良くしてください」

 

シオンとしても理解している。わざわざ食事に誘い、ハンバーガーが出てきたのには何らかの思惑があると。ただの善意、親切と言うには五花海を理解し切れていない。恐らく、こちらの背景を見抜こうとしているのだろう。

 

その上で、シオンはリアクションを誤魔化さなかった。元々読み合いが得意な性格ではない。戦場ならばともかく、このような場所で下手に策を弄せば失態を晒してしまう。だったら、最初から隠さなければいい。いつも通り振る舞うだけで、相手は混乱するはずだ。

 

好きなだけ見抜こうとすればいい、どうせ真実には到達出来ないのだから。シオンはそう高を括っている。木っ端の独立傭兵が戦死したと思ったら、最新世代の強化人間である少女に意識が移っていた。こんな背景、信じようとする方が愚かだ。

 

シオンと五花海。互いの思考が交錯する中、イグアスはハンバーガーを食べ切り包みをくしゃりと潰した。シオンの素性も、五花海の策謀も自分には関係無い。今自分がやるべきは牙を研ぐことだ。カラスや狼を食い殺せる程に、鋭く。

 

「先行くぜ。仲良く二人でくっちゃべってな」

 

「またな、イグアスさん。今度タイマンに付き合ってくれよ」

 

シオンの言葉に返事もせず、荒々しい足取りで部屋を去るイグアス。その目は前だけを見据え、燃え盛る意思に染まっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「別に俺は構わないぞ。あいつらと戦場でやり合えないのは勿体ないが、どうせ星の外からいくらでもやってくる。今は退屈で仕方ないしな」

 

「・・・・・・はぁ」

 

あっけらかんとしたフロイトの言葉に、スネイルは溜め息を吐きつつ眉根を揉んだ。頭が痛い。かつての首席隊長は、交渉のいろはを理解する気が無いようだ。コンソールと画面に塗れている部屋の中、フロイトは小首を傾げて言う。

 

「何難しそうな顔してるんだ?いや、いつものことか。ミシガンともやりたいが、お前の考えだと出てこないんだろう?だったらあっちに着いた方が面白そうだ」

 

「そんな簡単な話ではありません。主導権を握るには駆け引きが必要になる。フロイト、貴方としても自由に戦えるに越したことは無いでしょう?」

 

「そりゃそうだが。いざとなれば勝手にやればいいだろ。いつも尻ぬぐいしてくれてるじゃないか、スネイル」

 

「分かった上で言っているのが質が悪い・・・・・・とにかく、交渉は私が進めます。妙な横槍は厳に慎むように」

 

会話を交わしつつも、フロイトはコンソールを叩き画面に目を走らせる。喫緊の問題はレッドガンによる襲撃があるか否か。この状況で攻め込んでくる程「歩く地獄」は短慮ではないはずだが、それでも警戒はしなければいけない。

 

ドーザーから横流しされた無人ヘリを巡回させ、侵攻の気配を探ってはいた。更に、MTのバズーカを流用した簡易砲台も設置を進めている。だが、出来るのはこの程度だ。もし本当に侵攻してきた場合、フロイトに頼るしかないだろう。

 

それでも強気の交渉を展開したのは、完全に主導権を渡す訳にはいかなかったからだ。最悪身柄を確保され、企業側との取り引き材料とされる場合も考えられる。とはいえ戦力差は絶対的。フロイトの強さは凄まじいが、物量で攻められれば防衛線が崩壊してしまう。拠点が墜とされ補給や整備が出来なくなれば、如何にフロイトと言えどもいずれ撃墜されるのは道理だ。

 

ミシガン率いるレッドガン、及び解放戦線の思惑は分かりやすい。いずれ来る星外からの侵攻に向けて、ひたすら戦力を整える。だからこそ交渉の余地があるとスネイルは判断していた。要は、自分達をどれだけ高く売りつけられるかだ。

 

「なぁ、スネイル。一つ提案があるんだが」

 

「・・・・・・言うだけ言ってみなさい。予想は付きますが」

 

「どうせ場所がバレてるんだ。だったら俺が出撃しても問題無いよな?」

 

どこまでも自分勝手な提案。スネイルは何度目になるかも分からない溜め息を吐き、くりくりした愛らしい瞳でフロイトを睨む。

 

「出撃するとして作戦目的は?今のルビコンに、我々が攻め入るべき勢力は存在していない。この状況下でレッドガンや解放戦線に喧嘩を売ると?入隊時の知能テストからやり直すべきですね」

 

「あるぞ。多分、ドーザー連中のいくつかが企業と繋がってる」

 

「・・・・・・は?」

 

「ざっと見た感じだけどな。お前がやってるこことここの取り引き。後はまぁ、この辺りか。動きが妙なんだよ。ドーザーにしては規則立っているというか、まるで誰かに管理されてるみたいだ。横流ししてるのは兵器じゃない、多分情報を星外に流してるんだろう」

 

横合いからコンソールを操作し、データを表示させるフロイト。一見すると違和感は覚えないそれに、何かを感じ取っているようだ。データの裏、動いてる人々の考えまで推測しているらしい。

 

こと闘争の分野において、フロイトの嗅覚は異常な程優れている。積み上げてきた経験がそうさせるのか、あるいは彼が生まれ持っていた異能か。孤立無援の状況下、その嗅覚は更に研ぎ澄まされているようだ。そして、その嗅覚をスネイルは信じている。

 

「ドーザーを先んじて潰し、恩を売ると?」

 

「それだけじゃない。情報収集能力も侮れないと思わせれば、交渉も有利に進むだろ?ま、そっちの手柄はお前にくれてやるよ。俺は戦えればそれでいい」

 

「・・・・・・」

 

傲慢だ。傲慢に過ぎる。だが、発想としては悪くない。多少無理をしてでも行動に移せば、相手からの反応も探れる。戦力差があるのなら、こちらから状況を動かしていくべきだ。

 

「まずは情報の裏を取りましょう。ドーザーと一口に括っても、この相手は相応の規模だ。星外との接触が確定し次第、出撃してもらいます。構いませんね?」

 

「はは、勿論。ようやく戻れるな、戦場に。つまらない相手だろうがしょうがない。ロックスミスを調整してくる」

 

言うが早いか駆けていくフロイト。おもちゃを見つけた子供のような振る舞いは、彼がヴェスパーに配属されてから何も変わっていない。軽くこめかみを指先で叩いた後、スネイルはコンソールと画面に向き直った。ドーザー達の裏を洗う。まずはそれからだ。




ジャンクフードなんてルビコンでは超高級品です。揚げたポテトも付ければ良かったね。
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