見せてもらいましょう、借り物の体でどこまで飛べるか   作:てぬてぬ@TSF

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108.新たな戦機

「ドーザーの一派が情報を流してる?しかも星外にって・・・・・・」

 

「あぁ。コーラル変異波形とブランチが尻尾を掴んだみたいで、今朝になって帥淑フラットウェルの所に詳細が届いた。彼らが潜んでいるのはグリッド018。今私達がいる拠点から南東に進んだ辺りにある、中央氷原のグリッドでは最大級のものだ」

 

シオンの私室。先ほど訪れたアーシルの話に彼は眉を顰めた。この状況で裏切るのは得策ではないはず。その疑問に答えるように、アーシルが言葉を続ける。

 

「小規模のドーザー勢力がひしめき合う場所らしい。海越えをしてきたドーザー達は、RaDを除いてほぼ全てがそこにいるんだ。寄り合い所帯として、何度か仲違いしつつ均衡を保っていたんだけど・・・・・・ウォッチポイント・アルファでの決戦後、彼らをまとめ上げた者がいる。だけど、どういう人物かはまだ分かっていない」

 

「そいつは・・・・・・組織としてかなりの規模になってるってことか?」

 

「うん。数だけで言うならRaDを凌いでいる。そこで、緊急の会議を経て作戦行動が決定された。解放戦線とレッドガン、そしてハンドラー・ウォルターの傭兵達。複数のACで強襲を仕掛け、裏切者を一掃する。その作戦にシオンも参加してほしいんだ」

 

「そりゃまた豪勢な話だ。いいぜ、参加する。他のメンバーは?」

 

即断即決するシオン。久しぶりの実戦になるが気負いは無い。日々の鍛錬に加え、交流会で散々ボコボコにされているのだ。その分経験は積まれている。成果を見せる時だ。

 

「解放戦線からはシオンの他にラスティ。レッドガンからはG5イグアスとG6レッド。そして、独立傭兵からはレイヴンとシャルトルーズ。最後にRaDからチャティ・スティック。計7機による同時強襲作戦になる予定だ」

 

「いや、マジでデカい任務だな。こりゃ気合い入れていかないと。作戦の詳細と、あと期日はどんな感じだ?」

 

「まだ詳細は詰めている段階だけど、どれだけ長くなっても一週間以内かな。こうしている内にも情報が流れている可能性が高い、出来るだけ早く対処しないと」

 

「りょーかい。諸々が決まったら連絡してくれ。さて、ちょっとトラルテクトリの様子を見てくる。整備は完璧だろうけど、自分で確かめとかないとな」

 

椅子代わりにしていたベッドから立ち上がり、シオンは軽い足取りで自室を去る。残されたアーシルはその背を見送りつつ苦笑を浮かべた。大戦後、初の共同作戦。本来ならば緊張してもおかしくないのに、彼女はいつも通りのようだ。どこか安心した面持ちで、アーシルも部屋を後にするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

『つまり、今回はかなりの広範囲が作戦区域になる。解放戦線の土建屋からグリッド018の全体図を共有されたが・・・・・・純粋な規模で言えば私らの根城の三倍近い。やれやれ、グリッドの限界を超えてるんじゃないかね』

 

呆れたような口調で言い、カーラは軽く溜め息を吐いた。グリッド018。アイビスの火以前の遺物は、ルビコンの各地にまだ現存している。018はその中でも最大級のものだ。あちらこちらが崩落し建築物としての体を成していないが、それ故にドーザー達の恰好の住処となっていた。

 

「だからこそ、AC7機という戦力を同時投入する、か。理には適っているが・・・・・・」

 

ウォルターは作戦の内容を精査しつつ、621を出撃させるデメリットを勘案する。いくら大規模といっても相手はドーザー、621の投入は過剰に思えた。だが、今回は各組織が戦力を出し合い協同することに意味がある。ルビコンの内外に同盟の盤石を示す為だ。

 

現状の協力関係はウォッチポイント・アルファを巡る戦いの中で発生した。その後の「話し合い」の結果正式な同盟が結ばれたわけだが、勢力基盤としては解放戦線が圧倒している。わざわざ同胞を殺してきた奴らと協力することに、嫌悪感を示すルビコニアンも多かった。

 

故に今回の作戦だ。解放戦線、レッドガン、そしてハンドラー・ウォルターの派閥。彼らが十全に協力し、ルビコンの未来を切り開いていけると証明しなくてはならない。過剰にも思える戦力投入はその為だ。万が一にも、失敗は許されないのである。

 

「ミシガン達は後方支援に回ったようだ。G6レッド・・・・・・以前戦闘映像を見たが、他の参加者からは一段落ちるな。いや、我を出さないという点では適当か」

 

『ま、あの鬼軍曹の事だ。何か考えがあるんだろうさ。それよりもウォルター、ビジターの調子はどうだい?交流会で一度墜とされたらしいけど』

 

「・・・・・・。以前と変わらない。いや、多少バイタルの変化が起きやすくはなっている。感情が活性化しているのだろう」

 

621。ハンドラー・ウォルターが使役する猟犬だったはずの彼女は、飼い主を振り回す存在になっていた。最早主従が逆転してしまっている。解放戦線とレッドガン、そしてウォルター達を結び付けたのが621であるのなら、その遠大な思考を測り切れるはずも無かった。

 

『悩む必要は無いさ。あんたはまだ手綱を離しちゃいない。精々腕に力を込めておくんだね』

 

見透かしたようなカーラの言葉は、ウォルターの心に深く食い込んだ。例えオーバーシアーとしての使命を失ったとしても、まだやるべきことが残っている。そうだ、621を見捨てるわけにはいかない。意味を与えたのは他ならぬ自分なのだから。

 

「・・・・・・分かっている。心配しなくとも、力を緩める気は無い」

 

『相変わらず頑なだねぇ。まぁいいさ、あんたの心の内はあんた自身で解決するしかないんだから。っと、チャティから連絡だ。それぞれの作戦地域、第一案か・・・・・・』

 

「こちらにも届いたようだ。ふむ・・・・・・」

 

同時に届いたデータログ。ミシガンとフラットウェルの名が記された作戦の第一案は、既に高い完成度を誇っていた。詳細を確認しても穴は見当たらない。特徴的なのは、オペレーターは統一せずそれぞれのACに一人ずつ付く形になってることだ。

 

更に、オペレーター同士の情報共有を円滑にする為作戦本部を設置するらしい。アイスワーム戦の時よりも徹底している。ベイラムとアーキバスが共闘するのとは違い、腹の探り合いをする必要が無いからだろうか。

 

『文句のつけようが無いね、こりゃ。ここまでの規模になると本職に口出しは出来ないか。やれやれ、強者の側ってのはどうにもむず痒い』

 

「気を抜くな、カーラ。規模が大きくなればその分摩擦が増える。些細なことで瓦解する可能性が高まるのは、身に染みているだろう」

 

『はっ、分かってるよ。やるべきことはきっちりとやらせてもらうさ。今回は間に合わないが、色々と準備してる玩具もあるしね』

 

不穏な物言いを受け流しつつ、ウォルターは再び考える。広大なグリッド018が戦場になるならば、621の軽快な機動力は武器になるはずだ。その分他ACとの連携は難しいが、連携が必要な程の強敵が待ち構えている可能性は低い。

 

だからこそ、適切にオペレートしなくてはならない。想定外の戦力を事前に察知することが、今回の己の使命だ。ウォルターは作戦案を読み込み精査していく。その執拗さは、不安や畏れの裏返しだという自覚を抱きながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

ベアトリーチェ。グリッド018に潜む雑多なドーザー達を統率しているのは、そのような名前の人物らしい。その他のプロフィールや背景はエアやブランチを以てしても調べられず、まるで降って湧いたような存在である。

 

「・・・・・・うーん」

 

トラルテクトルの整備状況を確認し、部屋に戻ってきたシオンはその情報に首を傾げた。名前以外の一切が不明な存在。このルビコンにそんな奴がいるとは思えないと考えた所で、自身の境遇を思い出す。

 

「俺が言えたことじゃないか」

 

呟いて、タブレットから目を離すシオン。相手のボスの名が分かった所で、自分のやることは変わらない。いつも通り全力を尽くすだけだ。どうやら作戦区域の詳細も判明したようで、シオンが侵攻する位置は崩落部分が目立つ代わりに全体的に広い。トラルテクトリの巡航性能を期待しての配置だろう。

 

「さて、どう攻めようかな・・・・・・」

 

敵戦力は、分かっている範囲では改造MTが多数。更には大型兵器も保有している可能性が高いとのこと。いずれも射撃や砲撃を主とする武装が多く、崩落部分を移動中に注意しなくてはならない。

 

純粋な射撃や砲撃は対応も容易いが、気を付けるべきはミサイル砲台からの攻撃だろう。誘導性能を持つミサイルは掻い潜るのには苦労する。その量が豊富ならなおさらだ。アサルトブーストで振り切れればいいが、EN管理を怠れば容易く撃墜されてしまう。

 

「どのタイミングで容量を使い切るか・・・・・・いっそ無駄なQBで調整するのもありか?」

 

脳内でシミュレートを始めたシオンは、タブレットを睨みながらブツブツと呟いた。アセンを変更したからこそ、取れる選択肢は増えている。実戦を前にあれこれ考えるのは恒例だが、彼はこの工程を楽しんでもいた。

 

実戦では何が起こるか分からない。最善を尽くしても戦死の危険は常にある。それでも、シオンは経験と思考を積み重ねる。何度でも何度でも繰り返し、生存の可能性を高めようとする。死を経験し、少女の肉体で二度目の生を得たからこその執念深さ。それが彼の武器だ。

 

「射線を切りつつEN回復して、後は多少の被弾は許容しないとな。集中攻撃を受けないよう陽動分は喰らったって構わねえ。要は墜とされず接敵出来ればいいんだ。ただ、ここまで広大な距離だと・・・・・・」

 

死への恐怖を少しでも減らす為の行為は、いつの間にか楽しげすら覚えるようになっていた。それは、第二の人生を受け入れ始めたからだろうか。いや、違う。ふと浮かんだ考えをシオンは否定する。自分は、この少女とは違う人間なのだ。

 

「っ」

 

思考が脱線する。もしも星外からの侵攻を撃退し、生き残った場合はどう生きていくべきなのか。決まっている。元の人格である少女に肉体を返さなくては。自分はただ、間借りしているだけなのだから。

 

だが、しかし。今に至るまでその方法は見つかっていない。そもそも、この考えは誰にも話せていないのだ。最早親友と言っていい付き合いのアーシルやツィイー、戦友である交流会のメンバーにすら、何も伝えられていない。

 

どうすればいい?どうすれば、元の少女に肉体を返せる?何も分からない。大体、自分はこの肉体を手放す気が本当にあるのか?名前を与えられ、奔放に振る舞いながら戦い続け。少女とは違う『シオン』を他者に刻み付けているというのに。

 

「・・・・・・クソ」

 

悪態を吐きベッドに寝転がる。心の奥底に押し込んでいた、誰とも共有出来ない悩みが噴き出してきた。これでは脳内シミュレートどころではない。タブレットを放り出し、着替えないまま目を閉じる。こうなってしまったら無理やりにでも寝るしかない。

 

シオンはずっと負い目を抱えている。本来の持ち主に、この肉体を返さなくてはならないと。誰にも話せない悩みは肥大化し、彼の心の中に居座っていた。普段は表に出ないよう振る舞っていても、それが消えることは無い。消えようが無いのだ。今の自分は、この少女として生きているのだから。

 

久しぶりの罪悪感に、シオンは枕に顔を埋め呻き声を押し殺す。これは良くない。作戦参加が決まった以上、この苦悩は隙になる。まずは生き残らなければ、少女に体を返すことも不可能だ。そう自分に言い聞かせながら、ゆっくりと枕から顔を離す。息を大きく吸い、吐いた。

 

「はあぁ・・・・・・目の前のことに集中しろ。これを考えるのは、全て終わってからだ」

 

固い声で言うシオンの表情は、幼げな見た目に似合わず厳めしい。普段の快活さとは真逆の、疲れ切った老人のような雰囲気を纏っていた。




DLCとかで多数のACが入り乱れる大規模ミッションが来てほしいなぁ!アイスワーム戦みたいなさぁ!
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