見せてもらいましょう、借り物の体でどこまで飛べるか 作:てぬてぬ@TSF
「フロイト!戻れと言っているのです、撤退しなさい!」
『勿体ないだろ。それにこのままとんぼ返りじゃなんの変化も起こせない。たまには強引にいくのも面白いんじゃないか?なぁスネイル』
「馬鹿なことを・・・・・・!」
画面を握りこぶしで叩き、表情を歪ませたスネイルは呻くように呟く。まさかグリッド018への襲撃が先を越されるとは。そしてフロイトが命令を無視して突っ込んでいくとは。考えられる中でも最悪に近い状況だ。
「ええい、戦力の解析は!?解放戦線側も含んで構いません!」
「す、進めていますが規模が大き過ぎて・・・・・・!5機以上のACがグリッド周辺にいるのはどうにか観測出来ましたが・・・・・・」
悲鳴のようなスタッフの返事。スネイルが調べた限り、ドーザー側にACは配備されていない。つまり、観測された5機以上のACは解放戦線勢力に属するものだ。グリッド018を遠巻きに戦線を構築しているMT部隊も含め、かなり大規模な作戦を仕掛けているらしい。
そんな所にフロイトが突っ込んだらどうなるか。決まっている、大惨事だ。解放戦線に恩を売るという建前も忘れ、好き勝手暴れ回るに違いない。どうにかして止めなければいけないが、その手段は現状どこにも無かった。
そもそも、スネイルの手元にはフロイト以外の戦力が存在しない。最低限武装している拠点周辺ならともかく、グリッド018は遠く離れている。AC用の輸送ヘリを遠隔で飛ばしはしたが、フロイトを止める助けにはならない。
「どこまで手を煩わせる・・・・・・!」
怨嗟に満ちたスネイルの言葉。アーキバスから攫われ、貧相な拠点で資材をやりくりし。なんとか出撃にこぎつけたと思ったらこれだ。愛らしい顔つきは血管が浮き出てもおかしくない程に歪み、ギリギリと歯ぎしりの音が鳴る。
『安心しろよ、ACにはこちらからは仕掛けない。ドーザーのやつらだけにするさ。だけどまぁ、あっちから仕掛けてきたらしょうがないよな?』
それを望んでるのは他ならぬお前だ。出かかった怒号をなんとか飲み込み、スネイルは必死で思考を巡らせる。こうなってはもうどうしようもない。ならばいっそ・・・・・・。
「っ・・・・・・ミドル・フラットウェルへの回線に繋ぎなさい。交渉を行います」
スタッフに命じた後、眉間を指で揉み込み怒りを抑えようとするスネイル。業腹にも程があるが、仕方ない。無理やりにでも恩を売り付けなければ。
「さて、もうある程度は片付いてるか。多分ウォルターの猟犬だな」
スネイルの苦労も知らず、いや、理解した上でフロイトは楽しげに呟いた。進んでいるルート上にグリッド018の防衛機構は存在しない。全てが無力化されている。その破壊痕から武装を特定、この先にいるであろうACを見抜く。超人的な観察力だ。
「俺の分が残ってればいいが・・・・・・」
呑気な言葉と共にアサルトブーストを起動、グリッドの奥へと突っ込んでいく。彼は経験と勘から、接敵するであろう地点まで把握していた。あっという間にそこまで到達し、スキャンを走らせる。
「おっ」
玩を見つけた子供のように目を輝かせるフロイト。視線の先には一機のACが佇んでいた。探査用のフレームにライフル、ミサイル、実弾オービット、そしてパルスブレードを装備した機体。間違い無い、ウォルターの猟犬だ。
『元V.Ⅰ、フロイト・・・・・・何故ここに来た』
「お前がハンドラー・ウォルターか。何、ここにドーザーが集まってるのをスネイルが勘付いてな。遊びに来たんだが・・・・・・先客がいたとは知らなかった」
気軽に返答しながらも、その視線はウォルターの猟犬・・・・・・621を捉えて離さない。621は思う。やはり、フロイトは何も変わっていないと。視線から感じるのは期待と高揚。敵意や殺意は微塵も感じない。それは、繰り返しの中で戦ってきた彼とまるで同じだった。
【フロイト。あなたはどうするの?この奥には、まだドーザーがいると思うけど】
「誘ってるのか?しかし、まぁ・・・・・・こうして実際に会ってみると、映像だけじゃ気付けなかったことが多いな。お前、なんでそんなに傷だらけなんだ。馬鹿みたい数の死線を潜ってきてるのか。俺が知ってる中ではドルマヤン並だな。面白い」
ペラペラと喋るフロイトだが、その内容にウォルター、そしてエアは戦慄した。感覚的な言葉は、しかし「繰り返し」のことを差しているとしか思えない。見合っただけでそこまで勘付いたというのか。
『レイヴン、彼は危険です・・・・・・!話は聞いていましたが、ここまでなんて・・・・・・!』
『今戦うにはリスクが高い。僚機が合流するまで退くことも視野に入れろ、621』
【大丈夫。私は大丈夫だよ】
焦りを滲ませる二人に、621は安心させるように機械音声を返す。心配されているという事実が嬉しい。場違いにも思える感情を覚えつつ、フロイトのロックスミスを見つめた。
【戦うなら、相手になる。他の仲間に手は出させない】
621のACから戦意が溢れ出し、フロイトは楽しげに微笑んだ。が、すぐに笑みを消し考え込む。予想外の反応に、621の眉がぴくりと動いた。繰り返しの中の彼なら乗ってくるはず。何を考えているのか。
「んー。本当はお前とやり合いたいが・・・・・・たまにはスネイルの顔を立ててやらないとな。キンキン声で怒鳴られると耳が痛くなる。あの義体は失敗だったか」
【・・・・・・そう。じゃあ、どうする?】
「友軍識別用のタグを送る。この先にはまだ獲物が残ってるんだろう?どっちが多く墜とせるか、競争といこうじゃないか」
【いいよ、分かった。もう始めていい?】
「あぁ」
言うが早いか、2機のACは機動を開始する。連れだってグリッドの奥に進む姿は、協同する僚機にしか見えなかった。
『何故そうなる・・・・・・?エア、グリッドの分析結果は?』
『ま、まだです。プロテクトが思ったよりも強固で・・・・・・。それよりも、本当に大丈夫でしょうか?』
機械音声を用いることで、エアはウォルターや他の人間とも会話することが可能になっている。しかし、この展開は二人にとっても予想外だ。フロイトの言葉通りに送られてきた友軍タグを受けるべきか、否か。いや、もう621は行動している。受けるしかあるまい。
『こちらウォルター。作戦本部、聞こえていたか?』
『あぁ。こちらにもスネイルから通信があった。我々に協力する、と。真意は不明だが、現状フロイト以外に動きは無い。判断が難しいが・・・・・・お前はどう見る、ハンドラー』
『・・・・・・危険ではある。だが、621自身が共闘を望んでいる。作戦はこのまま進めてくれ』
『いいだろう。では、頼んだぞ』
本部からの通信が途切れると同時、ウォルターは数秒間瞑目する。今の判断は正しかっただろうか。そして、この不安をフラットウェルに見抜かれていないだろうか。最近の自分はまるで迷子になった幼子のようだ。先が見えず、怯えてばかりいる。
『621、右前方に擬装された砲台が複数設置されている。留意しろ』
それでも、オペレーターの任は全うしなくては。例え621がどのような境遇であったとしても、何を考え何を信じているとしても、ルビコン3に彼女を送り込んだのは自分だ。どれほど迷ったとしても、これだけはやり遂げなければならない。
『ウォルター、グリッド018のプロテクトを突破しました!防衛兵器の配置はすぐにでも解析出来ます!』
『了解した、エア。621、聞こえたな?そちらに共有する』
やるべきことをやる。その一心を以て、ウォルターは621のオペレートを続けた。内心の不安を気取られぬよう、歯を食いしばりながら。
「ふぅー、この辺りは一掃したか。アーシル、他のとこの様子はどうだ?なんかフロイトが乱入してきたとか言ってたけど」
『それが・・・・・・レイヴンとフロイトは手を組んでグリッド018深部まで攻め入っている。想定の三倍近い速度だ。一応、本部の方にも共闘の連絡はあったらしい』
「んーむ、わけ分からん展開だ。まぁ、味方してくれてる間はいいか。それじゃ、俺も奥に進むぞ」
『了解。柱周辺に多数のミサイル砲台が確認出来る、気を付けて』
一部を除いて順調な作戦に、シオンは相手の思惑を推し量る。ここまでそれなりの抵抗があったとはいえ、苛烈という程ではない。なんというか、ドーザー側から必死さを感じないのだ。本拠地としている場所が蹂躙されているというのに、妙に整然としている。
あるいは無人兵器が多いからなのかもしれないが・・・・・・なんにせよ、この奥に何かが待ち構えている予感がしていた。次の足場に移動しつつ周囲を警戒する。アーシルの言葉通り複数のミサイル砲台と、後は盾持ちのMTが柱の影から姿を現した。
「さて、ここも墜とさせてもらうぜ!」
ミサイルのロック距離ギリギリでENを回復させ、アサルトブーストで一気に突っ込む。様々な射線から放たれるミサイルを容易く掻い潜り、最も近い砲台に蹴りを見舞った。射撃でトドメを刺し、出遅れたらしい近くのMTにチェーンソーを振りかぶる。連鎖刃の回転は盾ごとMTを削り取り、あっという間に爆散させてしまった。
久しぶりの実戦で、シオンは以前よりも洗練された動きを見せている。鍛錬を怠らなかったからか、交流会の影響か。基本の操縦技術が研ぎ澄まされているようだ。次々と防衛戦力を撃破し、奥へと侵攻していく。と、
「・・・・・・ん?あれは・・・・・・」
目視したのは広めの足場。柱の周囲にある空間に、見慣れない兵器が鎮座していた。一見するとRaD製の可変機構持ちの重MT、トイボックスに似通っている。しかし、その大きさはACの2倍近い。装甲も堅牢になっているのか、トイボックスに比べて無骨さを増していた。
『改造MT・・・・・・データベースに情報が無い、分析を開始する。何をしてくるか分からない、警戒してくれシオン』
「あいよ。まぁ、まずは周囲の砲台を・・・・・・」
不穏な相手を警戒し、砲台をミサイルで削っていこうとした瞬間。改造MTが回転を始めた。広場を転がりシオンに向かってくるが、そのままでは落下してしまうはず。訝しげに思っていると、装甲の一部が開き何かの穴を覗かせる。回転を止めないまま、そこからブースタの炎が噴き出した。
「なんだそりゃ!?」
まるで火車のような様相になった重MTが浮き上がる。かなりの速度で突っ込んでくるそれに、シオンの判断が僅かに鈍った。距離を詰めるか、下がるか。数瞬の後後退しようとするが、既に重MTは目前だ。
元となったトイボックスは、丸まった装甲内部に無数の銃火器を有していた。一斉射の火力は凄まじく、被弾は避けなければ。回り込みいなそうとするシオンは、しかし己の判断ミスを自覚した。重MTの周囲の温度が上がり、トラルテクトリがACS障害を起こしかけている。そして、
『シオン、下がるんだ!』
改造MTが変形した。内部に隠されていたのは三連式のパイルバンカー。三本の杭を同時に射出する常識外れの武装だ。三角形のように配置されているそれは、どれか一本でも当たればいいとばかりにトラルテクトリ目掛けて射出された。
「がっ・・・・・・!」
衝撃。咄嗟にクイックブーストを吹かしたシオンだが、一本の杭がコアパーツを削り取る。コックピット露出まではいかなくとも手酷い損傷だ。スタッガーに追い込まれ、更に改造MTが装甲を叩きつけるようにタックルしてきた。再びの衝撃にシオンの体が揺れ、視界がスパークする。
「舐めんじゃ、ねぇっ!」
組み合うような距離で、シオンは銃口を押し付けたまま引き金を引いた。マシンガンとバーストハンドガンの弾が改造MTの内部構造を蹂躙する。僅かに押し戻した所でチェーンソーに持ち替え、三連パイルバンカーごと粉砕した。
改造MTは爆散。リペアキットで少しでも装甲を回復させる。危ない所だった。冷や汗と共に熱い息を吐くシオンに、アーシルから絶望的な通信が届く。
『同系統の改造MTを3機確認!こちらに突っ込んでくる!』
「マジかよ・・・・・・」
宙を舞い迫ってくる3機の改造MT。シオンは顔を引きつらせながらも、迎撃の為ブースタを吹かした。
おもちゃ箱の中身は色々あった方が笑えますよね。