見せてもらいましょう、借り物の体でどこまで飛べるか 作:てぬてぬ@TSF
「馬鹿げてやがる・・・・・・!頭おかしいんじゃねえのか!」
目の前の巨大兵器を見て吐き捨てるイグアスは、しかし無数のミサイルを軽くいなす。パルス防壁の先に鎮座するそれは、遠目にも異様な姿をしていた。履帯付きの広い台座に何十基ものミサイル砲台が積み上がっている。
歪にねじれた塔の如き威容。バランス制御はどうなっているのだろうか。タチの悪いことに、周囲にはパルスプロテクションを展開するMTが4機も確認されている。このままではこちらの攻撃は一切通らず、ミサイルの嵐に晒され続けてしまうだろう。
『G5!その珍妙な兵器は台座下部が給弾機構と繋がっているようだ!つまり弾切れは無い!』
「だったら突っ込むしかねえだろ!おいG6、俺は正面から行く!てめぇは側面に回り込め!」
オペレーターであるミシガンから命じられる前に、イグアスが率先して戦術を提案する。その指示は的確だ。交流会への参加によって、AC乗りの腕以外の部分も成長しているらしい。
『いい策だG5!帰還したら日記帳に書き込んでおけ!G6、ミサイルの弾幕は西側がやや薄い!回り込むなら左側面だ!』
『りょ、了解!』
自身の策を即座にフォローされ、口の端を歪めながら機を伺うイグアス。重要なのはミサイルの撃ち終わり。いくらミサイルが給弾され続けるとしても、装填時間まで無くなるわけではない。少しでも被弾を減らし突入するにはタイミングが重要だ。
その上、イグアスはレッドの為に囮になろうともしている。正面を請け負ったのはそういう理由もあった。レッドの実力を侮ってはいない。だが、あの巨大兵器相手では荷が重いのも確かだ。道理から外れた存在には、対処するのに相応の経験がいる。
『ミサイルの装填時間の解析も終わりました。どうやら節操無く積み込んだようで、僅かながら隙が伺える。データを送りましょう、頼みましたよG5』
「こっちの回線に割り込んできてんじゃねえ!」
一つ間違えばミサイルの嵐に飲み込まれる状況下。レッドのオペレーターを務めている五花海からの横槍に怒鳴りつつ、イグアスは微塵も躊躇せず突っ込んだ。ヘッドブリンガーに搭載されているブースタは汎用性が高く、アサルトブーストの燃費も悪くない。一度のEN回復を挟めば巨大兵器まで接敵出来るだろう。・・・・・・回避行動を行わないのであれば。
「おら、好きなだけ撃ってきやがれ!」
多連装、垂直、包囲、双対、高誘導・・・・・・ありとあらゆるミサイルが巨大兵器から放たれ、ヘッドブリンガーに襲いかかる。その数は膨大であり、スタッガーを取られれば一瞬で消し炭になってしまう程だ。
が、イグアスはその嵐に飲み込まれない。アサルトブーストにクイックブーストを織り交ぜて掻い潜る。どうしても避けられないミサイルのみ装甲で受け、ぐんぐん距離を詰めていった。五花海が送ってきたデータが役に立っているのは業腹だが、順調だ。
『続きます!』
ここで左側面に回り込んだレッドも突撃を開始。各ミサイルが装填中の隙を突いた見事なタイミングだ。イグアスもENを回復させた後再びアサルトブーストを吹かし、巨大兵器の懐まで潜り込む。
「はっ、ご到着だ!見た目だけで大したことねえな!」
この距離ではミサイルもほぼ意味を為さない。故にパルスプロテクションを展開しているMTを優先した。この場から逃げられては面倒なことになりかねないからだ。レッドもそれは心得ていて、2機のACはたちまち4機のMTを粉砕する。巨大兵器は給弾機構と繋がっている為、短時間での撤退は不可能である。
───結果、G5イグアス及びG6レッドは柱周囲の足場を迅速に制圧。補給シェルパによる補給を済ませた後、更なる奥へと進撃していった。
「これはまた、熱烈な歓迎だな」
スティールヘイズを駆るラスティは、目の前に展開されているMT群に苦笑を浮かべた。そのどれもが大型のショットガンと盾を装備している。遠距離の攻撃は盾で耐え、近距離はショットガンで迎撃する。割り切った構成だ。
スティールヘイズは近接戦と得意とする軽量二脚な為、相性はいいとは言えない。バーストライフルとプラズマミサイルでちまちま削れば安全に勝てるだろうが、それでは時間がかかり過ぎる。つまり、相手の射程に踏み込まなければならない。
『奥に妙な熱源反応がある。ラスティ、手早く片付けられるか?』
「力を尽くそう、帥淑フラットウェル。他の侵攻状況は?」
『グリッド内部に突入出来ていないのはシャルトルーズの組だけだ。大量の無人兵器に迎撃されている。ただ、ルートの変更は無い。ブリーフィング通り進めてくれ』
「了解」
言うが早いか突撃を開始するラスティ。陣形を組んでいるMT達を見下ろすように接近し、クイックブーストで一気に距離を詰めた。まるで目の前から消えるような急加速は、MTに搭載されているFCSでは捉え切れない。
後方に回ると同時に銃弾を叩き込み、こちらに振り向く前に一機撃破する。更にレーザースライサーで振り向き終わったMTを盾ごと両断。他のMTがショットガンを放とうとするもクイックブーストで離脱し、散弾は虚しく空を切った。
その後も、ラスティは機動力を活かし次々とMTを撃破していく。全く危なげない動きは以前よりも洗練されているようだ。交流会の影響か、あるいはドルマヤンに師事したからか。元より高い実力はより一層磨かれていた。と、
『レイヴンがフロイトを伴いグリッド018最奥に到達した。大型C兵器及び大量の改造MT、未登録のACを一機確認。至急増援に向かってくれ。急行用のルートを送る』
フラットウェルの言葉と共に送られてきたルートは、リスクがある代わりに最短で進めるもの。声色こそ冷静だが事態は切迫しているらしい。ラスティは疲労を一切見せず、頷いて言葉を返した。
「了解した。戦友の元に急ぐとしよう」
時は少し遡る。一時共闘を受け入れたレイヴンはグリッド018の更に奥へと侵攻。夥しい量の防衛兵器をフロイトと共に叩き潰しながら、殆ど損害も無く最奥付近まで辿り着いていた。
『たまにはいいな、直接戦うんじゃなく競い合うのも。で、どっちが多く墜としたんだ?途中から夢中で数えてなかった』
【どうだろう。私も分からない】
戦場にしてはあまりにも呑気な会話に、ウォルターは目元を揉みながら息を吐く。例え呑気だとしても戦果は凄まじかった。AC2機で上げたものとはとても思えない。やはり、レイヴンもフロイトも傑出した実力を持っている。
『・・・・・・種類を問わず数だけならばレイヴンが78機、フロイトが76機です。伝えるかどうかはウォルターに任せます』
エアに補足された内容をウォルターは二人に伝えなかった。それよりも重要なのは進む先にある熱源反応。グリッドの最奥に、相当の戦力が集まっていると推測出来る。
「その先に大量の熱源反応がある。恐らくは最奥に陣取る本隊だろう、警戒を切らさず進め」
【うん。じゃあ、行こう】
『次は何が出てくるか。楽しい奴だといいんだが』
緊張感の欠片も無く、2機のACは前進していった。最奥付近だというのに崩落箇所は多く、ドーザー達が潜むにしても老朽化が激しい。インデックス・ダナムが再現した設計図と比べ、居住区画が殆ど残っていないようだ。
『ウォルター、ようやくプロテクトを突破出来ました。ドーザー達はほぼ全てが1区画に押し込められているようです。その・・・・・・コーラルを摂取し、誰もが酩酊している映像が確認されています』
「今までの防衛機構が無人に偏っていたのはその為か。しかし、何故・・・・・・?ドーザーを纏めていると思われる存在、ベアトリーチェについては?」
『それが、徹底的にデータを消去した形跡しかありませんでした。彼らのボスについてだけ、不自然な程に。すみません、データの復旧にはまだ時間がかかるかと。そして、この先にある熱源反応ですが、MTや大型兵器、ACと多種多様です。数が多く、細かい判別は不可能でした』
「分かった、そのままデータの復旧を進めてくれ」
そう返答しつつ、険しい目つきで画面を睨むウォルター。本来ならば迎撃に当たるべきドーザー達はコーラルによって乱痴気騒ぎに興じ、ベアトリーチェというボスの存在は未だ掴めない。奇妙かつ不気味な感覚に襲われ、惑わされないよう気を引き締める。
エアのハッキングによれば、この先には多数の兵器が待ち構えているようだ。621とフロイトなら容易く撃破してしまうかもしれない。そんな甘い考えを頭から叩き出し、本部に情報を共有する。返ってきた指示は突入。ベアトリーチェがどこにいるか分からない以上、時間をかけるのは得策ではないという判断か。
「621、本部から突入の許可が出た。だが、無理はするな」
【分かった。大丈夫、必ず戻ってくるから】
『じゃあ俺も行こう。なんとなく、面白い気配が漂ってきてるしな』
アサルトブーストを起動する621に、フロイトは当然のように追従する。このまま最後まで同行する気なのだろう。ウォルターはまだ裏切りを警戒していたが、フロイトにそのような考えは一切無い。621との共闘を心から楽しんでいるだけだ。
2機のACはどんどん進み、熱源反応の集中している箇所に近付いていく。遠くに見えてきたのは、熱源反応の正体と思われる無数の兵器。様々な改造MTが陣を組み、中央には奇妙な形状をした巨大兵器が確認出来る。
『あれは、シースパイダー!?なぜここに・・・・・・』
エアの驚いた声。かつて621が「海越え」を果たした際に戦ったC兵器が、何故かグリッド018に配備されていた。封鎖機構が運用していたものを鹵獲したのか。だとしてもこのような場所にあるのは不可解だ。
『へぇ、ACもいるのか』
大軍勢の中、フロイトは目敏くACが紛れ込んでいるのを見つける。MIND ALPHAと呼ばれるフレーム一式に、EN系の武装が施されている機体だ。フロイトの知る限り初見のACは、アリーナに登録されているものではない。
「解析の結果は不明。だが、あの機体構成は・・・・・・オールマインドか?」
なんの情報も登録されていない正体不明のAC。だが、ウォルターには心当たりがあった。621が繰り返しの中で蓄積してきた知識。以前データとして目を通したそれらの中に、同じ機体構成のACがいたのを覚えている。
トランスクライバー。独立傭兵ケイト・マークソンとして依頼を送ってきたオールマインドの乗機だ。ということは、ベアトリーチェの正体はオールマインドなのか?本部にデータを送りつつも、ウォルターの顔には困惑が広がっていた。
621も気付いている。相手がオールマインドのACと酷似していることは。だが、関係無い。敵として相対する以上、倒すだけだ。それよりも警戒すべきはシースパイダーの方。膨大な経験から動きは見切りやすいが、その火力と攻撃範囲は脅威である。
『いいな、これは。玉石混交というんだったか。早い者勝ちだぞ、ウォルターの猟犬』
弾むような口振りで言うフロイトが先んじて突撃していく。それに続く621は、画面越しにシースパイダーを観察した。コーラルリリースの終盤、武装を変更した同兵器と戦ったこともある。今回も改造が加えられていると見るべきだろう。
目の前の現実は既に自分の手元を離れている。だからこそ、切り開かなければいけない。表情には浮かばない覚悟を以て、621は敵の大軍と接敵した。
コーラルリリースルートの最終決戦、あのシースパイダー2機はどうやって調達したんでしょうか。やっぱり技研から持ち出した?