見せてもらいましょう、借り物の体でどこまで飛べるか   作:てぬてぬ@TSF

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112.ベアトリーチェ

「クッソ・・・・・・急がないといけないのに・・・・・・!」

 

多数の改造MTを撃破したシオンは、しかし手酷い損害を受け補給シェルパを待つ羽目になっていた。既にレイヴンとフロイトがグリッド018最奥に突入した報告は受けている。出来る限り早く増援に向かわねばならない状況で、待つだけというのは耐え難い。

 

『シオン、落ち着いて。万全の状態で向かわなければ逆に足手まといになる』

 

焦るシオンの心情を理解しているからこそ、アーシルは強めの言葉で彼女を制する。そうしなければ無理にでも突撃してしまうかもしれない。幸い、補給シェルパは戦闘を避けつつ追従させてあった。数分もかからずに合流出来る見込みだ。

 

「分かってるさ、アーシル。だけどどうにも気が急いちまう。あーもう、忍耐力が足りんな全く」

 

多少は焦りが和らいだのか、ぼやくような調子で言うシオン。そもそも悪いのは自分だ。三連パイルバンカーを内臓した、馬鹿げた改造MTに不覚を取ってしまったのが悪い。不意打ち染みた一撃以外は全て避けたものの、火炎で炙られかなりのAPを失っていた。

 

「っと、来た来た。早いもんだ、助かるぜ」

 

飛んできた補給シェルパによって応急修理と補給を手早く済ませる。軽く機体の動作を確認した後、最奥に向けて侵攻を再開した。と言っても防衛機構は既に無力化されている。この様子なら621達と合流するまで妨害は無いだろう。

 

アサルトブーストを吹かして急ぎながら、シオンはそれでも周囲への警戒を緩めなかった。あくまでここは敵地だ、何があってもおかしくない。気を緩めれば待っているのは死である。一度死んだからこその、過剰にも思える警戒。だからこそ気付ける。何かが潜んでいる気配に。

 

「っ・・・・・・?」

 

肌がピリッと痺れるような感覚。シオンの目が、右前方にある投棄されたコンテナに向けられた。何の変哲も無いように見えるが・・・・・・。

 

『シオン?』

 

「・・・・・・アーシル。念の為聞くけど、熱源反応は無いよな?」

 

『周囲には何も無いけど・・・・・・何か、感じたことが?』

 

アーシルの問いかけに答えず、シオンはコンテナにマシンガンを叩き込む。瞬間、中からACが飛び出した。流線形のフォルムに無機質なカラーリング。今まで戦ったことの無いタイプのフレームパーツだ。

 

『どうやって隠れて・・・・・・!?解析を進める、それまで耐えてくれシオン!』

 

「任せな!」

 

威勢よく返事はするものの、真っすぐに突っ込んでいくことはしない。まずは相手の武装を見極めなくては。右腕部には実弾とは思えないライルフのようなパーツ、左腕部にはなんらかの近接兵装だろうか、少なくとも射撃武器では無さそうだ。

 

そして、特徴的なのは背部に二つ積まれているパーツだ。口を開けた生き物のような奇妙な形状は、ACのパーツとしては奇妙に見える。一体どのような攻撃が来るのか想像もつかない。と、

 

『久しぶりですね。どうやら、あの頃よりも成長したようで何よりです』

 

敵ACからの通信。その声はシオンにも聞き覚えがあった。かつて、通信越しではなく直接聞いていた声。

 

「・・・・・・まさか、あんた。ラヴェンナさんか?」

 

『覚えていたのですか。ですが、その名は適切ではありませんね。今の私はベアトリーチェと名乗っています』

 

その名が出た瞬間、シオンとアーシル、そして本部に緊張が走る。今まで正体を掴めていなかったドーザー達のボスが、わざわざ姿を現したのだ。その上、搭乗しているACは・・・・・・。

 

『っ!シオン、敵ACの解析が終わった。EPHEMERA・・・・・・技研製の無人ACだ。本来、人が乗るには無理がある構造らしい。武装は全てがEN系のものだ、データを送る』

 

「いや、気配がある。ラヴェンナさん・・・・・・ベアトリーチェはそこにいるぞ」

 

EPHEMERAを睨むシオンの目つきは険しい。目の前のACは決して無人ではないと、研ぎ澄まされた感覚が告げている。AIではありえない意志を感じるのだ。いや、今はそんなことどうでもいい。相手の武装に機体スペックを考慮し、どう戦うか組み立てなければ。

 

『再会を喜びたい所ですが、今は敵同士。残念ながら死んでもらいましょう』

 

以前と同じ淡々とした、感情の読めない口調で告げてベアトリーチェが突っ込んでくる。同時に背部の武装・・・・・・光波キャノンから閃光が放たれた。複数の光線が捻じり曲がりながらシオンへと迫る。

 

「気色悪ぃなおい!」

 

クイックブーストで避けようとするが、全ては避け切れず光波が装甲を揺らす。更に回避先に撃ち込まれたプラズマライフルの爆発に巻き込まれ、トラルテクトリのAPが一気に減少した。強い。ある程度動きの癖を見切られているとしても、かなりの実力だ。

 

『成長しても細かい部分は変わりませんか。こちらにとってはありがたい話ですが』

 

「はっ、精々舐めてろよ!」

 

高火力のEN武装は、耐EN防御が低いトラルテクトリにとって脅威である。長期戦は不利だ。どうにかしてスタッガーを取り、チェーンソーをねじ込むいつもの戦法しかない。幸い敵機が与えてくる衝撃値はそこまで高くない、近距離ならば押し切れるはずだ。

 

マシンガンとバーストハンドガンを撃ちつつミサイルを織り交ぜる。相手の攻撃は出来る限りかわし、衝撃値を押し付けていく。対ACでは一般的な戦法だ。が、膨大な鍛錬を積み死線を超えてきたシオンのそれは洗練されている。かつて、戦闘シミュレーションでミルクトゥースに負け越していた頃とは比べ物にならない程に。

 

『・・・・・・やはり。ブルートゥが認めていただけはある。可能性、か』

 

「わけわかんねえこと言ってんじゃねえ!」

 

プラズマライフルを喰らいつつもハンドガンの弾を叩き込み、スタッガーさせると同時にチェーンソーに持ち替えた。そのまま突っ込むシオンだが、回転する刃は敵機が展開したパルスアーマーに阻まれてしまう。

 

しかし、一度凌がれるのは織り込み済みだ。コア拡張機能は全てのACに搭載されてはいないが、留意するに越したことは無い。一旦退きつつ射撃は継続、パルスアーマーを削りにかかる。と、敵機の左腕部が光を放ち始めた。これは危険だと、磨いてきた感覚が囁いてくる。

 

「っ!」

 

咄嗟にパルスプロテクションを張った直後、光り輝く斬撃がシオンに向かって飛んできた。パルスの防壁に阻まれ激しい閃光を放つそれは、背部武装と同じ光波で形作られているようだ。

 

『本部から情報が来た。それは光波ブレード、光波の斬撃を飛ばす特殊近接武装だ。チャージして放たれる一閃の威力は絶大・・・・・・気を付けてくれ、シオン』

 

「そうかよ、助かるアーシル!ったく、相変わらず変なパーツ使いやがって・・・・・・ブルートゥ流か、えぇ?」

 

煽るように言うシオンだが、決してパルスプロテクションの範囲外には出ない。ベアトリーチェも分かっているようで、防壁をじわじわ削りながらもトラルテクトリの射程内までは踏み込んでこなかった。

 

『この機体を用意したのは私ではありません。勿論ブルートゥでも。まぁ、企業の画一的なパーツと比べれば好みではありますが』

 

「へぇ、羽振りのいい後ろ盾でも付いたのか?俺にも紹介してくれよ」

 

戦闘中に生まれた僅かな時間。シオンは慣れないなりに情報を引き出そうと言葉を投げかける。やらないよりはマシ程度に思っていたが、意外なことにベアトリーチェは会話に乗ってきた。何を企んでいるのか。それともただの気まぐれか。

 

『貴女にならば、構いませんが・・・・・・ここには耳をそばだてている者が多過ぎる。また次の機会にしましょう』

 

「次があればいいけどな。そう思うなら、ねぐらに撤退してくれてもいいんだぜ?」

 

『そんな場所、もうどこにもありませんよ。グリッド018は墜とされる。貴女達の手によって。どこにも私は帰れない。まぁ、元より気付いてはいました。よくやった方でしょう』

 

「・・・・・・なんか、しばらく会ってない内にブルートゥさんに似てきたな、あんた」

 

抽象的な話しぶりに顔をしかめるシオン。思い出すのはかつての雇い主にしてラヴェンナを従えていた男、オーネスト・ブルートゥだ。封鎖機構に対する反攻作戦の際、当時はまだV.Ⅰだったフロイトに撃墜され戦死したことは知っている。

 

だが。それはラヴェンナも同じはずだ。レイヴン及びインデックス・ダナムと戦い、改造MTは爆散。残骸の中から焼け焦げた肉片が発見された為、死亡したと記録に残されている。だというのに、何故目の前の女からは同じ気配と声がするのだろう。

 

「ところで、なんでこんな所にいるんだよ。墓場から抜け出してきたにしちゃ、場所が離れすぎてないか?」

 

『正直者ですね、貴女は。けれど、それは話せません。そういう決まりになっているので。さて、再開しましょうか。それとも踊ると言った方がいいですか?』

 

「ごめんだね、一人で踊っててくれよ!」

 

光波キャノンによってパルスプロテクションが破られ、二機のACは激しく機動し始めた。一度戦況がリセットされたとはいえ、両者の戦術は変わらない。シオンはスタッガーからのチャーンソーの直撃を狙い、ベアトリーチェはスタッガーする前にEN武装の火力でAPを焼き切るのが目的だ。

 

後退しつつ撃ち込んでくる敵機に、シオンはいつも通り自分から距離を詰める。プラズマライフルに光波キャノン、そして光波ブレード。そのどれもが高火力だが、タイミングは比較的読みやすい。時間差で襲い来る光波キャノンと他の攻撃を合わされることには気を付けなくては。

 

徐々にAPを削られながらも衝撃値を蓄積させていく。このままでは増援に向かう余力は残らないが、出し惜しみして勝てる相手じゃない。今、この場を切り抜けるのが先決だ。リペアキットで損傷を回復させ、マシンガンをチェーンソーに持ち替える。

 

敵機はあと数発当てればスタッガーするはずだ。重要なのはスタッガー時点での位置取り。MTや巨大兵器ならともかく、三次元機動を行うACは近接武装で捉え辛い。予備動作が必要なチェーンソーならなおさらである。

 

シオンはこの問題点を最初期から理解していた。だからこそ、寸暇を惜しんで戦闘シミュレーターを続け、思考せずとも最適な位置を取れるよう心身に教え込んでいる。その執着めいた接近戦の技量は、ベアトリーチェが対応出来ない程に磨き抜かれていた。

 

『理由が見えず、背景が無くともここまでやれるとは。ある意味、レイヴンとは正反対なんでしょうか』

 

「生憎あるんだよ、俺が戦う理由は!あんたに話す気は無いけどな!」

 

クイックブーストを吹かし敵機に肉薄、同時に撃ちこんだバーストハンドガンでスタッガーを取る。回転する連鎖刃が叩きつけられ、今度はパルス防壁に阻まれる事無く装甲を削っていった。技研製のACといえど耐久力は通常のACと大差無い。まるで血のように赤いコーラルを噴き出しつつ、推力を失い落下していく。

 

『また会いましょう、シオン。どうかそれまで、生き残ってくださいね』

 

「待て、クソ・・・・・・!」

 

『シオン、落ち着け!地上にも解放戦線の部隊が展開している、確認と回収は彼らに任せよう』

 

ベアトリーチェを追おうとするシオンだが、アーシルに宥められ我に返った。ここから地上まで数千mはある。AC単騎で追うのは得策ではない。そもそも機体反応は消失しているのだ。今落下しているのはACの残骸である。戦闘能力は無い、はずだ。

 

「っ・・・・・・了解。地上部隊に気を付けるよう連絡しといてくれ。撃墜したはずなのに、なんか嫌な感じがするんだ」

 

『分かった、伝えておく。っと、本部から連絡だ。グリッド最奥にG5とG6も到達。戦局は極めて優勢らしい』

 

「そりゃあ何より。俺が行っても遅いかもな」

 

そう言いつつも、トラルテクトリを最奥に向けて進ませる。ACの不意打ちを看破し、その上撃破したというのにその表情は優れない。アサルトブーストを起動し加速、一気に突っ込んでいった。まるで心のざわめきを振り払うかのように。




光波キャノン、パーツの見た目も放たれる光波も両方好き。150ジェネでぶん回してぇなぁ。
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