見せてもらいましょう、借り物の体でどこまで飛べるか   作:てぬてぬ@TSF

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113.内緒話

結果として、グリッド018への侵攻作戦自体は成功裏に終わった。フロイトの乱入はあったものの、投入されたACは全機が無事帰還。ドーザー達の戦力は一掃され、身柄の確保にも成功している。

 

が、肝心の首魁であるベアトリーチェは行方不明。技研製ACの残骸からは死体やそれに類する物質を確認出来ず、方法は不明だが脱出したか、そもそも無人だったと思われる。彼女の情報はグリッド018のサーバーから念入りに消去されており、現在復旧を進めているが進捗は芳しくない。

 

身柄を確保したドーザー達に事情聴取を試みようにも、彼らはコーラルの過剰摂取によって心身を喪失していた。あまりにも重度なコーラル酔いは治療も出来ず、ある程度抜けるまで拘束し続けるしかない。既に副作用でドーザーの3割近くが死亡している。

 

そんな中、レイヴンとの共闘で凄まじい戦果を上げたフロイトを理由としてスネイルが協力関係の維持を提案。フロイト自身は追跡をかわし拠点内に帰還していることを鑑み、解放戦線とレッドガンは好意的ながら答えを保留としていた。

 

「うーん・・・・・・」

 

帰還から三日後。シオンは自室のベッドに寝転がりつつ、タブレットの映像を確認していた。映されているのは先日の作戦記録。特に技研製ACとの戦闘映像をずっと見続けている。

 

「無人や遠隔じゃ、こういう動きにならないと思うんだけどなぁ・・・・・・」

 

残骸の調査結果はシオンの元にも送られていた。もしもベアトリーチェが搭乗していた場合、死体どころか体組織も発見されていないのはおかしい。その為、調査結果を知った大多数の者は技研製ACに誰も乗っていなかったと考えている。

 

しかし、シオンにはどうしてもそう思えない。あのACには誰かが乗っていたはずなのだ。行動のパターンに反応速度、そして何より漂っていた気配。実際に戦ったシオンだからこそ、直感的に理解している。

 

自分が間違っているかもしれないと、こうして戦闘の映像を繰り返し確認しているが・・・・・・彼の直感が覆ることは無かった。だとしたら、何故残骸から何も発見されなかったのか。途中で脱出した形跡も無い。直感と矛盾する事実に、シオンは頭を悩ませている。

 

「というかなんでラヴェンナさん、じゃなくてベアトリーチェはあんな所にいたんだ?雑多なドーザー勢力を纏めて、星外に情報を流して・・・・・・目的が見えないんだよな」

 

自身の戦闘映像を一旦止めて、次はグリッド018最奥で起きた戦闘の映像に目を通し始めた。621にフロイト、そして途中で参戦したレッドガン二名。彼らは改造MTの群れを薙ぎ払い、見たことも無い巨大兵器さえも苦戦せず撃破している。

 

「こいつか」

 

シオンが注目したのは一機のみいた敵ACだった。トランスクライバー。その名は聞いたことがある。かつて621が語った繰り返しの話に中に出てきていた。確か、オールマインド自身が独立傭兵を騙っている時の機体だったはず。

 

勿論先の戦いで撃破はされている。しかし、ベアトリーチェ同様残骸から体組織は確認出来なかったようだ。元々オールマインドはAI、トランスクライバーは遠隔操作していたと思われるが・・・・・・。

 

「その理屈ならベアトリーチェも?いや待った、あの人は生身だったはず・・・・・・」

 

621の話が真実なら。オールマインドは、死んだ人間の意識を吸収している可能性がある。もしかすると、ラヴェンナの意識がオールマインドに吸収され、利用されているのかもしれない。

 

「ん、んんん・・・・・・。駄目だ、分かんねえ。体が無くなっても意識が・・・・・・って」

 

そこで不意に気付いた。分からないのなら聞けばいいのだ。シオンは621の連絡先を知っている。どうしてこんな簡単なことも思いつかなかったのか不思議に思いつつ、シオンは彼女にメッセージを送った。時間がある時でいいから相談したいことがある、と。

 

意外なことに返事はすぐ返ってきた。621も暇を持て余していたようで、すぐにでも通信出来るとのこと。思考と呼吸を整えつつ、シオンは621へ通信を繋げる。何をどう告げるか考えながら、直接回線を接続した。

 

 

 

 

 

 

 

 

【確かに、そうかもしれない。私はラヴェンナという人物を詳しくは知らないけど、オールマインドが人の意志を取り込んでいるのは確かだから。私は、オールマインドに取り込まれたイグアスと戦ったこともあるんだ】

 

「マジかぁ・・・・・・」

 

あっさりと言う621に、シオンは軽く首を振って嘆息した。やはり彼女の経験は常軌を逸している。今の自分と何故か似ている幼げな少女は、一体どれ程の戦いを潜り抜けてきたのか。想像も出来ない。

 

【私達が戦った方にも、オールマインドのACがいた。また何かしようとしているのかも】

 

「あーっと、コーラルリリースだっけ?コーラルを全宇宙に撒くとかなんとか・・・・・・俺にはよく分からないけど、ヤバいってのだけは理解出来る。面倒な敵が増えたってことか」

 

【そうならないよう頑張ってきたけど、やっぱりオールマインドは凄いや。でも、エアにも伝えて調べてもらうから、きっと大丈夫だよ】

 

「だといいんだけどな・・・・・・」

 

それだけの経験をしておいて、621はどこか楽観的だ。周囲の存在を信じすぎているとシオンは思っている。ここまでの善性、無垢さをまだ持っているのは異常だ。だが、不思議と怖くはなかった。何故かは分からないが、彼女からは親しさのようなものを感じ始めている。

 

ふと思う。もし621に自分の境遇を伝えたらどのような反応が返ってくるだろうか。最底辺の独立傭兵が戦死したと思ったら、少女の肉体で目覚めたという馬鹿げた与太話。まともな人間なら一笑に付すだろうが、あるいは彼女ならば・・・・・・。

 

「・・・・・・なぁ、レイヴンさん。もしもの話なんだけどよ。死んだ奴の意識が、別の人間に乗り移ることってあると思うか?」

 

気付けばシオンは言葉を漏らしていた。純粋過ぎる621にあてられたのか。あるいは、なんの糸口も見えない自身の境遇と、繰り返しなどと言う過去を持つ彼女の境遇を重ね合わせたのかもしれない。どちらにしろ、一度口から出た言葉は取り消せない。

 

【意識が、別の人間に?どういうこと?】

 

「あー、えっと、言葉通りの意味でさ。なんていうか、その、他人に憑依するみたいな。いや、すまん。こんなオカルトめいた話振っちまって」

 

【ううん、大丈夫。でも、どうだろう。意識を他の人に、憑依・・・・・・】

 

なんとなくバツが悪くなり謝るシオンだが、621は気にせず考え込んでいる。長い繰り返しを経た彼女でも、他人に意識を移すといった事象には心当たりが無かった。エアのようなCパルス変異波形や、オールマインドのような存在でもACを操縦出来るのは知っていたが・・・・・・。

 

結局の所、621は似たような繰り返しをひたすら続けてきただけだ。繰り返しの中で経験しなかったことは知る由も無い。それでも彼女は懸命に考える。誰かから相談を受けるなど、今まで殆ど無かった。単純に嬉しいのだ。

 

【エアは、実体が無くてもACを操縦出来る。さっきのオールマインドの話も同じ。だから、意識には力があると思う。シオン。お願いがあるんだ。あなたの話、詳しく聞かせてくれない?】

 

「う、うーん・・・・・・詳しくかぁ。話してもいいけど、他言無用で頼むぜ?その、飼い主やエアさんとかにも」

 

【分かった。じゃあ、私達二人の秘密ね】

 

人工音声であっさり宣う621。本当に話してもいいのだろうか。しかし、約束を違える人間だとは思えない。それに、仮に他者にバラされても信じることは無いだろう。シオンはゆっくりと深呼吸した後、彼女に話し始める。己が下らない依頼で戦死し、気付いた時には最新世代の強化人間である少女になったという過去を。

 

 

 

 

 

 

 

【ウォルター、ごめんね。今はシオンと二人で話したいの。だから、聞かないでくれると嬉しい】

 

621からのメッセージに、ハンドラー・ウォルターは細く長い息を吐いた。密かに通信の傍受をしていたことを、やはり621は見抜いていたらしい。

 

「俺は未だにお前の雇い主だ、621。可能な限り、知るべきことは知っておかなければならない」

 

【でも、シオンとの約束だから。お願い、ウォルター】

 

無垢で真っすぐな621の言葉。彼女は、悪意を知った上で善性を信じている。周囲の人間を疑わず、頼ろうとする。最早感情が死んでいるとは口が裂けても言えない。621の情緒が育っているのは、ウォルターにとっても嬉しかった。

 

しかし、それとこれとは話が別だ。シオンという解放戦線のAC乗りには謎がある。何故、今まで621が繰り返した中には存在しなかったのか。何故、621とシオンの見た目は似通っているのか。分からないことだらけである。

 

「む・・・・・・いいだろう。盗み聞きはしないと約束する」

 

それでも一旦引き下がったのは、最悪エアを説得して通信ログを覗き見ればいいと考えたからだ。Cパルス変異波形、コーラルの意志である彼女は621の無茶をとても心配している。付け込むような形になるが、621自身の為だと伝えれば協力してくれるはずだ。

 

そう、これも全ては621の為。いや、欺瞞だ。お前は自分が何をするべきか見失っているだけ。心の内から声が聞こえ、ウォルターは立ち上がってコンソールから離れた。部屋を出て無機質な廊下を歩く。

 

自分は、どうすればいいのだろうか。何度も何度も苦悩して、しかし答えは出せていない。621はウォルターの幸福を望んでいる。だが、己は幸福になる権利が無い人間だ。挙句、背負ってきた使命すら消え失せてしまっている。

 

ウォルターを苛むのは自己否定。そして、過去から逃げた自己嫌悪。621の想いを知る前に比べ、その顔は酷く憔悴しているように見えた。と、

 

「まだ迷っているのか、ハンドラー・ウォルター。自縄自縛にも限度がある」

 

「スッラ・・・・・・」

 

ウォルターの過去を知る男、スッラ。彼はやせ衰えた体を廊下の壁にもたれかかせ、幽鬼のように佇んでいた。




最近気付いたんですが、お労しい成人男性が性癖かもしれん。
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