見せてもらいましょう、借り物の体でどこまで飛べるか   作:てぬてぬ@TSF

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115.肉体に宿るもの

「ほぅ、スッラの奴が死にかけとるのか。どんな猛者でも寿命には勝てんということかね」

 

レッドガンから送られてきたデータログを確認しつつ、コールドコールは目を細め呟いた。スッラとは旧知の仲だ。協力したことも、殺し合ったこともある。第1世代の生き残り。彼もまたコールドコールが認める「本物」の一人である。

 

が。得体の知れない怪人とて所詮は人間だったようだ。ウォルターの元にいたスッラは突如として倒れ、現在集中的な治療を受けているとのこと。回復の見込みは未定だが、恐らく絶望的だろう。高齢の上、長年の過酷な戦いで負担をかけ過ぎている。

 

結局、こういうのは順番だ。コールドコールは目を閉じ、スッラと初めて鉢合わせた戦場を思い出す。あれからもう30年近く経っていた。いずれ戦場で死ぬと覚悟していたが、スッラはそうならないようだ。戦場で死なぬのは運が良いのか悪いのか、彼にとってはどちらなのだろう。

 

現在、コールドコールはウォッチポイント・アルファから離れた拠点に居を構えている。レッドガン総長であるミシガンから与えられた任務は、存在を誰にも気付かれず待機するといったものだ。殺し屋の扱いとしては適当である。

 

相手が意識していないタイミングで刺す。戦いの基本の一つだ。星外に認知されていない戦力として、重要な局面に投入するつもりだろう。今いる拠点はコールドコールが元々用意していたものの一つだが、密かに設備が強化されている。レッドガンか同盟勢力が手を回したらしい。

 

「やれやれ、至れり尽くせりというのも慣れんな。気が緩みそうで仕方ない。飼い殺しではないことを願いたいものだ」

 

飄々と呟きながら立ち上がるコールドコール。体も頭も動かさねばなまってしまう。彼が老齢でも現役でいられるのは、不必要な休息をとらなかったからだ。動きやすい服に着替え、念入りに関節をほぐしてから構える。なんらかの技術に沿った動きだ。

 

裏社会ではACに乗れるだけでは生きていけない。知略は勿論、純粋な腕っぷしも大きな武器になる。実戦で鍛えたコールドコールのそれは、奇妙なまでに洗練されていた。相手の動きを制し、その隙にナイフや拳銃で始末する。合理的な想定に基づく格闘術だ。

 

しかし、そんな彼でもルビコニアンの精鋭には敵わないだろう。ルビコンの過酷な環境で生き抜いてきた彼らは、肉体の強靭さが根本から違う。日常的にミールワームからコーラルを摂取しているからだろうか。

 

ルビコンに密航後、とある任務の際にルビコニアンの歩兵と接敵したことをよく覚えている。純粋な体力に筋力、そして反射神経が凄まじかった。搦め手を用いて殺害したが、まともにやり合えば死んでいたのはこちらだったはずだ。

 

淀み無い動きで実戦の型をなぞりつつ、コールドコールは思う。もし兵器も何も無い戦いならば、ルビコニアンは最強に近い。そして、どれだけ兵器が発達しようとも歩兵の価値は損なわれない。

 

軍事拠点のような民間人がいない場所でも、居住区画というものは存在する。兵士もまた人間なのだから、食事もすれば睡眠も取らなくてはいけなかった。人並みの生活が送れないと士気にも影響がある。

 

拠点を完全に破壊し更地にするのでもない限り、歩兵による拠点の突入は必須だ。制圧し管理しなければゲリラ的抵抗をされる可能性も高い。何より、拠点を破壊しなければ今度はこちら側が利用出来るのだ。

 

ルビコンは物資に乏しい惑星故、敵拠点を破壊せずそのまま利用する状況は頻繁にある。だからこそ、ルビコニアンの歩兵が猛威を奮う時期があった。が、企業がインフラの破壊等搦め手を使い出した段階で活躍も下火にはなっている。

 

レッドガンに与することになった現状でも、コールドコールはルビコニアンの身体能力を警戒していた。彼らとて一枚岩ではない、何らかの目的で自分を狙ってくる可能性もあるだろう。彼らにとって、コールドコールは仇の一人なのだから。

 

動きながら息を吸い、血液を全身に巡らせる。全盛期には程遠いのは自覚していた。ACの操縦以上に、格闘戦は肉体の衰えが顕著に影響する。技術では決して補い切れない。だとしても、彼は鍛錬を止める気は無かった。まだまだ自分は現役なのだ、戦場で死ぬまでは鍛え続けなくては。

 

ただ一人の孤独の中、コールドコールは笑みすら浮かべて心身を引き締める。表舞台に上がるのは、まだ先のようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

全身のあちこちに管や電極を取り付けられながら、シオンは緊張した面持ちで横たわっていた。自身の精密検査をフラットウェルに打診した所、スムーズに許可が下りとんとん拍子に検査の日取りも決まってしまったのだ。

 

「うー・・・・・・」

 

以前やった時よりも大仰かつ大規模、更に人員も増えた検査に気後れしているシオン。忙しなくあちこちに視線をやり、意識的に深呼吸を繰り返す。何かが分かるかもしれない期待と恐れが心の中で渦巻いて、どうしても緊張が拭えなかった。

 

「麻酔をかけるので、眠っている内に終わります。心配しなくても大丈夫ですよ」

 

医師と思われるルビコニアンが声をかけてくれるが、シオンは固い笑みしか返せない。もしこの肉体に自分が入り込んでいることが科学的に証明されたら、自分はどうすればいいのだろう。無論、いずれ肉体は元の少女に返すべきだ。それはそれとして、何故か恐怖が湧き上がってくる。

 

621が示したコーラル関係の話は、まだ誰にも打ち明けていない。全ては検査の結果次第だ。何も分からなければ現状が続き、何かが分かれば変化のきっかけになる。そこまで考えてシオンは気付く。やはり自分は、今の居場所を失いたくないのだと。

 

一度死んだ身だというのに、少女の肉体を利用してまで自分の居場所を望むとは。卑しくて浅ましい。シオンは己の努力を棚に上げ、自己嫌悪に苛まれた。だが、それも長くは続かない。麻酔が利き始め、意識が深く沈んでいく。

 

目が覚めた時に待ち受ける結果はどうなるのか。もし真実が明らかになった時、ルビコニアン達は自分を受け入れてくれるのか。交流会のメンバーに、白い目を向けられないだろうか。肥大化する不安はしかし、意識が落ちると同時に消え失せるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・ん、あれ・・・・・・?」

 

肌寒さに目を開けると、そこは寂れた様子の室内だった。壁などは木材とトタンで出来ているが、掘っ建て小屋のようで隙間から風が吹いてくる。この時点でシオンは違和感を覚えていた。こんな建物はルビコンに存在しない。このような杜撰な造りでは自然環境に殺されるからだ。

 

「どこだ、ここ?」

 

確か、自分は検査を受ける為に麻酔をかけられたはず。ということは夢なのだろうか?それにしては隙間風の寒さやきぃきぃ響く家鳴りがリアル過ぎる。混乱しながら部屋の中を見回すと、どこか生活感が残っているように見えた。

 

棚にテーブル、手狭なキッチン。窓にはガラスも貼られておらず、閉まっている為外は確認出来ない。文明や技術が発展した今でも、このような造りはそう珍しいものでは無かった。いつの時代にも、地を這い泥水を啜るような暮らしをしている者はいる。

 

つまりここはルビコン星系の外、どこかの惑星の建物内なのか。いや、考えても意味が無い。どれだけリアルでも、これは所詮夢だ。シオンは自分の頬を軽く叩く。ペシペシという音と共に僅かな痛みが伝わってきた。

 

「・・・・・・うーん」

 

夢の中でも痛みを覚えることはある。そう言い訳をしながら窓に近付き、押し込むように開け放った。果たしてそこには何も映っていない。真っ白な空間がどこまでも広がっているだけだ。現実ではあり得ないような光景に夢だと確信し、シオンは窓を閉めて部屋に視線を戻す。と、

 

「え、うぉっ!?」

 

テーブルの椅子に座っている人影。急に現れたそれに驚き身構えるが、姿かたちを認識した時点で目を見開いた。そこにいるのは自分自身だ。つぎはぎだらけの布の服を纏った、愛らしい見た目の少女が座っている。

 

621もシオンと似通った見た目をしていたが、目の前の少女は瓜二つという次元すら超えていた。細部に至るまで完全に同一だ。まるで鏡写しのように。混乱するシオンをよそに、少女はにっこりと微笑み口を開く。

 

「初めまして、ですね。このような粗末な場所でごめんなさい、シオンさん」

 

「え、っと・・・・・・どうも。あー、あんたの名前を聞いてもいいかい?」

 

会釈に会釈を返しつつ、少女に名前を訊ねるシオン。彼女が放つ声は自分と少し違うように聞こえた。いや、正確には録音した自分の声を聞いているような。

 

「その前に、どうか座ってください。多分、長い話になるでしょうから」

 

「あ、あぁ」

 

促されるままに椅子に腰を下ろし、テーブル越しに向き合う。シオンと全く同じ造形の少女は、しかしシオンが普段浮かべない柔らかな表情をしている。より女性らしい雰囲気と言えばいいのだろうか、だからこそ違和感を覚えてしまっていた。

 

「それで、あーっと・・・・・・あんた、何者だ?」

 

「はい。もう自分の名前すら憶えていませんが、それでも伝えられることはあります。私は、第10世代の強化人間。貴方にその肉体を託した存在です」

 

「・・・・・・は?」

 

少女の言葉を聞いたシオンは間抜けな声を出して固まる。彼女が、自分に、肉体を託した?何を言っているのか分からない。

 

「驚くのも当然ですよね。ごめんなさい、これには深い理由があるんです」

 

「深い理由って・・・・・・あぁもう、全部だ。全部説明してくれ。俺にも分かるようにさ」

 

「分かりました。知る限り、全てのことを貴方に話します。まずは、そうですね・・・・・・この場所のことから」

 

少女が部屋を見回し、つられたシオンも視線を向ける。隙間風の激しいトタン小屋。大した家具も置いていない。粗末で貧しい印象を受けるそれを、少女は懐かしむように微笑んだ。

 

「この小屋は、私とお母さんが過ごした場所です。とても貧しく、日々の食事にも困っていたのを覚えています」

 

「この小屋はあんたの住処ってのは分かった。でも、なんで俺がここに?」

 

「それは多分、外部からの刺激のおかげです。私は、本来干渉出来ないはずから」

 

「外部からの・・・・・・精密検査を受けてるからか?」

 

「かも、しれません。でも、ここに貴方を呼んだのは私です。貴方は、とても苦しんでいるようだったから」

 

少女の言葉は抽象的で、事情がまるで掴めない。しかし、何故か疑うような気持ちは湧いてこなかった。シオンは微笑み続けている少女を正面から見つめ、躊躇しながらも口を開く。

 

「じゃあ、やっぱりそういうことなんだな。この体は、あんたのものってわけだ」

 

「・・・・・・はい。ごめんなさい、貴方に押し付けてしまって。私では無理だったんです。私は、失敗作だったので」

 

「おーけい、じゃあ根本的な部分を聞かせてくれ。あんたの目的は?俺を自分の体に入れて、何を企んでるんだ?」

 

小細工無しで真っすぐに訊ねるシオン。少女は申し訳無さそうに眉根を寄せ、微かに頷いた。

 

「私は、その、助けたいんです。駄目になった私だけど、知ってしまったから」

 

「誰を助けたいんだ。頼む、言ってくれ」

 

「貴方も知っている人です。確か、レイヴンと呼ばれている人」

 

予想外の名前に驚くも、シオンは続きを促す。次に出てきた言葉は、その驚きを一瞬で塗り替えてしまった。

 

「レイヴンは、あの人は、私と血が繋がっているんです」




シオンボディの出生がついに明かされます。ここまでに100話以上かかってるってマジ?
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