見せてもらいましょう、借り物の体でどこまで飛べるか   作:てぬてぬ@TSF

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116.カラスの血脈

「血が繋がってる・・・・・・!?あんたと、あのレイヴンさんが!?」

 

シオンは思わず椅子から立ち上がり、テーブル越しの少女に顔を近付ける。彼女の顔は自身と全く同じだ。ただ、浮かべている表情と纏っている雰囲気だけが違う。

 

「はい。正確には、母がレイヴンの姉なんです。だから、私にとってレイヴンは叔母ということになりますね」

 

「いや、えぇ、マジか・・・・・・。えっと、それをレイヴンさんは知ってるのか?」

 

「多分、知らないでしょう。私が気付けたのは、別の人に教えられたから。もう名前も覚えていないけれど、優しい方でした」

 

懐かしそうに言う少女に、シオンは頭をバリバリと掻きながら思考を回した。突如として伝えられた事実は果たして本当か否か。嘘をついているようには感じられないが、話の出所が怪し過ぎる。そもそも、目の前の少女はどういう存在なのだろう。

 

「じゃあ、なんであんたは強化人間に?その歳で強化手術なんて普通じゃないだろ」

 

「お金が足りなかったんです。お母さんは膝が不自由で、私は幼くて。もう、まともな生活もままならなくなってしまったんです。そんな時、企業の職員を名乗る人に提案されたの。私が強化手術を受ければ、沢山のお金が手に入るって」

 

明らかな罠、というか搾取だとシオンは即座に気付いた。分別の付かない子供を誑かし利用する。ルビコンに来る以前、身近で行われてきた手口だ。甘い言葉で唆して、都合の良いように契約すれば法的には問題無い。目の前の少女もそれに引っかかった可能性が高かった。

 

だからといって子供に強化手術を受けさせるのは鬼畜の所業である。危険性の低い最新世代のものとはいえ、許しがたい。怒りを覚えたシオンが拳を握ると、それに気付いた少女は取り繕うように言う。

 

「分かってます。あの時の私が愚かだったことは。きっと利用されただけなんでしょう。お母さんも、私が施設に行ってすぐに病死してしまったから。何もかもを間違えて、お母さんも守れず。あぁいや、私のことはどうでもいいんです。大事なのは今ですからね」

 

「・・・・・・あんたの境遇と目的は分かった。で、なんで俺があんたの肉体に入ってるんだ?レイヴンさんを助けたいなら自分でやればいい。わざわざ他人に任せる理由は無いはずだ」

 

慰めの言葉を呑み込み、話を先に進めるシオン。少女の境遇は確かに悲惨だ。だが、このような悲劇はどこにでもある。この世に楽園は存在せず、資本主義は富者と貧者を明確に区別する。人並以下の暮らしを強いられている人間など、この宇宙に掃いて捨てる程いた。

 

シオンは自分に言い聞かせ、中途半端な同情を切り捨てる。恐らく、目の前の少女は同情や慰めを求めていない。ならば現実的な話をするべきだ。自分がここにいる理由を、少女の肉体で生きている理由を。それを知れば、少しでも少女の助けになれるかもしれない。

 

「巻き込んでしまいごめんなさい。でも、私では駄目だったんです。強化手術は成功したのに、私の意識は浮上出来なかった。ルビコンに送られたのは、多分失敗作の私を処分するつもりだったんだと思います。それで、えっと・・・・・・」

 

一旦言葉を区切り、少女はじっとシオンを見つめた。意図が読めず見つめ返すと、申し訳無さそうに俯いてしまう。が、すぐに顔を上げ意を決したように口を開いた。

 

「実は、その。シオンさんを巻き込んだのは、偶然だったんです」

 

「偶然?」

 

「はい。正確には、タイミングが合えば誰でもよかったというか。私を手伝ってくれた人が、意識が散逸した直後なら取り込める、と言ってました」

 

意味が分からない。更に詳しく質問しようとするシオンだが、不意に周囲が明るくなり始める。光が差し込んでいるというよりは、空間そのものが発光しているようだ。

 

「な、なんだこりゃ・・・・・・?」

 

「え、もう時間なの?ご、ごめんなさい、思ったよりも早く干渉が切れそうで・・・・・・!」

 

「いや待ってくれ、まだ聞きたいことが山ほど」

 

言い切る前に光に包まれ、何も見えなくなる。藻掻き手を伸ばすシオンだが空を切るばかりだ。意識すらも光に飲み込まれる直前、少女の声が微かに聞こえてくる。

 

「次は────待ってますから────ご無事で────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んがっ!?」

 

珍妙な声を上げながら飛び起きると、そこは清潔なベッドの上だった。辺りを見回そうとすると、ベッドの横で椅子に座っているアーシルと目が合う。苦笑を浮かべているのは、さっきの声を聞いたからだろうか。

 

「おはよう、シオン。気分はどうかな」

 

「あー、うん。おはようアーシルさん。確か俺は、検査を受けて・・・・・・」

 

シオンはゴキゴキと首を回しながら記憶を掘り起こす。より精密な検査を受け、ようやく目を覚ました所らしい。・・・・・・何か、忘れているような。奇妙な夢を見たような。大事な気がするそれは、どうしても思い出せなかった。

 

「だ、大丈夫?なんか唸っているけれど」

 

「あぁいや、体調は問題無い。ただ、なんか変な夢を見たような気がしてさ。内容が思い出せなくて引っかかってるだけ」

 

思い出せないということは大した内容ではなかったのだろう。シオンは気を取り直し、ベッドから立ち上がろうとする。が、優しげな手つきでアーシルに押し戻されてしまった。

 

「明日までは安静に、と医師からのお達しでね。すまないけど、ここでのんびりしていてくれ」

 

「マジかぁ。なーんか気分が晴れないからシミュレーターに籠ろうと思ったんだけどな。それで、検査結果はいつ出るんだ?」

 

「明日の夕方辺りくらいかな。多少は前後すると思うけど」

 

「んじゃ、それまではだらけるか」

 

言われた通りベッドに横たわり、全身をぐっと伸ばすシオン。肉体的にはピンピンしているが、どこか気疲れしているという自覚はある。一日休養に充ててもバチは当たるまい。一度死を迎えたことで生まれた偏執的な勤勉さを、意識して抑え込んだ。

 

「そうだ、そう言えば聞きたいことあるんだけどさ。メッサムさん達となんか色々やってるみたいだけど、内容って聞いてもいいやつか?」

 

「あぁ、うん。別に隠しているわけでもないからね。来たるべき企業勢力との決戦に向けて、新たな巨大兵器を導入したいと考えてるんだ」

 

「巨大兵器・・・・・・ストライダーみたいな?」

 

「いや、流石にあそこまでじゃないよ。ルビコン全土を制圧したことで、企業側の工場も使えるようになった。だから、MTやAC以外の特殊兵器・・・・・・かつて壁を守っていたジャガーノートのような機動砲台を生産したいと思っている」

 

ジャガーノート。実際に見たことは無いが、聞き覚えくらいはある。解放戦線の一大拠点、「壁」と呼ばれている場所の防衛を努めていた特殊兵器だ。確か、621とラスティによって撃破されたらしいが・・・・・・。

 

「そりゃ結構なことだけど、MTやACを差し置いて量産する意味はあるのか?企業側のなんたら艦隊ってのはかなりの数だって聞くぜ」

 

「それは分かってる。ただ、ACは適性のある者しか操縦出来ないから。MTにも少なからずそういう部分がある。だから、汎用性を犠牲にしてでも搭乗者を選ばない兵器が欲しいんだ。その上で火力と装甲、機動力を両立させたい。となると、ジャガーノートを下地に新たに作るのがいいんじゃないかってメッサムが」

 

適性の有無は重要である。特に人型兵器は、適性によって顕著な差が出てしまう。適性が高ければ、まるで己の肉体のように縦横に行動出来るが、適性が低ければ単調かつ鈍重な動きしか出来ない。

 

ダナムのような適性の低い者が戦場に出ていたのは、それ以外の兵器を調達出来なかった為だ。解放戦線側の生産ラインはACとMT、他汎用兵器の生産で手一杯であり、特殊兵器を作る余裕が殆ど無かった。現場の資材を組み合わせ、辛うじて生み出されたのがジャガーノートである。

 

「固定式の砲台では柔軟に対応出来ず、ヘリコプター等の航空機も相手の艦隊と撃ち合うには力不足だ。だから、地対空兵器を満載した機動砲台がいる。帥淑フラットウェルも賛同してくれて、RaDに設計を依頼したんだ」

 

「あー、そりゃそうだ。次の敵は必ず宇宙から降下してくる。地対空の充実は急務ってことだな。ACじゃ、長時間の空中戦は息切れしちまうし・・・・・・」

 

「うん。本来なら惑星封鎖機構が運用していた大型武装ヘリも候補だったんだけど・・・・・・あれはAIシステムのサポートが前提で、ルビコン内で流用出来るパーツも少ないことが分かってね。残念だけどそっちは諦めるしかなかった」

 

すらすらと語るアーシル。自分がいろいろやっている内に、彼らも懸命に頑張っていたのだろう。当然だ、時間は有限かつ平等なのだから。自分に出来ることを極めようとしているシオンにとって、戦局を見越した兵器開発は目から鱗だった。

 

「凄いな、アーシル達は。俺なんて自分のことで精一杯なのに。わざわざACでどう戦うかよりも、戦いやすい新兵器を開発するってのは俺じゃ思いつかんぜ」

 

「シオンの考えも大事だよ。いくら理屈を並べても、戦場で直接戦うのは貴女達だ。どうか自分を卑下しないでほしい」

 

アーシルにまっすぐに見つめられながら言われ、シオンは寝転んだまま頬をかく。どちらが優れているという話ではないと分かっていた。つまるところちょっと悔しかっただけだ。

 

「大丈夫だよ。適材適所ってやつだ。そこらへんのことは全部他の人に任せちまってるからな。俺は俺で、チェーンソーで敵艦を落とす方法でも考えないと」

 

ベイラム製軍艦の特徴はレッドガンから共有されている。制圧火力に優れる代わりに脆弱性を持っていた封鎖機構の強襲艦とは違い、どれもが質実剛健な造りをしていた。EN系武装は切り捨て、実弾や爆発系の武装で固めている。

 

艦の大きさや武装、用途によって艦種が分けられているが、分厚い装甲に堅牢なバイタルパート、ダメージコントロールに優れた構造は共通している。その代わり、強襲艦のような制圧力は無い。実弾系武装で纏めている為、弾切れが比較的早い為だ。

 

問題はどう戦うか。弱点らしい弱点が無い装甲の配置は、チェーンソーによる必殺を狙うトラルテクトリとは相性が悪い。撃墜を目的とするのでは無く、艦橋部分を破壊し指揮能力を失わせるのが次善か。

 

「それなら、レッドガンから供出されたデータを纏めたものがある。貴方の戦術に役立ててくれ」

 

「データを纏めたって、かなり膨大な量があったぞアレ。俺でも全部目を通せていないのに・・・・・・」

 

「先日、時間が出来たからその時にね。私は戦場に立たない分、こういう所で頑張らないと」

 

アーシルから送られてきたデータは、確かに分かりやすく纏められていた。無用な部分は省き、AC乗りにとって重要であろう部分が強調されている。シオンは目を通しながらしきりに頷いた。元のデータよりも遥かに頭に入ってきやすい。

 

「いや、すげぇな・・・・・・アーシル、もしかして天才か?」

 

「褒めても何も出ないよ。オペレーターの任を続ける内に慣れただけだ。シオンと同じで、適材適所さ」

 

「むぐ・・・・・・」

 

意趣返しのように言われ、黙り込んでしまうシオン。しばらく見つめ合った後、どちらからともなく笑い声が漏れた。

 

「駄目だ駄目だ、AC乗ってくれよアーシル。そうじゃなきゃ俺が勝てない」

 

「勝ち負けじゃないよ、シオン。いやでも、ちょっと意地悪だったかな」

 

「酷ぇ奴だ。お詫びに美味いもん奢ってくれよ。疲れてる俺への差し入れでさ」

 

先程までの真面目な雰囲気とは違い、二人は気軽な談笑を交わす。友人同士の親しげな時間は、医師が経過観察に来るまで続いた。




621は在庫時代に冷凍保存されていたので、肉体年齢的にはシオンより年下の可能性が高いです。年下の叔母、いいですよね。
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