見せてもらいましょう、借り物の体でどこまで飛べるか 作:てぬてぬ@TSF
【イグアスは施設外周を巡回、ラスティはその場で待機。一定距離まで敵機が近付いてきたら動き出して】
『了解。G5、前衛は任せた』
『はっ、そこで指咥えて見てな蝙蝠野郎』
何度目かの交流会。ルビコン内の多くに認知され始めてているそれは、以前よりも大規模なものになっていた。
Aチームは621、ラスティ、イグアス。Bチームはシオン、ツィイー、フレディ、ヴォルタ、レッド。計8機のACがシミュレーター内でぶつかり合っている。療養中のスッラが抜けている状態だが、これ程のAC数による模擬戦は初めてだ。
今やっているのは施設を巡る防衛戦である。Aチームが一定範囲内の施設を防衛し、Bチームは施設の破壊を目指す。施設にはいくつか砲台が設置されており、Aチームのメンバーによって稼働させることが出来た。地形的にも防衛側が有利な状況だ。
その分攻撃側であるBチームは数が多い。が、Aチームのメンバーは交流会の中でも上澄みの三人だ。先日4機掛かりでようやく墜とせた621に、ラスティとイグアス。個々の実力という点ではBチームのメンバーを遥かに上回っている。
しかし、数的有利を活かせば戦えない程ではない。攻撃側のBチームを率いているシオンはそう判断していた。交流会を経る毎に指揮の経験も積み重ね、基礎的なことは把握している。今回の防衛設備は比較的脆弱で、地形の有利も運用次第で乗り越えられるはずだ。
「ヴォルタさん、正面は頼んだ!踏み込まなくていい、引き付けておいてくれ!フレディさんは右側面に回り込み牽制、俺は左側面を担当する!残り二人は大回りで後方に浸透してくれ!全員生存を最優先に!」
あちらは3機、こちらは5機。単純な話、包囲を形成し四方向から攻めれば相手は対応し切れない。例え一騎当千の実力があっても、戦場全てを掌握は出来ないのだ。敵機を誘引し戦力を分散、穴のある個所から突入。それが最善のはず。
それでも相手が相手である。簡単に崩れるとは思えない。防衛設備の大半が射程外である距離を保ち包囲を継続、焦れて出てきた所を叩く。出てこない場合は徐々に包囲を狭め、相手の動きに応じて対応、隙の出来た方向から突っ込む。それがシオン率いるBチームが立てた作戦の大枠だ。
対するAチームは、イグアスと621が施設外周付近で牽制しつつ、中央にラスティが控えている形。対応力の高い2機を前面に、最も機動力に優れるスティールヘイズを遊軍としているようだ。やはりと言うべきか牽制には乗ってこない。
「さぁて、どうするか・・・・・・」
AチームのACは重装甲のものが存在しない分、機動力によって柔軟に対応する気だろう。シオンは深呼吸で酸素を取り込みつつ思考する。トラルテクトリやキャノンヘッドは重装甲だが、下手に踏み込めば即座に墜とされるに違いない。特に、621及びラスティとの接近戦は避けねば。
であればイグアスを狙うべきか?いや、彼の生存力は非常に高い。パルスシールドや本人の技量もあり、時間をかけず撃墜するのはほぼ不可能だ。やはり隙は無い。形成された包囲網を徐々に縮め、出方を伺うしかないのだろうか。
621から放たれるミサイルを避けつつこちらもミサイルを放つ。どちらもACには直撃しないが、シオンが放ったミサイルは施設に着弾し小規模な被害を出した。こうやって少しずつ削っていけば、相手の動きを誘引出来るかもしれない。
幸か不幸か、互いにミサイル以外の武装は射程外。防衛設備の中には長射程を誇る狙撃砲もあり、ACとの乱戦時に撃ち込まれるのは脅威である。その場合は警戒しなくてはならないだろう。
が、今の状況ではそうそう当たりはしない。だからこその長距離戦だ。BチームのACは全機がミサイルを装備している。射程の短いものもあるが、四方から放ち続ければプレッシャーを与え、かつ施設への損害も見込める。消極的だとしても悪くない戦術だとシオンは思っていた。
「ミサイルをばら撒くぞ、施設の破壊を重視で!距離を詰めるのはまだだ!」
今回の模擬戦に時間制限は無い。故にシオンはその利を十分に活用しようとしている。本来の戦場ならば施設の制圧は迅速に行うべきだが、設定されたルールの中で勝率を上げる為だ。相手は明確な格上なのだから、差を埋める為に使えるものはなんでも使わなければ。
と、ここでAチームが動く。後方に回り込んだツィイーとレッドに対し、621が施設を離れ突っ込んだ。牽制を続けてきたAC達が激しく機動し始める。
「二人は迎撃しつつ後退、可能な限り引き付けろ!生存を最優先、撃破されるくらいなら離脱していい!残りは距離を詰めるぞ!スティールヘイズの動向を警戒!」
拙いながら迅速なシオンの指示。真っ先に反応したのはフレディだ。キャンドルリングの機動力を活かし、ジグザクに走行しながら施設へと迫る。次いでヴォルタが鈍重に前進し始め、トラルテクトリはアサルトブーストで突っ込んだ。
621に狙われたツィイーとレッドは弾幕を張りつつ後退を開始。しかし、やはり621には当たらない。グレネードにバズーカ、無数のミサイルを掻い潜り2機との距離を詰めていく。まず狙われたのはレッドの駆るハーミット。実弾オービットを展開すると共に、パルスブレードが刀身を生成する。
『っぐぅ!?』
回避行動も間に合わずハーミットの装甲が焼き斬られた。瞬間、両者のACが爆風に包まれる。ユエユーのグレネードだ。ハーミットを照準して放たれたそれは、流石の621でも避け切れない。
ツィイーとレッドは事前に取り決めをしていた。もしどちらかが敵に狙われた場合、巻き込むのを前提で攻撃をすると。あるいは敵の隙を突けるかもしれないから。他の者に比べ、実力に劣るのを二人は理解している。だからこその捨て身の戦術だ。
本来、ツィイーはレッドガンの隊員であるレッドと協調するのに不快感を感じていた。同胞であるルビコニアンを虐げ、殺戮してきた企業の尖兵。仲良く出来るはずも無い。しかし、直接言葉を交わしたレッドは実直な青年であり、企業の持つ残虐で陰湿なイメージとは程遠かった。
分かっている。ルビコンの未来を拓く為にも、彼らとの協力が必要だということは。相手も人間であり、それぞれに背負うものがあるということは。ただ、忘れなければいい。散っていった者達の想いを、決して手放さなければいい。そうツィイーは己を納得させている。
『よくやってくれた!』
レッドは多大な損耗を負いつつも嬉しそうに僚機を賞賛する。ハンドガンの連射で621を追い払い、なんとか態勢を立て直した。あの621に、自身を犠牲にしつつも一矢は報いることが出来た。彼にとっては勲章である。
『まだ次が来る、油断しないで!』
『分かっている!さぁ、ここからだG13!』
即席ながら見事なコンビネーション。僅かにAPを削られた621は、無表情ながら嬉しげな雰囲気を漂わせていた。誰も彼もが成長している。各々の未来を掴み取る為に。それがたまらなく嬉しい。スッラが生死の境を彷徨っている今、新たな者達の台頭は彼女にとって救いでもあった。
【すごいね、二人とも。でも、負けないよ】
手は抜かない。完全制御こそ温存しているものの、621は本気でツィイー達と向き合った。圧倒的強者のプレッシャーを前に、しかし二人の戦意は折れない。指示通り距離を取りつつ、621を施設から遠ざけなければ。地獄の鬼ごっこが今始まった。
戦局が動く中、ラスティは静かに判断する。正面のキャノンヘッドは鈍足だが高火力、自由にさせてしまえば施設を焼き尽くすだろう。側面のトラルテクトリは広範囲の攻撃能力に欠けるが、乱戦になった場合のチェーンソーは脅威だ。
残りのフレディだが、そちらはイグアスが迎撃に向かっている。つまり自身が対応すべきは・・・・・・。数瞬の思考の後、ラスティはスティールヘイズのブースタを吹かし正面方向へと向かう。タフなキャノンヘッドを短時間で仕留めトラルテクトリを迎撃、施設への被害を最小限に留める算段だ。
ラスティは決して油断していない。万全の調子であるヴォルタなら、一度の襲撃で落とし切れず凌がれてしまうだろう。だが、今の彼は病み上がり。鈍重な動きはブラフではないと見切っていた。
「ふぅっ」
息を吐くと同時にアサルトブーストを起動。グレネードを楽にかわしつつ肉薄する。ショットガンの弾が何発か装甲を叩くが気にもかけず、敵機の上空に陣取った。キャノンヘッドの武装では仰角を取れず、自身の武装なら俯角を取れる角度から撃ち下ろしていく。
『はっ!モヤシ野郎が、しゃらくせえ真似をっ・・・・・・!』
「G4、ヴォルタ。こうして銃火を交えるのは初めてだな。優秀な戦士と聞いているが、叩き潰させてもらおう」
バーストライフルとバーストハンドガンがキャノンヘッドの装甲を削り、衝撃を蓄積させていった。ヴォルタは距離を離そうともがくが、ラスティは圧倒的な機動力を以て近距離での旋回戦を強要し続ける。その動きは精緻かつ機敏だ。
帥父ドルマヤンに師事して以来、ラスティは長時間の操縦を繰り返してきた。具体的には、一日ぶっ続けでスティールヘイズに乗り動き続けるといったものだ。休息も食事も摂らず、排泄すら許されない。それも、戦闘シミュレーターではなく実機に乗った状態で。
実際に戦闘行動を起こすわけでは無い。時には腕部パーツを動かし、時にはブースタを吹かさず歩行する。しかし、動きを止めることはせずに長時間を過ごす。今まで速戦を信条としてきたラスティにとって、酷く苦痛な時間だった。
本来ACは長期の作戦行動を想定していない。ジェネレータの焼き付きもあるが、ACはMTと違い機動性に優れている。その上三次元戦闘も可能となれば、パイロットの負担は計り知れない。故にACが投入される作戦は短時間に留めるのが基本とされていた。
もし長時間の作戦に参加するとしても、合間合間の休息は必須。パイロットが強化人間だとしても不変の常識だ。故に、ドルマヤンからの指示は異常である。いたずらに消耗するだけになりかねなかった。
『ACを己が肉体とせよ。お前ならば、それが出来るはずだ』
ドルマヤンの言葉を頭から信じたわけではない。それでもラスティは従い、スティールヘイズに乗り続けた。戦闘行動を行わずとも疲労は溜まっていき、一日が過ぎる頃には意識を保つのもままならない状態まで追い込まれる。体調を崩さなかったのが奇跡だ。
が、確かに効果はあった。地獄の一日を積み重ねる度、少しずつ感覚的な部分が変化してきたのだ。純粋な操縦の技量とは別の、ACに馴染むような感覚。それは言葉で説明出来ない、曖昧な領域のものだ。分かっているのは、ラスティの駆るスティールヘイズが一層の冴えを見せているということである。
『クソが、ちょこまかと・・・・・・!舐めてるんじゃねえぞ!』
僅かな起伏を利用し、機体を傾けたヴォルタが二連グレネードを撃ち込んだ。仰角を強引に取って放たれたそれを、ラスティは余裕を持って回避する。相手の動きが良く見える。そして、スティールヘイズの末端に至るまで神経が繋がっているかのようだ。
もしかすると、これが621が完全制御と呼んでいたものか。無論彼女の域には遠く及ばない。しかし、入り口に足を踏み入れたような感触を覚えている。ラスティは無意識の内に笑みを浮かべつつ、レーザースライサーを展開。スタッガー間際のキャノンヘッドに襲い掛かった。
僚機を引き連れた上で多数のAC相手に乱戦出来るミッションが欲しい・・・・・・欲しい・・・・・・。