見せてもらいましょう、借り物の体でどこまで飛べるか 作:てぬてぬ@TSF
レッドガン部隊のガリア多重ダム襲撃から一週間程が経過した。しかし、当のシオンは現在ダムにはいない。筋肉痛も治まってすぐ、ダナムにとある依頼を持ちかけられたからである。
「シオン。すまないが、ボナ・デア砂丘に向かってくれないか」
「ボア・デア砂丘・・・・・・?あー、ベリウスの西の方でしたっけ?何があったんです?」
厳めしい顔のダナムにシオンが訊ねると、いつも以上に低い声が彼から放たれる。何かあったのかとシオンが訝しむ程だ。
「ボナ・デア砂丘に待機中である解放戦線の移動拠点・・・・・・武装採掘艦ストライダーを護衛してほしい。脚部に損傷を抱えた状態が続き、修復用の物資も企業の手先に焼き払われた。狙われる可能性が非常に高い。頼む」
「まぁ、どうにか体調も万全になりましたし断りはしないですけど・・・・・・その、用意される予定だった俺のACは?」
「ストライダーに輸送される予定だ。調整はあちらでやってくれ」
いつも以上の固い口調に違和感を感じつつも、シオンは気軽に了承した。どうせどこに行っても苦境なことに変わりは無い。それに、ついに自分用のACとお目見え出来るのだ。断る選択肢はありえなかった。
と、そのようなやり取りがあって、現在シオンは輸送ヘリに押し込められ窮屈な空の旅を満喫していた。高度を上げれば封鎖機構に睨まれる為、星外企業の支配地域を可能な限り避けながらの低空飛行である。
「うぷっ・・・・・・この体、ヘリ酔いがきっちぃな」
こみ上げる吐き気を噛み殺しつつ、シオンは簡素なベッドに座り込んでいた。殆どベッドだけで埋まっている個室は、待遇がいいとは言い難い。それもそのはず、このヘリには補給物資が満載されているのだ。移動用の通路にすら小型のコンテナが積まれている様は、解放戦線の切迫した兵站事情を物語っている。
「まぁ、よそ者がうろちょろしてたら迷惑だしな」
シオン自身はそう思いつつ、基本的には狭苦しい部屋に籠っていた。しかし、これで三日目である。流石に気が滅入ってきたシオンは、鬱屈を薄める為にヘリ内を散策することにした。
と言っても、輸送ヘリは巨大というわけでは無い。数日置きに燃料を補給しなければならない程度の規模だ。すれ違った乗組員に挨拶しつつ歩いていたシオンは、あっという間にヘリのコックピットまで辿り着いてしまった。
「おや、どうされたお客人。このような変わり映えのしない空の旅に飽いてしまいましたかな?」
コックピットは二つ。一つには老人とも呼ぶべき男性が座っており、もう一つには若い女性が座っている。それでも、今のシオンと比べれば随分と年上だが。
「いや、まぁ・・・・・・。少し、気が滅入ってきて。目的地にはあとどれくらいで着くんです?」
「そうですなぁ、もう一度拠点での補給を挟んで、後四日程でしょうか。もう暫し、耐えていただけると」
丁寧な口調の老人とは違い、女性の方は一言も発しない。どことなく疎外感を感じ、シオンは口ごもりながらもなんとか返事をする。
「あ、はい・・・・・・すみませんね、わざわざ邪魔しちゃって。すぐに戻ります」
やはり、解放戦線の同志としては受けいられていないようだ。シオンはすごすごと退散しようとしたが、背中に声をかけられた。
「そうかしこまらなくても大丈夫ですよ。貴女のお陰で、ガリア多重ダムを守ることが出来たというのは聞いています。我々は貴女に感謝しているのです」
その言葉に思わず振り向く。優しげな表情の老人と目が合った。
「いや・・・・・・俺は、大したことはしてませんよ。むしろあのレイヴンって独立傭兵が」
「私は」
シオンの言葉を遮るように、黙ったままだった女性が口を開く。熱を感じる視線がシオンに向けられ動揺してしまった。どういうことなのだろう。
「私には、弟が一人いるの。ガリア多重ダムで、MT部隊に所属してる」
「は、はぁ」
「ダムが企業の襲撃を受けたと知った時、心底震えたわ。弟が死んでしまったんじゃないかって。でも、幸運にもそうはならなかった。いいえ、違うわね。幸運じゃなくて、貴女がいたからなのよ」
真っすぐに見つめられながら言われて、シオンは胸が疼くような感覚を覚えた。なんとなく、話の続きが分かる気がする。
「貴女が、あの場に駆け付けてくれたから。MTに乗っていた弟は撃破されずに済んだ。本当に、ありがとう」
深々と頭を下げる女性。深い感謝を伝えられたシオンは、口をもごもごとさせつつ俯いた。今までACに乗って感謝されたことなど殆ど無い。当然だ、企業のばら撒き依頼程度しか受けたことが無いのだから。だからこそ、面と向かって感謝を伝えられるとどうすればいいか分からなくなってしまう。顔が熱くなるのを感じ、シオンはますます縮こまった。
「いや、まぁ、はい・・・・・・」
もじもじと照れている様は非常に可愛らしいが、今のシオンはそんなことまで気が回らない。素直で真っすぐな感情に当てられ、パニックに近い精神状態になっている。結局、逃げるようにその場を後にするしかなかった。
「じゃ、じゃあこれで!色々すんません、はい!」
通路をとてとてと駆けながらシオンは自身の反応に困惑する。まさか、ここまで初心な反応をしてしまうとは。肉体に精神が引っ張られているのだろうか。狭い個室に逃げ込み、ようやく一息ついた。まだ顔が熱くて仕方が無い。
「なんだよぉ、これ・・・・・・おかしいって」
ベッドに寝転がり、無機質な天井を見上げながら呟く。心臓の音が明瞭に聞こえ、何故か恥ずかしくなってしまった。
「あぁクソ、落ち着けって。マジで情緒がガキじゃねえか」
あえて乱暴な言葉遣いをしつつ深呼吸を繰り返すシオン。しかし、中々落ち着かない。脳内では女性の感謝の言葉が反響していた。本当に、大したことは出来なかったというのに。
「・・・・・・あんな無様でも役には立ったのか、な。まぁ、無駄に死ななかったのはいいことか」
じわじわと、命を救えたという事実を噛み締める。今までは殺すばかりだったのだ。新鮮な嬉しさが、少しずつ湧き上がってくる。自然と口元が綻んで、シオンは見た目相応の笑みを浮かべた。
「木っ端傭兵には、過ぎた幸福ってか」
己が浮かべた喜びの表情には気付かぬまま、シオンはしばらくの間悦に浸るのだった。
「よく来てくれた、新たなるコーラルの戦士よ!私が武装採掘艦ストライダーの艦長だ」
「ど、どうも。シオンです」
ストライダー内部の艦長室。にこやかな笑みと共に差し出された手をおずおずと握りながら、シオンはそっと頭を下げた。力強く握り締められ、僅かな痛みを覚える。
「っ」
「おっと、すまない。ストライダーにACが配備されるのは久方ぶりでな。つい興奮してしまっているようだ」
すぐさま手を離し謝意を述べる艦長。シオンが思い浮かべていたよりも、随分と親しみ易い性格をしているようだ。
「あーっと、その話なんですけど。俺用のACはどこに?」
「既にガレージに運び込まれているとも。すぐにでも案内させよう。おい」
艦長が視線を送ると、艦長室の隅で待機していた青年が敬礼する。ガリア多重ダムに比べて軍隊色が強いと感じ、シオンは気付かれない程度に顔をしかめた。あまり好きな空気では無かったのである。
「はっ!」
「シオン君をガレージに案内してやってくれ。その後、割り当てた居住区画にも」
「了解です!」
青年は緊張しているようで、やや声が上ずっていた。明らかに年下にしか見えないシオンに対しても、非常に丁寧に振る舞おうとしている。
「こ、こちらです、シオン様」
「いや、様付けは止めてくれ。というか・・・・・・」
何か勘違いされてるんじゃないか。その言葉を飲み込んだシオンは、ちらりと艦長の方を確認した。彼は上機嫌な様子で、デバイスを操作しどこかと連絡を取っているようだ。どこか、引っかかるような違和感がある。いくら戦力を求めていたとはいえ、年端もいかぬ少女であるAC乗りをここまで歓迎するだろうか。
「ど、どうされました?」
「・・・・・・いや、なんでもない。それじゃあ、ACの元に案内してくれ」
「はっ、はい!」
むず痒いような居心地の悪さ。それは、シオンがこういう待遇に慣れていないからなのだろう。ヘリの時と同じだ。ほんの少し、受け取り方が違うだけ。そう思い込みながら、シオンは青年の背を早歩きで追いかけた。
それなりに歩き続け、エレベーターを何度か乗り換えた頃。青年に導かれたシオンはようやく開けた場所に辿り着いた。閑散としているガレージは、しかし一角にACが鎮座している。
「お、おぉ・・・・・・?」
近付きながらも肉眼で確認すると、そのACは堅牢かつ重厚な造りをしているようだ。太い四肢にBAWS製のコアと頭部。かつての愛機とは似ても似つかないが、それは重要ではない。青年に対して口を開く。
「あー・・・・・・アセンブルを確認したいんだが」
「りょ、了解です!こちらをどうぞ!」
渡されたタブレットに表示されている情報を確認するシオン。その内訳は以下の通りだ。
まず、フレームはコアと頭部がBAWS製のBASHO。旧型なものの堅牢な造りに定評がある。そして、腕部と脚部はベイラム系列企業、大豊の重量フレーム、天槍。どうやら撃墜されたAC、その残骸から回収したものらしい。
次に内装。ブースターは解放戦線のACによく使われているKIKAKU。旧式のジェネレーターを改良し性能を引き上げたYABAに、FCSはベイラムのABBOT。これもACの残骸から回収出来たものらしい。
武装は右腕にバーストハンドガンSAMPU。解放戦線のAC乗りが広く使用しているパーツだ。そして左腕には、ベイラム製のマシンガンLUDLOW。G5イグアスと名乗っていたレッドガン隊員の機体から、比較的状態の良かった為回収し修理したようだ。右肩には、AC用ミサイルの中で最も普及しているであろう四連ミサイル、P20MLT-04。左肩には今の所何も積まれていない。
総じて耐久性に優れ、強引に距離を詰めて撃ち合うアセンに見える。しかし、決定打が足りない。贅沢は言えないが、せめて左肩にあり合わせの武装でもいいから積みたいとシオンは思った。
「すまん、なんでもいいから余ってる武装は無いか?左肩に詰める奴」
「そ、それなんですが・・・・・・実は、当初は左肩にパルスブレードを積む予定だったのです。ウェポンハンガーは特別な技能が必要らしいのですが、貴女ならば扱えるだろうと帥淑が。しかし・・・・・・」
衝撃の事実を告げながらも言い淀む青年に、シオンは驚愕を顔に出さないよう必死に抑えた。まさか、あのミドル・フラットウェルが自分をそんなに買っているとは。そもそも、腕部用の武器を肩部に取り付け、状況に応じて切り替えるという戦い方は解放戦線のACのみが行う特殊な技術だ。それが自分に出来る訳がないと思いながらも、シオンは無言で先を促す。
「その。用意しておいた武装であるパルスブレードが不調でして。なんでも、刀身を生成出来るだけの出力が出せないらしく」
「うーん・・・・・・部品の不具合だったりするのか?」
「そう、ですね。ACの残骸から回収したパーツなので、状態が良いといっても細かな部分で不具合が出ているのだと思います。大変申し訳ありません・・・・・・!」
「あ、頭上げてくれよ。別にあんた達のせいじゃないだろ、それは」
深々と頭を下げる青年にシオンは慌てたように言う。このような謝罪、受けたところでどうしようもない。思い詰め今にも泣きそうな青年の肩を叩き、どうにか顔を上げさせた。
「大丈夫、気にしてねえよ。んで、早速乗ってもいいか?調整やらシミュレーターでの試運転やら、早めにやっておきたいんだけど」
「わ、分かりました!こちらにどうぞ!」
なんというか、この対応には慣れないな。シオンはそう思いつつ、タラップを登りコックピットに入り込んだ。願わくば、ストライダーが襲撃されないようにと祈りながら。
武装採掘艦ストライダー、見た目は今までのACに出てくる巨大兵器の中でもトップクラスに好き。