見せてもらいましょう、借り物の体でどこまで飛べるか   作:てぬてぬ@TSF

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119.足掻く先には

「軽く見られたもんだ・・・・・・!」

 

防衛設備からの迎撃をいなしつつ、シオンは悔しげに呟いた。まさか自分が完全フリーにされるとは。トラルテクトリでは設備を破壊し切れないという判断だろう。そしてそれは正鵠を射ていた。トラルテクトリの武装は施設の大規模破壊に向かず、制圧には時間がかかってしまう。

 

ならばどうする。行きがけに防衛設備を潰しつつ、三つの戦闘の内どこかに加勢に向かうべきか。作戦の前提を崩してしまうが、数の利を活かして敵機を減らす選択は有用なはずだ。それとも当初の作戦を遵守し、施設の破壊を優先すべきか。

 

考える時間は殆ど無い。無数の思考が脳内で渦巻く中、シオンは意を決した。アサルトブーストを起動して施設を突っ切り、イグアスと交戦しているフレディの救援に向かう。621は3機がかりでも墜とせる可能性は低く、ラスティは機動力の高さ故に容易く離脱されかねないからだ。

 

とはいえイグアスも難敵である。それでも彼を撃破しようと決めたのは、フレディとの連携を見込んでのことだ。621側は論外として、ヴォルタと協同するのは今日が初めて。互いが被弾を前提にしたACというのもあって、連携は難しい。

 

対してフレディとは何度も協同しており、気心の知れた仲だ。少なくともシオンはそう思っている。故にシオンはイグアスを狙った。最も勝算が高いと判断して。

 

『はっ、軽く見やがって』

 

後方からトラルテクトリが迫ってくるのに気付き、イグアスは口の端を歪める。奇しくも先程のシオンと似た言葉を呟いて、目の前のキャンドルリングから距離を取った。相手の思惑は分かっている。2機掛かりで自身を撃墜し、次いで施設を制圧するつもりだろう。

 

『てめえら如き、束になっても俺は墜とせねえよ!』

 

激したように吼えるが、彼の思考は冷静だ。ここで無理をする必要は無い。621か、ラスティか。どちらかが敵機を撃破し戻ってくるはず。忌々しいが、二人の実力はイグアスも認めている。ならば、今は時間稼ぎに徹するのが正着である。

 

「フレディさん、挟み撃ちだ!俺ごと巻き込んでいいからよ!」

 

『いいだろう、了解した。上手く利用するとしよう』

 

フレディにとって、シオンの増援はありがたくも不満だった。イグアスを打ち崩せなかった己の実力を責められているような気がしている。無論思い込みだと理解はしている為、面には出さない。悪いのは実力不足の自分なのだから。

 

イグアスは非常にしぶとい戦い方をする。実弾とミサイルで堅実に削り、こちらの攻撃にはパルスシールドを合わせる。教本通りの戦術だ。しかし、それだけではない。裏には彼の攻撃性が見え隠れしている。一瞬でも隙を見せればこちらを食い破りに来るだろう。

 

この二面性は厄介だ。じわじわとAPを削られ、勝負に出ようとしたタイミングで凄まじいプレッシャーを放ってくる。容易には攻め込めない。どうやらイグアスは自身の激情を上手く飼い慣らしているらしい。

 

シオンの提案通り、フレディはヘッドブリンガーの前方から攻めかかる。迅速に倒さねば待っているのは敗北だ。身が灼けるような覚悟を以て、真っすぐに距離を詰めていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くぁっ!?」

 

衝撃がコクピットを揺らす。パルスブレードの斬撃によりごっそりとAPが減り、視界がスパークした。やはり強い。ツィイーも死線を超えてきた自負があるが、621はあまりにも強過ぎる。先日墜とせたのは奇跡とすら思えた。

 

だが、諦めるわけにはいかない。届かないと分かっていても、手を伸ばすべき時がある。ツィイーは歯を食いしばりながらハンドグレネードを発射、621を追い払おうと試みた。同時に僚機であるレッドがミサイルを放ち支援する。

 

レッドは621が撃墜された模擬戦に参加していない。しかし、戦闘の一部始終を見届けていた。その後何度も何度も映像を確認し、自身の糧にしようと目に焼き付けている。故に理解していた。この模擬戦では自分自身が最も弱いと。

 

客観的な事実に悔やむことは無い。弱者には弱者なりの戦い方がある。自棄にならず、投げ出さず、今自分に出来ることを全うする。総長からの教えを、彼はひたむきに信じていた。

 

だから、621が相手でも臆さない。ハンドガンを連射しつつ、EN切れを誘ってバズーカを撃ち込もうと狙い続ける。基本に忠実な動きは読みやすく、だからこそ対処方法が限られていた。621は一旦距離を取り、再び突撃する機会を伺い始める。

 

既にユエユーとハーミットはボロボロだ。次にパルスブレードが直撃したら撃墜されてしまうだろう。逆を返せば、ギリギリの状況になるまで凌いだということでもある。実力差から考えればとても健闘していた。

 

が、それでは足りない。621が施設側に戻れば戦局が著しく不利になってしまう。撃破とはいかずとも、まだ足止めを続けなくては。ツィイーとレッドの考えはその方向で一致している。だから、まだ墜ちるわけにはいかない。

 

相対する者達の覚悟を、意思を、621は明確に感じ取っていた。最早繰り返しの中で戦ってきた二人とは別物だ。彼らが仲間だというのが心から嬉しい。スッラを喪うかもしれない不安を、今この時は忘れられる程に。それはそれとして、冷静に状況を見極めていく。

 

敵機は両方とも僅かなAPしか残っておらず、こちらが施設内に戻らないよう懸命に牽制を試みている。機動力で振り切ることも出来るが、残しておいては厄介だ。だから、ここで二機とも墜とす。最速の方法で。

 

「っ!?」

 

背を向けアサルトブーストを起動しようとする621に、ツィイーとレッドは驚きながらも即座に追い縋った。逃がすわけにはいかない。しかし、アサルトブーストをキャンセルした621はクイックターンで二人に向き合う。そして、

 

【ごめんね。墜ちて】

 

アサルトアーマーの光が周囲を照らす。ツィイー達は範囲外に逃れようとするが間に合わない。パルスの奔流が炸裂し、2機のACはシミュレーターにより撃墜判定を下された。呆気無い結末である。

 

現実とは残酷だ。意思だけでは未来を切り開けない。力が無ければ、どんな望みも押し通せないのだ。621はそれをよく知っている。かつて、意思も何も無く力だけで全てを押し通した過去がある故に。

 

だからこそ嬉しかった。二人が全霊を以て立ち向かってくることが。が、これは模擬戦だ。Aチームに勝利をもたらす為、621は一切の慈悲も無く二人を一蹴した。再び奮起してくれると信じて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ツィイーとレッドを墜とした。そっちの状況はどう?】

 

「G5が数で劣勢だ、救援に向かってくれ」

 

『必要ねぇよ!施設に籠って見てやがれ野良犬!』

 

吼えるイグアスだが、実際にまだ余裕はありそうだ。ラスティは後方の憂いを捨て、未だ健在のキャノンヘッドに集中する。銃弾を撃ち込み続け、レーザースライサーで斬り刻み。相当の損傷を与えたにも関わらず撃墜には至っていない。

 

キャノンヘッド自体が堅牢なのもそうだが、ヴォルタの迎撃に関する技量はかなりのものだ。完全に主導権を握られているにも関わらず、懸命な迎撃によってスタッガーまでの時間は長引いている。そして、スタッガー時以外は軽々に踏み込めない。

 

リハビリ中という話だが、逆に出来ることが限定されているからこそそれに注力しているのか。その上正面火力だけならば今まで戦ってきたACの中でも屈指だ。ラスティとしても速戦で終わらせられない難敵である。

 

が、慎重に立ち回れば危険の無い相手でもあった。機動力で振り回しつつ丁寧に削ってスタッガーを取り、レーザースライサーで追撃する。ひたすらそれを繰り返せばいい。今のラスティならば一発も被弾せずに墜とし切れるだろう。

 

『終わらねえぞ、まだ・・・・・・!』

 

苦痛を堪えながらヴォルタがパルスアーマーを起動した。事前のデータではキャノンヘッドにコア拡張機能は搭載されていなかったはず。総長ミシガンの意向かとラスティは推測しつつ攻勢を中断、一旦距離を取りパルスアーマーの展開時間を浪費させようとした。と、

 

【シオンとフレディがそちらに向かってる。イグアスを無視して。私も行くから待っていて】

 

突如として来た621からの通信。それは、彼が想定していない選択だった。自棄を起こしたのか、どうやらBチームの生き残りである2機はヴォルタと合流しようとしているらしい。無茶苦茶な行動である。

 

『ヴォルタさん、合わせろっ!』

 

が、シオンはそう思っていない。事前に立てた戦術こそが間違いだった。求めるべきは徹底した混沌。わざわざ戦力を分散せず、AC5機で真っすぐに突っ込めばよかったのだ。包囲などという順当な戦術では目の前の怪物達は倒せないのだから。

 

乱戦、混戦、無秩序。格下が格上を討つには紛れが起きやすい環境こそが望ましかった。まともに戦った所で621達に勝つのは難しい。ならばどこまでも混沌な戦場を作り出し、互いのリスクを高め続ける。諸刃でなければ621達には届かないのだ。

 

シオン達はヴォルタとラスティが戦っている場所へとなだれ込む。その後方にはイグアスと621が続いていた。乱戦までにキャノンヘッドのパルスアーマーを剥がすのは難しいだろう。やぶれかぶれに見えた突撃は、しかし劣勢を覆しかねない戦術だったようだ。

 

【私がシオンをマークする。後の二人は任せるよ】

 

乱戦で警戒すべきは高威力のチェーンソー。即座に見抜いた621が指示を飛ばし、トラルテクトリに追い縋る。であれば、やはり先に墜とすべきは・・・・・・。

 

「キャンドルリングをいなしつつキャノンヘッドに止めを刺そう。G5、力を貸してくれ」

『当たり前だ、てめぇに寄越す獲物はねえよ!』

 

ラスティの言葉に吼え返し、イグアスはフレディにミサイルを放ちつつヴォルタへの距離を詰めた。キャンドルリングも高火力を有するACだが軽装甲だ。耐久力に任せたゴリ押しは難しい。執拗に警戒されては、肝心の火力も意味が無いのだ。

 

現にイグアスのヘッドブリンガーはそれほど消耗していない。単発の武装では、パルスシールドのイニシャルガードを打ち破れなかった。ならばとラスティを狙おうにも、イグアスはリニアライフルをチャージしたままフレディを狙い続けている。軽々には攻撃に移れない。

 

混沌を望んだシオンに、621達は堅実な連携で対処した。紛れが起こらないよう実力差を十全に押し付ける。ACの数が同等になった以上、そもそも混沌すら起こさせない。このままなら封じ込めると判断するラスティだが、更に予想外の事象が目の前で起こった。

 

シオンが突っ込んでくる。621を意に介さず、彼女に背を向けたまま。それは、621の実力を知っている者ならば信じられない行動だ。ラスティですら恐怖を覚えるそれを、シオンは全身から噴き出す汗を無視して選択した。

 

これしかない。まともに対応されては乱戦にすら持ち込めないのだから、気狂いのように振る舞わなくては。背中に感じるプレッシャーは、まるで喉元に刃物を突き付けられているかのようだ。恐ろしくてたまらない。だがそれ以上に、負けたくない。

 

シオンは汗も拭き取らぬままに叫ぶ。己の怯懦と、絶望的な戦況を吹き飛ばすかのように。

 

『さぁ、こっからだ!!!』




圧倒的格上と相対した時の無駄な足掻きが好きです。無駄だとしても無意味ではないと信じています。
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