見せてもらいましょう、借り物の体でどこまで飛べるか   作:てぬてぬ@TSF

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120.勝敗と学び

6機のACが激しく入り混じり合う映像を見つつ、ミシガンは片手で顎髭を撫でた。Aチームは当然としてBチームも非常に動きがいい。先に墜とされたレッド、そして解放戦線の少女も以前からは考えられない練度になっている。

 

元々、組織間の枠組みを超えた交流会の場を用意したのは自分だ。その時には、各組織の軋轢を緩和させる手段の一つと捉えていたが・・・・・・ミシガンにとっても、ここまで良好な訓練環境になるのは予想の外だった。

 

レッドガン式の鍛錬だけでは補えないものもある。特に、ACの複数戦は変化を持たせるのが難しかった。現在、レッドガンの番号持ちは6名。3vs3の組み合わせにも限度がある。

 

星外からの侵攻、その前衛を務めるだろうベイラム第三艦隊は名前通り軍艦が主力だ。そして、軍艦の中には無数のACが搭載されているものもある。元々ベイラムのACパーツは量産に優れた設計をしており、それが戦線に投入されるのは間違い無い。

 

物量と兵站で圧倒する。ベイラムの戦術方針を、アーキバスとの協力により存分に発揮するつもりだろう。故にACによる複数戦の経験は重要だ。恐らく、夥しい数のベイラムACを突破しなければ軍艦に肉薄することも叶わない。

 

だからこそ、今の交流会には重要な意義がある。参加している者達が感じている以上の意義が。

 

「・・・・・・」

 

ミシガンは無言のまま、映像の映る画面からタブレットへと目を移す。そこにはハンドラー・ウォルターの元で治療を受けているスッラの病状が書き出されていた。あの老兵とは直接会ったことは無いが、何度か指揮する作戦の邪魔をされた記憶がある。先日の模擬戦の際も、腕は衰えていないように見えた。

 

それ程の猛者でも老いには勝てないのか。ミシガン自身も老齢だ、思う所が無いわけでは無い。しかし、それ以上に心配なのはウォルターの精神状態。あれは鉄のような意思を持っているが、内に秘めた使命を失ったであろう現状、酷く揺れ動いていた。今回の模擬戦も観戦せず、スッラに付きっ切りらしい。

 

側にいたとしても意味は無い。そんなこと、彼も理解しているだろう。情が深過ぎるのだ。優先させるべき使命を失い、生来の性格が面に出てしまっている。隠そうにも隠せない程に。

 

そこまでスッラを案じる理由はミシガンには分からない。恐らくはウォルターの過去に結びついているのだろうが、詮索する気も無かった。ただ、このまま腑抜けでいられては困る。最早、彼と旗下の独立傭兵達はルビコンを支える柱の一つなのだ。

 

以前も模擬戦を共に見ながら酒に誘ったが、その約束も果たされていない。いっそ時間がある時にウォルターの拠点に乗り込んでやろうか。私的な時間は殆ど無いミシガンだが、同盟関係にある男に活を入れる為だ。それもやむなしだろう。と、

 

「・・・・・・動いたか」

 

模擬戦に大きな進展があったようだ。思考を打ち切り映像を注視する。そこには、全ての武装を撃ち続けながら爆散するキャノンヘッドが映っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時間は少し巻き戻る。乱戦の中、シオンはAPの差が開いていくのを実感していた。強い。今までの交流会で分かってはいたが、やはりこの三人は強過ぎる。無茶苦茶な方法で乱戦に持ち込んだが、それでも尚圧倒的な実力差に舌を巻いていた。

 

621の追撃は運良く振り切れたものの、陣形も何も無く6機のACが入り混じる中で被弾を重ねるのはBチーム側。それも当然だ。いくら紛れの起きやすい乱戦だとしても、いや、乱戦だからこそ経験やセンスが活きる。簡単に覆せるものではない。

 

そんなことは百も承知だったはずだ。包囲を継続しても勝ちの目は無かった。だから賭けに出るしかない。ただ、他にもいい策があったのではないか?一瞬も気が抜けない中、無駄な思考がシオンの脳裏をよぎる。駄目だ、集中しろ。隙を見つけ出せ。己を叱咤するも戦況は変わらず、打開出来る機はやってこなかった。

 

『呆けている場合か!指揮官ならば思考を止めるな、立ち止まっている時間は無い!』

 

諦観に呑まれかかっていたシオンにフレディが激を飛ばす。挫折など、嫌という程味わってきた。故にフレディは臆さない。勝ちの目が薄いなどいつものことだ。絶望している暇があったら少しでも考え、動き続けるしかないのである。

 

「っ、助かるぜフレディさん!狙いをスティールヘイズに絞る!火力を集中させろ!」

 

硬直化しかけた思考を奮起させ、場当たり的な指示をするシオン。内容は単純、最も装甲の薄いACを狙うだけだ。今の自分では、乱戦の中で複雑な戦術を練ることは出来ない。だからシンプルにいく。巧遅よりも拙速だ。

 

シオンからの指示を受け、フレディとヴォルタはラスティの駆るスティールヘイズにエイムを合わせる。放たれた無数の弾はしかし、直撃せず容易く回避された。クイックブーストの瞬間速度に加え、攻撃されるのを事前に予測していたようだ。

 

『見えているぞ、それは!』

 

集中攻撃によって生まれたリロードの隙に、ラスティと621がキャノンヘッドに殺到した。レーザースライサーとパルスブレードによって切り刻まれ、残りAPが一瞬の内に消し飛ぶ。が、それでもヴォルタは撃てる武装を撃ち続けた。最後の瞬間まで。

 

『クソが、ここまでかよ・・・・・・!』

 

無念を滲ませる声と共に撃墜され、Bチームの残りは2機。実力に差がある以上、数でも差がついた時点で最早勝利は難しい。だが、シオンとフレディの動きは一切衰えなかった。むしろ鋭さを増し、執拗に攻撃を仕掛け続ける。

 

「狙いはスティールヘイズのまま!まずは一機墜として五分に戻すぞ!」

 

シオンも理解はしていた。もう勝ち目は無い。だからといって諦める気は毛頭無かった。フレディに激された通り、やれることをやるだけだ。例え相手が化け物であろうとも。

 

【先にトラルテクトリを墜とす。チェーンソーに気を付けて】

 

燃えるような気迫を前に、621は冷静なまま指示を飛ばす。手は抜かない、ここで模擬戦を終わらせる。ラスティ及びイグアスと共にトラルテクトリに襲い掛かった。当然シオンに凌げるはずも無い。ヴォルタの撃破からそれ程かからず、APが残り僅かまで追い詰められてしまう。

 

届かない。何をどうしようとも目の前の怪物達には届かない。621を複数で相手にした時以上の絶対的戦力差を前に、それでもシオンは諦めず機動し続けた。狙うはチェーンソーの直撃。もしもここから巻き返せるとしたら、敵機を全てチェーンソーで粉砕するしかない。

 

夢物語と自覚しながら、シオンは砂粒にも満たない機を伺う。だが現実は冷酷だ。Aチームは全機が一切隙を見せず、付け入る余地は存在しない。波状攻撃によってAPを削られ、トラルテクトリとキャンドルリングはほぼ同時にスタッガーした。

 

パルスブレードとレーザースライサーが煌めき、装甲を両断し致命傷を与える。BチームのACが全滅、模擬戦はあっさりと終わりを迎えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あークソやらかした!すまん、負けたのは俺のせいだ!最初っから採るべき戦術をミスってた!」

 

そう言ってBチームの面々に頭を下げるシオンだが、表情や雰囲気に悲壮さは感じられない。敗戦のショックを受けていないのか、あるいは押し隠しているのか。いずれにしろ晴れやかな態度だった。

 

「数の利は包囲の為に使うべきじゃなかった。相手に包囲を警戒させて、一方向から全員で突破するべきだったんだ。と、俺は思ったんだけど・・・・・・皆はどう思う?」

 

全員の顔をぐるりと見渡して訊ねる。無惨な敗北を喫したはずのBチームの面々は、指揮官であったシオンの言葉に各々口を開き始めた。

 

「包囲自体は悪くなかったはずだ。だが、やはり彼我の実力差が響いたな。目的は施設の破壊、頭数は足止めの為に活かすべきだったか」

 

「でも、それだとリスクが大き過ぎない?包囲しつつ射程外から削るって方向はいいと思う。さっきのレイヴンみたいに、相手が突っ込んできた時の対策を練れば・・・・・・」

 

「今回の模擬戦は離脱が目標に入ってねえからな・・・・・・。塊になって突っ込むのも効果的ではあるだろ。どっちにしろ、化け物を相手にするのは変わらねえ。となると連携の強化か?めんどせぇがな」

 

「ACごとの機動力の違いも課題ですね。足並みを揃えるか、多少乱れてでも突入を優先するか。自分としては足並みを揃えたい所ですが・・・・・・相手の対応次第ではそうも言っていられない」

 

喧々諤々。議論は途切れること無く続き、敗因と対抗策が練られていく。一方勝利したはずのAチームは、喜ぶでもなく無言だった。いつも通りの様子の621に、露骨に不機嫌そうなイグアス。ラスティも考え込む素振りのまま口を開かない。

 

防衛側の利に実力差。それを鑑みれば、数の差があった所で容易く勝利出来るはずだった。実際、ACの損耗を大したことはない。圧勝と言っていいだろう。

 

しかし、戦術面ではどうだろうか?結局は個人的な強さで戦術面の不利を覆しただけでは?包囲を崩す為に真っ先に飛び出した621も、ある程度は自覚していた。ACの戦い方、その基本からは外れていると。

 

つまり、話し合うことが無い。顕著な能力を持つが故、621の戦い方は621だけのものだ。イグアスは基本に忠実な部分が多いが、ラスティもどちらかと言えば621寄りである。Bチームのように戦訓の共有をするのは難しい。と、

 

「下手な考えを回しているようだな。耳をかっぽじってよく聞け!戦い方も戦術も各々が積み上げるものだ、常道も外道も存在せん!いかに目的を達成し、いかに損害を抑えるか。重要なのはそこのみだ!分かったらデブリーフィングを開始しろ!貝のように口を塞いでいる暇は無い!」

 

いつの間にかAチームの元に近付いていたミシガンが雷鳴のような声を上げる。勝利したにも関わらず微妙な雰囲気の三人を見て、レッドガンの総長は彼らの内心を粗方把握していた。特に621。彼女は指揮経験が浅いというのに、隔絶した戦闘経験を有している。酷く歪だ。

 

だからこそ口を開いていないのだろう。ルビコンの戦乱をひたすら繰り返しているという情報は眉唾物だが、その歪さはミシガンにも伝わっている。この戦い方で良かったのかという不安も。強大な存在のはずの彼女に釣られ、残りの二人にも不安が伝播しているようだ。

 

「貴様らの指揮能力は赤子以下だ!何を泣き喚いた所で誰も気にはせん!まずはみっともなく産声を上げろ、それが出来なければ指揮官を降りろ!」

 

ミシガンは苛烈な言葉を叩きつけ、そのまま踵を返した。どれだけACの操縦が卓越していても、指揮を執るにはそれ相応の経験が必要だ。このままの様子で果たして間に合うのか。決戦は遠くない所まで迫っているというのに。

 

ベイラム第三艦隊との戦いは総力戦になる。戦場に混乱が起きるのは間違いない。だからこそ、機動力と対応力に優れたAC乗り達には現場で判断してもらうことも多くなる。オペレーターとの通信が阻害される場合もあるのだ。指揮官としての視点を得れば、必ず助けになるだろう。

 

その点、AチームよりはBチームの方が優れていると言えた。実力に劣るが故に、全員が思考を回し続けている。実戦経験が浅いレッドやリハビリ中のヴォルタはともかく、先日まで劣勢を強いられ続けてきた解放戦線の三人はよく理解しているようだ。

 

果たして、帥淑フラットウェルは彼女達をどのように運用するのか。一度腹の探り合いをするべきかと考えつつ、ミシガンは部屋の片隅で模擬戦の分析を行っているナイル達の元に赴く。老いたとて衰えぬ戦意は、未だに燃え盛っていた。




突っ込んで全部墜とせば勝てる、は戦術じゃないんですよね。神話です、神話。
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