見せてもらいましょう、借り物の体でどこまで飛べるか   作:てぬてぬ@TSF

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121.とある部隊長の懸念

彼は焦れていた。ルビコン3に生を受けて数十年、企業の侵攻に苦しみながら生きてきた彼は、MTのパイロットとしてその名を馳せている。度重なる戦いを生き残り、精鋭MT部隊の隊長まで上り詰めていた。

 

しかし。ウォッチポイント・アルファを巡る先の決戦において、彼の部隊は手酷い損害を負ってしまった。総撤退を開始したアーキバスの部隊群を追撃するも、V.Ⅲオキーフが指揮する防衛線に消耗を強要されたのだ。

 

もしあの時、防衛線を食い破れていれば。わざわざアーキバス残党に調略を仕掛け、物資を無駄に浪費してまで降伏させる必要は無かっただろう。つまりは自らの実力不足だ。彼が率いる部隊が被った損害は、人的なものも多く含まれている。決戦から相応の時間が経った今でも再編の目途は経っていない。MTはともかく、それに乗るパイロットが不足していた。

 

「・・・・・・」

 

来たる次の戦いに間に合わないかもしれない。焦燥感に苛まれながらも、彼はタブレットを操作し書類の整理を行っている。部下達には休暇を出しており、部隊にあてがわれた執務室には彼一人だけだ。と、ノックの音が聞こえ、返事する前に扉が開かれる。

 

「失礼します。あー、やっぱり仕事してるんですね隊長。僕達には休めって言ったのに」

 

「余暇をどう使うかは私の勝手だ。それで、何をしにきた」

 

「へへ、差し入れですよ差し入れ。どうせいつもの栄養剤で済ませているんでしょう?たまには美味しいものを食べないと気が滅入っちゃいますよ」

 

部隊の副隊長を務める青年は、物怖じしない態度で隊長へ言い募った。人懐っこい雰囲気は部隊に配属された日から変わっておらず、それを利用して部下を纏めている優秀な若者だ。彼にとっては右腕のような存在であり、命を預けられる戦友でもある。

 

「俺にもお節介を焼くとは、偉くなったものだ。いっそお前が隊長になるか?私よりも余程上手くやれるだろう」

 

「やっぱ疲れてますね、隊長。皮肉の切れがいつもより悪いですし。はい、どうぞ」

 

差し出されたタッパーを受け取り、中を確認する。いつものミールワーム料理に見えるが、蓋を開けた時に漂う香りは嗅ぎなれないものだった。香辛料が入っているのか、スパイシーで食欲を誘う香りだ。

 

「これは?」

 

「なんでも、企業が貯蔵してたスパイスを使ってるらしいです。僕も食べたけど美味しかったですよ。やっぱり代わり映えのしないメニューよりも、こういう変化があると士気が上がりますよね」

 

「ふん。まぁ、企業から奪取したものと思えば溜飲も下がるか。いただこう」

 

鼻を鳴らしつつもタッパーの中にスプーンを突っ込み、すくい上げたミールワームの肉を口に放り込む。甘じょっぱさと共に舌を刺激する辛味が感じられた。あまり馴染みの無い味だ。ルビコンでは香辛料は貴重品で、星外勢力やそれらと取り引きをしているドーザーくらいしか扱っていない。

 

これも豊かさの一つか。じっくりと咀嚼しながら彼は思う。食事の味を気にすることが出来るという時点で、以前とは比べ物にならない程余裕が出来ていた。自身の境遇は芳しくないが、ルビコニアン全体で言えばいい方向に向かっているのだと信じている。と、

 

「んぐ・・・・・・何をそんな熱心に見ている?」

 

肉を呑み込みつつ、青年に気になっていたことを訊ねた。タブレットを操作し、熱心に何かを眺めているようだ。

 

「あぁ、隊長も気になります?ルビコンの天使ですよ、ルビコンの天使。ほら、たった一人で戦局を変えたっていう」

 

「あれはただの噂だ。実在はするだろうが、戦果には尾ひれが付き過ぎているはず。そも、あそこまで年若い者を戦場に立たせるのは納得出来んな。銃後でもやれることはあるというのに」

 

青年のタブレットには少女が映っている。名はシオン。突如として現れ、解放戦線のAC乗りとして頭角を現した存在。挙げてきた派手な戦果と見た目から、ルビコンの天使と呼ばれルビコニアンに崇拝されていた。

 

「帥父ドルマヤンならともかく、このような幼子を崇めるとは・・・・・・。苦境を超えたことで目が曇ったか」

 

「散々な言いようですね。実際、僕みたいに単純な奴の士気を上げるには最適なんですよ。見た目も良ければ腕もある、その上性格もいい。持ち上げられない方が不自然ですって」

 

「その物言い、もしかして直接会ったことでもあるのか?ルビコンの天使とやらに」

 

その問いかけに青年は大きく頷く。次いでタブレットに映し出されたのは、無骨なACと複数のMTが戦っている映像だ。おそらくはシミュレーターのものだろうそれに、彼は眉を顰めた。隊列を組んでいるMT群は彼の部下達のように見える。

 

「ほら、少し前にも休みを貰ったじゃないですか。今日みたいに隊長は働いてたみたいですけど。で、まぁ、やることも無いから部隊の皆でシミュレーター室に行ったんですよ。その時この子に会ったんです」

 

シオンというAC乗りは、時間を見つけてはシミュレーターに籠っていることで有名だ。部下達が休息の命令に従っていないのは問題だが、自分もワーカーホリック気味なのでとやかくは言えない。重要なのは、彼になんの報告も上がっていないことだ。

 

「何故、今まで報告しなかった」

 

「余暇をどう過ごすのかは勝手、なんでしたっけ。・・・・・・冗談です、そんな怖い顔しないでください。単に報告する必要性を感じなかっただけです。一度の模擬戦で何もかもが変わるわけじゃありませんし、ルビコンの天使のことを隊長は好まなそうでしたから。そこに関しては当たりでしたね」

 

「ふん・・・・・・」

 

青年の言う通り、彼はルビコンの天使と呼ばれているAC乗りを好ましく思っていない。というよりも、倫理的な忌避感が強かった。確かにACやMT等、一部の兵器は才能さえあれば幼くとも操縦出来る。だが、それをよしとするかは話が別だ。

 

大人は子供達を守り、そして育む義務がある。長きに渡って戦乱に苛まれてきたルビコンでもそれは変わらない。そんな価値観を持つ彼にとって、ルビコンの天使に限らず子供を戦場に立たせることは嫌悪していた。

 

子供が戦場に立つ原因も理解はしている。どれだけ戦い続けても企業を星外に追い出せず、時間を浪費してしまった大人達のせいであると。だからこそ表立って非難はせず、時折部隊の者達に愚痴を零す程度に収めていたのだが・・・・・・。

 

「隊長も実際に会って話してみたら驚くと思いますよ。見た目からは想像も出来ない、歴戦の風格でした。噂もあながち間違いじゃないと思わせるだけの説得力がありましたね。同じ戦場にいれば頼りになるはずです」

 

「お前がそこまで言うとはな。ただ祭り上げられるだけの器ではない、か。幼さはともかく、出自が知れないのは気がかりだが・・・・・・帥淑のことだ、問題はあるまい」

 

ルビコンの天使はミドル・フラットウェルの直属であり、彼によって見出された存在らしい。企業によって強化手術を施され、その後解放戦線に寝返った、と。どこまで信じていいか分からない出自だ。ドルマヤンを信奉するが故、陰謀屋であるフラットウェルのことは警戒していた。

 

ドルマヤンが往年の覇気を取り戻してからは派閥争いも消滅している。故に警戒も必要無いと思われるが、部隊長として身に付けた慎重さが油断するのを許さない。もし解放戦線の、ルビコニアンの不利益になるならば、帥淑フラットウェルに反旗を翻すのも辞さないつもりだった。

 

「まーたあれこれ考えてる。皴が増えますよ。折角モテそうな顔立ちしてるのに」

 

「馬鹿が。私は所帯は持たん。いつ戦場で散るとも分からない身だからな」

 

「下世話な話、子孫を残すのも戦士の努めじゃないですか?まぁ、隊長が人嫌いなのは今に始まったことじゃないですけど。おっと」

 

軽口を叩きつつ、青年はタブレットに来た通知を確認する。驚きと不思議そうな感情が混ざり合ったような表情を浮かべ、伺うように隊長へと視線を映した。妙な態度を怪訝に思いつつ訊ねると、予想外の返事が返ってくる。

 

「どうした」

 

「ルビコンの天使から連絡が来ました。まるで測ったかのようなタイミングだなぁ・・・・・・。対多数の経験を積みたいから、もし時間があれば協力してくれって」

 

「・・・・・・」

 

話題に出していた人物からの連絡。もしや盗聴器か何かでも仕掛けられているのかという疑念がよぎるが、もしそうならこのタイミングで連絡はしてこないだろう。今考えるべきなのは、唐突に訪れた機会にどう対応するかだ。

 

「どうします、隊長?僕としては受けてもいいかと思ってますけど・・・・・・」

 

「今日ならば休暇だ。好きにすればいい」

 

「一応、あちらが希望してるのは明日の正午過ぎからですね。部隊の予定としては机上演習の時間か。なので、隊長の判断を仰ぐべきかなと」

 

「ふん」

 

鼻を鳴らし、ミールワームの肉を口に放り込む。咀嚼しながらどうするかを考え始めた。対AC、それも「肉入り」を相手に模擬戦を行えるのは部隊としても有用である。ルビコンの天使に接触出来るのも、考え方によってはプラスだろう。

 

「・・・・・・隊員に連絡を入れるか。予定を変更、明日の早朝より対ACのミーティングを行う。やるからには全力でいくぞ」

 

暫しの熟考の後、彼は明瞭な口調で告げる。ルビコンの天使からしてみればたかがMT部隊と見られているかもしれないが、長く戦い続けてきた経験と矜持を舐めさせはしない。必ず爪痕を遺してやる。残りの煮込みをかき込み、勢いよく立ち上がった。

 

「副長、すまんが休日は返上だ。敵ACのデータを分析する。手伝ってくれ」

 

「了解です。いやぁ、楽しみですね。僕達じゃ歯が立たなかったけど、隊長の指揮なら食らいつけるかも」

 

「私の能力もお前達と大差無い。だが、やりようはあるはずだ。数の利と情報がある以上、戦術的に先手を取れるのはこちらだからな」

 

そう言いつつも、彼の表情には微塵の油断も感じられない。実戦でもないただのシミュレーターでも、鬱屈した現状に飽いていた彼にはカンフル剤になったようだ。副長を引き連れ部屋を出る。その足取りはとても軽かった。




AC以外のメカも操作出来るモード実装してくれ。俺はキッカーでいく。
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