見せてもらいましょう、借り物の体でどこまで飛べるか   作:てぬてぬ@TSF

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122.生き残りたい

「そう警戒せずともいい。既に契約は交わされたのだから。今回はただの聞き取りだ。話したくないことは、無理に話す必要も無い」

 

「は、はい・・・・・・」

 

解放戦線のナンバー2、帥淑ミドル・フラットウェル。百戦錬磨の怪物を前に、V.Ⅵメーテルリンクは声が上ずらないようにするので精一杯だった。

 

アーキバス残党が全面降伏してから、既にそれなりの月日が経っている。降伏の選択に際しメーテルリンクに異論は無かった。抗戦を継続するのは不可能な状況であったし、星外からの増援も望めない。社命に忠実と称されている彼女だが、無理な特攻での戦死を許容できるほどアーキバスに忠誠を捧げてもいないのだ。

 

とにもかくにも、一時の延命には安堵している。例えこれから走狗のように扱われるとしても、命あっての物種だ。あのまま餓え死ぬよりはずっとマシである。幸い、危惧していたような報復や私刑など、手酷い扱いは受けていなかった。

 

「では、始めよう。まずはルビコン3に来る以前の来歴から・・・・・・」

 

だが。まさか、ミドル・フラットウェルから直接聞き取りを受けるのは想定外だ。そもそもこちらの情報は全て渡したはず。わざわざ対面で聞き取りをする理由が分からない。事前に連絡されていないのなら猶更だ。

 

相手の意図が分からないまま、メーテルリンクは質問に対して誠実に答えていく。虚偽や誤魔化しをする気は無かった。アーキバス残党の、自分達の命は目の前の男に握られているのだから。

 

「次は貴女のAC、インフェクションについてだが。私達と共に戦うという覚悟はあるか?」

 

「は、はい。納得もしています。こうして助命していただいた以上、働きで返すのは当然なので」

 

そう告げた声は震えていなかっただろうか。恐怖を飲み込んだ内心を見抜かれていないだろうか。そんな心情を知ってか知らずか、フラットウェルは気軽な口調で切り出した。

 

「ならば、貴女に意見を求めたい。インフェクションのアセンについて、何か改善してほしい部分があるなら話してくれ」

 

「・・・・・・は、え?」

 

予想外の言葉に固まるメーテルリンク。改善してほしい部分とは、一体どういうことだろう?疑問が伝わったのか、目の前の男が薄く笑いながら言葉を続ける。

 

「特に裏がある発言ではない。共に戦うのなら、戦力を整えるのは当然だ。幸い、星内の工場は我らが支配下に置いている。アーキバス系列以外のパーツも多少融通は利くが・・・・・・」

 

至れり尽くせりな提案は、メーテルリンクの目を白黒させるのに十分だった。一応は捕虜の身だというのに、ACのパーツまで用意してくれるなんて。ロクな整備もされないまま、戦場で囮扱いされるのが関の山だと思っていた彼女にとって、ここまでの厚遇は簡単に信じられない。

 

解放戦線側からしてみれば、メーテルリンク達ヴェスパー部隊は仇敵である。が、それは同盟を結んでいるレッドガンも同じこと。未だ星外からの侵略に備えねばならない状況において、アーキバス残党の戦力は喉から手が出る程欲しいものだった。

 

ルビコニアン達には報復を慎むよう厳に命じている。が、長年の間積もり続けた感情の問題だ。そう簡単に解決出来るとは思っていない。故に、アーキバス残党には積極的に戦果を挙げてもらうつもりでいた。ルビコニアン達に、それが償いだと認識されるように。

 

その為には戦力強化が必須だ。星外の敵はヴェスパー部隊の情報を正確に把握している。それ故、ACのアセン変更も視野に入れなければ。手の内が筒抜けなのは総指揮を執る側としては避けたい。

 

無論、それらは全て彼らが選択してからだ。命の保証をちらつかせ、強制的に戦わせる気はフラットウェルには無かった。それでは戦力として期待出来ない。あくまで自発的になるよう、促すつもりでいる。

 

「き、急に言われても・・・・・・インフェクションのアセンはアーキバスから指示されたものです。細かい調整は私が行っていますが、勝手なパーツ変更は許されていませんでした。少し時間を頂けませんか?」

 

「了承した。では、今日はここまでにしよう。こちらのタブレットにパーツの一覧が乗っている。参考にしてくれ」

 

差し出されたタブレットを受け取ったメーテルリンクは、フラットウェルに伺うような視線を向けた。回線に接続出来ないタブレットとはいえ、まさか捕虜に渡してくるとは。悪用され、脱出のきっかけになるとは考えていないのか。それとも脱出することは無いと確信されているのか。

 

「分かりました。構想が固まったら連絡しても?」

 

「頼んだ。あぁ、それと。今日から新たな部屋を用意してある。貴女だけではなく、残存しているヴェスパー部隊全員分な。多少は過ごしやすくなるはずだ」

 

どうやら後者だったようだ。今与えられている部屋は狭く、ベッド等最低限の家具以外は存在していなかった。捕虜には相応しい扱いである。それが快適な部屋を用意してくれたとなると、本格的に解放戦線に取り込む気なのだろう。

 

「ご厚意、痛み入ります」

 

「気にする必要は無い。戦場で命を賭けてもらうのだ、それ相応に遇するのが道理である。他にも、何か要望があれば言ってくれ。可能な限り対処しよう」

 

至れり尽くせりな言葉に、しかしメーテルリンクは深く頭を下げることで答えた。相手はあのミドル・フラットウェルだ。何かしらの罠を仕掛けているに違いない。勘繰りを深めつつも、タブレットの支給自体はありがたかった。何もやることが無いと不安で押し潰されそうだったのだ。

 

頷きを返し去っていくフラットウェル。その後案内された部屋は、質素ながら清潔でスペースも広めの個室だった。案内してくれたルビコニアンによると、監視さえ付ければ出歩くのも認められるらしい。

 

「ふぅー・・・・・・」

 

新しい部屋で一人になったメーテルリンクは、緊張を緩ませるように溜め息を吐く。タブレットを起動しACパーツの一覧を眺めながら、これから先の未来に思いを馳せた。結局の所、何処にいようがやることは変わらない。ACに乗り、命じられた任務を忠実に果たすだけだ。

 

そう考えれば、そこまで悲観するような状況でも無いのかもしれない。ヴェスパー部隊時代、彼女は主にスネイルの指揮に従っていた。第二隊長の用兵は効果的ながら酷薄で、命の危険を感じた回数は数えきれない。

 

一方フラットウェルはどうだろうか。捕虜となる以前、彼の指揮する部隊と戦った作戦ログを確認したことがあった。身内の者をいたずらに犠牲にするような戦術は採っていない印象だ。それでも、アーキバスの残党をどう扱うかは分からない。

 

「でも、どうしようもないかな」

 

どうするべきかと考えても、採れる選択肢は殆ど無いのだ。ただ懸命に戦う。それが生き残れる可能性が最も高いはず。後は、インフェクションのアセン変更か。他企業のパーツを堂々と使えるのならば、より自分の戦い方に最適化させることが出来るかもしれない。

 

所詮自分は一介のAC乗りだ。精鋭とされるヴェスパー部隊の中においても、流されるままに上からの命令に従っていただけ。一人で現状をどうこうできる意志など持ち合わせていない。

 

それでも。それでも、彼女は死にたくなかった。生きて平凡な暮らしを送りたかった。ヴェスパー部隊を除隊し、溜めてあった貯蓄で悠々自適な余生を送る。そんな望みは既に崩壊している。それならせめて、命だけは繋がなくては。

 

「・・・・・・はぁ」

 

大きく溜め息をついてから、メーテルリンクはタブレットの画面に目を走らせていく。どのパーツを採用すれば生存性が高まるのか。そして、ルビコニアンの不興を買わない程度の戦果を挙げられるのか。暗澹たる気持ちになりつつも、彼女は最適なアセンを模索し続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やぁどうも、あの時以来ですね。元気そうで何よりです」

 

「こちらこそ。急に呼びつけて悪かったな。今度飯でも奢るよ」

 

「いやいや、我らにとっても得難い機会ですから。あのルビコンの天使と手合わせ出来るんですし」

 

先日シミュレーターを共にしたMT部隊の副長と、シオンは親しげに言葉を交わす。事情を知らない者が見ればその光景は奇妙に映っただろう。明らかに歳の離れた二人が対等、ともすれば副長の方が敬意を払っているということに。

 

ルビコン解放戦線は純粋な軍事組織ではない。故に明確な階級付けもされていなかった。生まれ育った星を守るという意志によって、士気や規律を保ってきたのだ。そして、現状ルビコニアンの士気に大きな影響を与えているのがシオンである。

 

愛らしい見た目と確かな実力は、企業勢力を星外に追い出した解放戦線にとって絶好の旗印だった。ルビコンの天使と称され、特に若いルビコニアンの間で尊崇の対象となっている。事実とは異なる過大な噂も流れていた。

 

「普通にシオンって呼んでくれって。天使って柄じゃないんだ」

 

「では、シオンさん。こちら、うちの部隊の隊長です」

 

「・・・・・・よろしく頼む」

 

頭を掻きながら謙遜するシオン。副長に紹介された隊長はその様子を鋭い目つきで眺めつつ、節くれ立った手を差し伸べる。果たして彼女は気軽に握手に応じ、とても戦士のものとは思えないほっそりとした手を重ねてきた。

 

「よろしくお願いします。いやぁ、急な頼み事を引き受けてくれてありがたい限りです。迷惑じゃなかったっすか?」

 

「いや。我が部隊としても、腕の立つAC乗りと戦えるのは僥倖だ。胸を借りるつもりでいかせてもらう」

 

「はは、こっちの台詞ですよ。んじゃ早速やりますかね」

 

実際に言葉を交わしてみると、確かに天使と呼ばれるには男勝りに思える。何より気さくだ。己の実力や名声を鼻にかけるでもなく、一介のMT部隊相手にも気を遣っている。噂の真偽はともかく、隊長の勘では悪人の類ではないように感じられた。

 

シミュレーターに乗り込み、ゆっくりと息を整える隊長。今回、模擬戦における設定はランダムになっている。突発的な状況で何度も戦闘を繰り返し、互いの対応力を高めるのが目的だ。一戦目に出力されたのは、一面に遮るものが無い氷原。勝利条件はどちらかの全滅と表示されている。

 

「全隊、フォーメーションガンマを構築。盾持ちは4-2で分かれろ。敵機の突撃には持ちこたえず受け流し、可能ならば包囲を試みるぞ」

 

開始時点ではかなりの距離がある。それまでに迎撃態勢を整えようと、隊長は部下達に次々と指示を飛ばした。同時に自身の乗機を操縦し、陣形の先頭に移動する。彼の駆る四脚MTの武装はマシンガンに重厚な実体盾、そして背部に三連装バズーカを搭載していた。

 

「灰かぶりて、我らあり。見せてもらおう、シオンとやら」

 

通信に乗せずに呟き、じっと正面を見据える。やがてブースタの噴射音と共に、無骨なAC・・・・・・トラルテクトリが真っすぐに突っ込んできた。




ACシリーズではいつものことですが、1ミッションで出番を終わらせるには魅力的なNPCが多過ぎるんですよね。おかげで二次創作が捗るのでありがたい限りです。
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