見せてもらいましょう、借り物の体でどこまで飛べるか 作:てぬてぬ@TSF
「相変わらずきっちりした陣形だなぁ・・・・・・さぁて、どこから食い破るか」
眼前のMT部隊を画面越しに見つつ、シオンはシミュレーター内で一人呟いた。敵機の数は10を超え、その内一機はACにも引けを取らない四脚MTである。骨の折れる相手だ。だからこそ戦う意味がある。
まずは小手調べとばかりに突っ込み、ミサイルを放つと同時に両手の銃火器を連射した。狙いは盾を構えている四脚MT。実体盾はパルスシールドと違い、オーバーヒートが存在しない。攻撃によって破壊されるまで機能し続けるのだ。
が、その分重量が嵩み取り回しが悪いという欠点もある。その為ACには用いられていないものの、機動力に劣るMTにはメジャーな武装だった。シオン自身、盾持ちのMTとは過去に何度も戦っている。そしてその攻略法も理解していた。
一つは、火力を集中し相手をスタッガーに追い込むこと。いくら盾を構えていても攻撃による衝撃は蓄積する。スタッガーしてしまえば盾を有効に使えず、一気に押し切れるだろう。
もう一つは、機動力を活かして側面や後方に回り込むこと。実体盾はその重量故に構える動作も鈍重になってしまう。その隙を突いて回り込み、盾で防護されていない部分に攻撃を加えればいい。
今回の場合、四脚MTをフォローしようと他のMTが前進し陣形を組んでいる。回り込むのは難しそうだ。ならば正面から火力を叩きつける他無い。相手の反撃を凌ぎつつ、機を見てチェーンソーの直撃を狙うのもいいだろう。
僅かな時間で思考を走らせたシオンは、方針を変えず四脚MTへと攻撃を継続する。MT部隊からは主に実弾系の武装で応射されているが、トラルテクトリの装甲なら楽々耐えられる程度だ。
だが、こちらの攻撃もあまり効果を及ぼしていない。やはり盾が優秀なようだ。四脚MTだけでなく、通常の二脚MTにも盾を持った機体が多い。互いを守り合うような位置取りは、チェーンソー以外に高火力な武装を持たないトラルテクトリでは崩しにくかった。
いつ突っ込むか。突っ込むとしてどこからにするのか。最適なタイミングは。縦横に機動しつつも思考を継続し、機を伺い続ける。MT部隊の動きは洗練されており、一見すると付け入る隙は見当たらなかった。それならば・・・・・・。
「強引にいかせてもらうぜ!」
未だ盾を構えている四脚MTへと突っ込んでいくシオン。時間をかければかける程数の差が響いてくる。早めに何機か撃墜しなければジリ貧だ。そして、最も効果的なのは指揮を執っている機体を墜とすことである。
安直だがそれ故に有効な戦術は、当然MT部隊側も把握していた。シオンは実戦でも突撃戦術を好んでおり、肉薄されてのチェーンソーは最大限警戒するべきである。それ故陣形構築である程度対策してあった。
U字型の陣形は相手を誘い込む為のもの。餌は隊長自身だ。最前衛に位置し、攻撃を受けつつトラルテクトリの突撃を誘引する。突撃されないのなら射撃戦を続行し削り勝つ。それが彼らの立てた戦術だ。
シオンは罠に勘付いているが、それでも一気に踏み込んでいく。相手の思惑を超えて強みを押し付けるのが最適だと判断していた。それくらいの無茶が出来なければ、これから先の戦いで生き残るのは難しい。
「さぁさぁ、獲物が罠にかかったぞ!ここからどうする!?」
オープン回線を用いてMT部隊を煽りつつ、横にズレて突撃をいなそうとしている四脚MTに肉薄する。が、チェーンソーはギリギリまで展開しない。盾をパージすると同時に離脱される可能性もあるからだ。基本的にはスタッガーに追い込んでからでないと、大きな隙を晒してしまうだろう。
果たして、MT部隊はバズーカを一斉に放ってきた。質量のある実弾は脅威である。例えトラルテクトリが堅牢と言えど、攻撃を集中されればスタッガーに陥ってしまう。クイックブーストを吹かして射線を外しつつ、避け切れないものは装甲で受け止めた。そのまま四脚MTへと追い縋る。
『喰らい付いてくるか・・・・・・』
腹の据わった突撃、ここでこちらを墜とすつもりだ。そう判断した隊長はスムーズな動きで後退を続けた。相手の土俵にわざわざ上がるつもりは無い。彼女が吼えた通り、罠にかけて無力化してしまえばいいのだ。
が、想定以上に敵機の被弾は少ないようだ。鈍重な見かけとは裏腹にバズーカの大部分は回避されてしまっている。ブースタの性能というよりは乗り手の技量だろう。幾度と無く突撃を繰り返し、その経験を己が糧としてきたことが伺える。
若さに任せたものではない。むしろ老練さすら感じられた。シオン。ルビコンの天使と称される彼女は何者なのか。幼い見た目からは想像もつかない技量に、常に最前線で命を張り続ける覚悟
。ルビコンの為に身を粉にして戦い、しかし最新世代の強化人間なのである。
ぐんぐんと四脚MTに迫るトラルテクトリを視認しつつ、隊長は後退を止めどっしりと盾を構える。ここまで喰らい付かれては逃げ切れない。迎撃し、撃墜するか追い払わねば。
「そぉら追いついたぞ!」
迎撃のマシンガンにも一切怯まず、シオンはチェーンソーを唸らせながら四脚MTに肉薄した。同時に感じるのは後方からの圧力。陣形を維持したMT達がトラルテクトリの背を狙っている。この場合の対処法は既に決めていた。
パルスの光がトラルテクトリの周囲に伝播し、防壁を形作る。四脚MTごと周囲を包み込み、パルスプロテクションが展開された。外部からの攻撃をシャットアウトし、その間に勝負を決めるつもりのシオンに回線から声が届く。
『フォーメーションシグマに移行!作戦通りに!』
一糸乱れぬ動きがMTが前進を開始、パルスプロテクションへの侵入を開始した。パルスアーマーと違い、内部に潜り込まれた場合攻撃は防げないという弱点を突かれた形だ。だが構わない、猶予はある。シオンは一切の躊躇を捨て、展開したチェーンソーを振りかぶった。
「おおおおおっっ!!!」
連鎖刃が迫ると同時、四脚MTも実体盾を構えたまま踏み込む。そのまま質量任せにぶつかった。単純かつ強引なシールドバッシュだ。チェーンソーとかち合った瞬間、凄まじい衝撃が両機を襲う。
純粋な馬力では四脚MTが上回っているが、ブースタの瞬発力はACの方が高い。互いにACS負荷をかけ合いながら、チェーンソーが実体盾を削り取っていく。だが後一歩が押し切れない。シールドバッシュによる衝撃と実体盾の堅牢さが、チェーンソーの破壊力を半減させてしまっていた。
「っ」
このままでは不味い。そう直感したシオンは強引にチェーンソーを振り抜き四脚MTと距離を取る。そして、折角展開したパルスプロテクションを置き去りにアサルトブーストで離脱を試みた。MT部隊が仕掛けた罠は想像以上であり、自身の目論見は甘かったらしい。
「クソッ、流石に上手いな・・・・・・慢心だったか」
悔しさに表情を歪めるシオン。一方、追撃は難しいと判断した隊長は部下達に陣形を再度整えさせた。その表情は冷静そのものだが、内心歯噛みしている。まさか即座に離脱を選ぶとは。もう一押しで墜とせるかもしれないという誘惑を、彼女は難なく断ち切れるのか。
『リロードを済ませておけ。副長、お前の言う通りだったな。相応以上に難敵のようだ』
『でしょう?今回は隊長もいるのに、あっさりと包囲を抜けるなんて。まぁ、それでも今回は勝たせてもらわないと。僕らにも誇りがあるんで』
戦闘中に似合わぬ副長の軽口に、隊員達が各々同意の声を上げる。彼らは生き残りだ。過酷な戦場を生き残り、今も尚闘志を失わぬ戦士達。定数に満たないMT部隊だというのに、かのルビコンの天使を相手取れているのは彼らが精鋭だからである。
『MTへの損害はほぼ無し。実体盾は使い物にならんか。次からは命懸けだな』
『それはいつものことじゃないですか。大丈夫です、隊長が墜とされてもその隙に仕留めてみせますから』
その言葉を聞き、隊長は微かな笑みを口元に浮かべた。彼らならば問題無く務めを果たしてくれるだろう。散っていった隊員達と同じように。距離の離れたトラルテクトリを見据えながら、隊長は次の機会を静かに伺い始めた。
シオンとMT部隊の模擬戦。一旦小休止となっている戦況を、ルビコン解放戦線のトップであるサム・ドルマヤンはじっと眺めていた。場所は彼の私室。ルビコンでは珍しい紙製の本が詰まった本棚を除けば、酷く殺風景な部屋だ。
「・・・・・・ふむ」
突撃するシオンを巧みにいなし、陣形の奥へおびき寄せる動きに声を漏らす。MT部隊の隊長のことはよく知っている。歴戦のMT乗りであり、実力で今の地位まで上り詰めた叩き上げだ。ドルマヤンが気力を失っていた間も戦い続けていたのだろう。と、
『凄まじい攻防ですな。どちらも相当成長している』
通信越しに模擬戦を見ている男が固い口調で呟いた。どこか悔しげな言い方は、おそらく自身の境遇と重ね合わせているからか。
「急く必要は無い。ダナムよ、お前にはお前の道がある。彼らとはまた別のな」
『・・・・・・はっ』
ドルマヤンの言葉に、男・・・・・・インデックス・ダナムは深々と頭を下げる。音声のみの通信だと理解しているが、帥父の助言に頭を下げない理由は存在しない。ましてや先程まで技術的手解きを受けていたのだ。
リハビリが順調に進み、ACの操縦による苦痛が和らいだダナムは真っ先にドルマヤンに師事しようとした。風の噂で元V.Ⅳラスティを弟子に取ったとも聞いている。ルビコンを巡る戦いが小康状態の今だけが、帥父の教えを賜る唯一のチャンスかもしれない。
果たしてドルマヤンは彼の頼みを受け入れた。僅かな時間を捻出しすり合わせ、映像資料と口頭による伝達でとある戦闘技術を伝えている。それは、ACのマニピュレーターを用いた格闘のやり方だ。
ACの攻撃方法として、アサルトブーストからのキックは基本的な技術として知られている。武装をマウントしない腕部による殴打も、一応はマニュアルに組み込まれていた。しかし、それらを効果的に扱えるAC乗りは多くない。単純な話、装備した銃火器で攻撃した方が効率的なのだ。
ダナムがACによる格闘に目を付けたのは、自身の現状を分析し、それが必要だと結論付けたからだ。バーンピカクスはアセンの関係上、これ以上強化出来る余地が殆ど無い。仮にジェネレータを元に戻したとしても、強力な武装を積むのは難しかった。
故に、アセンはそのままに戦える方法を身に付けなくてはならない。即ちACによる格闘技術を。かつて星外から飛来し、人間が閉じ込められていたポッドと残骸をマニピュレーターでこじ開けた。今ではシオンと呼ばれている少女を助けた過去が、己でもACでの格闘を行えるかもしれないという希望になっている。
が、習熟度合いは芳しくない。今まで格闘どころか白兵戦もほぼしてこなかった為、歴戦の経験を活かせていなかった。それでもダナムは諦めず、ひたすらに鍛錬を繰り返している。その進捗と疑問点、改善案をドルマヤンと練っていた所に模擬戦の連絡が届いたのだ。
シオンvsMT部隊。どちらのこともよく知っていた。シオンは勿論、隊長とも昔馴染みである。彼らがガリアのダムに配備された期間もあり、協同した戦いは両手で数え切れない程だ。それ故、ドルマヤンからの観戦の提案をありがたく受けたのだが・・・・・・。
『しかし、本当に強い、シオンも、MT部隊も。生き残ってきたのも頷けます』
尊敬の念を込めて呟く。帥父に言われた以上、もう焦りはしない。いずれ彼らの場所まで追い付いてみせる。そしてルビコンを守り抜くのだ。決意を新たにするダナムの感情が伝わったのか、ドルマヤンは微かに目を細めた。こういった熱は悪いものではない。古い記憶を呼び起こす、懐かしい熱だ。
二人の戦士は模擬戦の映像に視線を注ぎ続ける。ドルマヤンは懐古と共に、ダナムは少しでも技術や戦訓を吸い上げようと。観客がいるとも知らず、映像内のシオンは再度の突撃を試み始めた。
ゲーム内のルビコン神拳は普通に強いですが、本来は武装をマウントする用のマニピュレーターでぶん殴るのって正気の沙汰じゃないですよね。だからこそ浪漫に溢れてるんですけど。