見せてもらいましょう、借り物の体でどこまで飛べるか   作:てぬてぬ@TSF

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124.冷徹な蛮勇

行くしかない。そう分かっているが、死地に飛び込むには相応の準備と覚悟がいる。シオンはシミュレータの中で深呼吸を繰り返し、陣形を保ったままジリジリと近付いてくるMT群を睨みつけた。

 

「このやり辛さ・・・・・・前よりも数段上だ。戦場じゃ会いたくねえな」

 

以前戦った時も難敵だったが、隊長が率いるMT部隊の動きは更に洗練されている。まるで一つの生き物のように、全体が連携しつつ機動していた。付け入る隙が無い。個では無く群の力とはこれ程のものなのか。

 

先日、交流会で行った模擬戦では惨敗してしまった。自分の指揮能力が高ければ、チームを勝利に導くことも出来たかもしれない。そういった考えで見知ったMT部隊に声をかけたのだが・・・・・・今の所、柔軟な戦術に圧倒されるばかりで何かを学べたとは言い難い。

 

シオンは考える。相手の戦術を打ち破るにはどうすればいいのか。機動力を活かし陣形末端のMTから墜としていくか?いや、迎撃火力を集中されて対応されてしまうだろう。ならばもう一度四脚MTに肉薄するべきか。実体盾はチェーンソーによってかなり削った。次の突撃を敢行すれば流石に持たないはず。

 

「待てよ俺、落ち着け」

 

自分に言い聞かせながら更に思考を深めるシオン。恐らく相手の目的はこれだ。隊長機を狙っての短期戦か、火力の交換で不利な長期戦の二択を強要されている。この時点で敵の手の内である可能性が高い。

 

ならばどうする。他に有効な方法は?シオンはMTの射程内から外れるように退がりつつ、打開策を探る。現状のトラルテクトリのアセンで取れる手段は他に無いか?マシンガン、バーストハンドガン、ミサイル、そしてチェーンソー。これらの武装で相手の思惑を超えるには・・・・・・。

 

「・・・・・・いや。迷う方が駄目だな、こりゃ」

 

迫るMT部隊をいなしつつ、シオンは思考を打ち切った。例え相手の手の内であろうとも食い破ってしまえばいい。器用に立ち回れないのなら、力尽くでこじ開けるのだ。意識して獰猛な笑みを浮かべ、アサルトブーストを起動する。狙いは先程と同じ。隊長機である四脚MTだ。

 

『踏み込んでくるか・・・・・・。作戦に変更は無い、陣形を維持しろ』

 

真っすぐに突っ込むトラルテクトリ。それを確認した隊長は静かな口調で指示を飛ばす。ルビコンの天使の苛烈な判断は若さ故か、それとも何か勝算があるのか。いずれにしろ、戦術と練度のかけ合わせで封殺してしまえばいい。

 

武装の射程に入った瞬間、統制された弾幕でトラルテクトリを迎撃した。マシンガンの連射を囮にバズーカの直撃を狙うが、クイックブーストで強引に避けられてしまう。一度目の突撃でこちらの攻撃タイミングを把握されたのだろうか。

 

迫る敵機を前に、隊長は歪にへこんだ実体盾を構える。最早大した役には立たないが初撃程度は凌げるはずだ。その後は即座にパージ、あるいは投擲し隙を作り出すのもいい。

 

「さぁ、もう一度だ!」

 

シオンと隊長の思考が交錯し、再び銃火が交わされる。一度目の突撃と違うのはトラルテクトリのAPが減少している点と、四脚MTの実体盾が激しく損耗している点だ。それらを勘案しつつも、一旦は両者の動きは変わらない。陣形の中に誘い込もうと後退する隊長に、シオンが追い縋っていく。

 

今回の模擬戦において、コア拡張機能であるパルスプロテクションは一度しか使えない。つまり、包囲された時の保険が無い状態だ。だからこそシオンは一層荒々しく踏み込んだ。正面装甲でバズーカの砲弾を受け止めつつ、強引に距離を詰める。

 

『っ』

 

無理やりな仕掛けに隊長が表情を歪めた。遮二無二構わぬ突撃は、何か具体的な策術があるようには思えない。自身の技量に任せた蛮勇だろう。そして、そのように動かれるのが一番面倒だった。

 

基本から外れた、ある種不合理とも言える行動。隊長は戦場で何度も経験してきた。そんな不合理が勝利を導くこともある、と。

 

『フォーメーションベータに移行!私には構うな』

 

トラルテクトリが眼前に迫る中、隊長は吼えるように指示を飛ばす。直後、陣形を組んでいたMT達は射撃を継続しつつも移動し始めた。包囲を狭めるのではなく、逆に一部に穴を開けるような陣形に変化していく。

 

シオンも当然気付いていたが、構うことなく四脚MTに肉薄した。弾丸とミサイルが壊れかけの実体盾を吹き飛ばすと、敵機のコア部分を勢い任せに蹴りつける。体勢を崩しながらも放たれた三連バズーカを紙一重で躱し、持ち替えたチェーンソーの刃を展開した。

 

「ここで決めさせてもらうぜ!」

 

バーストハンドガンの弾が脚の関節部に突き刺さり、先程の蹴りもあってスタッガー状態に追い込まれる四脚MT。無防備なその隙にチェーンソーが唸りを上げて襲い掛かる。あっという間に削り取られる装甲。内部の配線や機関が回転に巻き込まれていく。

 

後背部にマシンガンやバズーカを受けながら、シオンはチェーンソーを思い切り振り抜いた。吹き飛ばされる四脚MTはしかし、辛うじて撃墜判定を免れている。メインカメラが破壊され周囲の状況が把握出来ない中、それでも隊長は前方に射撃を開始した。

 

自身が撃墜されかかっているのなら、相手は必ずトドメを刺したいはず。最短距離で突っ込んできてくれれば直撃が狙える。そんな最後の足掻きを、シオンはクイックブースト一つで避け切る。もう一度コア部分を蹴りつけると四脚MTは爆散した。

 

隊長機は墜とした。だが、ここからだ。シオンは即座に意識を切り替え、陣形を変化させたMT群に向かい合う。包囲の一部に穴を開けているのはそこに誘導したいからか。なんにせよ、一旦離脱しなければ火力的に不利である。

 

どこから離脱するか、一瞬も迷わずに突っ込むシオン。選んだのは包囲の穴ではなく、最もMTが密集している箇所だ。今までの戦術から見て、MT部隊はこちらがどう動いても対応出来るようにしているはず。事前に綿密な策を練ったのだろう。

 

それなら、可能な限りありえない選択を取るのが突破口になるかもしれない。今までの戦いで追い詰められたのは、予想外の事態が起きた時が多かった。今度は自身が予想外の動きをするべきだ。

 

シオンは順序立てて思考を回してはいない。膨大な時間を費やした戦闘シミュレーションに、死地を潜り抜けてきた実戦の経験。それらの積み重ねを以てして、反射的に判断していた。あらゆる状況で考え続けてきたからこそ、考えずに動けるようになったのだ。

 

『っ、隊長に代わり指揮を執る!全機最大火力!敵機を逃がすな!』

 

最も包囲が厚い場所へ飛び込むトラルテクトリに、虚を突かれたMT部隊は副長の激で我に返り弾幕を形成し始める。包囲の穴を通ったなら、すり潰せる程の火力を集中出来たのだが・・・・・・選ばれたルートでは、仕留め切れない公算が高い。

 

「ぐぅっ・・・・・・!」

 

緻密な陣形構築は、あり得ない選択肢を取ったはずのシオンにも痛打を与えた。網のように纏わりつくマシンガンの弾と、避け辛いタイミングと角度で迫るバズーカの砲弾。かなりの損耗を負ってしまうのは明白だ。

 

スタッガー直前まで追い詰められつつもシオンは包囲を突破する。アサルトブーストを吹かしたまま、背を晒してでも強引に距離を取った。ACSに与えられた負荷が回復するまで待ち、即座に攻撃に転ずる。隊長機が墜ちた今、立て直す時間は出来るだけ与えたくない。

 

猛然と再突撃を敢行してくるトラルテクトリを相手に、隊長を失ったMT部隊は一切戦意を失わなかった。だが、先の攻防で仕留め切れなかった以上結果は見えている。肉薄からの白兵攻撃を凌ぎ切れず、動きの予測も難しい為火力の集中も出来ず。最後の一機が墜とされるまで、数分とかからなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「完敗だ。見事な腕だった、シオン。戦士の端くれとして、戦ってくれたことを誇りに思う」

 

「いや、こっちの台詞ですよ。機体の性能でどうにか出来ただけで、戦術面ではそれこそ俺の完敗だった。何度も絡めとられそうになっちまいました」

 

模擬戦を終え、敗北したはずの隊長は清々しい表情でシオンと握手を交わした。先程よりも態度は軟化している。見た目や人柄がどうであれ、経験に裏打ちされた実力には敬意を払うべきだ。

 

が、心を許したわけでは無い。確かに尊敬すべき技量ではあったが、だからこそ疑念が残る。彼女の出自と背景が何も見えないのだ。帥淑フラットウェルが情報統制を行っているのか、あるいは本当に天が遣わした天使なのか。

 

「んで、折角なんで休憩挟まず二戦目に行きたいんすけど・・・・・・どうですかね?」

 

思考を遮るようなシオンの言葉に我に返る隊長。目の前の彼女は鍛錬に貪欲なようで、額の汗を拭いながらも意欲は衰えていなかった。寸暇を惜しんで己を鍛え続けているという噂は事実らしい。

 

「私から頼みたい程だ。良質な戦いは生存率に直結する。早速取り掛かろう」

 

健闘を讃え合うのも程々に、シオンと隊長は再び別れシミュレーターに乗り込む。模擬戦のルールがランダムで設定されていく中、部隊用の回線から副長の声が聞こえた。

 

『信頼出来る人でしょう、彼女?個人的には、友誼を結んでおいて損は無いかと』

 

「実力と人柄はな。だが、身元が不鮮明なのが気にかかる。帥淑フラットウェルが何か企んでいるのか・・・・・・」

 

『心配し過ぎですよ。確かに帥淑は裏で色々動くタイプですけど、全てルビコニアンの為なはずです。ルビコンの天使にも何かしらの事情があるでしょうし』

 

楽観的な副長に、隊長は眉根を寄せて息を吐く。確かに、シオンから悪意や害意は一切感じられない。腹芸が得意な性格でも無さそうだ。それでも、部下を命を預かる身としては警戒を解くわけにはいかない。副長達が彼女に心を許しているのなら、自分が嫌われ役を買ってでも疑い続けるべきだろう。

 

「その事情の内容が問題なのだがな・・・・・・まぁいい、まずは次勝ってからだ。フォーメーションはガンマのまま、ただし盾持ちの配置を3-3に変更する」

 

『今度はこっちから仕掛けるんですね。さっきの無様を払拭しないと』

 

「気負う必要は無い。適切に対応すれば十分に食らい付ける相手だ。逆襲するぞ、諸君」

 

通信越しに部下達の雄叫びが聞こえる。先程の敗戦にも尚戦意を燃え上がらせる彼らに、隊長は微かな笑みを浮かべた。次は墜とす。確実に、念入りに。鍛え上げた我が部隊を以て、ルビコンの天使に土を付けてみせよう。




対応出来る機動力が無い場合、装甲に任せた突撃が一番厄介なんだから。
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